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「日本人は不幸」は本当か。well-being経営が本格化する2030年への準備

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2026年3月に発表された「World Happiness Report 2026」で、日本の幸福度は147カ国中61位(スコア6.13)となり、2023年発表の47位をピークに3年連続で順位を下げています。「日本人は不幸になっているのではないか」そんな声も聞かれます。

しかし、well-beingを研究する予防医学研究者・石川善樹さんは「横ばいの日本に対して、他国が伸びているだけ」とみています。

一方で、SDGsの次のグローバル・アジェンダとしてwell-beingが注目され、2030年以降は企業の説明責任として「サステナビリティ」に加え「well-being」の観点も求められていく可能性があります。幸福度が悪化していないとはいえ、横ばいに甘んじてはいられません。

連載最終回となる今回は、幸福度ランキングの読み解きから、2030年に向けて人事・労務がもっておきたい視点まで、石川さんに聞きました。

石川善樹さん

予防医学研究者 公益財団法人 Well-being for Planet Earth 代表理事

1981年、広島県生まれ。東京大学医学部健康科学科卒業、ハーバード大学公衆衛生大学院修了後、自治医科大学で博士(医学)取得。公益財団法人Wellbeing for Planet Earth代表理事。「人がよく生きる(Good Life)とは何か」をテーマとして、企業や大学と学際的研究を行う。専門分野は、予防医学、行動科学、計算創造学、概念進化論など。近著は、フルライフ(NewsPicks Publishing)、考え続ける力(ちくま新書)など。

幸福度ランキング日本61位の真相

2026年の幸福度ランキングで、日本は147か国中61位まで後退しました。日本人は本当に不幸になっているのでしょうか?

石川さん

結論からいえば、日本人のwell-being度は、この20年弱ずっと横ばいです。2013年から2025年までの日本のスコアは6.0前後を行き来しており、最低でも5.89、最高で6.18という狭いレンジに収まっています。日本人が不幸になっているわけではないです。ではなぜ順位が下がるのか。答えは単純で、他国が大きく伸びているからです。

2018年から2025年における日本の幸福度のスコアの推移を示す棒グラフ(2023年の6.18をピークに高水準で推移)

(出典)Japan: Happiness index - TheGlobalEconomy.com

そもそも、幸福度はどう測られているのでしょうか?

石川さん

「10が最高の人生、0が最悪の人生だとすると、あなたはいまどこにいますか」とたずねる、いわゆる「人生のはしご」の問いです。あくまで、自分の生活を自己評価してもらっています。

幸福度ランキングそのものは「はしご」の1問で決まりますが、スコアの背景を分析するために以下の6つの要因が分析に用いられます。

  1. 人生の自由:自分の人生を自分で選択できているか(自己決定)
  2. 社会的な支え:困った時に助けてくれる人がいるか
  3. 1人当たりGDP:経済的な豊かさ
  4. 寛容さ:他者への思いやりや寄付の精神があるか
  5. 腐敗の少なさ:ビジネスや政治において不正が少ないと感じるか
  6. 健康寿命:心身ともに健康でいられる期間

(参考)World Happiness Report 2026 Japan Edition - ウェルビーイング学会 World Happiness Report Japan Edition 製作委員会

世界幸福度ランキングにおいて、日本がとくに足を引っ張ってしまっている要素は何なのでしょうか?

石川さん

この要因のなかで、日本のウェルビーイングに最も大きな影響を与えるのは、「人生の自由度(選択肢と自己決定)」で、それとほぼ同等のインパクトをもつのが、人と人との「つながり」です。

フィンランドなど上位国と比べると、日本は「人生選択の自由度」「寛容さ」の項目で差が大きいとされてきました。これらは先述した「つながり」と密接に関係しています。「自由に選べる」「お互いに寛容である」という関係性の土壌が薄いところでは、つながりの実感が育ちにくい傾向にあります。

※最新の報告書については、内訳の解釈に専門家のあいだでも見解が分かれています。最終的な評価にあたっては、原典の確認を推奨します。

「つながり」が企業のwell-beingを左右する

幸福度を左右する「人生選択の自由度」や「他人への寛容度」という弱点は、人事・労務の現場ではどのように捉え直せばよいでしょうか?

石川さん

従業員の「つながり」を職場のなかでどう設計するかは、企業のwell-beingを左右する打ち手になります。人事・労務視点で捉えると、「従業員にどれだけ選択肢と裁量を渡せているか」、そして「多様な働き方や違いを職場が許容できているか」という問いになります。日本の弱点と、職場で取り組める打ち手は、同じ地平にあります。

石川善樹さんのインタビューポートレート(屋外のベンチにて)

年代や性別でみると、well-beingに差はあるのでしょうか?

