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JD-Rモデルとは?エンゲージメント向上のメカニズムをわかりやすく紹介!

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目次

「仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)」は、ワーク・エンゲージメントのメカニズムとして知られる考え方です。高すぎる仕事の要求度はストレス要因になりえます。ですが、「仕事・個人の資源」が充実していれば、仕事の要求度が高くても、従業員のパフォーマンス向上や離職率の低下といったポジティブなアウトカムを期待できます

本稿では、JD-Rモデルの概要やエンゲージメントを向上させるメカニズムについてわかりやすく解説します。

仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)とは

​「仕事の要求度-資源モデル(以下、JD-Rモデル)」は、仕事(Job)、要求(Demand)、資源(Resource)で構成される概念です。「資源」とは、「仕事の資源」と「個人の資源」に分けられ、ストレスに対するさまざまな緩衝要因を表します。「仕事の資源」「個人の資源」「仕事の要求度」のバランスにより、従業員が受けるストレスやワーク・エンゲージメントの大きさが変わることを示しています

仕事の要求度-資源モデル(以下、JD-Rモデル)の概念を図解したもの。左に「仕事の資源」「個人の資源」が並んでおり、そこから「ワーク・エンゲージメント」に矢印が伸びている。その矢印の途中に「仕事の要求度」からの矢印が刺さっており、影響を与えていることを表している。

2001年にDemerouti, Bakker, Nachreiner, & Schaufeliによってはじめて提唱されました。のちに部分的な修正が行われ、現在もワーク・エンゲージメントのメカニズムとして広く知られています。

似たモデルにはKarasekが1979年に提唱した「仕事の要求度-コントロールモデル(job demand-control model:JD-Cモデル)」(1979)や、米国国立労働安全衛生研究所が提唱した「NIOSH職業性ストレスモデル」があります。これらが職業性ストレスの発生メカニズムを説明しているのに対し、JD-Rモデルはワーク・エンゲージメントとの関連性も示している発展形のモデルともいえます

(参考)The job demands-resources model of burnout(2001) - Demerouti E., Bakker A. B., Nachreiner F., Schaufeli W. B.

(参考)中小企業における人材の採用と定着 第Ⅲ部 第3章 仕事や職場の状況とストレス反応 - 独立行政法人労働政策研究・研修機構


ワーク・エンゲージメントとは、従業員の仕事に対するポジティブで充実した心理状態です。スコアが高いほど、仕事にやりがいや誇りを感じることから、パフォーマンスの向上や離職率の低下などが期待できます

「ワーク・エンゲージメント」については、以下の記事でより詳しく解説しています。

JD-Rモデルの考え方

JD-Rモデルの要点

JD-Rモデルの要点は以下のとおりです。

  • 「仕事の資源」と「個人の資源(心理的資本)」は、個別にまたはお互いに影響を及ぼすことでワーク・エンゲージメントが向上する。
  • 責任や仕事量などの「仕事の要求度」に対して、裁量権や自由度、コントロールといった「仕事の資源」が低くバランスが取れていない場合、従業員はストレスを感じやすくワーク・エンゲージメントは低下する
  • 一方で、「仕事の資源」や「個人の資源」が充実していれば、「仕事の要求度」が高くてもワーク・エンゲージメントの向上が期待できる
  • ワーク・エンゲージメントの向上は、従業員と組織にポジティブなアウトカムをもたらす。
厚生労働省の資料から引用したJD-Rモデルの図。出典より確認できる。

(出典)令和元年版 労働経済の分析 -人手不足の下での「働き方」をめぐる課題について- - 厚生労働省

​JD-Rモデルを構成する2つのプロセス

JD-Rモデルは、以下の「健康障害プロセス」と「動機づけプロセス」の2つで構成されます。

  • 健康障害プロセス
    • 仕事の要求度(仕事のストレス要因)がストレス反応を引き起こし、健康・組織アウトカムにネガティブな影響を与えること
  • 動機づけプロセス
    • 仕事の資源および個人の資源がワーク・エンゲイジメントを向上させ、健康・組織アウトカムにポジティブな影響を与えること
「仕事の資源」「個人の資源」が、ワーク・エンゲージメントにプラスの影響を与えるだけでなく、「仕事の要求度」によって生まれたストレス反応(バーンアウト)を軽減する効果があることを図解した図。

