シニアの不活性化が繰り返される構造。行く末は40代までに決まる?
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目次
「働かないシニア問題の原因は、"シニアになる前"にある」
パーソル総合研究所の小林祐児さんは、そう指摘します。
シニア人材の活躍が思うように進まないのは、根本的な原因を捉えられていないからかもしれません。「本人のやる気」の問題として片づけず、「日本特有の雇用の仕組み」と「職場に根付く年齢主義(エイジズム)」がどう作用しているのか。企業が目を向けるべき「不活性化を生む構造」を、小林さんとの対話を通じて解き明かします。

パーソル総合研究所 主席研究員 執行役員 シンクタンク本部長
パーソル総合研究所 主席研究員 執行役員 シンクタンク本部長 上智大学大学院 総合人間科学研究科 社会学専攻 博士前期課程 修了。NHK 放送文化研究所に勤務後、総合マーケティングリサーチファームを経て、2015年よりパーソル総合研究所。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行う。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。著作に『職場の対話はなぜすれ違うのか』(光文社)、『罰ゲーム化する管理職』(集英社インターナショナル)、『リスキリングは経営課題』(光文社)、『学びをやめない生き方入門』(テオリア)、『ミドル・シニアの脱年功マネジメント』(労務行政)など多数。
多くの企業で顕在化する、シニア不活性化問題
働くシニアの数は、近年増加を続けています。総務省「統計からみた我が国の高齢者」によると、65歳以上の就業者数は2024年に930万人と、21年連続で過去最多を更新しています。
働くシニアの増加に伴い、マネジメントを課題と捉える企業も少なくありません。パーソル総合研究所が2020年に実施した「企業のシニア人材マネジメントに関する実態調査」によると、シニア人材について「今後5年以内に課題になる」と回答した企業は75.8%にのぼりました。

課題の内容をみると、もっとも多くの企業が挙げたのは「シニア社員本人の働くモチベーションの低さ」で、「すでに課題になっている」「1〜5年後に課題になってくる」と答えた企業は73.2%です。また「現場のマネジメントの困難さ」を挙げる企業も71.7%を超え、シニアの意欲低下とマネジメントの難しさに、多くの企業が悩んでいることがうかがえます。

調査から6年。当時「今後5年以内に課題になる」とされていた状況は、いまや現実のものになっていると考えられます。ここで立ち止まりたいのは、こうした「シニアの意欲低下」を生み出す構造そのものを、企業側がつくっていないか、という点です。
役職定年で半数が意欲ダウン
シニアの意欲低下は、なぜ起きるのでしょうか。1つのきっかけとして浮かび上がるのが、役職定年(ポストオフ)です。
リクルートマネジメントソリューションズが2021年に実施した「ポストオフ経験に関する意識調査」では、部長・課長職のポストオフ直後に、意欲・やる気が「下がった」と答えた人が5割近くにのぼりました。さらに現在も継続して「下がったまま」の人も4割前後と約半数を占めます。

役職定年を境に、なぜ意欲が下がるのでしょうか。本人を取り巻く環境に目を向けると、少なくとも2つの変化が見えてきます。
(1)周囲からの期待が下がる
役職定年を迎えると、周囲からの期待が下がったと感じる人は少なくありません。リクルートマネジメントソリューションズの調査では、ポストオフ後の50〜64歳のうち、56.1%が「周囲からの期待が下がった」と回答しました。

(2)成果と関係なく処遇が下がる
60代以上社員の処遇を特定の年齢で見直す企業は84.1%にのぼり、60歳の処遇を見直す企業のうちの約9割が年収が下がっています。個人の業績や成果ではなく、年齢を区切りに処遇が一律で変わる仕組みが、多くの企業で採用されている実態がうかがえます。