石川さん

世代別にみると、well-beingはU字カーブを描くのが世界的な傾向です。20代から徐々に下がり、40代〜50代で底を打ち、そこから再び上昇していきます。

ところが日本の男性のU字においては「右肩上がりにならない」ことが特徴的です。中年期で下がったあと、シニア期に入ってもなかなか回復しない。なぜか。私の見立てでは、シニア男性は「居場所の数」が少ないからです。

働いていれば、職場という枠のなかでさまざまな世代と接点をもてます。ところが退職すると、その多様なつながりが一気に痩せていく。家庭、地域、趣味など退職後に複数の居場所をもてている男性は、それほど多くありません。

一方で、20代の幸福度が比較的高い水準で推移しているのは、学生時代から続く豊かな関係性が背景にあると考えられます。仕事に専念していくほど、関係性が職場と家族に絞り込まれていき、well-beingは「居場所の減少」とともに下がっていく。この単純な構造が、年代別・男女別の差を生み出しています。

人事・労務の視点でみれば、シニア従業員のキャリア設計や定年後のつながり支援は、well-being経営の核心にあるテーマだとわかります。

SDGsの次は「well-being」、2030年の本格始動に向けて

企業のwell-beingへの関心は、いまどのフェーズにあるのでしょうか?

石川さん

well-beingの取り組みは、海外が日本に先行するかたちで進んできました。日本でも近年、その重要性が認識され、各社で取り組みが徐々に立ち上がってきています。

注目すべきは、これまでのサステナビリティの追求に加える形で、well-beingが「グローバル・アジェンダ」として議論されている点です。SDGsは2030年にゴールを迎えますが、2024年9月の国連「未来サミット」で採択された『Pact for the Future(未来のための協定)』では、「GDPを超えて、人類と地球のwell-beingと持続可能性を捉える、人類の進歩の測り方を改善する」というコミットメントが盛り込まれました。

日本は、国際的な枠組みができあがり、それに沿って取り組みを実装していくフェーズで強みを発揮してきました。一方で、先行事例をつくる側に回るのは、あまり得意ではありません。日本企業がwell-beingを本格化させるのは、おそらく2030年以降です。現在の2020年代は、準備期間だと捉えています。

(参考)Pact for the Future - United Nations

PLを「well-beingへの貢献額」として読み替える

well-beingを意識したミッションやビジョンを掲げることは、これからの企業に必要になっていくのでしょうか?

石川さん

2030年以降、企業の説明責任は「サステナビリティ」から「well-being」へと軸足を移していくと考えています。

そもそも企業がミッションや方針を掲げる目的は、「説明責任(Accounting)」です。短期目線に流れがちな事業活動を、中長期の観点で社会にどう説明するか。これが企業の根本にあります。

いまの時代の主流は「Accounting for Sustainability」です。サステナビリティ実現の担い手として人材が重視され、従業員エンゲージメントやwell-beingが経営アジェンダとして注目されてきました。

2030年以降は、「Accounting for Sustainable Well-being」へと発展していくと考えています。つまり「サステナビリティに加え、誰のどのようなwell-beingに貢献しているか」を説明する責任が企業に問われる時代です。SmartHRさんが掲げる「well-working(誰もがその人らしく働ける社会をつくる)」も、まさにこの流れに重なる思想だといえます。

石川善樹さんのインタビューポートレート(屋外のベンチにて)

Accounting for Sustainable Well-beingという考え方を、どのように実務に落とし込むとよいでしょうか?

石川さん

いちばんわかりやすいのは、PL(損益計算書)をwell-beingの観点で捉えることです。具体的には、次のようにPLの各項目を「誰かのwell-beingへの貢献額」として読み替えていきます。

  • 売上:顧客のwell-being
  • 原価:仕入先のwell-being
  • 人件費:従業員のwell-being
  • 法人税:社会のwell-being
  • 純利益:株主のwell-being

たとえば売上は、商品やサービスを通じて顧客の生活がよくなった結果として戻ってくる金額です。原価は、サプライチェーンを構成する人々の生活と仕事を支える金額。人件費は、従業員の生活と仕事を支える原資。PLの一行一行が、「誰かのwell-beingへの貢献額」として読めるようになるわけです。

このフレームは、働く一人ひとりにとってどんな意味をもつのでしょうか?

石川さん

会社全体のPLでは規模が大きすぎてピンとこなくても、自分の給料の規模に縮尺して、well-beingの観点を取り入れると、「自分がここで働くことで、誰のwell-beingに、いくら貢献しているのか」という見え方になります。仕事の手応えが、違ってくるはずです。

サステナビリティの観点が入ったことで、事業のみならず企業のあらゆる見え方が変わりました。同じように、well-beingの観点が入った瞬間、会計上の数字も違って見えてきます。こうしたAccounting for Sustainable Well-beingの動きは、これから確実に強まっていくと思います。

「個人→チーム→社会」へ。well-beingの単位を広げていく

ここまで全3回にわたり、日本人のストレス特性、チームのwell-beingのマネジメント、そして2030年に向けたwell-being経営の展望をみてきました。

日本人のwell-beingは20年間ほぼ横ばいですが、大きく悪化していないからこそ、次の一手で動かせる余地が残っています。2030年に本格化する「Accounting for Sustainable Well-being」の波が来たとき、PLを語れる人事・労務が、社内のwell-being経営をリードしていくはずです。

お役立ち資料

ウェルビーイング経営を推進するためにまず必要なこととは?

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