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追うべきは「効果」。AIで浮いた時間を生かす、役割と評価の再設計

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AIによる業務効率化が進むなか、多くの企業で「浮いた時間をどう使うのか」「人が介在する価値をどう高めるのか」という新たな問いが浮かび上がっています。

その浮いた時間を、組織の成果にどうつなげるのか。そのとき人事には何が求められるのか。人材マネジメントと組織開発の専門家である坪谷邦生さんに、AI時代の評価と組織のあり方、これからの人事のあり方を伺いました。

坪谷 邦生 さん

株式会社壺中天 代表取締役

坪谷 邦生(つぼたに・くにお)さん 株式会社壺中天 代表取締役。1999年、立命館大学理工学部を卒業後、エンジニアとしてIT企業(SIer)に就職。2001年、疲弊した現場をどうにかするため人事部門へ異動し、人事担当者、人事マネジャーを経験する。2008年、リクルートマネジメントソリューションズ社で人事コンサルタントとなり50社以上の人事制度を構築、組織開発を支援。2016年、アカツキ社で人事企画室を立ち上げる。2020年、「人事の意志をカタチにする」ことを目的として壺中天を設立。2021年、人事コミュニティ壺中人事塾を開塾。主な著作に『図解 人材マネジメント入門』(2020)、『図解 組織開発入門』(2022)、『図解 目標管理入門』(2023)、『図解 労務入門』(2024)、『図解 採用入門』(2025)、『図解 イノベーション入門』(2026)など。

効率化はプロセス。成果は「顧客に届いた価値」で判断する

坪谷さんは人事やマネジメントの相談を受けるなかで、AIをめぐる近年の企業の変化をどのように捉えていますか。

坪谷さん

前提にあるのは、労働市場における人手不足と採用難です。そこへ、この数年で「一部の業務はAIで代替できるのではないか」という見方が急速に広がってきました。採用で人手を増やすだけでなく、AI活用による業務効率化で採用を抑制する選択肢も含めて、各社が自社にとっての最適解を模索している段階だと感じます。

AIの使い方も活用の度合いも、企業によってさまざまなのですね。

坪谷さん

そうですね。どの企業も手探りで、企業ごとに見えているAIの姿も違う。いわば全体像をつかめずにいるような状態です。そうしたなかで、多くの企業で入り口になっているのが、やはり“効率化”の観点です。データ入力や問い合わせの一次対応など、定型化しやすい業務から、AIによる代替が進み始めているとみています。

実際、2026年2月に公表された調査では、業務での生成AI利用率は32.4%、利用したタスクの所要時間は平均16.7%削減されたと報告されています(下図)。

生成AIを活用したタスクの平均所要時間(分/週)

(出典)生成AIとはたらき方に関する実態調査(2025年10月実施・2026年2月公表)- パーソル総合研究所

ただ、効率化が進むことと、組織の成果が出ることは、必ずしもイコールではありません。AIの導入は済んでいても、現場での使われ方には大きな差があります。

同調査でも、削減できた時間の6割以上が再び仕事に充てられていました。ただし、その内訳は「日常の業務」(75.4%)や「調整・連絡の業務」が中心で、改良・再設計や探索といった、新たな価値や挑戦につながる業務への投下は相対的に低い水準にあります(下図)。労働時間そのものを減らせた人は、利用者の4人に1人ほどにとどまります。

生成AIで浮いた時間の過ごし方、どのような仕事に充てているのか

(出典)生成AIとはたらき方に関する実態調査(2025年10月実施・2026年2月公表)- パーソル総合研究所

データでも示されているように、浮いた時間の多くは「付加価値業務」ではなく「日常業務」に充てられています。新しい価値づくりには、なぜ向かいにくいのでしょうか。

坪谷さん

はい。ここで問われるのは、効率化の“先”です。いくら時間が浮いても、新しい役割や目的がなければ、手元にある別の仕事でその時間を埋めてしまいがちです。「浮いた時間で何を担うのか」まで設計しないと、成果にはつながりにくいでしょう。

効率化はあくまでプロセスであり、成果ではありません成果にはさまざまな定義がありますが、最終的には「顧客に届いた価値」で判断すべきだと考えています。

評価が変われば、人の生かし方も変わる

大手コンサルティングファームのPwCが2025年に実施した「第29回世界CEO意識調査」でも、AI導入の効果として「売上が増加した」「コストが減少した」と回答した日本のCEOは、いずれも2割程度にとどまっています。この結果をどうみていますか。

坪谷さん

経営層と話すと、共通する悩みがみえてきます。効率化は進んでいるのに、浮いた時間をどこへ振り向け、人をどう配置し直すか。そこまで設計できていないために、組織の成果につながりきっていない、というのです。

だからこそ大切なのは、まず、浮いた時間と人をどこへ振り向けるかを描くこと。そのうえで、どこをAIに任せ、どこに人が力を注ぐのかを切り分け、AIに任せた領域の外で、次の価値づくりへ進む流れを設計することです。

「浮いた時間の使い道」まで設計できている企業は、何が違うのでしょうか。

坪谷さん

あるスタートアップでは、AIで成果を高めた社員に、賞与などで報いる方針を掲げていました。

興味深いのは、報酬に反映して終わりではない点です。日々の業務記録をAIで整理し、評価やマネジメントを考える材料にする。管理職は浮いた時間を、「組織としてどんな行動や価値観を評価するのか」という「評価の軸」そのものを設計する仕事に、より多く振り向けていく計画だといいます。

