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仕事を辞める前に知っておきたい「介護休業」の使い方|93日間をどう使う?

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目次

「親の介護が始まったら、仕事を辞めるしかない」――そう考えてはいませんか?

しかし実際は、介護離職をした人の過半数が、離職後に精神的・経済的な負担が増したと回答しています。大切なのは、初期の混乱期を乗り切り、仕事を続けられる「体制」を整えることです。

本記事では、4,000件以上の介護相談に関わってきた川内氏が、介護休業の戦略的な使い方と、仕事を辞めないための体制づくりを解説します。  

川内 潤(かわうち・じゅん)

NPO法人となりのかいご代表理事

1980年生まれ。上智大学文学部社会福祉学科卒業。老人ホーム紹介事業、外資系コンサル会社、社会福祉法人一廣会かないばら苑(川崎市麻生区)などでの在宅・施設介護職員を経て、2008年に市民団体「となりのかいご」設立。2014年に「となりのかいご」をNPO法人化、代表理事に就任。厚労省「令和2年度仕事と介護の両立支援カリキュラム事業」委員、育児・介護休業法改正では国会に参考人として出席。書籍『親不孝介護 距離を取るからうまくいく』(日経BP)など。

【知っておきたい用語】介護休業と介護休暇

  • 介護休業:対象家族1人につき通算93日(3回を上限)。介護体制を整える
  • 介護休暇:年5日(対象家族2人以上は年10日)。通院付き添いなど短期対応

介護初期の「パニック期」が離職を招く

介護休業の使い方を考える前提として、まず知っておきたいのが、介護開始直後に起きやすい「パニック期」の実態です。

家族の介護は、ある日突然始まることがほとんどです。脳梗塞のように突然発症する病気もあれば、転倒による大腿骨骨折のように急な怪我から介護が始まるケース、認知症や関節疾患のように徐々に進行するケースもあります。

しかし、離れて暮らしている場合などは変化に気づきにくく、支える側にとっては「突然始まった」と感じるケースが多くなります。準備のないまま介護に直面すると、多くの人が強い混乱状態に陥ります。

勤続年数と介護離職率に表したフラグ

(出典)NPO法人となりのかいご「介護離職白書―介護による離職要因調査―」p.41

​実際、介護離職に至る人の多くは長年にわたる介護の末に疲弊して辞めるのではなく、介護開始から比較的早い段階で離職していることが、当法人の独自調査でも明らかになっています。問題は長期的な負担よりも、むしろ介護初期の混乱期をどう乗り切るかにあります。

たとえば、転倒による骨折や脳梗塞で入院した場合、最初に運ばれるのは「急性期病院」です。急性期病院は発症直後の集中的な治療を担う病院で、長期入院は想定されていません。そのため、治療が終わると、リハビリ病院への転院や退院後の生活を短期間で決める必要があります。

本来であれば、病院のソーシャルワーカー(医療・福祉の専門相談員)と相談しながら退院後の生活を設計する必要がありますが、十分に話し合えないまま「病院ではお父さんがかわいそうだから」と感情的に、自宅介護を選んでしまうこともあります。

認知症の場合も考えてみましょう。帰省した際に親の様子の変化に気がついても、どこに相談すればよいかわからず、家族だけで抱え込んでしまうことがあります。その結果、家族の負担が限界に達し、大きなトラブルが起きてから初めて支援につながるという流れになりがちです。

こうした状況のなかで多くの人が選んでしまうのが、「家族でなんとかしよう」という判断です。リハビリが十分でないまま退院させて自宅で介護を始めたり、認知症の親をひとりにできないからと家族が交代で見守ったりして、直接介護(家族自身が排せつ・食事・入浴などを担うこと)を前提に生活を組み立ててしまいます。しかし、この段階で無理を重ねると、仕事との両立は急速に難しくなり、「もう辞めるしかない」という結論に追い込まれてしまいます。

介護期間を表したグラフ

(出典)生命保険文化センター「生命保険に関する全国実態調査[2人以上世帯]」2024年度

介護は数週間で終わるものではなく、年単位で続くことも珍しくありません。生命保険に関する全国実態調査(2024年度)によれば、介護の平均期間は4年7か月です。

介護が長期化する実態があるにもかかわらず、初期の混乱のなかで短期的な判断が介護離職につながる大きな要因になっています。まずは、この「パニック期」の構造を理解することが、仕事を辞めないための第一歩です。

「仕事を辞めれば楽になる」は本当か?

