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女性活躍はマジョリティ巻き込みあってこそ。ボトムアップの文化・意識変革

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日本アイ・ビー・エム株式会社(以下日本IBM)の女性活躍推進コミュニティ「Japan Women's Council(以下、JWC)」。発足から約30年、今向き合うのはマジョリティを巻き込まなければ越えられない“文化・意識”の壁です。試行錯誤の歩みと現在の実践を、共同リーダーのお二人に伺いました。

  • 沖 順子(おき じゅんこ)さん 


    日本アイ・ビー・エム株式会社 コンサルティング事業本部 成長戦略統括事業部 パートナー

    2000年に入社後、金融 (証券・保険)・通信・旅行などお客様の数多くのITプロジェクトに参画。現在は金融のお客様を中心にAIをはじめとするテクノロジーを活用した業務変革を支援。2017年からJWCにメンバーとして参画、2025年からはCo-leaderを務める。

  • 小松原 康平(こまつばら こうへい)さん 


    日本アイ・ビー・エム株式会社 コンサルティング事業本部 金融事業部 金融コンサルティング担当 パートナー

    1999年に入社後、社内IT部門のエンジニアを経て戦略コンサルティング部門でIT戦略・IT組織構造改革を担当。アプリケーション・マネジメントのアウトソーシング部門への異動を経て、2026年より現職。2021年からJWCに参画し、2023年からは初の男性リーダーとして第10期、第11期のCo-leaderを務める。社内外で女性活躍推進に関する講演活動を行う。

「なれない」と「なりたがらない」を生む構造

人手不足が深刻化するなか、女性管理職の育成は多くの企業にとって避けられないテーマになっています。企業が挙げる課題として上位に並ぶのは「女性の昇進意欲がない」「十分な経験をもった女性が不足している」「登用要件を満たせる女性が少ない」といった声。意欲や経験の不足が、共通のハードルとして認識されている傾向がうかがえます。

なぜ、こうした状況が生まれるのでしょうか。SmartHR Mag.編集部が、女性のキャリア形成を長年研究してきた関西学院大学の大内章子教授とともに深掘りしたところ、浮かび上がったのは個人の意欲以前に存在する4つの構造的要因でした。

(1)遅い選抜が生む「管理職候補期」と「育児期」の重なり

日本の多くの企業では選抜のタイミングが遅く、係長・課長へと昇進する時期が、第1子出生時の平均年齢(31.0歳)を含む育児のピークと重なっています。キャリアの重要な時期と私生活の多忙期が重なることで、育成の機会を得づらい構造があります。

(2)家事・育児は女性が担うものという社会規範

家庭内での家事・育児負担が今なお女性に偏っている現状があります。職場においても上司が「女性は大変だろう」と配慮するあまり挑戦的な仕事を控えてしまう「統計的差別(善意のバイアス)」を生み、結果として女性から成長機会を奪っています。

(参考)若手女性社員の育成とマネジメントに関する調査研究(2015年度)- 公益財団法人 21世紀職業財団
(参考)【4回目 状況調査】男女正社員対象 DEI推進状況調査(2024年実施)- 公益財団法人 21世紀職業財団

(3)時短勤務が不利になる評価の文化

「成果評価」を掲げつつも、数値化しにくい職種では「労働時間」が評価の代替指標になりがち。時間制約のある時短勤務者が正当に評価されにくい文化が、キャリアアップの壁となっています。

(参考)企業における職場環境と女性活用の可能性 - 山本勲
(参考)時間制約のある従業員の人事制度と人事評価 - 大内章子、奥野明子

(4)上記の積み重ねによる自信のなさ

(1)〜(3)の「なれない」構造が積み重なることで次第に自信が失われ、結果として「なりたがらない」状態へとつながっていくと考えられます。

こうした構造的な育成機会の喪失は、キャリアのステップを登るための「壊れたはしご(broken rung)」に例えられます。「自信がない」のは個人の性格の問題ではなく、はしごが途中で壊れているために、登るために必要な経験が積めていないことに原因があるのです。

制度から文化・意識へ。試行錯誤を重ねたJWCの約30年

では、自社の壊れたはしごにどう気づき、どう直していけばいいのでしょうか。

日本IBMでは、経営層のコミットメントと社員主体のコミュニティ活動の両輪で、女性活躍推進をはじめとするダイバーシティ&インクルージョン(D&I)の取り組みを進めてきました。

