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一人ひとりに寄り添う設計。候補者から選ばれるための「ひとつなぎの体験価値」とは

公開日

この記事でわかること

  • 新卒内定承諾後辞退ゼロを実現した具体的施策
  • 従業員の離職率大幅改善につながった人事部の取り組み
目次

少子高齢化社会が加速する今後、人材確保を重要課題としている企業も少なくありません。本連載企画「採用成功の極意」では、母集団形成、面接、内定後フォローなど、採用に関するあらゆる場面の採用成功につながる施策・アイデアをご紹介。

第2回目は、幼稚園・保育園・小中高校の写真掲示販売の工程をDX化するサービス「はいチーズ!」を展開する千株式会社が、採用活動において「新卒内定承諾後辞退ゼロ」「従業員の離職率大幅改善」を成し遂げた背景に迫ります。

  • 松澤 俊明さん

    千株式会社 執行役員 CHRO 

  • 徳山 彩子さん

    千株式会社 人事部 採用・教育グループ マネージャー

目指すは「採用を通じ事業を牽引する人事」。
事業側との連携を重視

御社の人事が目指すところは、単なる採用KPIの達成ではなく、事業に直結する採用だと伺いました。まずは、採用のテーマやコンセプトをお教えください。

松澤さん

大きなテーマとして「事業を人事から推進する」ことを掲げています。

私自身が事業側出身の人材ということもありますが、会社にとって最も重要なことは、事業がうまく回り成長していくことだと考えてます。そのために大事な要素の1つが人事戦略や採用です。

ただ、採用は事業側がリードすべきで人事側はそれに従えばよい、とは考えていません。採用は経営上の重要な意思決定ですので、むしろ採用のプロとして、採用を通じて人事が事業を引っ張ってもよいのではないか、という思いがこのテーマの根底にはあります。

弊社の人事メンバーは、自分の担当する採用活動にオーナーシップをもって取り組み、「候補者を紹介したあとは現場にお任せ」としてはいません。書類選考から面接、内定、そして入社に至るまで人事側の担当者が引っ張っていくかたちをとっています。

日ごろから事業側との関係性づくり。組織課題の解決にともに取り組む

人事が引っ張る採用活動においては、具体的にどんなアクションをとっていますか?

徳山さん

新入社員に対しては、新卒・中途問わず入社1か月後・3か月後・6か月後のフォローアップ面談と、導入研修を人事で実施しています。

面談の内容は、関係構築のために雑談をすることもあれば、業務上の悩みや、周囲に相談しづらいことを抱えていないか聞くこともあります。

とくに中途入社で大きく環境が変わった方は、悩んでいらっしゃることが少なくありません。期待に応えなければというプレッシャーから、直属の上司には相談しづらいケースもあるので、人事と現場のマネジャーが一緒になって改善していくことを重視しています。

また、採用活動へフィードバックする観点からも、入社前後でのギャップを感じていないかも重点的にモニタリングしています。

徳山さん

日常業務としては、各事業部長とマネジャーを交えて月1回の定例ミーティングを実施しています。弊社は4つの事業があるので、毎週どこかの部署とミーティングをしている計算です。

一般的な採用活動は、事業部側のリクエストを採用要件に落とし込むことから始めると思いますが、定例ミーティングではまず「今、組織はどんな状況なのか」「事業上の課題は何なのか」という、採用が必要となる背景からしっかり押さえにいきます。

たとえば、事業側から「メンバー構成が若手に偏っているので中間層を入れたい」というリクエストがあったとすると、

  • 今いる若手にはどんなタイプが多いのか
  • それに対してどんなタイプの中間層が必要か
  • グイグイ引っ張るタイプがよいのか、それとも傾聴タイプがよいのか
  • 数字を追える中間層が少ないとしたら、管理能力より突破力があった方がよいのでは

といった具合に、けっこう細かい部分まで議論します。そのうえで、採用市場のトレンドを踏まえ「こういう採用要件ではどうですか」という提案をします。

組織課題まで踏み込んで話せる関係性を構築されているのですね。

徳山さん

個人的に、事業側から頼ってもらえる人事になりたいという思いはずっともち続けています。

採用活動や面談を通じて得られた情報のなかから改善につながるものは、本人に同意をとったうえで、しっかりと事業側へフィードバックするようにしています。

そうすると、事業側からも「新しく入った人はこのように活躍している」「前回はこういう人が入りこんな変化が生まれたから、次はこんな人がジョインするとよいと思う」という反応が返ってきて議論が深まる感じですね。

