職場の熱中症対策とは?義務化された4つの措置とガイドライン対応を社労士が解説
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熱中症対策は、夏場の労務管理で最優先といえるテーマの1つです。2025年6月1日には改正労働安全衛生規則が施行され、職場における熱中症の重篤化を防ぐための措置が、対象となる作業があるすべての事業者に義務付けられました。
さらに2026年3月には、厚生労働省から「職場における熱中症対策の強化について」が公表され、企業に求められる対策は発症予防にまで広がっています。
本記事では、義務化された措置の内容とガイドラインのポイント、業務内容や職種を問わず、人事・労務担当者が進めるべき実務対応をわかりやすく解説します。
2025年6月施行の法改正で義務化された職場の熱中症対策
業種を問わず対象。WBGT28℃以上などの作業に適用
2025年6月1日施行の改正労働安全衛生規則により、職場における熱中症対策(重篤化を防ぐための措置)が、対象となる作業があるすべての事業者に義務付けられています。
対象となるのは、WBGT(湿球黒球温度)28℃以上または気温31℃以上の作業場所で実施される作業です。そのうち、連続して1時間以上、または1日あたり4時間を超える実施が見込まれるものが該当します。
WBGTとは「暑さ指数」とも呼ばれ、気温以外の要素も総合的に考慮して、暑熱環境における熱ストレスのレベルを評価する指標です。熱中症の発生リスクの有無をスクリーニングするために用いられます。作業場所に暑さ指数計を配備するなどして、WBGT値の把握が望まれています。
(参考)暑さ指数(WBGT)について - 厚生労働省「職場における熱中症予防情報」
義務付けられた4つの措置(安衛則第612条の2)
施行済みの内容ですが、あらためて内容を確認しましょう。義務付けられているのは、労働安全衛生規則(安衛則)第612条の2にもとづく次の4つの措置です。

(1)報告体制の整備
「熱中症の自覚症状がある作業者」や「熱中症のおそれがある作業者を見つけた者」が、その旨を報告するための体制を整備します。
事業者は報告を受けるだけでなく、職場巡視やバディ制の採用、ウェアラブルデバイスなどの活用、双方向での定期連絡などにより、熱中症の症状がある作業者を積極的に把握するよう努めましょう。
(2)報告体制の周知
体制を整備したら、必要な関係者へ速やかに周知します。
実務ポイント
職場における熱中症による死亡災害の多くは、初期症状の放置や対応の遅れが原因とされています。そのため、必要な情報が速やかに報告される体制づくりはきわめて重要です。
(3)措置手順の作成
熱中症のおそれがある労働者を把握した場合に迅速かつ的確な判断ができるよう、「事業場における緊急連絡網、緊急搬送先の連絡先及び所在地等」と「作業離脱、身体冷却、医療機関への搬送等熱中症による重篤化を防止するために必要な措置の実施手順」を作成します。
なお、作業強度や着衣の状況などによっては、前述の要件に該当しない作業でも熱中症のリスクが高まるため、これに準じた対応が推奨されます。
(4)措置手順の周知
措置手順を作成したら、必要な関係者へ速やかに周知します。
実務ポイント
適切な措置手順を作成しても、現場の全員が認識・理解していなければ、重篤化を防ぐ効果は期待できません。一時的・形式的な周知にとどめず、定期的かつ確実な方法で周知しましょう。
(参考)職場における熱中症対策の強化について - 厚生労働省
違反時の罰則:拘禁刑・罰金と安全配慮義務違反のリスク
義務に対応できていなかった場合、労働安全衛生法にもとづき6か月以下の拘禁刑または50万円以下の罰金が科される可能性があります。あわせて、作業停止命令や建設物などの使用停止命令といった行政処分を受けるおそれもあります。
実務ポイント
企業にとっては、労働安全衛生法上の罰則だけでなく、労働契約法第5条の安全配慮義務違反や、民法上の損害賠償責任にも注意が必要です。企業が十分な熱中症対策を怠り、労働者の重篤化や死亡につながった場合には、金銭面だけでなくレピュテーション(社会的評価)の面でも大きなリスクを負います。リスクの大きさを理解したうえで、必要な対策を進めましょう。
義務化後の実態:死傷者数は過去最多、死亡者数は減少
職場における熱中症の死傷者数(休業4日以上)は、2025年に1,803人と2024年から約43%増加し、統計開始以来最多となりました。
一方で、死亡者数は19人と2024年から約39%減少しています。2025年の義務化により重篤化防止の取り組みが進み、一定の効果が表れたと考えられます。

