笑いでコミュニケーションを円滑に!こたけ正義感さんに聞く“人事職のためのユーモア”とは
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1986年、京都市生まれ。香川大学法学部を卒業後、立命館大学法科大学院を修了。司法試験に1回で合格し、2012年に弁護士業を開始。2016年ワタナベコメディスクール(養成所)に入学し、翌年からワタナベエンターテインメントに所属。2019年自身の弁護士事務所を開業。2022年『ABCお笑いグランプリ』と『ワタナベお笑いNo.1決定戦』で準優勝、2023年『R-1グランプリ2023』で決勝進出するなど、現役弁護士芸人として人気を集めている。
「人事・労務の仕事がグッと深まる異分野トーク」は、領域外で活躍する方の経験を通じて、人事・労務の担当者が仕事に活かせる考え方やハウツーを学ぶ連載企画です。初回は「お笑いを人事職の仕事に活かす方法」をテーマに、いま大注目の現役弁護士芸人・こたけ正義感さんにお話を伺いました。
一見、お笑いとビジネスは関係ないように思えますが、実はそうではありません。人間関係を円滑にし、ビジネスのさまざまな場面で役立てられます。では、お笑いに馴染みのない人が、仕事に笑いを取り入れるために、具体的にどのようにすればよいのでしょうか?
弁護士と芸人、どちらにも憧れて
まずはプロフィールとして、本名、生まれた年、ご出身、最終学歴をお願いします。
こたけさん
小竹克明、1986年生まれ。香川大学法学部を卒業後、立命館大学法科大学院を修了しました……これ、取り調べじゃありませんよね?

いたって真剣な様子のインタビュアーに、初手からボケをくださるこたけ正義感さん
違います、違います(笑)。法科大学院修了後、司法試験に合格して弁護士になり、それからお笑いの道に入られたのでしょうか?
こたけさん
はい。2012年から弁護士として働くかたわら、ワタナベエンターテインメントの養成所に1年間通い、2017年に事務所に所属して芸人としての活動も続けてきました。弁護士のほうは、いわゆる街弁(まちべん)で、個人の借金や離婚、相続、交通事故など民事が中心で、たまに刑事事件も引き受けます。
ユニークな経歴ですね。
こたけさん
小学生のころからお笑いがめちゃめちゃ好きで、ずっと憧れていました。でも、職業として芸人を選ぶとなると、やっぱりビビりましたね。高校の同級生が卒業後、吉本興業の養成所に入ったんですが、すごいなと思って。「あんまりおもしろいヤツじゃないのに、養成所に入るのか」って(笑)。
弁護士という仕事はいつごろから考えていましたか?
こたけさん
小学生のころ、母親から「屁理屈ばかり言うなら弁護士になりなさい」と叱られたことがあったんですけど、「屁理屈でお金が稼げるならいいな」と。あとは天海祐希さんが主演のドラマ『離婚弁護士』(2004~05年、フジテレビ系)などにも影響され、弁護士はかっこいいなと思っていました。それで、大学は法学部に進学して、弁護士になりました。
でもあまりにお笑いが好きすぎで、当時の彼女(その後、結婚)に「芸人をやってみれば」と言われて、それで養成所に入り、いまに至るという感じです。