もう一つの大切な前提は、仕事を辞めることのリスクです。仕事と介護の両立が難しくなると、多くの人が「どちらかを手放さなければならない」と感じます。そのとき、「家族の介護は自分がいなければ成り立たないが、仕事は自分がいなくても回るのではないか」。そう考えて、「いったん仕事を辞めよう」と決断してしまいます。相談の現場でも、この「いったん辞めよう」という言葉はよく聞かれます。

しかし、この判断は冷静な検討を経たものではなく、強いストレスのなかで行なわれることが多く、必ずしも長期的に見てよい選択とは限りません。実際には、仕事を辞めても負担が軽くなるとは限らず、むしろ状況が厳しくなるケースも多く見られます。仕事を辞めることで生じる「精神面」と「経済面」のリスクを、それぞれ見ていきましょう。

精神面・身体面のリスク

終わりが見えない介護のなかで仕事を辞めてしまうと、生活の中心が介護だけになり、精神的な逃げ場を失ってしまいます。実際に、「介護離職後のほうが精神的・身体的な負担が増したと感じる」といった調査結果もあり、仕事を続けていたほうが気持ちのバランスを保てていたという声をよく聞きます。

経済面のリスク

離職は経済的なリスクも伴います。収入が途絶えることで生活への不安が強まり、介護サービスの利用を控えざるを得なくなることもあります。サービスを減らせば家族の負担はさらに増え、結果としてより厳しい状況に追い込まれてしまいます。さらに、介護が終わったあとに再就職しようとしても、年齢やブランクの影響で思うように働けないケースもあり、生涯収入に大きな影響が出る可能性もあります。

「手助・介護」を機に仕事を辞めたことによる変化を表したグラフ

(出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「労働者調査 結果概要」(令和4年3月)p.40 をもとに当社作成

介護離職によって生活全体の負担が大きくなる傾向は、国の調査でも明らかになっています。令和3年度の厚生労働省の調査では、介護離職後の変化について、精神面・身体面ともに「負担が増した」と回答した人が過半数にのぼり、経済面では約6割が負担増と回答しています。

現場で多くの相談に関わるなかで感じるのは、介護離職によって問題が解決することは少なく、むしろ状況が悪化してしまうケースがほとんどだということです。仕事を続けながら体制を整えたほうが、本人にとっても家族にとっても安定した環境をつくりやすくなります。

介護休業は休む制度ではなく、体制を整える期間

介護初期のパニック期と辞めることのリスクを踏まえると、仕事を辞めずに介護と向き合うためのカギは、介護休業の正しい使い方にあります。ここからは介護休業の捉え方を見ていきましょう。

介護休業について、多くの人が「直接の介護をするために休む制度」と考えています。しかし、この理解は誤りです。育児休業は子どもの成長に合わせて直接育児を担う期間として位置づけられていますが、介護休業は同じ考え方では成り立ちません。

厚生労働省も、介護休業は介護に専念するためではなく、仕事と介護を両立するための体制を整える期間として設けられている制度だと示しています。

法定の介護休業は通算93日です。介護が平均でも4年7か月と言われるなかで、93日を直接介護に使ってしまえば到底足りません。実際に企業によっては休業期間を延長している例もありますが、長く休めるほど両立しやすくなるとは限らず、かえって家族が直接介護に入り込みやすくなり、仕事復帰が難しくなるケースも見られます。

重要なのは、介護休業を「直接介護をする期間」ではなく「体制を整える期間」と捉えることです。

介護休業などで家族が常に付き添ってしまうと、家族がそばにいることで本人が日常生活に困らないため、サービスを拒否することもあります。結果として体制づくりが遅れ、長期的には家族の負担が大きくなってしまいます。心配のあまり先回りして支えるのではなく、本人ができることは見守り、必要な場面で支援する姿勢を保ちましょう。

「介護離職者の離職理由の詳細等の調査」によると、介護離職した人ほど「自分が直接介護を担うべきだ」という意識が強く、結果的に自分の生活が後回しになる傾向が見られます。

介護離職者と就業継続者の意識調査を表したグラフ

(出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「介護離職者の離職理由の詳細等の調査」p.182をもとに当社作成(数値は「そう思う」「ややそう思う」の合計)

また、介護離職した人は、就業を継続している人と比べて「排せつ介助」「食事の介助」「入浴の介助」といった身体介護を担う割合が高くなっています。

手助・介護の実施状況を表した折れ線グラフ

(出典)三菱UFJリサーチ&コンサルティング株式会社「労働者調査 結果概要」p.15 令和4年3月

一方で、仕事を続けられている人ほど、外部の支援を取り入れ、手続きや送迎などのマネジメントを担っています介護休業は休むこと自体が目的ではなく、長期戦を見据えて両立設計するための戦略期間と捉えることが重要です。

