ハートから語ろう。ソニーが実践する「人対人のリーダーシップ」
- 公開日
目次
“パーパスを実践する企業の挑戦 人手不足時代を乗り越える” をテーマに2日間にわたり開催されたカンファレンス「SmartHR Agenda #4」。さまざまなゲストをお招きし、「パーパス経営」「DX」についてのセッションを開催しました。
「パーパス経営の理解と実践」をテーマに行われたDAY1では、「"人こそがビジネスの核心" 〜「人とパーパス」を本気で大切にするリーダーシップとは〜」と題し、ソニーの再建事例も交えながら、リーダーシップ論をお伝えします。すべてのビジネスリーダーにご視聴いただきたいこちらのセッション、登壇したのは、ソニーグループ株式会社の平井 一夫さんです。
- 登壇者平井 一夫さん
ソニーグループ(株) シニアアドバイザー / (一社)プロジェクト希望 代表理事
1984年に(株)CBS・ソニー(現 (株)ソニー・ミュージックエンタテインメント)入社。1995年よりゲーム事業の北米責任者を務め、2007年に(株)ソニー・コンピュータエンタテイメント (現 (株)ソニー・インタラクティブエンタテインメント) 社長 兼 グループCEO就任。2012年4月にソニー(株)社長 兼 CEOに就任し、ソニーグループ全体のビジネスを牽引。2018年4月より2019年6月まで会長を務める。2019年6月よりソニーグループ(株)シニアアドバイザーに就任。2021年4月、自ら代表理事を務める一般社団法人プロジェクト希望を設立。子どもたちの未来創造のきっかけとなる感動体験をつくるプロジェクトを推進している。
- ファシリテーター加藤 雅則さん
(株)アクション・デザイン 代表取締役 エグゼクティブ・コーチ、組織コンサルタント / IESE(イエセ)客員教授
経営陣に対するエグゼクティブ・コーチングを起点とした対話型組織開発を得意とする。「両利きの経営」の提唱者であるオライリー教授(スタンフォード大学経営大学院)の日本における共同研究者。訳書・著書に『コーポレート・エクスプローラー』『両利きの組織をつくる』『組織は変われるか』(英治出版)などがある。
リーダーがとるべき3つのアクション
加藤さん
陽明学には「知行合一」という言葉がありますが、それを体現するのが平井さんです。ご発言を自ら自ら実践し、新しい経営者像を世の中に提示する平井さんのお話しは、リーダーのみなさんにきっとよい影響を及ぼすでしょう。ぜひご自身の仕事と照らし合わせながら、聞いていただければと思います。
平井さん
超競争の時代にビジネスをする私たちには、常に変革が求められています。それができない会社は、残念ながら衰退していくでしょう。社員のみなさんは自分の会社と仕事に誇りを感じながら、高いモチベーションを保ち続ける必要があります。
定められたゴールに向かって各自が協力し合うためには、オープンに議論する場が与えられなければなりません。そのなかでベストな方向を考え、一定のリスクを取って前に進むという環境が必要になってきます。こうした環境を提供してパーパス経営を実現するために、リーダーがとるべき3つのアクションをご紹介します。
リーダーに求められるのはIQでなく、EQ(心の知能指数)
平井さん
1つ目は「正しい人間になる」ことです。優秀な社員は求められるパフォーマンスを上げるために勉強を欠かさず、どうすればよりよい仕事ができるかを常に考えています。しかし、社員が優秀な上司に求める要素はまったく別のところにあります。自分の意見に耳を傾けてくれるか。公平公正に評価してくれるか。こうしたEQ(心の知能指数)の要素をより強く求めているのです。
マネージする側の上司がこれを理解していないと、社員との間に根本的なコミュニケーションミスが生じてしまいます。すばらしい肩書きがあったり、社歴が長いから偉いのではありません。人間として尊敬できる要素をたくさんもっていてはじめて、真のリーダーシップを発揮できるわけです。
パーパスやミッション・ビジョン・バリューを定義する
平井さん
2つ目は「パーパスやミッション・ビジョン・バリュー(MVV)を定義する」ことです。パーパスやMVVが名刺や会社案内、コーポレートサイトに掲げてあっても、それがまったく文化として根付いていない会社もあります。パーパスやMVVは、それぞれの国や事業部、プロジェクトに適した形で表現されていることが重要です。