(出典)ワーク・エンゲイジメントに注目した組織と個人の活性化 - 島津 明人

健康障害プロセスでは、仕事の要求度から起こるストレス反応を低減させ、健康障害を予防することに重点が置かれます。一方の動機づけプロセスは、「仕事の資源」や「個人の資源」の向上がワーク・エンゲイジメントの向上をもたらすほか、ストレス反応の低減にも貢献することが明らかになっています。

生産性の向上と従業員の健康増進の両立は、仕事の要求度を低減する以外に、仕事および個人の資源の充実によっても実現が可能です。

(参考)A Critical Review of the Job Demands-Resources Model - Wilmar B. Schaufeli and Toon W. Taris

(参考)産業保健心理学からみた持続可能な働き方 - 島津 明人

JD-Rモデルの要素

本文中で紹介したJD-Rモデルの各要素の例を記載した図。

(要素1)仕事の資源

「仕事の資源」とは、仕事における心理的・肉体的な負担の低減、目標の達成、個人の成長などを促す要素です。仕事の裁量権や就業条件、対人関係といった職場環境などが該当します。仕事の資源の充実は、ストレスを低下させる要因になります

「仕事の資源」の例

  • 成長機会
  • 職場での裁量権
  • 情報の共有
  • 上司や同僚からの支援
  • パフォーマンスに対するフィードバック

(要素2)個人の資源

「個人の資源」とは、ポジティブな心理状態やモチベーションをアップするために必要な従業員がもつ内的要因のことです。逆境や問題が起こっても屈せず乗り超える気持ちや、目標の達成に向けた粘り強い取り組みなどが該当します。

「個人の資源」の例

  • 自己効力感
  • 楽観性
  • 希望
  • レジリエンス

(要素3)仕事の要求度

「仕事の要求度」とは、仕事によって起こるさまざまな負担のことです。精神的負担やプレッシャーなどが従業員の適応できる範囲を超えた場合、ストレスを引き起こす要因になります。

妨害的なストレッサーはストレスなどを引き起こしますが、仕事の難易度が高くても従業員がやりがいを感じる場合は、挑戦的なストレッサーとして個人的な成長を促すものにもなりえます

「仕事の要求度」の例

  • 仕事のプレッシャー
  • 過剰な仕事量
  • 仕事における責任
  • 肉体的な負担
  • 高いノルマや目標

(要素4)アウトカム(結果要因)

「アウトカム(結果要因)」には、ポジティブなものとネガティブなものが存在します。仕事の資源や個人の資源が充実し、ストレスが低減することは、アウトカムにポジティブな影響を及ぼします。ポジティブなアウトカムが増えることは、従業員にとっても組織にとっても好ましい状況です。

ポジティブな「アウトカム(結果要因)」の例

  • 仕事のパフォーマンスの向上
  • 組織コミットメントの向上
  • 従業員の定着率向上

ネガティブな「アウトカム(結果要因)」の例

  • 心理的負荷
  • 離職率の増加
  • 体調不良


(参考)A Critical Review of the Job Demands-Resources Model - Wilmar B. Schaufeli and Toon W. Taris

JD-Rモデルをチーム理解に活用する

JD-Rモデルは、チームの現状を理解し、対応する際に役立ちます。たとえば、仕事に対する要求が多く、仕事の資源が少ない場合、チームのメンバーが感じるストレスは高くなり、その結果として欠勤率や離職率が上昇する可能性があります。

ネガティブなアウトカムを解消するためには、仕事の資源を充実させることが大切です。従業員のストレスは軽減され、モチベーションの向上につながります。

(参考)The Job Demands‐Resources model: state of the art - Bakker & Demerouti

JD-Rモデルの活用ステップ

本文中にもあるJD-Rモデルを活用する4ステップを記載した図。

ステップ1:仕事のストレス要因を把握する

JD-Rモデルを活用するには、「仕事の要求度」がチームにとって悪影響を及ぼすストレス要因となっていないかを確認する必要があります。

過剰な仕事量や高いノルマ・目標が設定されていないかなど、妨害的なストレス要因に該当するものを見極めることが大切です。

仕事の難易度が高くてもやりがいを感じるなど個々のストレスの限界値は異なるため、一人ひとりと話し合い、チームメンバーに対して大きな影響を与えている要因を見つけだすことが重要です。