ここで起きているのは、単なる業務の置き換えではありません。AIが日常業務を担うほど、人がいくつもの仕事を束ねて動くのが当たり前になります。すると、決められた作業をこなした量だけでは、一人ひとりの貢献を測りきれません。だからこそ、「何を評価するのか」を問い直す必要が出てきます。評価が変われば、人の生かし方も、組織の動かし方も変わっていくのです。

「管理」から「自律」へ 変化を動かす人に必要な力

では、組織の動かし方は具体的にどう変わっていくのでしょうか。

坪谷さん

定型業務が自動化され、リモートワークで場所や時間の制約もゆるむと、「人を集めて同じ作業を管理する」ことの価値は相対的に下がります。仕事の中心は、状況に応じた判断や新しい価値づくりといった非定型の領域へ移り、一人ひとりが現場で判断して動く力が重要になります。

管理によって動く組織から、共通の目的に向かって各自が自律的に動く組織へ。これは、経営学者のピーター・ドラッカーが提唱した「目標管理(Management by Objectives and Self-control)」という哲学にも通じます。

「管理で動く組織」から「自律で動く組織」へ

自律的な組織を動かし、変化を推進していく人には、どのような力が必要でしょうか。

坪谷さん

まず必要なのは、自分の判断基準=“持論”をもっていることです。AIを使えば、客観的なデータやエビデンスを用意することに時間はかからなくなるでしょう。だからこそ問われるのは、「その答えが、自分と自組織の目的や理念に照らして、主観的に正しいか」。全体を見渡す鳥の目と、現場を捉える虫の目。その両方を情報としてもったうえで、最後に主観で選び取る「人の目」が要ります。

もう1つは、目的から考え、自ら動き、周囲を巻き込む力です。経営学者の野中郁次郎さんは「イノベーションは一人称、二人称、三人称の順で起きる」と説いています。まず一人称の“私”が本気でやってみる。そのうえで二人称の“目の前の一人”と語り合い、磨き合う。そうしてはじめて、三人称の“全社員”や“世の中”に届くものになるのです。

AI推進でも同じです。まず推進役自身が徹底的に触り、「正直まだよくわからないけれど」と恥をさらしながら巻き込んでいく。ある企業の人事責任者は、何もわからない状態から自ら試し、興味のある社員とワークショップを重ね、1年ほどで全社員がAIを使う状態まで進めていました。その取り組みは評判を呼び、大きなカンファレンスで発表されるまでになったそうです。

こうした力は、研修などの座学中心では育ちにくい印象です。

坪谷さん

そうなんです。とくに目標管理は、知識として学ぶだけでは身につかず、実際に体験しないとできません。鍵を握るのは、部長・課長といった現場のリーダー、さらにはすべての働く人が、その感覚をもてているかどうか。だから「どう体験してもらうか」が大事になります。

私は、目標管理を100分ほどで疑似体験できるボードゲームをつくりました。新入社員から社長まで同じゲームをプレイすると、共通体験をもとにした「共通言語」ができ、対等に話せるようになります。“管理される側”から“自ら考えて動く側”へと視点を切り替えてもらうのが狙いです。

人事の役割は、こうした体験の場を用意し、共通言語によって目的への一体感を促し、自律的に動ける状態をつくることだと思います。

目的を軸に、人を「資源」から「源泉」へ

組織が変化に適応していくために、人事が見失ってはいけないことは何でしょうか。

坪谷さん

「AIを何のために使うのか」という目的です。目的が曖昧なまま技術に飛びつくと、AIに振り回されるだけになります。追うべきは「効率」ではなく「効果」です。

まず「自分たちの会社は何のために存在するのか」「どこを目指すのか」を考え、その目的に沿ってAIを使い倒していく。そうすれば、単なる効率化を超えて、新しい価値や成果につながっていきます。そのためには、方向性を示す経営層と、現場で試しながら巻き込む推進役が、セットで動くことが有効です。

明確な目的を土台に進めている企業の例はありますか。

坪谷さん

ある大手電機メーカーは、AI活用を創業からの理念や人事方針と結びつけて進めていました。採用の初期配属マッチングや、異動・副業を含めたキャリア相談にAIを使い、人とAIが役割分担するハイブリッドな体制を広げています。印象的だったのは、人事責任者の口から創業者の言葉が何度も出てきたことです。AI導入そのものが目的ではなく、「会社として何を目指すのか」という創業の精神が土台にある。だからこそAIが生きるのだと思います。

私は、人事を「HR=ヒューマン・リソース」、つまり人を資源として投資する発想から、「ヒューマン・リ・ソース」へと書き換えたいのです。一人ひとりを自律的な存在=「ソース(源泉)」として捉え直す方向です。いわれたことをこなす存在ではなく、目的を自ら考えて貢献する人を育てる。これはAI時代にこそ、いっそう重要になります。

最後に、これからの働き方や組織づくりについて、人事担当者へのメッセージをお願いします。

坪谷さん

人事とは「人を生かして事をなすこと」だと考えています。その“人”には、人事担当者のあなた自身も含まれます。だからまずは、自分自身を生かしてほしい。これからも社会や働き方は変わり続けます。問われるのは、「自分がどれだけおもしろがって変化に向き合えているか」です。

人事が不安そうにしていると、周囲もなかなか前を向けません。逆に、本人が楽しんで挑戦していれば、その姿勢は自然と周囲にも伝わっていきます。

一人で抱えると不安は大きくなりますが、社外にも同じように試行錯誤している仲間がいます。私も壺中人事塾という人事コミュニティを運営していますが、意志ある人事のプロ同士による研鑽から、おもしろい取り組みが次々と生まれています。仲間を見つけて一緒に動き出すことが、AI時代に組織を動かす最初の一歩になるはずです。

(取材・文/POWER NEWS)

目標管理を軸にした人材活用と業務変革

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