ミーティングでディスカッションする目的は「事業をより推進していくため」なので、そこは事業側と共通認識としてもてているのではないかなと思います。

結局は、こうした地道な積み重ねで関係性がつくられていくと思います。たとえば、リモートが増えたからこそ出社時はしっかりあいさつするとか、さまざまな人とランチをご一緒させてもらうとか、日ごろから意識して行動するようにしています。

入社前後での「体験価値の提供」が
内定辞退ゼロ、定着率改善へつながる

新卒承諾後内定辞退ゼロと離職率大幅改善を成し遂げた「採用の極意」をどのように松澤さんはお考えですか?

松澤さん

私たちが採用活動で大切にしているのは「体験価値をしっかりつくっていく」ことです。

「内定承諾から入社までの間に、候補者はどのようなことを考えるだろう」「新入社員は入社後にどのような心配があるだろう」をチームのなかで何度も話し合い、各段階に応じた施策を打つようにしています。

入社までの、いわゆる「採用体験価値」はどの会社も考えてやっていると思いますが、私たちは「入社後体験価値」まで含めて、ひとつなぎで考えることを大切にしています。

候補者一人ひとりのインサイトに合わせた設計で入社動機を高める

新卒と中途、あるいは採用ポジションによっても求められる体験価値は異なると思いますが、細かく変えているのですか?

松澤さん

基本的には、一人ひとりアレンジした方がよいと思っています。ただ、施策を細かく変えるよりも、ロジ周りでその人に合わせる工夫をするという感じですね。

たとえば、内定者の懇親会開催時には、食事会がよいのか社内ミートアップがベターなのか。時間帯も朝がよいのか夜にするべきか。内定者の人柄に合わせて社内からはこのような人をアサインしようとか、そういった部分はかなり細かく設計しています。

細かな設計をするようになってから承諾率は向上しているのでしょうか。

徳山さん

松澤がジョインした2年ほど前から実施していますが、「人がよくて入社を決めた」と言われる数は明らかに増えました。

以前は、今と比べて人事も条件面を押し出していたこともありますが、入社の決め手として条件面が先に挙がることが多かったです。そこは明らかに変化しましたね。

候補者と現場の社員との魅力的な接点をつくることが、弊社を選んでもらえる決め手になっているのではと思います。

イベントや面接での対応時に、人事側が対応する場合は統一感が取れると思いますが、事業側に対応してもらう場合は人による差が出やすい部分だと思います。どのようにクオリティーを担保していらっしゃいますか?

徳山さん

現在も取り組みの途上ではありますが、「候補者の方がどのような気持ちで転職活動に臨まれているのか」という背景をできる限り伝えていますね。

伝えるためには、まず私たちが候補者の情報を集めておく必要があるので、カジュアル面談の段階から人事も積極的に入り情報を取るようにしています。

カジュアル面談はどの段階で実施していますか?

徳山さん

書類応募の前が多いですね。媒体経由だけでなく、人材紹介会社さん経由であっても、カジュアル面談を設定するケースも少なくありません。

面談では弊社の魅力をお伝えし、意向を上げていただくのはもちろんですが、事業部の情報も極力お伝えするようにしています。「今、事業でこのような課題があり、あなたのこのスキルや経験を生かせると思います」「逆に、この部分はご意向に添えないかもしれません」という話をします。

事業の情報をつぶさにお伝えするためには、先ほど述べたような事業部との日ごろの関係構築と情報収集が欠かせません。

候補者の意向を高めるとともに、事業部に対してもしっかり候補者の魅力を伝えて、お互いにホットな状態にしてからバトンを渡すことが、私たち人事の役目だと思っています。

ある意味で内定承諾後の魅力付けにも近いような動き方ですね。

松澤さん

私たちは、カジュアル面談を「採用シナリオのプランニングの期間」だと捉えています。冒頭で申し上げたように、採用担当者はオーナーシップをもって、一人ひとりの候補者に合わせた選考の進め方を決定していきます。それに対して上長がこうすべき、ああすべきということはほとんど言いません。

その意味では、代表、取締役、私や事業部長も含めて社員全員が「カード」のようなものです。カードを切るタイミングは採用担当者に委ねられていて、どのタイミングで、なんのカードを切れば体験価値が最大化できるのかを考えて意思決定していくという動き方です。

採用時・採用後の「2つのギア」でPDCAを展開

カードの「切り方」は、人事チームのなかでクオリティーコントロールされているのでしょうか?