「この事業、このプロジェクトは何のためにやるのか」現場の社員がそれを理解するには、自分の仕事と会社全体のパーパスがどうつながっているのかを知らなければなりません。リーダーにはすべての仕事の存在意義を適切に伝える表現力、説明力が求められます。
パーパスの表現はレイヤーごとに変える
平井さん
「パーパスが会社に根づかない」という悩みをよく聞きます。それはリーダーが、レイヤーに応じたパーパスの表現を怠っているからに他なりません。パーパスを理解しないまま入社し、あとになって自分の価値観にそぐわないと気づく社員が出てくるのは、社員にとっても会社にとっても残念なことです。こうした事態を防ぐためにもリーダーはパーパスを深く理解し、レイヤーごとに適切な説明を行なうべきです。
何よりもリーダーが自ら語り、実践することだと思います。たとえば、ソニーグループのパーパスは「クリエイティビティとテクノロジーの力で世界を感動で満たす。」です。そのため私は、会議で社員から新商品の提案を受けたら「この商品の感動ポイントはどこですか?」と質問しつづけてきました。
どこに行っても、何をするときも感動、感動、感動。これを1年、2年と続けると、社員のほうも「平井さんは本気なんだな」と感じるようです。会議で自ら感動のポイントを説明したり、感動を提供するためのアイディアを出してくれたりするようになりました。パーパスが文化になりつつある状態だと思います。
ここまで来るのは、大きな岩を押して山道を登るようなつらい道のりでした。でも、頂上にたどりついて下り坂に差しかかれば、そこからの勢いには目を見張るものがあります。リーダーのみなさんはあきらめることなくパーパスを語り、行動で示しつづけていただきたいと思います。
現場に行って、社員が腹落ちするまで説明する
平井さん
3つ目は「リーダー自ら現場に行く」ことです。パーパスを語るとき、会社の文化を変えるとき、新しいプロジェクトをはじめるとき。こうした重要な場面では必ずリーダーが現場に行って、社員が腹落ちするまで説明をしてください。
信頼されるのはハートから語れるリーダー
平井さん
戦略を立てたりパーパスを掲げたりすれば自分の任務は終わったと勘違いして、「あとはよろしくね」と去っていくリーダーもいます。でも、その瞬間にパーパス経営は立ち行かなくなります。社員は「リーダー自ら説明しないのだから、それほど大事なことじゃないんだ」と感じるからです。
このとき、ぜひ対面で説明してください。画面越しに話を聞くのと、リーダーが目の前で語りかけてくれるのとでは、インパクトがまったく違います。流れるようなスピーチ、すばらしいプレゼンテーションでなくてもいいんです。うまく説明できなくてもいいんです。社員が見ているのは、リーダーにどれほどの情熱があるかです。原稿の棒読みはやめて、ハートから語ってください。
腹を割って正直に話すのも、大事なポイントです。たとえばビジネスモデルを変えるような場面で、メリットばかりを説明してはいけません。社員が本当に知りたいのは、メリットよりもデメリットです。どんなに優れたアイディアにも、デメリットは必ずあるものです。それを包み隠さず語ってくれるリーダーでなければ、社員は信頼できません。同時に、もしマイナスの局面になったときにどう対処するつもりなのかも伝えましょう。それが確認できてはじめて、社員は難しいプロジェクトに参加する覚悟ができるのです。
インタラクティブな意思疎通が大切
平井さん
一方的に話をして終わり、というリーダーもいけません。説明のときには、ぜひライブの質疑応答時間を設けましょう。リーダーが説明を尽くしても、社員には腑に落ちないところ、わからないところが必ずあるものです。それを制限なく、ライブで受け付けることが大切です。事前に集めた質問から当たり障りのないものを選んで答えるような質疑応答では、社員の満足は到底得られません。わからない内容なら、後で調べてから答えてもいいんです。リーダーが「どんな質問にも答える」という姿勢を見せることが大切です。
リーダーが社員と行なうべきなのは「人間と人間の対話」です。肩書きを傍に置いたフラットな関係性のもとで、議論しましょう。「本社で決めたことだから従ってください」という上から目線の説明では、社員は納得してくれません。「大事なことだから、一緒に対話をして決めたい」という対等な姿勢で向き合うこと。それが社員の信頼を得て組織をひとつにまとめるための、一番の近道だと思います。