ビロンギングとは?DEIBの概念や効果、高める方法を解説
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この記事でわかること
- ビロンギングやDEIBの概念、重要性
- ビロンギングとエンゲージメントの関係
- ビロンギングを醸成するためのアイデア
- ビロンギングの向上に取り組む事例
目次
ビロンギングは、D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)の発展形である「DEIB」を構成する概念です。ビロンギングの理解・推進によって、従業員の帰属意識やエンゲージメントの向上、組織の生産性向上が期待できます。
本稿では、ビロンギングの向上が組織にもたらす効果や高める方法に加え、DEIBの概念についても詳しく解説します。
ビロンギング(Belonging)とは所属や帰属意識、一体感を指す言葉
ビジネスにおいては、「D&I(ダイバーシティ&インクルージョン)」の発展形である「DEIB(ダイバーシティ・エクイティ・インクルージョン&ビロンギング)」を構成する概念。定義はさまざまありますが、一般的には従業員一人ひとりが「自分の居場所はここにある」と感じられている状態を指します。
ハーバード大学の人事部門であるHarvard Human Resourcesは、DEI用語集にて「誰もがコミュニティの一員として扱われ、その一員である、成長できると感じられること」と定義しています。
(参考)Glossary of Diversity, Inclusion and Belonging (DIB) Terms - Harvard Human Resources
ビロンギングとエンゲージメントの違い
「ビロンギング」と近しい概念に「エンゲージメント」があります。
エンゲージメントとは、「契約」や「約束」などの意味をもつ言葉。ビジネスにおいては従業員と企業の「信頼関係」を意味する言葉です。
一方のビロンギングは、従業員の組織に対する「自分の居場所はここにある」という実感や「組織の一員である」という自覚、愛着など個人的な感情や感覚も含む概念です。
ビロンギングとエンゲージメントの意味は異なりますが、両者の相関関係も指摘されています。マイクロソフトの従業員エンゲージメント調査ツール『Viva Glint』の調査では「強いBelongingの意識をもつ従業員は、6倍以上エンゲージメントが高い」という結果が出ています。
「エンゲージメント」については、以下の記事でより詳しく解説しています。
DEIBとは
「DEIB」とは、「Diversity(多様性)」「Equity(公平性)」「Inclusion(包括性)」「Belonging(帰属性)」で構成されます。以下では各概念を説明します。
ダイバーシティ(Diversity)とは
ダイバーシティ(Diversity)は、「多様性」を意味します。国籍や性別、年齢、文化、価値観、働き方、経験など、さまざまな差異をもつ多様な人々が存在している状態を指します。
インクルージョン(Inclusion)とは
インクルージョン(Inclusion)とは、直訳で「包含」「包括」などを意味します。ビジネスにおいては、異なる属性をもつ従業員全員が尊重され、能力を認め合い、発揮するための取り組みを指します。
ダイバーシティは多様な人材が存在する状態を指すのに対し、インクルージョンはそうした多様な人々が包含され、活躍できている状態を指します。
多様な人材が活躍する組織を実現するにはダイバーシティとインクルージョンの両方が重要です。両者をまとめて「D&I」とも呼びます。
エクイティ(Equity)とは
エクイティ(Equity)とは、直訳で「公平性」「公正性」などを意味する言葉です。ビジネスにおいては、従業員一人ひとりのパフォーマンス発揮を妨げる不公平や障壁の解消、すべての人に対する公平な待遇の実現や、そのための取り組みを指します。
D&Iの考え方にEquityを加えたものは、「DEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)」として取り組まれています。
「エクイティ(Equity)」と「イクオリティ(Equality)」の違い
「エクイティ(Equity)」を理解するうえで重要なのが「イクオリティ(Equality)」です。
イクオリティ(Equality)は「平等」や「均等」を意味します。一人ひとりの差異や違いは考慮せず、同じリソースや支援を提供する考え方や取り組みです。
一方で「エクイティ(Equity)」は、違いによる障壁や構造的な不公平を前提に、一人ひとりに合わせた支援や機会を提供する考え方や取り組みです。
