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日本人が知らないストレス特性。「保全タイプ」と「拡散タイプ」は遺伝子で決まる?

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目次

「同じ指示でも、すんなり動く人と立ち止まる人がいる」「『何がしたいか』を尋ねても、明確な答えが返ってこない」

人事・労務の現場や管理職の立場で、こうしたモヤモヤを感じたことはないでしょうか。原因は、部下の意欲や性格ではなく、ストレスの「特性」を知らないことにあるのかもしれません。

well-beingを研究する予防医学研究者・石川善樹さんは、「これまでの研究から、一部のストレス特性は遺伝子の影響が大きいとされている」と言います。本記事では、職場のコミュニケーションを根本となる「ストレス特性」の基本を、石川さんへのインタビューから紐解いていきます。

石川善樹さん

予防医学研究者 公益財団法人 Well-being for Planet Earth 代表理事

1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。公益財団法人Wellbeing for Planet Earth代表理事。「人がよく生きる(Good Life)とは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、概念進化論など。近著は、フルライフ(NewsPicks Publishing)、考え続ける力(ちくま新書)など。

ストレス「度」ではなく「特性」をみる

well-beingを考えるうえで、「ストレス」はどのように位置づけられるのでしょうか?

石川さん

well-beingを考えるときに、最も基本となる考え方の一つが「適度なストレス状態にあること」です。ストレスは高すぎても低すぎてもよくありません。

ただし、何がストレスになるかは人によって違います。これを「ストレス特性」と呼びます。自分のストレス特性、そして他者のストレス特性を理解せずに接することが、職場のコミュニケーションのすれ違いを生み、結果としてwell-beingを悪化させていきます。

日本では、ストレスチェック制度が運用されています。それだけでは不十分ということでしょうか?

石川さん

日本は世界的に見ても、ストレスチェックをしっかり実施している国だといえます。ただし重要なのは、あくまでストレス「度」の測定にとどまっている点です。

肝心のストレス「特性」は、日本人のほとんどが一度も習ったことがありません。自分がどのような特性をもち、相手がどういう特性をもつのかを知らないまま接するから、コミュニケーションのトラブルが起きる。せっかく「測定」が仕組み化されているのですから、あとは「特性」を理解して、マネジメントするだけです。

ストレス特性は、どのような要素で構成されているのでしょうか?

石川さん

ストレス特性は、大きく5つの要因から成り立っています。なかでもとくに重要なのが、「保全(枠組みのなかで安心したいタイプ)」と「拡散(枠から出ることを好むタイプ)」の2軸です。

  1. 凝縮性: 自分の価値観や信念を否定されたり、理不尽な状況を強制されたりするとストレスを感じる。
  2. 受容性: 周囲から無視されたり感謝されなかったり、冷徹で思いやりのない環境に置かれるとストレスを感じる。
  3. 弁別性: 白黒はっきりしない曖昧な状態や、論理的ではなく感情論が優先される状況でストレスを感じる。
  4. 拡散性: ルールや枠組みで厳しく行動を縛られたり、変化のないマンネリな環境が続いたりするとストレスを感じる。
  5. 保全性: 先行きが見通せない急な変更を迫られたり、事前の準備や計画がない状況に置かれるとストレスを感じる。

この保全と拡散は、遺伝的な影響(生まれ持った脳の認知のクセ)が大きいといわれています。もちろん環境や経験によって行動は変わりますが、無意識の状態だと、この生まれつきの傾向が強く出やすい。だからこそ、まずはこの2軸を押さえるだけでも、コミュニケーションのとり方が大きく変わります。

対象的な「保全タイプ」と「拡散タイプ」

保全タイプ(安心・仕組み化重視)と拡散タイプ(自由度・ゼロイチ重視)の特徴と見分け方の比較図

「保全タイプ」とは、どのような特性なのでしょうか?

石川さん

保全タイプは、「枠組みのなかでしっかりやりたい」人たちです。具体的な道筋・計画・プロセスがみえないと、強い不安を感じ、それがストレスになります。

たとえば、経営トップが「これからの会社の方向性はこうだ」と方針を打ち出したとします。それを聞いた保全タイプの従業員は、「自分は今日から何をしたらいいんですか」と感じるのです。本人にとっては抽象的すぎて、何も説明されていないに等しいのです。

これが、経営層と現場の保全タイプのあいだで起きがちなコミュニケーションギャップの正体です。保全タイプは、不安を減らし安心することが行動の原動力になっています。この前提を理解したうえで情報を渡せるかどうかが、マネジメント側に問われます。

