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覚悟“だけ”で女性管理職は増えない。育成の「壊れたはしご」をめぐる対話

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女性管理職育成を阻む構造「壊れたはしご」。SmartHR Mag.では、その課題の構造や解決のヒントを掘り下げるコンテンツをお届けしてきました。本記事はそれらを受けた対話企画です。SmartHRでDEIB推進を担う泊(とまり)さんと、複数の企業で人事責任者を歴任してきた社外取締役の武田さん。二人の対話は、SmartHRの実践からキャリア観の問い直し、打診のコミュニケーションや経営も現場も巻き込む座組みづくりへと広がりました。

  • 武田 雅子さん

    株式会社SmartHR 社外取締役、株式会社ZENTech 取締役

    1989年株式会社西武クレジット(現株式会社クレディセゾン)入社。営業統括部門の人材育成担当、戦略人事部長などを経て、2014年人事担当取締役。2016年営業推進事業部担当役員として組織風土改革を推進。2018年カルビー株式会社へ入社、2019年より常務執行役員 CHRO 人事総務本部長。働き方改革や越境施策を推進。2023年より株式会社メンバーズ 専務執行役員 CHROを経て、2024年10月より現職。株式会社コロプラ 社外取締役。

  • 泊 由佳子さん

    株式会社SmartHR 人事統括本部/人材・組織開発本部/エシカルワーク部/DEIBユニット

    大学卒業後、営業職を4年間経験したのち人事へ転じる。2014年よりDEIを専任で担い、前職のデロイト トーマツ グループではManagerとしてDEI推進および人材開発を担当。2024年7月、株式会社SmartHRへ入社し、DEIBの戦略立案および各種施策の企画・実行を担う。

女性管理職育成を阻む「壊れたはしご」とは

人手不足が深刻化するなか、女性管理職の育成は多くの企業にとって避けられないテーマになっています。

企業が挙げる課題として上位に並ぶのは「女性の昇進意欲がない」「十分な経験をもった女性が不足している」「登用要件を満たせる女性が少ない」といった声。意欲や経験の不足が、共通のハードルとして認識されている傾向がうかがえます

(参考)人事白書2025 - 日本の人事部
(参考)女性活躍推進に関する定量調査(2022) - パーソル総合研究所

しかし、それは本人の意欲だけの問題でしょうか。SmartHR Mag.編集部が関西学院大学の大内章子教授とともに深掘りしたところ、個人の意欲以前にある「なりたがらない」を生む構造がみえてきました。

記事中に記載した女性が管理職になりたがらない理由をまとめた図

昇進期と育児期の重なり、家事・育児が女性に偏る家庭と職場の規範、時短勤務が不利になりやすい評価制度。3つが積み重なった結果、経験を積む機会と自信が失われ、「なりたい」と思えなくなっていくといった構造です。

こうしてキャリアのはしごが入口の1段目から壊れ、昇進が阻まれてしまう構造は、「壊れたはしご(broken rung)」とも呼ばれます。

この「壊れたはしご」が自社にもあるかもしれないと気づいたとき、担当者はどこから考え始めればいいのでしょうか。今回は、SmartHRで女性管理職育成を担う泊さんと、取り組みに伴走してきた社外取締役の武田さんの対話から、そのヒントを探ります。

本記事の対話は、音声でもお聴きいただけます。お二人の話しぶりや、やりとりの空気感は音声ならでは。テキストとあわせてどうぞ。

比率を中長期の改善に活かす。SmartHRの女性管理職育成

まずは対話の前提として、SmartHRの女性管理職育成の取り組みについて、泊さんに聞きました。

はじめに、泊さんの所属するDEIBユニットや担う役割を教えてください。

泊さん

DEIBにまつわる取り組みを、企画から運用、改善まで一貫して担う専任チームです。

SmartHRでは、ダイバーシティ(Diversity)・エクイティ(Equity)・インクルージョン(Inclusion)に、ビロンギング(Belonging)※を加えて推進しています

※一人ひとりが尊重され、自分らしく居場所があると感じられる状態を指す概念

本文で記載したSmartHRのDEIBについて概念をまとめた図

(出典)DEIBに関する取り組み - SmartHR

SmartHRは「well-working(労働にまつわる社会課題をなくし、誰もがその人らしく働ける社会をつくる。)」をミッションに掲げています。社内において、誰もが公平に機会を得て、その人らしくチャレンジできる環境をつくることが、私たちのミッションです。

具体的には、ライフイベントと仕事の両立、女性の活躍、障害者の就業、LGBTQに関する取り組みなど、さまざまなテーマで施策を進めています。

お話をする泊さんの様子

女性管理職育成は、どのように進めているのでしょうか?

