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人事担当者の成長に必須の「贈与・邂逅・修羅場体験」。ブレインパッドCHROが語る人的資本経営時代の脱中心化プロセス

公開日

この記事でわかること

  • 人的資本経営時代のCHROの役割
  • 人事・労務担当者に求められるコンピテンシー
目次

上場企業の「人的資本の情報開示義務化」など、人的資本経営への本格的な取り組みが必要になる昨今では、人事・労務担当者が担う役割はより大きくなり、業務の幅は従来よりも多岐にわたっています。

株式会社ブレインパッドの常務執行役員CHRO・西田 政之さんに「人的資本経営時代のCHROの役割」と、「人事・労務担当者に求められるコンピテンシー」について伺いました。

西田 政之 氏

株式会社ブレインパッド 常務執行役員CHRO

1987年に金融分野からキャリアをスタートし、ファンドマネージャー、金融法人営業、事業開発担当ディレクターなどを担当。人事コンサルティング会社マーサージャパン株式会社を経て、ライフネット生命保険株式会社、株式会社カインズでCHROを経験。2023年7月より現職。

「贈与」「邂逅」「修羅場体験」で自律する

これからの人事担当者に必要なスキルセットを考えるには、「人事だから」と考えるよりも、人として普遍的な自律を意識する必要があると思います。自律とは、社会学者の阪井裕一郎さんがよくおっしゃることで、「脱中心化」のプロセスといえます。

生まれたときは、人はみんな自己中心的です。自分が世界の中心であり、自分がどうしたいのか、どう感じるのかがすべてでしょう。ところが次第に、自分がいかに無力であるのか、人に生かされているのか、を学習と経験によって少しずつ悟っていくのです。その過程には、「贈与」「邂逅」「修羅場体験」という3つのファクターが影響を与えていると考えています。

贈与:自力と他力のバランスを決める

人は生まれた瞬間から母親からの無償の愛を受けます。それが贈与のはじまりです。そこから成長する過程でさまざまな人から贈与を受けることで、「自分は一人で生きているわけではない」ことを悟ります。

贈与は人間関係の根底にあって、つながりを生む根源的な要素です。自分が一人でどこまでできて、他人にどこまで頼る必要があるのか、のバランスを考えるきっかけを与えてくれます。人事や経理などの職種に関わらず、自力と他力のバランスを決めることは自律していくうえで欠かせません。

邂逅:人を通じて新たな世界を拡げる

邂逅は僕の大好きな言葉ですが、その意味するところは、人と人との偶然の出会いです。邂逅により、人から導かれて、人から学んで、相手を鏡として自分自身を見つめ直す機会が得られ、新たな世界が拡がる可能性が生まれます。

立命館アジア太平洋大学前学長の出口治明さんは、人間が学ぶための手段は「人、本、旅」とおっしゃっています。とにかく、内に閉じず、外に出なければ邂逅は訪れません。一方で、社外勉強会やイベントへ出たからといって、必ず邂逅を得られるわけでもありません。大切なのは、効率化を求めないこと。邂逅は人と人との偶然の出会いですから、偶然性を楽しむことが肝になるのです。

修羅場体験:困難を糧として自己理解を深める

3つ目が、修羅場体験です。人は、困難と対峙することで、自分の限界や可能性が見えてきます。これは自己理解にもつながり、自分にとって何が大切なのかが明らかになってきます。

修羅場は最も自己成長させてくれる場面。そのため、自ら手を挙げてでも経験すべきと思っています。

3つのファクターへの意識が成長に欠かせない

自身の成長を呼び込むのは、その人の姿勢と行動でしかあり得ません。進化のために「贈与」「邂逅」「修羅場体験」への意識を高めることが、人事・労務担当者などに関わらず、これからのビジネスパーソンに欠かせないと思っています。