D&Iの考え方にEquityを加えたものは、「DEI(ダイバーシティ・エクイティ&インクルージョン)」として取り組まれています。
(参考)Glossary of Diversity, Inclusion and Belonging (DIB) Terms - Harvard Human Resources
D&IからDEI、DEIBへの変化
多様な人材が能力を発揮し、活躍できる状態を目指して「D&I」を掲げる企業は増えています。
近年では、D&Iに続いて「エクイティ(Equity)」を加えたDE&Iを提唱する企業も少なくありません。背景には多様な人材が集まった“状態”では不十分であり、構造的な不均衡やアンコンシャスバイアスの是正が不可欠という考えがあります。
さらにDE&Iの進化系として、ビロンギング(帰属意識)を加えた「DEIB」を推進する企業も欧米を中心に出てきました。多様な人材の活躍には、「自分の居場所はここにある」という実感や「組織の一員である」という自覚が必要という認識が土台になっています。
国内では株式会社ユーザベースがDEIBを掲げています。詳しい取り組みは後述します。
ビロンギングが注目される背景
D&IやDE&Iの取り組みの進化
多様な人材の活躍できる組織には、属性がさまざまな人材を採用するだけでは十分ではありません。一人ひとりが「この組織に属している、一員である」と感じられることが大切です。こうした認識の広がりとともに、ビロンギングに取り組む企業が増えつつあります。
働き方の変化による帰属意識の重要性
近年、働き方が多様化し、従業員全員が1か所のオフィスで仕事をするといった光景は当たり前ではなくなりつつあります。
多様な個が働き方を自由に選び、活躍すると、組織の一体感は下がりがちです。個が自由に働きつつも、一員であると感じられる環境づくりは、多くの企業にとって課題です。
たとえばベネッセホールディングスの後藤礼子さんは、「自律的に働きながらも一人ひとりが組織における存在価値を感じられること、『ここが居場所だ』と認識できる場が重要」と話されています。
ビロンギング向上が組織にもたらす効果
(1)従業員エンゲージメントの向上
ビロンギングの向上は、従業員エンゲージメントにもよい影響を与えるという調査もあります。マイクロソフトの従業員エンゲージメント調査ツール『Viva Glint』の調査では「強いBelongingの意識をもつ従業員は、6倍以上エンゲージメントが高い」という結果が出ています。
(2)従業員の生産性が高まる
「ハーバード・ビジネス・レビュー」の記事では、従業員の高い帰属意識は、仕事のパフォーマンスを56%向上させると指摘されています。
また、離職リスクが50%低下、病欠日数も75%減少するほか、自社をほかの人に勧める意欲が167%も増加するというデータも確認されています。
(参考)The Value of Belonging at Work - ハーバード・ビジネス・レビュー
(3)人材の離職率が低下する
ビロンギングの高い従業員は、組織やコミュニティでの受け入れられている実感や安心感を得られ、仕事に愛着を感じながら働けます。その結果、離職率が低下し、優れた人材の確保も期待できるでしょう。
(4)サービスの質向上、顧客満足度向上
ビロンギングが高まり、従業員が仕事や会社、職場の人間関係にポジティブな感情を抱くようになれば、従業員の満足度向上も期待できます。
ハーバード・ビジネス・スクールのジェームズ・L・ハスケットらの提唱した「サービス・プロフィット・チェーン」。本モデルでは以下のように従業員満足度と顧客満足度、経済効果の関連を示しています。
- 従業員が仕事や会社、職場の人間関係にポジティブな感情を抱いていれば、従業員の満足度が向上する
- 満足度が向上すれば、会社への忠誠心が高まる
- 忠誠心が高まることで従業員の生産性が向上する
- 生産性が高まることで、商品やサービスが顧客にもたらす価値が高まる
- 価値が高まることで、顧客の満足度が最大化する
(出典)Putting the Service-Profit Chain to Work - James L. Heskett
従業員のビロンギングを高める4つのアイデア
前提として、DEIBの推進には採用や人事評価など、包括的な取り組みが必要です。以下では4 つのアイデアを紹介します
(1)社内コミュニケーションの促進
社内コミュニケーションの促進は、ビロンギングを高める有効な手段です。
業務以外の交流を促すシャッフルランチや社内部活などを通して、社員同士が関係を構築できれば、組織やコミュニティに属している感覚を得やすくなるでしょう。
(2)ビジョンやパーパスの浸透
