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女性管理職育成を阻む「壊れたはしご」の正体と経営に問われる覚悟

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2026年4月、女性管理職比率の公表義務化の対象が拡大しました。対応を迫られる企業が増える一方、現場では「女性が管理職になりたがらない」という声も。しかし「なりたがらない」のではなく、「なれない」構造を社会や組織がつくり出しているとしたら? 今回は、その問いを関西学院大学の大内章子教授とともに考えます。

大内 章子(おおうち・あきこ)

関西学院大学 経営戦略研究科 教授 関西学院大学女性活躍推進研究センター センター長

総合商社勤務の後、経営について学びたいという思いと企業での働き方への疑問から、退職して慶応義塾大学大学院に入学。博士(商学)。女性の就業継続や管理職昇進など女性のキャリア形成の研究を背景に、本学にて2008年以来、リカレント教育「女性リーダー育成プログラム」を企画運営。

働く女性は増えても、目標に届かぬ管理職比率

働く女性の数は長年増え続けています。1985年の2,304万人から2023年には3,051万人へと約1.3倍に増加しました。

男女別の就業者数や就業率の推移をまとめた図

(出典)令和5年版働く女性の実情(p.8) - 厚生労働省

一方で「令和6年度雇用均等基本調査」によると、女性管理職の割合は、課長相当職では12.3%、部長相当職では8.7%、と、いずれの役職も、政府の掲げる2030年度30%目標には及ばない水準です。

(出典)「令和6年度雇用均等基本調査」- 厚生労働省

比率の低さは何を意味するでしょうか。人手不足のなか、特定の人材層が力を発揮しきれていない状況は、企業にとって大きな損失です。また、意思決定層の同質性が組織の硬直化につながるという指摘もあります。そもそも昇進機会が性別によって左右される状況は、公平性・人権の観点からも問い直す必要があるのではないでしょうか。

こうした背景から、比率を高めるための動きは強まっています。2026年4月からは、従業員101人以上の企業にも男女間賃金差異や女性管理職比率の公表が義務化されました。東京都では、全労働者・管理職に占める女性割合が4割未満の場合、採用・育成・評価での対応検討を求める指針の施行も予定されています

なり手がいない理由は、意欲と経験、要件不足?

女性管理職が増えない背景に、企業はどういった課題を感じているのでしょうか。

パーソル総合研究所の「女性活躍推進に関する定量調査」では、女性活躍推進における企業課題として以下が上位を占めています。

  1. 「女性の昇進意欲がない」(42.4%)
  2. 「十分な経験を持った女性が不足している」(41.6%)
  3. 「登用要件を満たせる女性が少ない」(40.8%)

(出典)女性活躍推進に関する定量調査 - パーソル総合研究所

日本の人事部 人事白書2025』でも、女性を課長相当職に昇進させるうえでの課題として「女性自身が目指していない」(47.2%)、「要件を満たす女性が少ない」(45.2%)が課題の上位に挙がっており、意欲・経験・要件の不足が共通した課題として認識されている傾向が伺えます。では、なぜこうした状況が生まれるのでしょうか。公表義務化など対応が求められるなか、意欲や経験不足という課題を前に悩んでいる人事担当者も多いかもしれません。

「なりたがらない」と「なれない」を生む構造

女性のキャリア形成と管理職登用を長年研究してきた関西学院大学経営戦略研究科の大内章子教授はこう指摘します。

「なりたがらないのは、そもそも土俵が用意されていなかった、あるいは、あまりにも厳しい土俵に見えて踏み出せなかった結果です。育成の仕組みや構造に踏み込まない限り、女性管理職育成はうまくいかないでしょう」

意欲や経験の不足は、個人の問題ではなく組織や社会の構造がつくり出した状態かもしれません。大内さんが指摘するように、「なりたがらない」のは土俵が用意されていなかった、あるいは厳しい土俵にみえて踏み出せなかった結果だとすると、その手前にそもそも「なれない」構造があるとも言えます。

SmartHR Mag.編集部では、こうした状況を踏まえ、女性が管理職に「なれない」背景に4つの構造的な要因があると考え、大内さんとともに掘り下げました。

本文に記載した「女性が管理職になりたがらないを生む構造的要因」をまとめた図

(1)遅い選抜が生む「管理職候補期」と「育児期」の重なり

1つ目の要素は、選抜タイミングの問題です。労務行政研究所の調査によると、想定される標準登用年齢(平均)は以下のとおりです。

  • 係長クラス:35.5歳
  • 課長クラス:41.8歳

令和6年(2024)人口動態統計」によると、第1子出生時の母の平均年齢は31.0歳(2024年)で、出生数がもっとも多い年齢層は30〜34歳です。

大内さん:管理職候補として評価されるキャリア上の重要な時期」に「出産・育児のピーク」が重なることが、女性の管理職登用を妨げる一因となっています。アメリカでは一般的に日本より昇進が早く、さらに女性の方が男性より昇進時の年齢が低いという現状から、昇進を待って出産のタイミングを延ばすことが可能だと考えられます。