コミュニティのなかで特に長い歴史をもつのが「Japan Women's Council(以下、JWC)」です。1998年の発足以来、活動の重心は制度整備から女性のキャリア支援へ、文化・意識の改革へと移ってきました。現在は男性を共同リーダーに迎えて、組織の性別的マジョリティを巻き込む活動や女性の昇進を阻む壁の分析に取り組んでいます。

今回は、JWCの共同リーダー(Co-leader)を務める沖順子さんと、初の男性Co-leaderである小松原康平さんに、約30年の試行錯誤と現在の取り組みについて伺いました。

“強い女の会”を超えて。マジョリティを巻き込む文化・意識の変革

はじめに、日本IBMのD&I推進におけるJWCの位置づけを教えてください。

沖さん

チーフ・ダイバーシティ・オフィサー(CDO)のもと、日本IBMはD&Iの中で、特に女性活躍、LGBTQ+、介護、PwDA+(People with Diverse Abilities)の4テーマにフォーカスして推進しています。テーマごとに推進コミュニティや各部署のアンバサダーが連動する全社的な体制が敷かれており、JWCもそうした推進コミュニティの1つです。また同時に「社長直属の諮問委員会(経営層への提言組織)」という位置づけでもあります。

制度をつくる権限をもっているわけではありませんが、現場でみえる課題を整理して経営層に提言したり、社員に向けて発信したりする立場で活動を続けてきました。

扱う課題は時代にあわせて変化してきましたが、「上から課題を与えられる」のではなく、自分たちで課題を設定して取り組むスタンスは30年間変わりません。

JWCの取り組みは、どのように変遷してきたのでしょうか。

沖さん

日本IBMでは、女性活躍推進で検討すべき項目をピラミッド型の3層構造で整理しています。JWCの活動も振り返ると、この3層をライフ・ワークから順に登るように重心を移してきました。

  • 文化・意識:管理職に女性を登用する文化の醸成、女性候補者と周囲の意識・周囲の支援
  • キャリア・スキル:多様なキャリア計画と均等な機会提供、公平な評価
  • ライフ・ワーク:多様なワークスタイルを実現するための制度・仕組み、柔軟性

発足当時は、土台層にあたる在宅勤務や短時間勤務など「働き続けるための制度」の提言が中心でした。そこから中間層のキャリア形成や登用プロセスへと取り組みを広げ、土台が整った今、特に注力しているのが最上層の「文化・意識」の領域です。

沖さんの発言を図に表した記事

(提供資料をもとにSmartHR Mag.編集部で作成)

具体的には「マジョリティへの働きかけ」と「女性リーダーの壁検討」の施策にフォーカスしています。

「マジョリティへの働きかけ」では、男性管理職をはじめとするマジョリティ側の認知・行動を変えることで、女性管理職比率を高めていく活動を展開。現場の声をもとに、対話の場の設計や巻き込み方を検討しています。「女性リーダーの壁検討」では、約800人規模のアンケートやインタビューで管理職や経営層を目指すうえでの「壁」の正体を探り、対応策を検討しています。

そのほかに女性リーダー育成プログラムのコンテンツ検討や、社外向け教育プログラムの実施にも取り組んでいます。

マジョリティへアプローチし始めるきっかけは、どのようなものだったのでしょうか。

沖さん

2019年頃、JWCを率いていたあるリーダーが「女性が女性だけで女性の問題を解決するのも限界がある」と気づいたことが大きな転換点になりました。

それまで、JWCに参加すると周りから「強い女の会に入るんだ」と言われるような雰囲気もありました。“女性による、女性のための会”と捉えられていたのだと思います。

ですが、組織のなかで女性活躍を阻む要因の一部は、性別的マジョリティである男性側にもある。それなのに、男性が不参加のまま課題を解こうとすること自体が間違っているのではないか、と捉えなおすことに。

その気づきが起点となり、同年からは男性メンバーが参画し、2023年には初の男性Co-leaderが就任しました。「マジョリティへの働きかけ」も主要施策の1つに据えるなど、活動の幅が広がってきました。女性の活躍はもちろん、誰もが個として活躍できる組織を目指す活動へと進化してきたと感じています。