泊さん

女性が経験を積み重ね、力を発揮しながらキャリアを広げていけるよう、主に3つの柱で取り組みを進めています。

取り組み
詳細
女性管理職比率のKPI設定
比率を重要な指標として位置づけ、課題を見立てて打ち手につなげる
個別育成の強化
部門の状況に応じて、本人が必要な経験や挑戦の機会を得られるよう、仕組みや支援を整える
両立支援
ライフイベントを経ても、安心して挑戦し続けられる環境を整える

この3つを別々ではなく並行して、課題発見や打ち手の検証、改善を重ねています。少しずつ成果も見え始めていますが、多様なリーダーが継続的に生まれる状態をつくるには、数字の変化だけを見るのではなく、その手前にある要因を見極めながら取り組むことが重要だと考えています。

「女性管理職比率のKPI設定」とは、具体的に何をしているのですか?

泊さん

前提として、女性管理職比率をKPIに置くのは継続的な改善の基盤を整えるためと位置づけています。

比率を動かすには、昇進にいたる前段階で管理職につながる経験や機会を得られることに加え、ライフイベントを経てもキャリアの選択肢が狭まらない環境が欠かせません。短期的なテコ入れだけではなく、社内で候補者が経験を積んで育つプロセスを、中長期で整えていく必要があります。

目標数値は、本部長級や部長級といった役職別、事業・プロダクト・コーポレートといった部門別に分けて、経営層とも協議のうえ設定しました。四半期ごとに採用・任命・退職などのデータも見ながら、各部門と必要な打ち手を検討しています。

もう1つの柱である個別育成についても教えてください。

泊さん

部門ごとの状況をふまえて、現場の上長に必要な経験を積む機会づくりや、挑戦の後押しをしてもらうことを大切にしています。部門や職種によって必要な経験は異なるため、全社一律の施策では十分ではないと考えたからです。

加えて重要なのは、、上長が「なぜあなたに期待しているのか」を熱量とともに伝えることです。期待値とその背景が具体的に伝わることで、本人の意欲が高まり、前向きな挑戦につながるケースが生まれています。

意欲の有無で片づけない。手前にある要因をほどく

ここからは「壊れたはしご」を前に、担当者は何を考え、どう動けばいいのか、泊さんと武田さんと対話を深めていきます。

「壊れたはしご」のお話について、泊さんはSmartHRの状況も踏まえてどう受け止めましたか。

泊さん

一般的に女性管理職育成というテーマでは、本人の意欲の有無が課題として語られがちだと感じます。ですが、意欲が低いように見える背景には、機会や構造の問題があるかもしれない。そうした視点を常に持つ必要があると、改めて感じました。実際、弊社の直近の社内サーベイでも、女性の管理職意向は男性より低い傾向が出ています。

ただ、その背景に何があるのかは、今検証しているところです。役割や責任の範囲がみえにくくて不安が先に立つのか、キャリアの見通しが立てづらいのか、そもそも望むキャリアを描きにくいのか。「なりたがらない」で片づけずに要因をほどきながら、機会のつくり方を変えていきたいです。

武田さんは、SmartHRの取り組みを社外取締役の立場からどうみていますか。

武田さん

女性管理職育成については、泊さんとの1on1でも継続的に議論を重ねてきました。いまは役職別・部門別に、かなり細かく作戦を立てて進めてくれています。伴走してきた立場として、取り組みは着実に前進していると感じます。

同時に、前進したからこそみえてきた課題もあります。先日、部長相当の役職を担う女性たちとランチ会をしたのですが、各部門でいま何が起きているか、それぞれが仕事やクライアントと向き合うなかで抱えている課題は一人ひとり違っていました。