日本の場合、課長への昇進を待って出産のタイミングを延ばすことは、総出生数に占める40代以上の出生の占める割合(令和6年人口動態統計によると6.6%)の少なさから考えても、現実的ではないと考えられます。

日本ではスキルや経験を積んでも、昇進する前に出産・育児のタイミングが来てしまう。出産後は上司が気を使って仕事の難易度を落とし、昇進ルートから外れる、いわゆるマミートラックに入ってしまうケースが多いのです。

日本企業のなかでも、早い選抜がなされる企業では遅い選抜の企業より女性管理職比率が高いです。ただし、私たちの研究では、子どもがいる女性に限ると勤務先の昇進スピードが遅いことが昇進確率を上げていることがわかりました。遅い選抜の企業でも、ワーク・ライフ・バランスに熱心であれば女性管理職が増える可能性が高くなります。

(参考)奥井めぐみ・大内章子「管理職キャリアパスの日米独比較-日本の女性管理職比率低迷の原因を探る-」金沢学院大学紀要 経営・経済・情報科学・自然科学編(出典)「令和6年人口動態統計(概数)」- 厚生労働省

なぜ長らくこうした状況が続いてきたのでしょうか?

大内さん:日本企業では、管理職になるまでに、仕事の経験や異動、つまりOJTや配置転換と昇進を通じて高度な技能を形成していきます。長い時間をかけて人材を育成して、その中で高い能力・スキルを持つ人を選抜するので、「遅い選抜」となります。

それは、なるべく多くの従業員に人材育成や選抜の機会を与えることで仕事や定着への動機づけをしつつ、同時に管理職の育成や選抜ができる合理的な方法として続いてきたと考えられます。

(2)家事・育児は女性が担うものという社会規範

2つ目は、家庭と職場に根づく社会規範の問題です。

家庭内において家事・育児は、今も女性が多く担っている状況があります。「社会生活基本調査(2021年度)」によると、6歳未満の子をもつ共働き夫婦の家事関連時間は以下です。

  • 夫:1時間55分
  • 妻:6時間33分

男性の育休取得率は上昇しています。それでも男性の育休期間は短く、育休明け以降、労働時間をセーブするのは多くの場合は女性です。

背景には、男女間の賃金差が大きく影響しています。「男女間の賃金格差解消のためのガイドライン」によると、2023年時点で女性賃金は男性の約75%にとどまり、収入の高い男性の働き方を優先する方が世帯収入への影響が少ないと判断されやすい状況があります。結果として女性が働き方をセーブする選択が「合理的」とみなされ、その判断の積み重ねがキャリアの差を生んでしまうのです。

さらに社会規範は、家庭内分担だけでなく、職場での仕事の配分にも影響を与えていると大内さんは話します。

大内さん:私が関わった研究では性別役割分業意識のある管理職ほど、「体力を考えて男性よりも女性の仕事量に配慮する」、「女性は結婚したら負担がかからないように配慮する」、「育児中の女性には責任の重い仕事をさせないように配慮する」人が多く、女性に挑戦的な仕事を与えない傾向が確認されています。

配分する段階で「どうせ早く辞めてしまうだろう」という統計的差別※や「女性は大変だろう」という「やさしさの勘違い」、いわゆる無意識の偏見(アンコンシャスバイアス)によるものです。

21世紀職業財団で継続実施している調査では、「男性の方が重要な仕事を与えられると思う」と答えた女性が5〜6割、男性も4〜5割にのぼり総合職に限っても同様の傾向が見られます。

さらに、仕事を配分する側の管理職も、約半数が「重要な仕事は男性が担当することが多い」と回答しています。これらの傾向は7年前から大きな変化はありません。重要な仕事が配分されなければ当然経験やスキルは身につけづらくなってしまいます。

※個人の能力や意欲ではなく、所属するグループの「平均的な傾向」をもとに差別的な判断を下すこと

(参考)若手女性社員の育成とマネジメントに関する調査研究(2015年度)- 公益財団法人 21世紀職業財団
(参考)【4回目 状況調査】男女正社員対象 DEI推進状況調査(2024年実施)- 公益財団法人 21世紀職業財団