保全タイプと対をなす「拡散タイプ」には、どのような特徴があるのでしょうか。

石川さん

拡散タイプは、「枠から出るのが好き」な人たちです。保全とは対照的に、自由度を与えられたときにこそ力を発揮します。

このタイプに対して細かくプロセスを指示すると、それ自体が強烈なストレスになります。 保全の人にとって安心材料となる「細かい進捗確認」が、拡散の人にとっては苦痛にしかならないのです。

石川善樹さんのインタビューポートレート(屋外のベンチにて)

保全タイプと拡散タイプでは、得意な分野が異なりそうです。

石川さん

新規事業の立ち上げのようにゼロからイチを生み出す場面で拡散タイプが力を発揮します。一方、生み出された事業を着実に育て、仕組みに落とし込んでいく場面では、保全タイプの貢献が欠かせません。どちらが優れているという話ではなく、求められる役割が違うだけです。

自分や周囲の人のタイプを見分けるには、どこに着目すればよいのでしょうか?

石川さん

いちばんシンプルな目安は、「先行事例を追うか、つくるか」です。

保全タイプは先行事例を求めます。具体的な事例があると道筋がみえて安心するからです。一方、拡散タイプは先行事例をつくる側に回りたがります。事例を示された瞬間に「それなら自分たちがやる必要はない」と感じてしまう。

たとえば「他社の取り組みを調べてほしい」と求める人は保全寄り、「他社と違うことをしたい」と求める人は拡散寄りです。

日本人の6割を占める「受容+保全」タイプの本音

保全・拡散のほかに、マネジメントするうえで知っておくとよい特性はありますか。

石川さん

これまでの行動科学のデータや、私たちの研究などを紐解くと、日本人のおよそ6割は、「受容」と「保全」が合わさったタイプだといわれています。 受容タイプは、相手が喜ぶことがそのまま自分の喜びになる人たちです。逆に、相手の反応がないと強いストレスを感じます。

たとえば仕事で成果を上げたとき、上司から「あの仕事、よかったね」と褒められても、受容タイプにはあまり手応えがありません。「自分が評価された」という事実だけでは、「相手の喜び」がみえてこないからです。

一方で、「あの仕事、本当に助かったよ。ありがとう」と言ってもらえると、「上司が喜んでくれている」「自分は貢献できた」と、初めて手応えを感じます。受容タイプは、自分の喜びを自分の内側ではなく、相手の反応のなかに見出しているのです。

石川善樹さんのインタビューポートレート(屋外のベンチにて)

受容タイプとのコミュニケーションでは、どのようなすれ違いが起きやすいのでしょうか。

石川さん

たとえば、受容タイプの部下にWill(意志・やりたいこと)を尋ねると、言葉に詰まってしまうケースがあります。これは、受容タイプの「自分」には、最初から他者が含まれているからです。

自分ひとりを完結したものとして捉える人は、内側から「これをしたい」「あれをすべきだ」という意志が明確です。一方、受容タイプは、周囲との関係性のなかで自分の動き方が決まっていく──それが彼らにとっての自然な姿です。

そのため、受容タイプにWillを問うと、返ってくる答えは「貢献したいです」というシンプルな一言になりがちです。自分ひとりを完結したものとして捉える人がWillを尋ねる側だった場合、「それは自分の意志ではない、本当は何がしたいんだ」と詰め寄ってしまう。Will面談ですれ違いが起こる、典型的なパターンといえます。

受容と保全が合わさったタイプが、力を発揮できる条件はどこにあるのでしょうか。

石川さん

受容タイプの人たちが安心して動けるのは、「明確な期待」と「明確なやり方」の両方が示されたときです。どちらか一方では足りません。「こう進めればよい」という道筋が用意され、それを周囲から期待される──この前提が整って、彼らは自分の力を発揮できます。

逆に、期待もやり方も曖昧なまま「自由にやっていいよ」と言われると、「自分は何をしていいかわからない」と立ち往生してしまいます。これは本人のやる気や能力の問題ではなく、ストレス特性の問題です。日本の職場で起きるすれ違いの多くは、この構造に根差しているといえます。

ストレス特性を知ることが、職場の対話を変える第一歩

第1回目では、ストレス「度」と「特性」の違い、遺伝の影響が大きい保全と拡散の2タイプ、そして日本人のおよそ6割を占める受容+保全タイプの本音をみてきました。

自分や他者のストレス特性を知ることが、職場の対話を変える第一歩になります。2つのタイプを相互理解の「ヒント」として捉え、接し方を工夫する手がかりにすることで、職場のコミュニケーションは自然と噛み合うようになります。

次回は、ここで取り上げた「保全」「拡散」「受容」というストレス特性を、チームのwell-beingとして実務にどう組み込むかを、石川さんに伺います。

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