どんなネタでもお笑いに変えられる
こたけさんは、YouTubeチャンネル『こたけ正義感のギルティーチャンネル』で法律に関する知識やエンターテインメント性を融合させたコンテンツを配信し、多くの視聴者から支持を得ています。さらに、『R-1グランプリ』や『ABCお笑いグランプリ』などの賞レースでも大活躍しています。
こたけさん
ありがとうございます。でも、初めはうまくいきませんでした。テレビには出られず、賞レースもまったくダメで。弁護士ということで、芸人枠ではなく文化人枠でコメンテーターなどの依頼をいただいた時期があって、それが嫌で「こたけ正義感」という変な名前にしていました。少しずつ結果が出るようになったのは、芸人を初めて6年ほどたってからです。いまでは、弁護士よりも芸人としての仕事のほうが多くなりました。
厳格でシリアスな法律と、自由でユーモラスなお笑いは相反するものに思えます。法律のネタで笑いをとることは難しそうですが、いかがですか?
こたけさん
どんな人でもネタはつくれると僕は思うんです。ポイントは、その人の個性をベースにすること。たとえば、男性か女性か、明るい性格なのか静かな性格なのか、そういうわかりやすい要素を取り出してネタをつくる感じですね。僕の場合、いちばんわかりやすい個性が、法律に詳しいことだったというだけなんです。
どんな人でもネタをつくることができるとは、意外です。
こたけさん
静かな人がそれらしくないことを言ったり、逆に、明るい人がそれらしくない行動をしたりとか、予想と違う展開になると笑いが生まれます。苦手なことが笑いのフリになったり、その人のキャラとして活かされたりするんです。
その気になれば素人でも笑いはつくれると?
こたけさん
そう思います。それに、対人コミュニケーションという点で、お笑いと人事職は共通しているような気がします。どちらも、人に向き合っていく仕事なので相手に伝わりやすい言葉を選ぶ力が必要ですよね。
緊張感があるビジネスの場を和ませる方法
では、人事職をはじめビジネスの場で使えるお笑いやユーモアのテクニックがあれば教えてください!
こたけさん
みんなが思っているけれど口にしないことをあえて言う、というお笑いのテクニックは、ビジネスの場でもやりやすいかもしれません。たとえば、取引先と打ち合わせをしているときに、言いづらくても、「この部屋、ちょっと暑すぎて、選択ミスですよね」とか、「背中の温度が上がりすぎて、集中力なくなってきました」とか、あえて言っちゃう。
あっ、すみません(笑)。実際、この部屋、日差しが強すぎてすごく暑いですね。でもそうやって「選択ミス」とビジネス風に表現したり、「背中の温度」と具体的に言ったり、本気ではなく、あくまで笑いとして伝わるように表現しているからおもしろいのでしょうか。
こたけさん
言い方は大切ですね。共感の笑いとも言われますが、みんなが潜在意識レベルで思っていることを言語化するとつい笑ってしまう。これはお笑いの世界ではよく使われる手法で、いわゆる“あるあるネタ”と同じ原理ですね。
さっきの例は環境をネタにしましたが、自虐的なことを言うのも効果的です。「今日すごいダサい服着てきちゃって、よく見たら靴下も左右違うんです」と言えば、場が和むかもしれません。
プライベートでも和ませるために笑いをとることはありますか?
こたけさん
緊張感のある場では、どうしても空気を和らげたくなります。まさに、初対面で取材を受けている、いまのような状況とか。冒頭で「取り調べじゃないですよね?」とボケましたが、張り詰めた感じが嫌で、アイスブレイクをしたくなるんです。
それは、“お笑いチャンス”だとも思っています。緊張が緩和されると笑いが生まれるので、緊張感がある場は笑いをつくりやすいんです。
「取り調べ」が思わずクスッときたのは、比喩の妙でしょうか?
こたけさん
「本名聞かれることないですよ、ふつう」とそのまま指摘するのもよいのですが、「取り調べやないねんから」と比喩を使うと、さらにおもしろくなるのではないかと思いますね。