義務対応のチェックリスト
自社の対応状況は、次のチェックリストで確認しましょう。なお、塩・飲料水の備え付けや健康診断結果にもとづく措置は、改正前から求められている事項です。

2026年3月策定のガイドライン:リスク評価と6つの対策で発症予防へ
「職場における熱中症防止のためのガイドライン」は、管理体制の確立・作業環境管理・作業管理・健康管理・労働衛生教育などの具体的な方法を一体的に示した、職場の熱中症対策の指針・行動基準です。
改正労働安全衛生規則が「早期発見と重篤化防止」に重点を置いていたのに対し、ガイドラインは「発症予防」まで踏み込んでいる点が特徴です。ガイドライン自体に法的な強制力はないものの、必要な熱中症対策を進めるうえでは、この基準に沿った対応が望ましいとされています。ぜひ詳細まで把握しましょう。
(参考)職場における熱中症防止のためのガイドライン - 厚生労働省
最初に実施すべき「リスク評価」の3ステップ
ガイドラインは、リスク評価を入口として、次の6領域の対策につなげる構造になっています。まずは3つのステップでリスク評価を進めましょう。
ステップ1:暑熱に関する要因の特定
自社の事業場に、熱中症リスクとなり得る暑熱に関する要因があるかを特定します。具体的には次のとおりです。
- 身体からの熱放射を妨げる要因:高温・多湿な作業環境、連続作業、通気性や透湿性の低い衣服・保護具
- 身体の熱生産を高める要因:身体作業負荷の高い作業
実務ポイント
それぞれの作業場所について、温度・湿度、連続作業の有無、衣服や呼吸用保護具の通気性・透湿性、身体作業負荷の4つの観点で、暑熱リスクを具体的に洗い出して確認・検討しましょう。
ステップ2:WBGT値の把握
熱中症リスクを評価する最も基本的な手法である、WBGT値を把握します(測定方法はQ&Aにて解説)。
ステップ3:リスクの評価と低減措置の検討
把握したWBGT値をもとに、ステップ1の要因も考慮しながら、作業や作業場所の状況に応じて熱中症リスクを評価し、リスク低減のための措置を検討します。
リスク評価の際は、身体作業強度等に応じた暑さ指数の基準値(表1)と照らし合わせるとともに、作業服の種類によっては暑さ指数に着衣補正値(表2)を加えたうえで判断する必要があります。


リスク評価を踏まえた6つの対策
リスク評価で自社の熱中症リスクを洗い出したら、その結果をリスク低減のための対策につなげます。ガイドラインでは、具体的な対策が「労働衛生管理体制の確立」「作業環境管理」「作業管理」「健康管理」「労働衛生教育」「異常時の措置」の6つの領域に整理されています。自社のリスクと関係の深い領域から、それぞれのポイントを確認しましょう。