(3)時短勤務が不利になる評価の文化

3つ目は、評価制度の問題です。慶應義塾大学の山本勲氏の研究では、職場の労働時間が長い企業ほど、正社員女性比率や管理職女性比率が低くなる傾向が確認されています。

(参考)企業における職場環境と女性活用の可能性 - 山本勲 

近年は働き方改革などの影響もあり、時間ではなく成果で評価する仕組みや文化への移行が進む職場も多いかもしれません。しかし「成果評価」と言いながらも、残業しにくい育児勤務者や時短勤務者が不利になる構造はまだ根強く残っていると、大内さんは指摘します。

大内さん:「成果で評価する」と言っても、職種によってはアウトプットの数値化が難しく、結果的に時間が代替指標になってしまうケースは少なくないでしょう。時間でアウトプットを競う構造になると、残業しにくい人や時短勤務の人はどうしても不利になります。

2020年の研究ですが、女性活躍推進に積極的な企業55社のうち、残業しにくい従業員や時短勤務者の人事評価についてルールを設けていない企業が半数超にのぼっていました。その後改善が進んでいる可能性はありますが、課題として残っている企業もあると考えられます。

(参考)時間制約のある従業員の人事制度と人事評価 - 大内章子、奥野明子

(4)上記の要因の積み重ねによる自信のなさ(=「なりたがらない」を生む要因)

4つ目は、(1)〜(3)の「なれない」構造が積み重なることで生まれる自信のなさです。これが「なりたがらない」状態につながっていきます。

挑戦的な仕事が配分されないまま年月が過ぎると経験に差が生まれ、育成の機会とともに自信も失われていく——。大内さんは会社の昇進を学校の進級に例えて説明します。

大内さん:係長が中学生、課長が高校生、部長が大学生だとしましょう。

女性管理職育成がうまくいっていない会社では、女性がちょうど係長になろうというタイミングで育児が始まることが多い。そこで上司が「子育て大変だよね」と気を遣って、仕事の難易度を落としてしまう。せっかく中学生になれるところを、小学3年生や4年生の仕事に戻されてしまうんですね。

数年後に管理職候補として声をかけてみたら、その方は係長レベルの経験を積んでいない。それなのに突然「課長(高校生)になりませんか」と言われても、不安で踏み出せないのは当然です。

統計的差別や無意識の偏見が入口で機能した結果、育成の機会が奪われてしまう。これが「壊れたはしご(broken rung)」の正体です。自信がないのは個人の性格の問題ではなく、仕事がうまく配分されず育成されていないために十分な経験が積めていない。そこが原因なんです。

会社の制度が整っていても、働く女性社員の多くは、こうした構造のもとでキャリアを積んできています。家事・育児の分担や職場の社会規範も、完全に変わったとは言いきれません。「うちは大丈夫」と思っている会社でも、はしごのどこかが脆くなっているかもしれません。

脆さを放置したままでは、数値目標の達成が遠のくだけでなく、組織の硬直化につながります。硬直化した組織は変化への対応が遅れ、特定の人材が力を発揮しづらい環境は組織全体のパフォーマンスにも影響します。自社のはしごのどこが脆くなっているかを問い直すことが重要な一歩になるはずです。

壊れたはしごを踏まえて、まず点検すべき3つのポイント

自社のはしごのどこが壊れているかを、どう見極めればいいのでしょうか。「なりたがらない」や「なれない」を生む状況を変えるための第一歩として、大内さんへの取材をもとにSmartHR Mag.編集部が整理した3つの点検ポイントを紹介します。

本文中の点検すべきポイントをまとめた図

(1)管理職比率と登用比を確認する

まず手がかりになるのが、管理職登用比です。女性管理職比率で現状を把握しつつ、あわせて確認したいのが登用比です。大内さんが重要性を説明します。

大内さん:登用比は、管理職の男女比を従業員の男女比で除した数字です。登用比が1であれば、男女が同じように管理職に登用されている状態です。これを見ると、女性が男性と比べてどれくらい登用されているかが見えてきます。2019年に厚生労働省の女性の活躍企業データベースのデータで計算したところ、平均0.19でした。これは男性が1人管理職に昇進するときに、女性は0.19人しか管理職に昇進していない、ということを表しています。

2025年に同じ計算方法で試算した毎日新聞社の結果も0.24で、この間にあまり変化していません。係長・課長・部長と職位ごとに追っていくと、どこで数字が落ち込むかがわかり、そこに問題が潜んでいる可能性があります。

例えば、金融機関は係長登用比が1に近いか、1を超えている企業さえありますが、課長になると0.2程度です。そこから、多くの女性が係長で留め置かれて、課長以上に昇進できないことがわかります。