要因の洗い出しは、エンゲージメントに関するサーベイの設問を利用すると容易になります。

従業員エンゲージメントを向上させるサーベイ運用ノウハウ

​ステップ2:仕事のストレス要因に対処する

チームに悪影響を与える可能性のある要因を洗い出したあと、チームリーダーは対処する要因を選別します。自分の影響により解決できるものとそうでないものに分け、ストレス要因を軽減する対策を練ります。以下が対策の例です。

  • タスクに対して適切な人材を割り当てる
  • ワークフローのなかでボトルネックになっている箇所を解消する
  • 快適な作業環境を提供する

チームメンバーが自身の業務に熱中していると感じられるよう、懸念事項をヒアリングし、必要な資源を確保することが大切です。また、各メンバーが業務の目的を把握し、どのような役割でチームに貢献するのかを理解できているのかも確認しておくことが重要です。

ステップ3:有効に作用する「仕事の資源」を特定する

チームメンバーが担当する仕事や役割の要求度を達成するため、「仕事の資源」を特定します。以下が有効に作用する仕事の資源の例です。

  • 上司によるコーチングの機会
  • 定期的なフィードバック
  • キャリア開発の機会
  • 従業員をサポートする制度
  • 正当な人事・給与評価

各メンバーと話し合い、どのような働きかけが必要かを確認しましょう。

ステップ4:「仕事の資源」を提供し、クオリティを高める

仕事の資源を特定した後は、資源を提供する機会づくりや、質の向上が大切です。職場環境や人間関係といった、間接的に作用するものについても実施しましょう。

仕事の資源を充実させ、仕事の要求度から起こるストレス要因を軽減できれば、ワーク・エンゲージメントの向上が期待できます。

ワーク・エンゲージメント向上には、JD-Rモデルにもとづいたエンゲージメントサーベイツールの活用を!

JD-Rモデルにおいて「仕事の資源」と「個人の資源」は、個別またはお互いに影響を及ぼすことでワーク・エンゲージメントを向上させます。一方で、「仕事の要求度」の高さに比べて、裁量権や自由度などのコントロールが低ければ妨害的なストレッサーが起こり、ワーク・エンゲージメントを低下させる要因になります。

「仕事の要求度」が高い場合、チームが必要としている「資源」を理解し充実させることで、ストレス要因の軽減とワーク・エンゲージメントの向上、ポジティブなアウトカムが期待できます

問題となっている要因を洗い出すには、JD-Rモデルにもとづいたエンゲージメントサーベイツールの利用がおすすめです。

タレントマネジメントシステム「SmartHR」のエンゲージメントサーベイ機能は、JD-Rモデルの考え方をベースに設計されています。仕事の負担や会社の文化といったエンゲージメントの構成要素と、エンゲージメントを高めることで獲得できるアウトカムの測定が可能です。従業員データを一元化できるため、エンゲージメント向上のための多面的な分析も容易に行えます。

SmartHRの従業員サーベイを詳しく知りたい方は、「3分でわかる従業員サーベイ」の資料をご覧ください。

お役立ち資料

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FAQ

  1. Q1. 仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)とは?

    「仕事の要求度-資源モデル(JD-Rモデル)」は、仕事(Job)、要求(Demand)、資源(Resource)で構成される概念で、ワーク・エンゲージメントのメカニズムとして広く知られています。

  2. Q2. 仕事の資源とは?

    「仕事の資源」とは、仕事における心理的・肉体的な負担の低減、目標の達成、個人の成長などを促してくれる要素です。仕事の裁量権や就業条件、対人関係といった職場環境などが該当します。仕事の資源の充実は、ストレスを低下させる要因になります。

Q. 個人の資源とは?

「個人の資源」とは、ポジティブな心理状態やモチベーションをアップするために必要な、従業員がもつ内的要因のことです。逆境や問題が起こっても屈せず乗り超える気持ちや、目標の達成に向けた粘り強い取り組みなどを指します。

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