邂逅のチャンスを生み出す2つの行動

邂逅は、立ち止まっていても訪れません。邂逅のチャンスを生み出すには2つあります。

場数を踏むためにイベントへ参加する

1つ目は「人が集まるところに、目をつぶって飛び込んでいく」です。

新型コロナウイルスを経た今では、家に留まること、あるいは、リモートでの参加が快適になって、外へ出て会合や勉強会などのリアルイベントへ参加することが億劫になってしまった人も少なくないのではないでしょうか。そのような状況下でも、知らない人に会うために外へ出ることは非常に大切です。

10回のうち9回はつまらないかもしれないし、何も得られなかったと思うかもしれません。でも10回に1回、あるいは20回に1回、「この人と出会ってよかった」と思えることが必ずあります。その貴重な出会いを求めるためには自分で行動を起こすしかなく、成果を早く求めすぎずに場数を踏むことが大切でしょう。

「幹事力」の鍛錬で邂逅の機会を増やす

2つ目に僕が工夫したことは、「自らがイベントの主催者になる」です。これは別の言葉に置き換えると、「幹事力を鍛える」になります。自分が勉強会やイベントを主催するのは、時間と労力を必要とします。ゲストを呼ぶのであれば、ゲストのアサインや日程調整、会場の手配や参加者の募集、当日の出欠管理や会計処理など、面倒くさいことばかりです。しかしその面倒くさいことを引き受ければ、参加してくれる人たちとの交流が生まれ、感謝の受け手にもなります。

僕が人事コンサルティング会社・マーサージャパンに在籍していたときに、10個の塾を主催していて800人から1,000人の塾生を集めていました。塾生は、外部から招聘した講師に対して感謝するだけでなく、「このような機会をつくってくれた西田さんにも感謝します」「何か西田さんのためにできることはないですか?」と言ってくれるようになっていきました。

表舞台に立つのが苦手な人でも、スポットライトを浴びるゲストやスピーカーは、外から招聘すればよいのです。自分は最初の挨拶をしたあとは表に出ずとも、裏方を一生懸命やっていけば、邂逅のチャンスをつくれます。

「進化の継続」が人事担当者の成長の鍵

僕は現職の就任後に、まず人事のポリシーを策定しました。7か条あるうちの1つが「前例踏襲禁止」です。人事の制度や仕組みは、策定した瞬間から陳腐化していくもの。組織の成長のためには常に改革をし続ける必要があります。前例を踏襲するのは楽ですが、進化はありません。バージョンアップ、ステージアップ、改革を常に怠らない姿勢が人事担当者には求められます。

しかし人間はもともと変化を嫌う生き物であり、大抵の場合、少なからず反発を受けるわけですから、それに相対するのは修羅場になって当然です。しかし、果敢に挑戦している人事担当者と「何をやっても変わらないから、前例踏襲でやります」とサラリーマン化した人事担当者とでは、自ずと結果が違ってきて、個人の成長にも差がついてきます。

たとえば、プレインパッドで新たな人事関連施策を社内発表したときのケースです。発表後の意見シート(アンケート)には社員から300件を超えるコメントが寄せられました。どれもみな、長文です。必ずしもポジティブなものだけではなくて、批判的なものも数多く含まれていました。

ただ僕は、それは非常によい兆候だと思いました。本当に会社のことが好きでなかったら、無視した方が楽です。でも、この会社が好きで、ここで働いていきたいからこそ、労力を惜しまずコメントを書いてくれているわけです。その気持ちにしっかりと向き合うことは非常に重要だと思いましたので、時間はかかりましたが、全てのコメントに対して回答を書きました。

もちろん、読んでいるうちにカチンとくることもあります(笑)。それはそれで、人間臭さも出しながら、でも個に向き合うことが非常に大事だと思っています。

運や偶然をつかむための積み重ねが評価につながる

個と徹底的に向き合うことは、前職でも意識して実践していました。前職のカインズは小売業で、240ほどの店舗がありましたが、スケジュールの隙間を見つけては店舗訪問していました。たとえば、中堅クラスの店舗には200~300人が在籍していますが、そのうち社員は20~30人ほどであり、中心はアルバイト・パートの方々です。