(1)労働衛生管理体制の確立:労使での協議と熱中症予防管理者の選任
具体的な熱中症防止対策は、(安全)衛生委員会、または委員会を設けていない場合は労働者の意見を聴く場を活用して、労働者の理解と協力を得ながら労使で話し合うことが大切です。定期的に協議・検討の場を設け、産業医など専門家の意見も参考にしながら、過去の振り返りと今後の対策検討を進め、作業手順・作業計画も適宜見直しましょう。
また、熱中症について必要な知識をもつ者のなかから熱中症予防管理者を選任するなど、各事業場における責任体制を確立しましょう。
(2)作業環境管理:WBGT値の低減と休憩場所の整備
「WBGT値の低減」と「休憩場所の整備」を中心に、作業場所ごとの熱中症リスクを管理します。
実務ポイント
具体的には、次のような方法があります。
・WBGT基準値を超えるおそれのある作業場所では、発熱体と作業者の間に熱を遮ることのできる遮へい物などを設ける
・高温多湿の作業場所に、通風・冷房のための設備やミストシャワーなどの散水設備を設ける(設置済みの冷房設備は機能を点検する)
・作業場所の近くに、冷房を備えた休憩場所を確保する
作業場所ごとに効果的な方法を選んで対応しましょう。
(3)作業管理:暑熱順化やプレクーリングなどの対策
適切な作業管理のために、次のポイントを押さえましょう。
- 作業時間の短縮
- 暑熱順化(熱に慣れ、その環境に適応すること)
- プレクーリング(暑い環境に入る前にあらかじめ深部体温を下げておくこと)
- 水分・塩分の摂取
- 服装による身体冷却
- 作業中の巡視
- 業種・作業別の対応(建設業や運送業など、特性にあわせた対応例も参考にする)
(4)健康管理:作業開始前の体調確認と日常の健康管理
熱中症の発症者には、当日または前日に、睡眠不足・食欲低下・下痢や感冒様症状・全身倦怠感などの比較的軽微な体調変化が先行し、暑熱ばく露と重なって急激に重篤化する例が多いといわれています。
そのため、健康診断結果にもとづく対応だけでなく、作業開始前に当日の体調を確認することや、作業者自身の日常的な健康管理が重要です。
実務ポイント
本人から健康状態の申し出を受けた管理者は、その情報を職場における労働安全衛生上の配慮措置などにのみ利用します。プライバシーに配慮した取り扱いが求められます。
(5)労働衛生教育:対象者別の教育事項と時間の目安
現場で熱中症防止対策を的確に進めるためには、熱中症予防管理者、職長など現場で指揮する者、作業従事者のそれぞれに対して、次の事項・時間(目安)で労働衛生教育を実施することが望ましいとされています。
教育用の動画や資料は、厚生労働省の特設サイトで公表されています。社内の予算やリソースも考慮しながら、うまく活用して無理のない形で労働衛生教育を実施しましょう。
熱中症予防管理者
- 熱中症の症状(30分)
- 熱中症の予防方法(150分)
- 緊急時の救急措置(15分)
- 熱中症の事例(15分)
- 関係法令など(15分)
職長など現場で指揮する者
- 熱中症の症状(10分)
- 熱中症の予防方法(25分)
- 緊急時の救急措置(10分)
- 熱中症の事例(10分)
- 関係法令など(5分)
作業従事者 ※それぞれ短時間で繰り返すことが望ましい
- 熱中症の症状
- 熱中症の予防方法
- 緊急時の救急措置
- 熱中症の事例
実務ポイント
作業従事者への教育に時間の目安が設けられていないのは、まとまった研修を一度実施するよりも、朝礼やミーティングなどの機会に短時間で繰り返し伝えるほうが、全員に行き渡り、知識も定着しやすいためです。
(6)異常時の措置:症状の分類に応じた救急対応
熱中症を疑わせる症状は、ガイドラインに掲載された次の表「熱中症の症状と分類」(表2)が参考になります。熱中症が疑われる作業者がいた場合、周囲の作業者も必ずいったん作業から離し、救急処置として涼しい場所で身体を冷やし、水分・塩分を摂取させます。そのうえで、症状に応じて救急隊を要請するか、医師の診察を受けさせましょう。