期待されず、年齢で一律に処遇が下がる。こうした環境では、意欲を保つことが難しくなるのも、無理はありません。
パーソル総合研究所の小林祐児さんの話を聞き進めるうちにみえてきたのは、「日本型雇用システム」と「年齢主義」が作り出した、根深い構造的課題でした。ここからは、この構造を解きほぐしていきます。
シニアの不活性化は繰り返されている
SmartHR Mag.編集部では、シニア社員が意欲を失う要因を、役職定年による「期待の減少」「年齢による処遇の一律変更」にあるのではないかと考えました。この仮説についてどう思われますか?
小林さん
たしかに、それらはどれも直接的な要因です。企業視点でみると、もう少し手前にも要因があります。それは「貢献と処遇のアンバランス」です。
年功で賃金が積み上がる日本の雇用慣行のもとでは、賃金は年齢とともに上がり続けて高止まりします。長年積み上げられた賃金を、貢献に見合うところまで引き下げるには相応の幅が必要なケースもあります。それを一人ひとりに当てはめていくのは簡単ではないでしょう。
そこで必要になるのが、年齢という一律の基準で処遇を下げる"リセットボタン"。それが「役職定年」と「定年後再雇用」にほかなりません。これらの制度により、企業側からみれば貢献と処遇バランスが改善されるわけです。
ただし、仮説のとおり、その分、本人の意欲はさらに下がっていきます。「意欲を失ったシニア」を目の前にして、企業はどうにかして活性化させようと躍起になります。しかし、それは症状にだけ手を当てる対処であって、解決には近づきません。
対症療法では解決に近づかない、と。症状ではなく、これらの要因を生み出している"根"を断つには、何が必要なのでしょうか。
小林さん
意欲低下の問題の根は、目の前のシニア社員ではなく、その姿を生み出している構造の側にあります。
シニア社員の意欲低下は50代、60代になった瞬間に突然起きるわけではありません。問題はシニア社員になる前の20〜40代で何が起きているかであって、シニア本人の問題ではないのです。
原因が個人ではなく、誰もが通る20〜40代の過程にあるのなら、その過程が変わらないかぎり、次のシニア社員も同じ道をたどります。現在のシニア社員はもちろん、未来のシニア社員の不活性問題を解決したいのなら、この構造への理解が不可欠です。

パーソル総合研究所 主席研究員 執行役員 シンクタンク本部長 小林祐児さん
「社内出世」という単一エンジン、50代でガソリンが切れる
シニアになる前の20〜40代で、何が起きているのでしょうか。
小林さん
「不活性化を生む構造」の中核にあるのが、日本型雇用システムの特殊性です。私は「平等主義的競争主義」と呼んでいます。
わかりやすくいうと、「総合職全員が幹部候補」という前提のもと、「社内出世」という単一のモチベーションで、同期という狭い範囲で横並びの競争をさせる仕組みを指しています。いま不活性化しているシニアたちが20〜40代だったころの主流の働き方であり、この仕組みのなかでキャリアの大半を過ごしてきました。

資料「日本企業のシニア活性化のために(パーソル総合研究所 主席研究員 小林祐児)」より
つまり、「社内出世」という単一エンジンのまま、役職定年を迎えると……?
小林さん
50代の役職定年で、ガソリン供給が断ち切られます。
つまり、シニアが意欲を失う現象は、エンジンの種類が少なさが根本的な原因の1つです。専門性や市場価値といった"別のエンジン"を育てる機会がないままキャリアを重ねてきた人たちが、役職定年を境に立ち往生してしまうのは、無理もないことです。
30年「Will」を問わずに育てた末に、「Will」を求める矛盾
"別のエンジン"について伺いたいです。なぜ、専門性や市場価値といったエンジンが育たないのでしょうか。
小林さん
日本型雇用システムは、「Will」を自分で決めなくても、キャリアを全うできる仕組みだったからです。先ほどお話しした「全員を幹部候補」として扱う仕組みは、ジョブローテーションのあり方にもそのまま表れます。諸外国にもジョブローテーションはありますが、対象は幹部候補のエリートに限られます。一方の日本は、将来幹部になる可能性が低い人も含めて、広範なローテーションをかけ続けてきました。
そうなると、個人が計画的にキャリアを設計しづらくなります。たとえば、いつ経理部から異動になるかわからない環境で、経理のスペシャリストを目指す動機は湧きづらいですよね。
「学ぶべきことは異動してから現場で覚えればいい」それが合理的な判断で、日本の職場外学習が少ないのも、社会人大学院生が増えないのも、個人の怠慢ではなくこの構造の現れです。
個人の専門性よりも、「置かれた場所(配属先)で適応すること」が求められてきたわけですね。
小林さん
そのとおりです。そして、そうした環境で30年間走ってきたシニア社員に対して、「あなたのやりたいこと(Will)は何ですか?」「これからはキャリア自律してください」と自主性を求める動きが近年は強まっているように感じます。
しかし「やりたいこと」がないまま、キャリアを全うしてきたシニア社員は、急に「Willは何か」と問われても、なかなか答えられません。すると、それが「本人のやる気がない」「自律心がない」という個人の心理の問題にすり替えられてしまいます。企業に悪意はないのですが、結果として非常に残酷なことが起きています。
「Will」を起点としたアプローチは、一部の優秀な層には響くかもしれませんが、大半のシニア社員を疲弊させるだけです。