日本IBMの実践に学ぶ「壊れたはしご」を直すポイント(1)

「女性による、女性のための活動」から「全員で取り組む活動」へと位置づけ直し、性別的マジョリティを巻き込む。

論破ではなく、問い直す。マジョリティ巻き込みの実践

JWCで男性初の共同リーダーを務められている小松原さんは、どのような経緯で活動に関わるようになったのでしょうか。

小松原さん

JWCに参加する前は、マネージャー向けのセミナーを聞いても「勉強になった」とその場で思いつつ、部屋を出たら数時間で忘れてしまうような無関心な人間でした。

その後、部署ごとにJWCのアンバサダーを立てる際、そのうちの1人にノミネートされたのがきっかけで関わり始めました。当初は「女性の取り組みをサポートしよう」と、他人事のような、上から目線をもっていたと思います。

しかし、実際に活動して学んでいくと、女性活躍を阻む原因は男性側の思い込みにもあるのだと深く気づかされました。

たとえば、出張を伴う大変なプロジェクトの候補を決めるときが挙げられます。男性マネージャーが「彼女はお子さんが小さいから」と気を利かせて候補から外してしまうようなケースです。このような 「よかれと思って」の行動が、本人の挑戦する機会を奪ってしまう。自分もそうやって活躍しづらい要因をつくっていたかもしれないとハッとしたんです。要因の1つを構成しているのに、何を上から目線になっていたのだと猛省しました。

加えて、 JWCのメンバーが自分の出世ではなく、仲間のために活動する姿にも胸を打たれました。そこから活動に対する自分自身のスタンスが「一緒に考えさせてほしい」に変わっていったと思います。

「マジョリティへの働きかけ活動」として、具体的にどのような取り組みを?

小松原さん

1つは、私が個人として「広告塔」となり、社内外のセッションなどで体験談や考えを発信していくことです。「無関心だった小松原でも認識が変わった」と伝えることで、身近なロールモデルになれたらと思っています。

社内外のセッションでは、男性からよく寄せられる異論や反論に対して回答する形式のスライドを活用しています。あくまで一例ですが、以下のような内容をまとめています。

よくある異論・反論「女性に下駄を履かせるのは、かえって不平等では?」

回答:これまで気づかれていなかっただけで、私たち男性こそ、長らく見えない下駄を履かせてもらっていたのではないでしょうか。さらに環境は変化しています。今履いている下駄のままで、変わりゆくビジネス環境に対応できるのかも問い直す必要があるはずです。

よくある異論・反論「女性活躍・女性比率向上は『業務命令』として取り組むべき?」

​回答:いいえ。IBMでは経営層が強くコミットする企業文化を土台にしつつ、JWCの活動自体は「やらされる」ものではなく、自分と仲間のための活動として位置づけています。

受け手が男性の場合、同じ男性である私が伝えることで「女性だから言える話」と受け流されにくくなる面もあるなと感じます。

ただし、私の答えを正解として示すことは決してありません。覚えた違和感を通じて「なぜそう感じるのか」を自問自答してほしいからです。最近は男性リーダーに相談される場面も増えたのですが、あくまで「私はこうでした」と等身大の経験を話すようにしています。

そのほかにも、内容の同じスピーチを男性と女性の異なる声で流し、受け手がどう感じるかを比較するアンコンシャスバイアスの実験なども実施しました。女性の声のときだけ「感情的だ」と捉える割合が明らかに高くなり、参加した人たちからも「身をもってバイアスを実感した」という意見が寄せられました。

取り組みを重ねるなかで、組織の文化や意識に変化の兆しは感じますか?

小松原さん

何十年と続く組織の文化や意識を変える難しさはあります。ですが、最近では「逆差別ではないか」といったあからさまな反発はほとんど聞きません。社内全体の意識の底上げはできつつあると思います。

また、とある社内セッションで、ある男性の参加者が「参観日に来ているのは母親が多いし、娘も『お母さんがいい』と言うし、どうしても性差はあるんじゃないですか?」と質問したことがありました。すると私が答えるより前に、横に座っていた参加者が「いや、うちは子どもが『パパに来てほしい』って言いますよ」と返したんです。

誰かが「それは偏見」と正解を押し付けるのではなく、メンバー同士の対話のなかで「思い込みがあったんだな」と自発的に気づく瞬間が生まれている。こうした、自分を問い直せる「対話の入り口」を、これからも社内にどんどん増やしていきたいと思っています。