つまり「ロールモデルが一人いればいい」といった段階ではなく、部門や個人にあわせた対策が一層必要になる。いわば次のステージが始まろうとしていると捉えています。

向かい合ってお話をする武田さんと泊さん

トップのコミット“だけ”で、現場は動かない難しさ

武田さんは複数の企業で人事責任者を務めてこられました。「壊れたはしご」をはじめとする女性管理職育成の課題は、業界をまたぐとどうみえますか。

武田さん

業界を問わず、まだまだ難しさがたくさんあると感じます。

たとえば「女性管理職育成は経営層のコミットメントが大事」とよく言われますよね。もちろん一丁目一番地ではあります。ですが、それだけで現場が動くかというと、なかなか難しい。号令をかけても変化が浸透しなかったり、数字目標だけが独り歩きしてしまったり。経営の本気は欠かせないけれど、それだけでは足りない。複数の企業を見ていて、そう感じます。

担当者はどのように現場に働きかけていけるといいのでしょうか。

武田さん

変化を拒んでいるように見える人がいるとしたら、その人にも、組織への悩みや「ここは変えなければ」という課題感が必ずあるはずです。だからまず、そこをきちんと聞きにいくといいでしょう。

そのうえで、たとえば「いまのメンバーの頑張りで維持できている成果を、数年後も続けられますか?」と将来を一緒に考えてみる。人手不足のなか、どこかで必ず多様な人に活躍してもらうことが必要になってきませんか、と。

そもそも経営やマネジメントは、短期の目標と長期の目標という、相矛盾するものを同時に回していく仕事です。現場で成果を出している方たちほど、数字でみえる短期の目標を描くのがとても上手いんです。なので、そこは尊重しつつ「長期のスパンの取り組みは、私たちに少し任せてもらえませんか」と提案してみる。そうすると「女性管理職育成って、自分に関係あるの?」と感じている人たちとも、議論を始めやすくなると思います。

キャリアは「はしご」ではなく「ジャングルジム」

武田さんご自身も、女性リーダーとしてキャリアを重ねてこられました。「壊れたはしご」を、どう捉えていますか。

武田さん

はしごの壊れた段を直していく。それ自体は、とても大事な取り組みです。ただ、そもそもキャリアは「はしごを登る」だけなのかも問い直したいと思っています。

私が20年来ずっとお伝えしてきたのは、「女性が管理職になりたがらない」という課題設定自体が、はしごを登る一択のキャリア観に囚われているのでは、ということです。

これまで多くの日本企業のキャリアは、男性のフルタイム正社員を前提に、長期雇用と段階的な昇進によるシンプルな「はしご型」が中心でした。かつてはそのやり方で企業の業績も上がり、従業員に還元された側面もあります。

ただ、いまは多様な働き方をする人がいる時代です。時短勤務で働く人、育児や介護と両立する人、途中で留学をする人など、雇用形態やキャリアの価値観もさまざまです。

だからこそ、複数の選択肢がある前提で「管理職って、こんなにチャーミングでしょう」と魅力を訴求していかないと届きません。管理職比率を上げるには、まず「なりたい人がいて当然」という前提から変えていく必要があると思っています。

「複数の選択肢があるキャリア」を、以前ご登壇いただいたセミナーでは「ジャングルジム」に例えられていましたね。

武田さん

そうですね。昇進していく人もいれば、育児や介護、学び直しのために立ち止まる人や横に動く人もいる。私がイメージするのは、鉄棒ではなくロープでできたジャングルジムです。自分が乗ると自分の体重で形が少し変わるし、誰かが加わればその影響も受けながら、互いに支え合う。そういうお互いさまの面がある、ジャングルジムを前提に考えていけたらと思うんです。

もちろんこれは女性に限った話ではありません。振り返れば旧来の働き方では、男性もはしごを登る一択を強いられていて、決して楽ではなかったはずです。

「なりたい人がいて当然」の前提に変えていくお話、泊さんはどう受け止めますか。

泊さん

「管理職をやってみたい」と思ったときに、チャレンジできる環境があるかどうかが重要だと受け止めました。

先ほどの社内サーベイでも、「絶対になりたくない」という人より、「まだわからない・見えない」という層のほうが断然多いんです。ライフイベントや環境で気持ちは変わりうるし、身近に先輩がいなくて、イメージが湧かないだけのこともある。だからこそ武田さんの言うとおり、管理職の楽しさや面白さを見せていくこと、そして「やってみたい」を支える仕組みが欠かせないと感じています。

管理職、打診したつもりのすれ違いは“あるある”だった?

