採用難時代の採用活動は「働きやすい職場づくり」から 【飲食・小売業、人事カイカク #12】


(前回の「飲食・小売業、人事カイカク #11」はこちら


こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。

求人募集してもなかなか応募者が集まらない状況は、ここ数年常態化しています。

厚生労働省の平成30年版労働経済白書においても、「有効求人倍率が2017年度平均で1.54 倍と1973 年度以来44年ぶりの高い水準となった」といい、求人数が求職者数を上回る「売り手市場」であることを示しています。

少子高齢化により15~64歳の生産年齢人口が年々減少していく見通しで、人手不足の状況はこれから先も続いていくことが予想されるのです。

連載【飲食・小売業、人事カイカク】の12回目となる今回は、人手不足、採用難時代の飲食業・小売業における最適な採用活動について解説します。

採用難の時代は「働きやすい職場づくり」が基本

採用難の時代は、働きやすくスタッフが辞めない職場づくりが基本中の基本です。

今働いているスタッフが退職してしまっても、代わりとなるスタッフの確保は簡単ではないからです。

これまでの連載でも触れているように、飲食業・小売業は、他の業界に比べて待遇(給与・労働条件)が厳しく、離職率が高い傾向にあるといえます。

「働き方改革」をきっかけに、多くの会社がより「働きやすい職場」にしていこうと努力しています。他業界や他社に劣らぬ魅力的な職場となるように積極的に取り組んでいきたいものです。

働きやすい職場づくりには、例えば以下のような施策があります。

  • 融通を利かせたシフト作成
  • スキルアップのためのトレーニングや研修の実施
  • 給料(時給)アップ、昇給制度
  • 交通費や食事支給などの手当
  • ボーナスの支給
  • (学生アルバイトについては)試験前の休みの確保

スタッフに長く働いてもらえるように、自社の実情に合った待遇改善に取り組んでいきましょう。

女性やシニアをとりまく社会の変化

長く働きやすい職場環境を整備したその先で必要になるのは、働き手の間口の拡大であり、そのひとつのヒントが「女性やシニアの活躍」をはじめとした多様な働き方の推進です。

時間的な制限があるため、細やかな人事管理は必須ですが、活躍する余地は大きいと考えられます。

ここでは「女性」や「シニア」をとりまく社会の変化を見ていきましょう。

「女性の就労」にまつわる社会の変化

ゆるやかになる「M字型カーブ」。ただし改善の余地も

女性の就労については、女性の年齢階級別労働力率の推移(15~64歳)をみると、出産・育児のために一時離職する時期、いわゆる「M字型カーブ」が以前と比べ緩やかになっています。

出典:内閣府男女共同参画局「女性の年齢階級別労働力率の推移

一方で、女性30~44歳の就業率は75%程度で、スウェーデンの90%程度、フランスの83%程度と比べるとまだ開きがあり、改善の余地がありそうです。

約93万人におよぶ「働きたくても働けないママ」

その改善のヒントのひとつとして、やはり「ママ」の参画が挙げられるでしょう。

出典:内閣府男女共同参画局「女性の年齢階級別労働力率の推移

女性の就業希望者約262万人のうち、「出産・育児のため」就業していない女性が35.6%と、約93万人もいます。

つまり、働きたくても働けないママが世の中にたくさんいるということです。

「シニア」にまつわる社会の変化

平均寿命が男女ともに80歳超という長寿の日本においても、若々しく、健康で活力のあるシニアの方がたくさんいらっしゃいます。

また、定年後の人生も長くなる「人生100年時代」が叫ばれる昨今においては、フルタイムでの勤務は体力的にも難しいが、社会とのかかわりを持ちたい、少しでも収入を得るために働きたいと考える高齢者も多いようです。

総務省統計局の平成30年労働力調査では、65歳以上の高齢者の就業率は24.3%で、推移や社会環境の変化からみても、今後さらに就業率がアップしていくことが見込まれます。

出典:総務省統計局「労働力調査(基本集計)平成30年(2018年)平均(速報)結果の概要

このような社会的変化を踏まえ、女性やシニアが働きやすい職場づくりを実践できるかは、採用難時代を乗り越える上でますます重要になると考えられます。

「働くニーズ」への対応で多様な働き方を促進

それでは、女性やシニアを含め、多様な人材の活躍を推進し採用競争力を高めるには、どのような取り組みが必要になるのでしょうか。

それは「働くニーズ」への対応です。

飲食・小売業の会社にとって、短時間でも働いてくれるパート・アルバイトは必要不可欠であり、重要な戦力です。パート・アルバイト側から見ても、自分の都合にあった時間帯で、短時間で働きたいと考えており、この点で両者のニーズが合致しているといえます。

ニーズは細かく分かれます。働くスタッフの働ける曜日、時間帯などはそれぞれ違うので、日ごろからコミュニケーションを取り、スタッフの細かいニーズにも気づくように心がけたいものです。