日本IBMの実践に学ぶ「壊れたはしご」を直すポイント(2)

マジョリティ側の人物が広告塔となり、無関心層への入り口を広げるとともに、社員同士の対話からバイアスへの気づきが生まれる場を設計。

断られてもすぐ諦めない。上司に問われる対話の作法

続いて「女性リーダーの壁」検討の活動について教えてください。

沖さん

女性の昇進を阻む課題の正体を探るため、約800人を対象としたアンケート調査に取り組みました。その結果、見えてきた「女性のマネージャー昇進への心理的ハードルと根本要因」を、以下の4つの壁にまとめました。

1. ネガティブなロールイメージ
2. ひと昔前の女性リーダー像
3. 曖昧に感じられる昇進基準・プロセス
4. 長期的なキャリアプランがない

具体的にどういった壁だったのでしょうか?

沖さん

1つ目は「ネガティブなロールイメージ」により、心理的にマネージャーにはなりたくないと拒絶してしまう壁です。 アンケートでは「キャリアや給料等の面でマネージャーになるメリットがない」「何をしているのかよくわからないけど、とにかく大変そう」「ワーク・ライフ・バランスがさらに取れなくなりそう」といった声が集まりました。マネージャーの仕事に対して、多忙で割に合わないという印象が先行してしまっているのです。

2つ目は「ひと昔前の女性リーダー像」に対する固定観念から、“マネージャーには向いていない”と思い込んでしまう壁です。 「“アイアンマン”じゃないとやっていけない」「“男まさり”でないと務まらない」といった過去の極端なリーダー像への抵抗感がみられました。

3つ目は、「曖昧に感じられる昇進基準・プロセス」が原因で、“自分につとまるか不安”になってしまう壁です。 「マネージャーに必要なスキルを自分が満たしているのか?」「周りに頼れる人もおらず、部下も年上ばかりになる」「そもそも何をやったらいいのかわからない」といった声が目立ちました。基準や周囲のサポート体制が不透明なために、一歩を踏み出す具体的なイメージが湧かないという課題です。

4つ目は「長期的なキャリアプランがない」ために、今じゃないとタイミングを逃してしまう壁です。 「今は子どもとの時間を優先したい」「いずれはと思うものの、こんなすぐとは考えていなかった」という声のように、目の前の生活との二者択一になってしまうのかもしれません。

そして4つの壁の根底に共通して横たわっていたのが「女性社員とマネージャー間のコミュニケーション不足」でした。

記事内の4つの理由をまとめた図

(提供資料をもとにSmartHR Mag.編集部で作成)

「女性社員とマネージャー間のコミュニケーション不足」とは?

沖さん

別のアンケート調査によって、上司は「女性社員とキャリアの会話ができている」と思っているのに対し、女性側は「対話が足りていない」と感じているという認識のズレが浮き彫りになったのです。さらに男性よりも女性の方が、昇進の条件を「グローバルでの活躍が必要だ」などと高く見積もりすぎている傾向も明らかになりました。

女性が自分でハードルを上げすぎているなら、その誤解を解いて勇気づける対話が必要です。なのに、そもそも対話が足りていないケースが多い実態がみえてきたんです。

そうした実態に対して、具体的にどのような施策を打ったのですか。

沖さん

まずは対話不足を解消するため、マネージャーと女性社員が参考にできる「あるあるQ&A」を公開しました。日常のコミュニケーションで活用してもらっています。

(実際に社内で活用しているスライドの一部)

そのなかで、現場のマネージャーに強く推奨しているのが、管理職を打診する際に「女性の背中を複数回押す」ことです。もちろん、本人の意思を無視して無理に管理職を押し付けることが目的ではありません。ただ、女性に管理職を打診すると、先ほどの4つの壁による不安から「私には向いていない」「今じゃない」と、最初は慎重に断られる傾向があるのも事実です。

しかし、それは「絶対にやりたくない」という意味ではないかもしれません 。だからこそ、上司側には1回断られただけで「そうか、残念」とコミュニケーションを終わらせないでほしいのです。