訪問するときは、まず店長に優秀なアルバイト・パートの方を紹介してもらい、バックヤードで一人ひとりに日ごろの感謝を心から伝えます。その後、「なぜこんなに頑張ってくれているの?」「何か困ってることはない?」「会社にしてほしいことは?」などの質問をします。

一日に数店舗回りますので、一店舗あたり15名から20名ほど、一人あたりの時間にすると5~10分程度ですが、短時間でも直接顔を合わせて会話をすると、体感を含めた良質なコミュニケーションが図れるのです。最後に、記念としてスマホでツーショットを撮り、あとでご本人に送ります。

この活動を継続していると、役員が一人ひとりに向き合ってくれるという評判が評判を呼びます。人間関係のタペストリーにおいて、直接的なやり取りは理解を最も強く結びつける糸になります。彩り豊かな一本一本の細い糸が幾重にも織り重ねられていくその過程が重要なのです。

その意味で、「運」も同様です。「あの人は運がよかった」「偶然だ」と言うのは簡単です。しかし「運や偶然をつかみ取るためにどれだけ正しい行動を積み重ねているか」を見なければなりません。

「データ分析力×哲学的思考力×実践力」で
日本一の人材開発・輩出企業を目指す

理系思考のマネジメント人材を輩出

IMDのデジタル競争力ランキングをみると、今の日本は64か国中32位とここ10年ほど凋落傾向が続いています。欧米に比べて明らかにITやDXへの投資が遅れていて、技術的な格差が拡大していることに、強烈な問題意識をもっています。こうなってしまった要因の1つは、経営者の意思決定力の問題ではないでしょうか。

日本は文系・理系の分け方が好きで、文系に進むと数学や物理を履修しないケースもあります。一方で、欧米ではダブルディグリー、トリプルディグリーが当たり前ですし、そもそも文系・理系のカテゴリー自体がありません。つまり、日本は“文系”の経営者にITリテラシーを含めた理系思考力の習得が必ずしも十分でない可能性があると考えています。

ただ、僕はITやDX分野はまだまだ挽回可能だと信じています。その方策の1つとして、ブレインパッドが先頭に立って理系思考の経営人材の輩出に貢献できるのではないかと考えています。そこで立てた組織戦略のスローガンを「日本一の人材開発・輩出企業を目指す」と定めました。そして、その実現のために掲げた公式が「データ分析力×哲学的思考力×実践力」です。

人材の流動化が個の成長を加速させる

稀代の名立たる経営者はみなデータ・ドリブンです。財務データやマーケティングデータ、人事データなどをよく見て、今何が起こっているのか、それはどうしてか、今後どうなりそうか、を読み解いています。

その観点から言うと、ブレインパッドはデータ分析の専門会社ですから、そもそもデータ分析力にノウハウがあることに加え、多くのお客様へのサービス展開を通じて実践力も鍛えられます。これに、哲学的思考力、すなわち、理論的、批判的、抽象的思考を働かせながら、多面的な視野で洞察する能力を磨くことで、理系思考をもった経営者たる人材が開発・輩出できるのではないかと考えています。

この人手不足の環境で、市場価値の高い人材を輩出したら困るのではないかという考え方もありますが、「ブレインパッドにいたら成長できる」という認知が広がれば、新しい優秀な人材がまた入社してくれます。

生物学者の福岡伸一先生が提唱する「動的平衡」の概念にあるように、会社組織も生物体であるとすれば、新陳代謝を繰り返すことが生存には欠かせません。

人材を開発し流動化させるモデルこそ、一人ひとりを成長させ、かつ、創発によるイノベーションを促して社会の進展につながる理想の形ではないでしょうか。

<執筆者>

遠藤光太

強化ポイントが洗い出せる!これからの人事に求められる能力・知識チェックリスト

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