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期待が部下の主体性を奪う?教育者・鳥羽和久と考える「人が育つ職場」

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人材育成の現場では、「もっと丁寧に教えなければ」「先回りしてサポートしなければ」と、関わりを増やすことを正解だと考えてしまいがちです。しかし、熱心に手をかけるほど相手は受け身になり、「やってみたい」という気持ちがしぼんでいくことも。よかれと思った関わりが、かえって主体性を奪っているのかもしれません。

今回お話を伺うのは、教育者・作家の鳥羽和久さんです。20年以上にわたり、子供や若者が「育つ」現場に立ち会ってきた実践者です。教育の現場で培った視点から、「人が育つ職場」とは何かを考えます。

※SmartHRでは、「“働く”を語る水曜日の夜」をコンセプトに、ポッドキャスト番組『WEDNESDAY HOLIDAY(ウェンズデイ・ホリデイ)』を配信しています。本記事は鳥羽さんがご出演された回をもとに制作しています。質問も含め、内容を再編集しています。

鳥羽 和久(とば・かずひさ)

教育者・作家

大学院在学中に福岡市で学習塾を開業。現在は株式会社寺子屋ネット福岡で代表取締役を務め、学習塾や単位制高校の経営を通じて150人を超える小中高生の学習指導に携わる。2018年に『親子の手帳』を刊行して以降、教育の現場から広く発信を続けている。著書に『君は君の人生の主役になれ』『それが優しさじゃ困る』ほか。

「人が育つ」とは、自分の問いで動けること

そもそも鳥羽さんは、「人が育つ」とはどういうことだと考えていらっしゃいますか?

鳥羽さん

ひとつ浮かぶのは、自分なりの問いを立てられること、でしょうか。

子供というのは、もともと親の言語圏のなかで言葉を覚え、話しています。そこから自分なりの問いを立てていくのは、決して簡単なことではありません。

勉強もそのためにあると思っています。勉強とは、親の言語圏になかった言葉を新たに手に入れて、自分で語る練習なのです。世間や他人に合わせてしか喋れない状態から、「これはもう自分固有の問いだ」という形で立てられるようになっていく。それが育つということだと思います。

職場でも、近いことが起きるのかもしれません。上司や会社の評価軸を素早く飲み込める人ほど「優秀」とされますが、鳥羽さんはこの状態をどうみますか。

鳥羽さん

そこは、立ち止まって考えたいところです。教育の現場から考えると、ヒントがあるように思います。子供は、親から愛されたいものです。ですから、愛されるために親の期待に応えるというサイクルに、自分から身を投じやすい。それを無批判に続けていると、何かを判断するときに、いつも親の顔が浮かぶようになる。

そして、これは子供だけの話ではありません。こうした「内面化」に気づかないまま大人になっている人も少なくないんです。職場で上司の期待に応え続けるうちに、いつしか自分が本当は何を望んでいるのか、わからなくなってしまう。自分の問いで立てられているかという視点は、だからこそ大切なのだと思います。

部下を伸ばすなら、「褒める」より「驚く」?

人が育つ瞬間に立ち会ってきたなかで、「この子は育ったな」と感じるのは、どんなときですか?

鳥羽さん

子供がいつもと違うことをした瞬間ですね。「以前できなかったことができた」でもいいし、単純に「いつもよりずっと大きな字を書いた」というだけでもいい。

そういう変化があったとき、まず「わっ、すごいね、面白いね」と驚くんです。その場で起きた変化に驚く。これを繰り返していると、その子はいつの間にか育っていきます。

「褒める」ではなく、「驚く」なのですね。

鳥羽さん

そうなんです。褒めるという行為には、どうしてもコントロールや期待が入りやすい。「褒めることで、次もこうしてほしい」という期待が、無意識に混じってしまうんですよね。

驚くのは、本当にただ驚くだけ。すると相手には「自分の変化に気づいてもらえた」という感触が残ります。その手応えがあって初めて、「次は何をしようかな」と、次の気持ちが芽生える。その連鎖が続いていくことが、育つということなのだと思います。

「驚く」がうまく働くと、相手のなかで何が変わるのでしょう。

鳥羽さん

やはり、目の前の現実に自分が直接関わっている、という手応えが生まれるんです。仕事でいえば、自分は目の前の現実ときちんと関わりを結べている、という実感ですね。

その手応えこそが、仕事の喜びになる。自分自身の欲望と結びついた仕事でなければ、いい仕事は長続きしないと私は思っています。だからこそ、相手の変化に驚いて、その人の欲望が動き出す瞬間を見てあげることが大事なのだと思います。

では反対に、避けるべき関わり方はありますか。

鳥羽さん

「あなたはあのときもこうだったよね」と、過去を持ち出して注意したり叱責したりするのを繰り返す。これは本当に逆効果です。

そう言われ続けると、その子は「自分はこういう人間だ」と、かえって自分を固定化して見るようになり、そこから抜け出せなくなってしまうんです。育てる側が、むしろ固定化に加担してしまうことになる。人を変えたいなら、過去ではなく、いま起きた変化のほうに驚くことだと思います。