「向いていない」という不安には「サポートするから一緒に考えよう」、「子どもとの時間を優先したい」という悩みには「時間を優先しながらマネージャーになる方法を一緒に探せないか」と返す。本人が抱える不安に寄り添い、可能性を広げるための対話を重ねてくださいとお伝えしています 。

こうした丁寧な対話をベースにしつつも、「4つの壁」を根本から解決するために、現在は次の一手や新たなアプローチも検討しているところです。

日本IBMの実践に学ぶ「壊れたはしご」を直すポイント(3)

「壁」の正体を現場の声から構造化し、上司側の対話スキルとして言語化する。「1回で諦めず、4回背中を押す」など現場マネージャーが踏むべき具体的なステップに翻訳する。

ボトムアップを支えるのは、経営層の「リスペクト」

メンバーの皆さんがそれぞれメインの担当業務を抱えながら、ボトムアップの活動を約30年もの長きにわたって継続できた背景には、何があるのでしょうか。

小松原さん

JWCにかぎらず、IBMはコミュニティ活動が盛んです。そこでの活躍が社内で認められ、尊敬される評価対象になっています。貢献をリスペクトする文化が背景にあるからこそ、活動を続けられるのだと思います。

沖さん

社長や副社長、人事のトップが自分の言葉でD&Iへの思いを発信する文化もあります。経営層の積極的な発信があると、JWCメンバーも社員も会社の目指す方向性への理解がぐっと深まります。会社全体で活動をリスペクトし、エンパワーする環境があるからこそ、取り組むメンバーが疲弊して辛くなってしまうようなことが起きないのだと感じます。

最後に、お二人のJWCの活動における展望を教えてください。

小松原さん

一緒に活動して、この活動は決して女性だけのためじゃないと気づきました。男性でも一人ひとり環境も考えていることも違うので、結局は個人にちゃんと向き合わなきゃいけないと気づけたんです。

マジョリティかマイノリティかに関わらず、自分自身がちゃんとプライドをもって働けているか、その環境が整っていないと他者にも向き合えません。その先に、D&Iの本来の意味があるのではないかと感じています。

時々「女性活躍推進で企業がどれだけ成長するんですか、売上がいくら上がるんですか」と聞かれますが、そういったROIの話を超えたところにD&Iに取り組むべき本質があると思っています。それを表現し、伝えていくのも今後の課題かもしれません。

沖さん

マジョリティをどう巻き込んでいくかは、私たちにとって継続的なテーマです。マジョリティと一言でいっても、誰なのか定義し、誰に何をすれば効果的なのか、引き続き考え続けています。

と同時に、少しずつでも意識を変えていかないと、女性が自分自身の可能性に蓋をしない働き方を目指すのは難しい。日本は女性活躍推進が遅れている現実があるからこそ、活動を止めてはいけない。楽しく活動しながら、着実に次の世代へバトンを渡していきたいと思っています。

日本IBMの実践に学ぶ「壊れたはしご」を直すポイント(4)

経営層が自らの言葉でD&Iへの思いを発信し、コミュニティの貢献を評価・尊重する。ボトムアップの活動を「個人の頑張り」で終わらせない仕組みを文化として根づかせる。

ここまでの記事の内容をまとめた図表

編集後記

取材を通じて印象に残ったのは、沖さんや小松原さんが語った「『マジョリティ』と一言でいっても多様である」という視点。性別や世代、職種、ライフステージ。働く人の属性が多層化するなかで、誰がマジョリティなのかも固定的ではなく、時代や文脈によって問い直されていくべきでしょう。壊れたはしごをどう直すかという問いは、はしごを登る人だけの問いではないのだと、改めて気づかされました。 

前回ご紹介した株式会社吉村が 「組織構造への介入」と「個人の不安への伴走」 で壊れたはしごに手を入れたのに対し、日本IBMは 「意識・文化の変革」や「ボトムアップを支える経営層のリスペクト」 で問題に向き合っていました。

手段は異なっても、両社に共通していたのは、経済合理性や数値では語りきれない理念をもちながら、目の前の現実的な構造に手を入れていること。吉村では橋本社長の信念と憤りが、日本IBMでは小松原さんが語った「ROIの話を超えたところにD&Iに取り組むべき本質がある」という言葉が、それぞれ強く印象に残りました。壊れたはしごの問題にかぎらず、誰もが自分らしく働ける組織を考えるうえで、これからも立ち戻りたい視座になりそうです。

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