実務ポイント
I度の症状であれば、企業側での初期対応が可能なレベルともいわれています。ただし、II度以上の症状がみられる場合には、企業側で安易に判断せず、早めに医師など専門家の判断を仰ぐ、救急車を呼ぶなど、症状にあわせた対応が求められます。
熱中症対策を「作って終わり」にしないための運用方法
年間スケジュールで毎年PDCAを回す
熱中症対策は、重篤化を防ぐことが目的です。体制や計画を作っただけでは、目的は果たせません。
労務実務のすべてに通じますが、最も重要なのは「運用」です。次のスケジュール例も参考に、毎年PDCAを回せるようにしましょう。
タイミング | やること |
|---|---|
〜4月 | 体制・管理者・計画の整備・確認 |
5〜6月 | 教育、暑熱順化の開始、飲料・塩分の備え付け、報告体制の掲示更新 |
7〜9月 | 日々の運用(朝礼での体調・暑熱順化の確認、巡視・声かけ、水分・塩分の設置確認、連休明けの再順化) |
発生時 | 措置手順に沿って対応 |
秋冬 | (安全)衛生委員会などで効果検証し、翌夏へ反映 |
運用を形骸化させない8つのポイント
運用にあたっては、次のポイントを押さえましょう。
- 熱中症予防管理者を名ばかりにしない
- 従業員や産業医など専門家の意見をよく聴く
- 報告体制を現場に周知し、連絡先を最新に保つ
- 巡視やWBGT測定を日課として定着させる
- 連休明けの再暑熱順化を忘れない
- シニア労働者に必要な措置を検討する
- 前年の手順を見直す
- 効果を検証する
ツール活用で「お知らせ」を全従業員に確実に届ける
改正労働安全衛生規則では、報告体制や措置手順を整備するだけでなく、関係者へ確実な周知までが義務とされています。しかし、働く場所が分散し、パソコンや会社のメールアドレスをもたない従業員も多い職場では、「全員に確実に届ける」のは簡単ではありません。
SmartHRの「お知らせ機能」なら、措置手順や猛暑日の注意喚起などの情報を、全従業員へ一斉配信できます。スマホアプリのプッシュ通知にも対応しているため、パート・アルバイトを含む、パソコンやメールアドレスをもたない従業員にも確実に情報が届きます。
実際の活用イメージは、次の事例も参考にしてください。
- スギホールディングス株式会社:プッシュ通知で店舗のパート・アルバイトを含む全従業員へ配信。社内報の閲覧数が16倍に
- 社会医療法人春回会:情報伝達の遅れや漏れを削減し、職員のエンゲージメント向上に寄与
- JR九州システムソリューションズ株式会社:スマホアプリとの組み合わせで、社用パソコンをもたない従業員や高齢の従業員にも情報が届く仕組みを整備
熱中症対策に関するQ&A
ここでは、実務で迷いやすいポイントをQ&A形式で解説します。
Q1:オフィス勤務やテレワークも対象ですか?
業種や屋内・屋外を問わず、要件に該当する作業はすべて義務の対象です。また、ガイドラインは熱中症のおそれのあるすべての作業を対象としています。なお、在宅勤務での熱中症について、使用者の安全配慮義務違反まで問われる可能性は高くないと考えられるものの、冷房・換気・水分補給・休憩などに十分気をつけるよう、あらかじめ周知しましょう。
Q2:WBGTはどう測ればよいですか?測定が難しい場合は?
JIS Z 8504またはJIS B 7922に適合した、黒球付きの暑さ指数計でWBGT値を測定しましょう。現在はハンディタイプの指数計もあり、価格面でも比較的購入しやすくなっています。この機会に準備しておくとよいでしょう。
なお、実測が難しい場合は、環境省「熱中症予防情報サイト」で公表されている地域の暑さ指数(WBGT値)を参考にする方法もあります。

Q3:暑熱順化や熱中症予防管理者の選任は義務ですか?
2025年6月施行の改正労働安全衛生規則では、暑熱順化や熱中症予防管理者の選任までは義務付けられていません。法令上の義務は、安衛則第612条の2にもとづく4つの措置です。ただし、ガイドラインでは熱中症対策を効果的に進める方法としてそれぞれ記載されており、安全配慮義務の観点からも、重篤化を防ぐためには対応が望ましいでしょう。
Q4:どこまでやれば安全配慮義務を果たせますか?
明確な基準はなく、最終的にはケースバイケースの判断になります。大切なのは、各企業が事業内容や企業規模にあった取り組みを検討し、経営トップを含めた組織全体で方針を決めて進めることです。
Q5:短時間勤務やスポットワークの屋外作業はどう扱いますか?
雇用区分や働き方にかかわらず、すべての労働者が熱中症対策の対象です。短時間労働者やスポットワーカーは原則として「暑熱に順化していない者」として扱い、雇入れ時教育を含めた対応が必要です。フルタイム労働者と同様の暑熱順化や周知・教育の時間を確保しにくい面もあるため、あらかじめ対応方法を整備しましょう。
熱中症対策を「夏だけの対応」で終わらせない体制づくりを
近年は9月以降も気温の高い日が続く傾向にあります。熱中症対策は夏の間の一時的な対応と考えず、すべての働く人が安全かつ快適に過ごせるよう、継続的に進めましょう。
また、法的義務の範囲で最低限の対応をすれば足りる、という考え方は望ましくありません。熱中症対策は従業員のパフォーマンス向上にもつながる取り組みです。「なぜやるのか」「どのようなメリットがあるのか」を、経営層や周囲に説明できるように理解するのも大切です。
本記事が、自社の熱中症対策を見つめ直し、体制づくりを進めるヒントとなれば幸いです。

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