先回りのサポートが、成長の芽を摘んでいないか

「育てよう」と思うほど、つい細かく口を出したり、先回りして手を貸したくなります。こうした関わりを、鳥羽さんはどう見ていますか。

鳥羽さん

気持ちはよくわかります。ただ、細かく先回りすればするほど、相手が自分で試行錯誤した末に出会えたはずの未来の可能性まで奪ってしまうんですよね。

なぜ細かく管理したくなるのか。根っこにあるのは、管理する側の不安です。子供の宿題を細部まで監視してしまう親と同じで、自分の不安を回避したい、有能感を確かめたい、と責任を過剰に背負い込んでいる。これは職場のマイクロマネジメントとまったく同じ構造なんですよね。

でも、先回りして失敗を防ぐのは、本人のためにもよいことのように思えます。

鳥羽さん

それが、そうとも言えないんです。先回りして摩擦を消してしまうと、人の成長は「想像の範囲内」にとどまってしまいます。イノベーションは「思っていたのと違う」というところで生まれると思うんです。

一見、物事はスムーズに進みますが、本人は守りに入って、求められたものを完璧にこなすだけになってしまう。それが大事な場面はもちろんあります。ただ、育つという観点で言うなら、それだけでは育っていかないんですよね。

「できないなりにできる」を待てる職場か

新人や若手は、最初はできないことのほうが多いと思います。その時期を、どう見てあげればいいのでしょう。

鳥羽さん

「できる」になるまでには、必ず「できないなりに、やってみている」時期があるんです。そこを待てないと、「できる」にはならないんですよ。

当たり前なのに、それを待てない場面が多いのではないでしょうか。親もそうだし、企業の人もそうかもしれません。

できないなりにやっている。その揺らぎのなかにこそ、人間らしさが出る。だからそこを観察して、面白がってほしいんです。

待っているあいだは、つい「まだできていない」と減点で見てしまいがちです。

鳥羽さん

そこも疑ったほうがいいですね。「できない」と見ている人の、その見立て自体を疑ったほうがいい。「できる・できない」を判断している物差しは、正しいのか。問い直したほうがいいと思います。

とはいえ、組織は効率を求めます。「待つ」とどう両立させればいいのでしょうか。

鳥羽さん

効率を求めること自体は大切です。問題は、急ぎすぎることでしょう。

スピードを落とすと、ある意味での「適当さ」や「余白」が生まれる。その適当さや余白こそが、クリエイティブの真ん中にある。そのメリットを丁寧に共有していけば、お互いに適切なスピード感がわかってくる。仕事で対立したり、うまくいかなかったりするときは、たいてい、そのスピード感の違いが大きいんですよね。

「言葉にできない」を、「できない」と決めつけない

ほかに、組織で人を育てるうえで心得ておきたいことはありますか。

鳥羽さん

育成では、目標やプランを早く言葉にさせようとしがちですよね。ただ、私が現場で見ていると、それがかえって本人を縛ってしまうことが多いと思っています。

新人にいきなり目標を書かせ、計画を立てさせる。すると、その時点でうまく言葉にできないと「できない」と判断されてしまう。でも、言葉にできないことと、仕事ができないことは、まったく別の話です。

仕事はむしろ、「言葉にはできないけれど、できてい」ということのほうがずっと多いですよね。最初から明確に言語化できていることばかりを評価してしまうと、そうした伸びしろや可能性を見落としてしまう。

だから、最初にうまく言葉にできた人を高く買いすぎるのは、少し危ういと思うんです。面接や最初のプレゼンでは頼もしく見えても、実際に仕事をしてみると「あれ?」となる人も、よくいますからね。大事なのは、言葉の完成度よりも、実際にやってみるなかで何をつかみ、どう育っていくかを見ることだと思います。

基本は、勝手に育つ。SOSが出たら、受け止める

最後に、人を育てる立場の人へ、伝えたいことはありますか。

鳥羽さん

人を育てるのは、本当に難しいことです。正直に言えば、僕自身もまだまだ成長の途中で、まったくの未完成形ですからね(笑)。

育てる側も完成しないまま、相手と一緒に育っていく。そう思えると、相手に任せようとも思えるはずです。手をかけることを愛情だと思い込んでいると、かえって相手の育つ力を奪ってしまいますから。だから私は、「基本、人は勝手に育つ」という構えでいます。

ただ、信頼して任せることと放っておくことは違います。踏み込むべきときには勇気を持って踏み込む。

踏み込むべき場面では、どう関わるかも大切です。普段は「上司スイッチ」が入っていますが、ときにそれをいったん外して、一人の人間として声をかけないと届かない瞬間があるんです。役割のままだと、「立ち入るべきではない」と踏みとどまってしまいますから。

基本は任せて、SOSが出たら受け止める。そのフォローする勇気と覚悟だけは、絶対に手放さないことが大切です。

音声版『WEDNESDAY HOLIDAY』全編の再生はこちらから

音声版では、今回の記事で取り上げた内容以外にも「人材育成」をめぐるさまざまな話を展開しています。お時間のあるときに、こちらもぜひお聴きください。

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フリーアナウンサーの堀井美香さんをパーソナリティに迎え、ビジネス・アカデミック・文化芸能などさまざまな世界で活躍するゲストとともに、個人の働き方や、組織やチームのあり方、仕事を通じた社会との関わり方などをゆるやかに語るトークプログラム。毎週水曜日の夕方5時頃に、最新エピソードを配信しています。配信中のエピソードは、各種音声プラットフォームにて、無料でお聴きいただけます。

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