「管理職の魅力を伝える」という点では、打診の場面でのコミュニケーションも大切になりそうですね。

泊さん

以前、別の会社で見聞きした例ですが、男性の経営層が女性候補者に経営職への就任を打診した「つもり」でいたんです。ところが本人に確かめてみると「そんな話は聞いていません」「依頼も打診もされていません」と認識のズレが明らかになったそうです。

最終的にその方は就任されたのですが「伝えたつもり」と「聞いていない」のすれ違いは、どの会社でも起こりうると思います。

日本IBMの女性活躍推進コミュニティ「JWC」に取材した際も、同社の社内調査で、上司は「女性社員とキャリアの会話ができている」と思っている一方、女性側は「対話が足りていない」と感じているズレが浮き彫りになったそうです。この「伝わらなさ」は、なぜ起きるのでしょうか。

武田さん

マネジメントの現場では、伝えたはずのことが伝わっていない場面が数多くありますよね。だからこそ出発点になるのは、日常のコミュニケーションの土台だと思います。仕事以外の話や、感情の機微を含めたやりとりが日頃から成立しているか。その土台がなければ、重要な打診ほど届かないと思います。

フォーメーションをどう組むかが、社内推進の鍵

最後に、いま女性管理職育成に取り組む人へメッセージをお願いします。

泊さん

女性が管理職になりたがらない、あるいはパフォーマンスを発揮できていない。もしそうしたことがあるのだとしたら、背景に何があるのかを紐解くことが何より大事だと思います。女性管理職育成は長い道のりで成果もすぐには見えにくい。それでも現場に寄り添い、粘り強く、諦めずに取り組んでいけたらと思います。

武田さん

女性管理職育成や女性活躍は、考えれば考えるほど難しいですよね。ですが、多様な人材の活躍を後押しするという点で、これは人的資本経営のスタート地点だと思うんです。

先ほどお話ししたとおり、経営のコミットメントは欠かせないけれど、号令だけで現場が変わるわけではありません。経営と現場のあいだに立って変化を動かしていけるのは、皆さんのような推進担当者です。

とはいえ、一人で背負って、孤軍奮闘してほしいわけではありません。たとえば、日々の対話で期待を伝え、背中を押すのは現場のマネジメントライン。部門を横断して制度や打ち手を整えるのはHRBPや本社。経営との橋渡しが要るなら、私たち社外取締役を引っ張り出してもいい。

そんなふうに複数の登場人物がそれぞれの持ち場で機能するフォーメーションを、どうつくっていくか。そこが整えば、女性ご本人にもバッターボックスが回ってきて、次のチャンスを掴めるはず。だから部内に閉じこもらずに、どんどん対話しに出かけてほしいですね。

編集後記

女性管理職育成を取材していると「経営層の理解が何より大事」という結論に行き着くことがよくあります。それも間違いなく重要です。今回のお二人のお話からも経営の関わりは随所に登場しました。

一方で、別の気づきもありました。経営の理解を起点にしながら、期待を伝えるのは現場の上司、制度を整えるのは本社、と社内のいろいろな人に役割を手渡していく。武田さんの言う「フォーメーション」づくりの重要性です。

一見変化を拒むようにみえる相手にも課題感を聞き、「長期の取り組みは任せてもらえませんか」と役割を提案する。フォーメーションは、はじめから組織図のうえにあるものではなく、一人ひとりとの対話を通じてつくられていくものなのだと感じました。この記事が、社内の誰かと話し始めるきっかけになれば幸いです。

本企画の出発点になった関西学院大学・大内章子教授のインタビュー記事や、女性管理職比率を動かした企業の事例も掲載していますので、よければぜひ読んでみてください。

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