介護離職者
就業継続者
「自分がやるべき」意識が強い
外部サービスに任せる意識が強い
身体介護を担う割合が高い
身体介護の直接負担が少ない
自分の生活を後回しにしている
自分の生活を守ることを優先

「93日の介護休業」の戦略的な使い方

介護の4段階

休業制度は、長期間休むために使うのではなく、介護の段階に応じて適切にピンポイントで活用することが大切です。介護は一般的に、以下のフェーズを経て進みます。

【フェーズ1】 初期体制構築
要介護認定を申請し、地域包括支援センター(自治体が設置する高齢者支援の総合窓口)やケアマネジャー(介護支援専門員)に相談して、介護の方針を決める段階
【フェーズ2】体制強化
デイサービスや訪問介護、ショートステイなどを組み合わせ、家族の直接介護を減らす段階
【フェーズ3】安定
導入したサービスを定期的に活用しながら、状態の変化を見守り、必要に応じて調整していく段階
【フェーズ4】 看取り
終末期のケア方針を家族で共有し、本人と過ごす時間を確保しながら最期に向き合う段階

介護休暇・休業の有効な活用方法を表した表

(出典)NPO法人となりのかいご「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会(第6回)- 資料1」をもとに当社作成

当法人独自調査の結果で示したとおり、介護離職は初期の段階に集中しており、体制が整う前に休暇や休業を使い切ってしまいます。その結果、その後の長い介護期間のなかで余裕を失い、家族関係が疲弊するケースも少なくありません。

実際の介護では、手続きやケアマネジャーとの面談、サービス調整、施設見学、急な状態変化への対応、そして看取り期に家族と過ごす時間の確保など、さまざまな場面で休業・休暇を活用する必要があります。こうしたタイミングで休暇・休業制度を活用することで、仕事を続けながら無理なく関わり続けられます。

93日は「分けて使う」が正解

介護休業は通算93日まで取得できますが、この日数を一度に使い切ってしまうことは現実的な両立方法ではありません。介護は予定どおりに進むものではなく、体調の変化や再入院、転倒など、急な出来事が起こることもあるでしょう。そのときに対応できる余裕を残しておくためにも、必要な場面ごとに分けて取得する考え方が大切です。

具体的には、93日のあいだに次の4ステップを順に整えていきます。

  1. 介護保険を申請する
  2. 地域包括支援センター・ケアマネジャーに相談する
  3. 介護サービスを導入する
  4. 家族内の無理のない役割分担を決める

これらを大きく「相談して方針を決める段階」と「実際に体制を組む段階」の2つに分け、それぞれで休業を分割取得すると、無理なく進められます。

【ステップ1】状況を整理し、相談先につながる

地域包括支援センターや病院のソーシャルワーカー、ケアマネジャーに相談し、退院後の生活や支援体制を検討します。家族だけで判断するのではなく、専門職と一緒に現実的な選択肢を考えることで、無理のない体制をつくれます。

【ステップ2】家族が直接介護を担いすぎない体制をつくる

福祉用具の導入や住宅改修、デイサービス、訪問介護、ショートステイなどを組み合わせると、家族の負担を軽減しながら継続できる体制を整えられます。たとえば、ショートステイを早い段階から定期的に利用すると、将来的に施設入居へ移行する際もスムーズになるケースが多く見られます。

介護は長期に及ぶことが多く、突発的な変化が起きることを前提にしておく必要があります。急な入院や状態の変化があったときに対応できるよう、休業を一度に使い切らず、必要なタイミングで使えるようにしておくことが両立を続けるうえで重要です。

理想を言えば、休業を使わなくても回る体制づくりが、最も安定した両立の形です。まず、早い段階から相談し、仕組みで支える体制をつくることが大切です。

利用できる主な介護保険サービス

介護保険サービスは、要介護認定を受けることで原則1割(所得に応じて2〜3割)の自己負担で利用できます。主なサービスは以下のとおりです。

介護サービスの分類を表した表

(出典)厚生労働省「企業のための仕事と育児/仕事と介護の両立支援ガイド」p.17

これらをケアマネジャーと相談し、家族の状況や本人の状態に応じて組み合わせることで、家族が直接介護を担う割合を減らし、仕事との両立を続けやすくなります。

「テレワークなら両立できる」の落とし穴

ここまで介護休業の使い方を見てきましたが、あわせて注意したいのが、テレワークの活用方法です。

仕事と介護の両立について考える際、「テレワークができればなんとかなる」と考える人は少なくありません。通勤が不要になり、自宅で働ける環境があれば、介護との両立もしやすいという発想です。実際に企業側でも、テレワークを両立支援の有効な手段として位置づけているケースが見られます。