ライフステージで変化する「働くニーズ」

ライフステージの変化により、子供が成長して育児時間が減って、主婦(夫)が働ける時間が増えることもあります。また、配偶者が在宅時(土日祝日、早朝、深夜)に子供の面倒を見てくれるようになった時、いままでとは違う時間帯で、会社としては労働者の確保が難しい時間帯で、勤務が可能になることがあります。

年間の収入を扶養内に抑えて働きたいというスタッフもいます。平成30年の税制改正により、いわゆる「103万円の壁」は実質なくなり、税法上の配偶者控除は150万円までとなりました。

社会保険については、配偶者の被扶養者となるための130万円の壁(大企業で働くパートについては106万円の壁)が存在していますが、これまで103万円で収入を抑えていた人も、130万円まで働けるということも知らない場合もあります。

「働くニーズ」に対応できるとどうなるのか?

多様化する「働くニーズ」に対応できると、その分だけ採用対象者の母数が増加します。

また、メリットは採用面に限りません。

ダブルワーク(2ヶ所以上で勤務を掛け持ち)をしているパート・アルバイトについては、待遇改善などにより、掛け持ちの勤務先よりも自社の方が働きやすいとスタッフ本人が考えれば、自社のシフトの比重を増やす、あるいは専念することによって労働時間の増加につながるとも考えられます。もちろん、逆もまた然りなので注意が必要です。

このように、時代の変化とともに細分化される働くニーズに、できる限り応えられるかはポイントになるでしょう。

採用競争力が高まったら「採用活動」への注力へ

採用競争力が高まった先で、採用活動の注力に着手します。

採用活動というと、真っ先に「求人媒体(有料)」を利用しようと考えますが、その前にできることがあります。

リファラル採用・友人紹介制度

まず、友人紹介制度(スタッフからの紹介)です。

友人紹介制度は、「リファラル採用」とも呼ばれ、今注目されているリクルート方法のひとつです。

従業員が自社に合った人を紹介してくれること、従業員の友人を採用ということで、職場に馴染みやすいことなどから定着率が高いほか、採用コストもほとんどかかりません。従業員自ら採用に関わるため、店舗や会社が重視する価値観とのマッチ度も事前にはかれます。

もちろん、従業員が友人・知人に紹介したくなるだけの働きやすい職場であることが大前提です。

また注意点として、従業員へ金品にてお礼をする場合は、税法上課税されますので十分にご確認ください。

お客様からの採用

そして、お客様からの採用です。

会社が求めている人物像に合った方であれば、お客様からの採用をすることもあります。店舗に来店されるということは、近くに住んでいる、または通学しているなど生活圏内であることが多いからです。

また常連客であれば、店舗のスタッフに良い印象を持ってくれている場合が多く、声をかけたことがきっかけでパート・アルバイトとして働き始めるということもあります。

店頭でのリクルートポスターの設置や、Webサイト、SNSにおける募集との相性が良いでしょう。

「求人媒体」は最後の施策

以上の採用活動を実施した後に、行うのが、求人媒体(有料)の利用となります。

最近は募集を開始しても応募者がゼロとなるケースもあり、採用活動は長期化する傾向です。必然的にコストもかさんでいきます。

そのため、リファラル採用制度などを通年の採用活動として継続的に取り組む必要があります。

まとめ

人手不足の状況下、パート・アルバイトの時給も高まり、飲食業・小売業の経営も困難な時代に突入しています。

採用難時代においては、いきなり採用に注力するのではなく、働きやすさを整え長く働ける職場づくりを実践するとともに、多様なニーズに応えることで採用競争力を高めていく必要があると考えられます。そこに手がつかぬまま採用にコストをかけても、穴のあいたバケツに水を注ぎ続けるようなもの。このような状態では、会社も従業員も疲弊してしまいます。

これからの人材確保のためには、他社に先んじて自社の働き方改革に取り組み、労働者にとって魅力的な企業となることで、人材確保につなげていただきたいと思います。

【編集部より】飲食業におけるSmartHR導入事例

飲食業でSmartHR導入後に起きた変化とは?
飲食業におけるSmartHR導入事例

アルバイト人材をはじめ、多くの入退社手続きが発生する飲食業界は、その管理も煩雑。特に多くの業態や店舗を持ちチェーン展開する会社では、管理が分散してしまうなど、より大きな課題を抱えます。この飲食業を営む企業において、SmartHRを導入した結果、どのような変化が訪れたのかに迫ります。

【こんなことがわかります】

    • ・月間40時間の労務工数削減に成功したワケ
    • ・なぜ約2,000名の労務管理をたった数名でできるようになったのか?
    ・労務兼任スタッフが店舗勤務に注力できるようになった話
特定社会保険労務士 羽田未希

17年間の飲食業現場経験を持つ、異色の女性社会保険労務士として飲食業・小売業などサービス業を得意とする。パート・アルバイト活用、人材育成のコンサルティング、労使トラブルを未然に防ぐ就業規則作成、助成金申請など、中小企業の人材活用のサポートを行う。著書に『店長のための「稼ぐスタッフ」の育て方』(同文舘出版)がある。
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