笑いやユーモアが仕事にとってプラスになる場面
笑いを交えて場を和ませることで、今回のような初対面の場はもちろん、交渉や商談などフォーマルな場でもコミュニケーションがスムーズになりそうですね。
こたけさん
人事などのバックオフィスの仕事は、きっと社内でのコミュニケーションが重要ですよね。それなら、担当者が話しやすい雰囲気をもっているかどうかは大事です。
たとえば、いつも怖い顔で真面目なことしか言わない人には話しかけにくいけれど、ふだんから冗談を言ったり、ふざけたりする人には周りも話しかけやすくて、関係構築がしやすい。すると、ちょっとした雑談のなかから仕事に必要な情報が集まりやすくなるかもしれません。
社員の満足度やモチベーションを把握したり、労働環境や福利厚生の改善点を探ったりと、人事職では日常的に情報を収集し、それをもとに施策を考え、実行することが求められます。そう考えると、話しやすい雰囲気をつくり、社内で信頼関係を築くことは仕事にとって大きなプラスになりそうです。
こたけさん
たしかに!ほかに人事職の方々がコミュニケーションに悩むのって、具体的にどんなシチュエーションなんでしょうね。
会社の制度変更やお給料にかかわる話は、とくにデリケートかもしれません。人事がすべてを決めているわけではありませんが、社内へのアナウンスをしたり、質問を受けたりするシーンも考えられます。
こたけさん
ときには嫌なことを言わなきゃいけない場面もあるってことですよね。そんなとき、お笑いの現場ならあえて“開き直る”というのも一つの手段だったりします。悪者になりたくないからと、つい「わかりますよ」とか言いながらまどろっこしく説明しがちじゃないですか。そうではなく、逆に悪役として振る舞うんです。ビジネスの世界で通用するかどうか、ちょっと微妙ですけど(笑)。
つまり、予想外に強気な発言をして、笑いを誘うということですか?
こたけさん
「これはもう僕が全部決めたんで、お前らは従ってください」みたく、あえて“スーパーワル”に振り切ってしまえば、「最悪やな、お前!」って、お笑いの世界なら突っ込んでもらえます。あとは、「文句あるなら、もうここに全員投書してください!」って、ガス抜きの場所を用意するとか。
そこまで振り切った人事担当者がいてくれたら、社内の雰囲気がよくなりそうです(笑)。実際に、こたけさんが弁護士のお仕事をされるとき、クライアントとの関係を構築する際に意識している笑いやユーモアはありますか?
こたけさん
弁護士の仕事の時は全くユーモアを出さないです(笑)。
やはり紛争を扱っている現場でユーモアを出すことには相当なリスクがあります。出すとすれば依頼者と何年も関係を続けて信頼関係が築けているとか、事件がうまく解決したような場面だけですね。
ユーモアが常に有効なわけではなくて、それが合わない場所では堅実に仕事に取り組む方が信頼関係は構築できると思います。逆に普段、堅実に仕事に取り組んでた人がその仕事から解放されたときに魅せるユーモアってめちゃくちゃ破壊力ありますよね。

メール、悪口……笑いの注意点
こたけさん
最近はビジネスでのコミュニケーションも、オンラインが多いですよね。その場合、メールなどのテキストだけで笑わせるのは難しいです。ふざけて言ってるのか、マジなのか、空気感が伝わらないんですよね。
メールで笑いをとろうとするのは、やめておくほうが無難ということですね。
こたけさん
それがよいと思います。そのほかですと、人を下げるような発言、ディスって笑いをとるのはかなり難易度が高く、“悪口のお笑い”は本当に難しいので要注意です。あと、場のテンションから外れすぎると笑いづらくなるので、テンションは保つのは大切ですね。
そういった点に気をつければスベリにくい、と。
こたけさん
でも、もしスベってしまっても、スベったことを素直に認めればよいだけです。スベって変な空気になったら、「変な空気にしちゃってすみません」と言えば、“共感の笑い”が生まれます。
なるほど! とはいえ、いままで社内でふざけたりしてこなかった人が、急に笑いをとるというのもなかなか勇気がいりそうですね。
こたけさん
人とのコミュニケーションのなかで笑いをとるのは、タイミングが求められたりするので、急には難しいかもしれません。でも、自分の失敗談やダメな部分を見せる“自虐ネタ”なら、比較的始めやすいと思いますよ。笑い話の雰囲気で、冗談っぽく話すとよいです。かっこつけず、自分を大きく見せようとしないことがコツです。
プライベートな話を交えることで、相手との距離も縮まりそうです。
こたけさん
ちょっとふざけたり、ユーモアがあったりする人のほうが、余裕があるように見えて信頼を得やすい気もするので、ビジネスにお笑いを取り入れてみるのもよいかなと思います。もちろん、ちゃんと仕事していることが大前提です。仕事してないのに笑いだけとりにくるヤツは、どうしようもないです(笑)。

それはそうですね(笑)。楽しく、それでいてとても有意義なお話をありがとうございました。こたけさんは今後、どのようなことに挑戦される予定ですか?
こたけさん
最近、60分の漫談ライブ『弁論』を始めたんですが、評判がよいので、もっと流行らせたいですね。『弁論』は、芸人がマイク1本で観客に語りかけるスタンダップコメディのようなスタイルのライブです。スタンダップコメディは世界的に人気がありますが、日本では発展途上のジャンルです。笑いがマニアックではなく、ふだんお笑いを見ない人でも親しみやすいので、お笑いの裾野を広げるためにもこれからがんばっていきたいです。
(取材・文/杉原由花、POWER NEWS編集部、写真/横関一浩)

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