しかし、相談現場で実際に起きている事例から考えると、テレワークによってかえって負担が増え、両立が難しくなってしまうケースが目立ちます。ここでは、テレワークを活用した家族介護の実態について、具体例をもとに考えてみます。

家族介護の実態例を表した図

(出典)NPO法人となりのかいご「今後の仕事と育児・介護の両立支援に関する研究会(第6回)資料1」をもとに当社作成

【ケース1】親の依存の強まり

在宅勤務を始めたことで、1日に20回以上も親のトイレに付き添うことになりました。もともと本人だけでトイレに行ける状態でしたが、家に家族がいることで安心し、何かあるたびに声をかけるようになりました。頼れる家族が近くにいることで親の依存が強まり、結果として仕事に集中できない状態が続きます。

【ケース2】業務集中の阻害

ウェブ会議中に何度も家族が入ってきてしまうケースもあります。事前に説明をしても、その記憶の維持が難しいこともあり、ドアに張り紙をしても防げない場合があります。こうした状況が続くと、業務への集中が難しくなり、生産性の低下につながります。

【ケース3】仕事と介護の境界喪失

最初は自室でテレワークをしていたものの、何度も呼ばれるために両親が過ごすリビングで仕事をするようになり、見守りながら働くことになったケースもあります。一見すると効率的に思えますが、仕事と介護の境界がなくなり、日中に業務が終わらず、深夜作業が当たり前になってしまうこともあります。実際にこのような状態が続いたことで体調を崩し、離職に至ったケースがありました。

このように、制限のないテレワークは両立を助けるどころか、介護への関与を増やします。常態化すると仕事と介護での役割が混在し、結果として離職リスクを高めてしまうこともあります。テレワークは必要な場面でピンポイントの活用にとどめるとよいでしょう。

両立支援において重要なのは、「見守る家族がそばにいれば両立できる」という前提ではなく、仕事と介護の距離を適切に保つことです。テレワークを含む制度は、直接介護を担うための手段ではなく、体制を整えるために使うものと捉えましょう。

仕事と介護を両立する人の共通点

実際に仕事と介護を無理なく両立できている人を見ると、特別に能力が高い人ばかりというわけではありません。両立できている人に共通するのは、次の3点です。

  1. 早い段階から相談している
  2. 家族だけで抱え込まない
  3. 自分が直接介護を担いすぎない

親がまだ元気なうちから相談先を知っている人は、いざ介護が始まったときも落ち着いて対応できます。逆に、自分でなんとかしようと抱え込んでしまうほど、支援につながるタイミングを逃してしまい、結果として離職に至るケースが多くなります。

先に紹介した調査でも、介護離職した人ほど自分の生活を後回しにする傾向が見られます。一方で両立できている人は、自分の生活を守ることを優先し、そのなかでできる範囲で関わる姿勢をもっています。これは決して冷たい態度ではなく、長く関わり続けるために必要な考え方です。

仕事と介護を両立するためのポイントを表した表

多くの相談を振り返ると、結果としてよい介護だったと感じられるケースには共通点があります。それは、どれだけ頑張ったかではなく、家族関係が穏やかに保たれているかどうかです。無理を重ねて関係が壊れてしまえば、支える側にも支えられる側にも大きな負担が残ってしまいます。

だからこそ介護休業は「介護をするための休み」としてではなく、「長期的に両立できる体制を整えるための準備期間」として使うことが大切です。自分の生活を守りながら体制を整え、その余裕のなかで介護に関わる。この意識こそが、仕事を辞めずに介護と向き合うための現実的な方法であり、介護を受ける人にとっても、穏やかで継続性のある体制づくりにつながります。

「距離感」を保つことが、質の高いケアにつながる

関わり方が本人にとって望ましいケアなのか、それとも支える側の不安を解消するための関わりになっているのかを見極めるには、余裕と距離感が欠かせません。長期休業や離職によって介護を抱え込みすぎると、この距離感を保つことが難しくなります。

理想は、休暇・休業やテレワークなどの制度を使わなくても回る体制をつくることですそれでも必要な場面では、直接介護のためではなく体制づくりのために制度を活用しながら関わり続ける。その姿勢こそが、最後まで穏やかな関係を保ち、本人にとっても家族にとっても質の高いケアにつながります。

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