(出典)大内章子(2020)「女性の管理職昇進-それは企業の本気の人材育成あってこそ」『日本労働研究雑誌』
(出典)BeMe:女性の昇進しやすさは男性の4分の1 管理職登用に壁 毎日新聞調査 - 毎日新聞

(2)業務配分を見てみる

壊れたはしごは、昇進の場面より手前、日常の仕事の配分のなかにあります。最初の一歩は、誰がどのレベルの仕事を担っているかを可視化することです。

大内さん:まず自社の業務を分析してみてください。難易度の高い仕事とそうでない仕事を整理して、誰がどのレベルの仕事を担当しているかを一覧にする。業務単位で細かく分類する必要はなく、たとえば新規顧客への提案・プロジェクトリード・意思決定を伴う交渉などが難易度の高い仕事、定型処理・資料作成・サポート業務などが難易度の低い仕事、といった大まかな分類で十分です。

すると、ある人がある種の経験をしていないことが見えてきます。何となく「残業できる彼の方に」重要な仕事を任せていた、といった状況が可視化されるかもしれません。

こうした配分の実態を把握するには、社内アンケートで「重要な仕事は男性の方が多く任されていると思うか」と聞いてみるのも有効です。

(3)評価項目の点検

業務配分の実態が見えてきたら、最後に問うべきは評価制度そのものです。組織の実現したいことが評価項目に組み込まれているかの点検が重要だと、大内さんは言います。

大内さん:人は評価される行動をとります。女性の育成が重要なら、それを実践している管理職を評価しているか。男性育休を促したいなら、男性部下に育休を取らせた管理職を評価しているか。形だけの理念になっていないか、実際に行動しているか、そこを点検することが重要です。

たとえば、とある企業は男性育休100%を目標にした際、それを達成できる仕組みづくりを管理職の成果として評価に組み込んでいます。別の企業では、男性部下に育休を取らせていない管理職をマイナス評価しているそうです。360度評価を導入している企業であれば、「上司は男女問わず重要な仕事を配分しているか」という設問を加えることも有効です。

変化の摩擦を越えるのは、経営陣の本気度

点検によって自社の課題が見えてきたら、次はどう動けばいいのでしょうか。大内さんは短期と中長期を組み合わせるアプローチを勧めます。

大内さん:短期的には、女性候補者への優先的な機会付与(ポジティブアクション)が有効です。甲乙つけがたい場面では女性を優先的に登用する、といった取り組みですね。まずは意識的な機会創出が欠かせません。

一方、中長期では育成システムそのものに手を入れる必要があります。手っ取り早い女性リーダー研修や管理職研修だけでは、スキル形成の構造は変わりません。仕事の配分や配置転換が男女同等に行われているか、評価制度が育成の意図と整合しているか。先ほどの3つのポイントを起点に、設計し直すのが大切です。

そして優先的な機会付与や変化に伴う反発や摩擦を乗り越えるには、経営陣の本気度が問われます。新しい取り組みには失敗もつきものです。一度や二度で「だからやらなくていい」と結論づけるのではなく「一時的な生産性低下や批判があっても、10年後を見据えて今やるんだ」と本気で言えるかどうかも大事です。変化が起きている会社は経営者が必ず本気です。

ただ、経営が動くのを待つだけでは比率は変わりません。いち担当者にできることも多々あると大内さんはエールを送ります。

大内さん:管理職育成においては、人事と管理職こそが鍵を握っています。管理職登用比や業務配分を可視化し、評価項目を点検する——自社のはしごのどこが壊れているかを見える化することが、経営層を動かすための材料にもなるはずです。

編集後記

編集後記取材のなかで思い出したのは、以前DEIB推進をテーマにしたイベントで聞いた「女性のキャリアはロープのジャングルジム」という言葉。出産や介護、転勤など、予期せぬ出来事のたびに方向転換を迫られ、一本道では語れないとお話されていました。

そう考えると、壊れたはしごをただ均一に整えるだけでは、その複雑さには応えられないのかもしれません。もし多様な人材が活躍できる組織を目指すなら、誰もが自分らしいルートで登れるはしごのあり方を、問い直す時期に来ているのかもしれません。

その実現には、大内先生のお話にもあったとおり、経営層の「摩擦があってもやる覚悟」が欠かせません。覚悟を引き出すための材料を、現場からどう届けるか。それもまた、人事・労務に携わる方々と一緒に考えていきたいテーマです。

次回以降は、実際に比率を動かした中小企業・大企業の事例を探っていきます。「壊れたはしご」をどう変えていけるのか、より具体的なヒントをお届けします!

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