企業のビジョンやパーパスが明確に共有されていれば、従業員は日々の業務に意味や意義を見出しやすくなります。自分が組織に貢献できていると感じると、組織への愛着も抱きやすくなるでしょう。
また従業員同士でビジョンやパーパスについて語り合うことで、従業員間の連帯感も高まることも期待できます。
(3)ダイバーシティやインクルージョン、エクイティを学ぶ
ビロンギングを高めるには、国籍や性別、年齢、文化、価値観、働き方、経験による不均衡や障壁を取り除く必要があります。
物理的な障壁だけではなく、無意識の偏見や思い込みについても気づき、解消していかなければなりません。経営層や人事部主導の研修や学習機会の提供は、ビロンギングの土台になるでしょう。
(4)役職別の取り組み
ハーバード・ビジネス・レビューでは「組織」「上級リーダー」「マネジャー」「一般従業員」に分け、取るべき行動を提案しています。
組織:ロールモデルの提供
組織に必要なのはロールモデルの提供です。自身と同じ考えや価値観をもつリーダーの存在は、従業員のビロンギングにつながります。
上級リーダー:インクルージョンを重んじる
上級リーダーは、多様性のあるメンバーが能力を発揮できているチームを構築し、社内に模範を示す必要があります。また、多様な従業員の声を聞き、強みを活かす「インクルーシブ・リーダーシップ」も欠かせません。
マネージャー:部下の意見に対応し、評価し、能力を引き出す
マネージャーは、部下の仕事への称賛や必要に応じたフィードバックによって、能力を引き出す役割を担います。適切な評価や支援は、部下のビロンギングにおいて極めて重要です。
一般従業員:同僚に敬意を払い、支援し、フィードバックを行なう
一般の従業員は、仕事に関係のない約束を同僚が守るときや、フィードバックを受けた際に帰属意識が高まると言われています。同僚への敬意や支援、フィードバックが大切です。
(参考)ハーバード・ビジネス・レビュー「従業員の帰属意識が高い職場をどうすればつくれるか」
ビロンギングの向上に取り組む事例
ユーザベース
株式会社ユーザベースでは2023年度から「DEIB」を掲げ、有志による「D&I Committee」中心となり、取り組みを推進しています。
同社におけるBelongingは「一人ひとりが“自分の居場所がここにある”と感じられている状態」です。パーパスの実現には、一人ひとりが最高のパフォーマンスを発揮できるカルチャーが重要であり、そのためにビロンギングが欠かせないと定義しています。
タウンホールミーティング(経営陣と全社員の対話型のミーティング)の実施や、リーダー向けのトレーニングやオンボーディングの改善などに取り組まれています。
なかでもタウンホールミーティングでは、「自分がマイノリティだったとき、ユーザベースでBelongingを感じた経験がある人」を社内で募集。経営陣に近いメンバーが弱さを共有したことで、従業員の多くが「私たちもそれでいいんだ」「人と違う部分があっても、受け入れてもらえるんだ」と、より実感できたそうです。
スープストックトーキョー
株式会社スープストックトーキョーでは、かつて従業員の働きがいの低さや帰属意識の低さが課題となっていました。
そこで従業員主体の成果発表会やパートナー向けの卒業式を開催。ほかにもエリア会や店舗の交流会、社内報などでコミュニケーションを活性化させました。
その結果、帰属意識が向上し、パートナー(アルバイト)の退職者数も減少しました。スープストックトーキョーの事例は以下の記事で詳しく紹介しています。
ビロンギングの向上を通して、多様な個の活躍する組織へ
D&IからDEI、DEIBなど、新たな概念が登場していますが、大切なのは多様な従業員が力を発揮できる組織づくり。
従業員の働きやすさやエンゲージメント向上、離職率の低下、ひいては企業のパーパス実現に向けて、ビロンギング向上を検討してみてください。
Q1. ビロンギングとは?
「ビロンギング(Belonging)」とは、所属や帰属意識、一体感を指す言葉です。ビジネスにおいては、「DEIB」を構成する概念であり、具体的には、従業員一人ひとりが「自分の居場所はここにある」と感じられている状態を指します。
Q2. DEIBとは?
「DEIB」とは、「Diversity」「Equity」「Inclusion」「Belonging」の略です。多様な属性や違いをもつ社員が認め合い、障壁が取り除かれ、組織の一員であると感じ、活躍できている状態を指します。
Q3. ビロンギングの向上が企業にもたらす効果とは?
ビロンギングの向上により、以下の効果が企業にもたらされます。
- 従業員エンゲージメントの向上
- 従業員の生産性が高まる
- 人材の離職率が低下する
- サービスの質向上、顧客満足度向上
- 従業員エンゲージメントの向上