そもそも、こうした日本特有の仕組みが長く続いてきた理由は何でしょうか。
小林さん
前提として、日本型雇用システムはよくできた仕組みです。
「社内出世」という単一のエンジンで多くの社員が会社に留まり頑張ってくれる。ジョブローテーションを通じて柔軟な人員配置が可能になる。これにより、長く日本企業の生産性と安定性が支えられてきました。
社員側にとっても、学歴など関係なく全員に出世の機会があり、雇用が安定して失業率も低い。現役時代の安定した収入に年金が接続することで、長期の生活設計を見通せる安心感もあります。
どれだけよくできた仕組みにも、副作用は生まれます。シニアの不活性化問題は、その副作用の一つだと捉えてもらいたいです。
「頑張りすぎない」が合理的になる、年齢主義の壁
日本の雇用システムによる再生産の構造はよくわかりました。
小林さん
実は構造的な要因がもう1つあります。それは「年齢主義(エイジズム)」です。
そもそも日本型雇用システム自体が、年齢主義そのものだといえます。22〜23歳の新卒一括採用から始まり、50代の役職定年、60〜65歳の定年と、入口も出口も「年齢」で決まっている仕組みです。
ここで重要なのは、「年功序列」と「年齢主義(エイジズム)」は別物ということです。「年功序列」は、賃金カーブを緩やかにする、ジョブ型の導入など制度改定で是正自体は可能です。しかし、年上を気遣い、指摘しづらいという「年齢主義」は、文化や心の問題であり、制度を変えても解決できません。
年齢主義が、多くの企業で課題となっている「現場のマネジメントの困難さ」につながるのですね。
小林さん
そうです。もっとも顕著に現れるのが、目標管理(MBO)の運用です。年下の管理職が、年上のシニア部下に対して厳しい評価をつけられないケースです。
たとえば「最近パフォーマンスが落ちていますね」と、年上の部下に伝えられる管理職は少ないのではないでしょうか。結果、年下管理職は角が立つことを恐れて、「10段階中5(現状維持)」の評価をつけてしまうのです。
能力が落ちたとしても、上司は気を使い、評価も下がらない。シニア社員からすれば、頑張らなくても、給料はもらえるし、誰からも怒られない状態で、頑張りすぎないことが、合理的な生存戦略になってしまいます。経営層からみても、評価上は問題がみえにくくなり、課題そのものが現場に滞留し続けます。

不活性化が繰り返される構造を変えるにも時間がかかり、年齢主義や個人の心はコントロールしづらい。八方ふさがりにもみえますが、企業に打てる手はあるのでしょうか。
小林さん
打てる手はあります。個人の意欲を引き出そうとするアプローチをやめてみる。発想を切り替えるのです。
人の心は、研修やキャリア面談で動くものではありません。年齢主義の文化も、制度改定では消せません。コントロールできないものを変えようとしても、現場は疲弊するだけです。
個人の意欲でも制度でもなく、「シニア社員の環境」に目を向けることが、突破口となると考えています。
今回は、シニア施策が空振りする原因が「個人の怠慢」ではなく、30年間の日本型雇用システムが招いた「不活性化が繰り返される構造」と「強く根付いた年齢主義」にあることを小林さんは語ってくれました。構造と規範が見えてくると、次に問うべきは「心を動かす方法」ではなく、「企業が設計し直せる環境」です。
次回は、個人のモチベーションに頼らず、シニア社員を再び戦力にするための具体的な処方箋に迫ります。

(執筆/周藤瞳美、写真/曳野若菜)

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