松澤さん

週1回のミーティングで選考状況を共有して、「このフェーズならこうしたらどうか」「この候補者にはこの人が面接したら合うんじゃないか」というレビューを、候補者一人ひとりに対して全メンバーで実施しています。

当初はすり合わせに非常に多くの時間を使っていましたが、徐々にスピードアップしているので、カードの「切り方」がメンバーのなかで共有されてきたのかなと思います。

営業で言うところの「ヨミ会」に似たような雰囲気ですね。

徳山さん

たしかに営業っぽい感じもあるのかもしれません。

私は以前の会社で営業企画として働いていた経験があります。「現場の人にどう動いてもらうか」「案件の状態をどれだけ正しく把握できるか」という点は人事と営業で似ていると感じますし、フェーズごと数字の進捗を追い、歩留まりが悪い部分があればどう改善するのか考えるのも、人事の仕事にそのまま生きていると思いますね。

先ほど松澤さんが「入社後までの体験価値を考える」とおっしゃいました。「入社するまで」のフェーズは多くの会社で管理していると思いますが、御社ではもともと入社後まで管理されていたのでしょうか。

松澤さん

入社後まで採用担当者がフォローし、そこで得た情報を事業側にフィードバックするという動きを明確な意図をもってやるようになったのはこの1〜2年ですね。

徳山さん

それ以前から入社後のフォロー面談は実施していましたが、当時は人手が足りなかったこともあり、採用担当者以外の人事メンバーが担当するケースもありました。

ただ、面談で率直な意見を引き出すためには、入社前からの関係性があった方がよいのではないかと考え、フォロー面談の体制を変え事業部へのフィードバックサイクルをつくった、という経緯です。

フォロー面談で出てくる話は「リモートワークで上長以外のメンバーと話す機会がない」「目標設定に悩んでいる」など、結局は事業部側のマネジメントでしか解決できないことが多いです。

そのため、本人の同意を取ったうえで必要な情報を事業部長やマネジャーに適切にフィードバックし、共通した意見が多いのであれば人事側の施策で全体としてフォローしています。

そのように体制を変えたのは、たとえば「承諾率が大幅に下落した」などのきっかけがあってのことでしょうか?

松澤さん

なにかに対するリアクションとして始めたわけではなく、あくまで採用活動を改善するにはどうすればよいかを考えた結果として始まったものですね。

採用を改善するためには、事業側から入社後のフィードバックが必要です。

そのために、まずは人事から入社後のフォロー面談で得られた情報を事業部へフィードバックする。そうすると「ここはうまくいっている」「ここは悩んでいる」というフィードバックが返ってくる。それに対してまた、「そういうことなら、このようなキャリアをもつ人材がよいかもしれない」と提案する。

採用のPDCAサイクルを回すために、採用後のPDCAサイクルを回すというような2つのギアをかみ合わせて、お互いを回しているようなイメージかもしれません。

採用を採用だけで終わらせない。
事業との連携が採用ブランディング強化へつながる

2024年以降の採用は、どのようにお考えでしょうか。

徳山さん

現在の会社の成長角度に合わせた人材の重点的な採用が、前年までとの違いですね。

新卒においては採用活動の早期化というトレンドは外せないので、去年まではできていなかったインターンシップの開催なども予定しています。

候補者の一人ひとりに合わせたアレンジや、入社前後をひとつなぎにした体験価値の設計・提供も継続していかれますか?

松澤さん

もちろんです。たしかに工数がかかる部分ではありますが、大切にしているのはどうすればお互いがフィットできるのかという観点です。

採用とはどうしても「このような人材がほしい」という要件が先に決められていて、そこに連れてきた人材をどうはめ込むのかというイメージが強いです。しかし、はめ込もうとしてうまくいかないケースを今までたくさん見てきました。

どんな優秀な人材でも、会社と合わなければ活躍できませんし、せっかく入社していただいたのに、結局辞めることなってしまっては、お互いに不幸です。

そうならないためには、採用の瞬間だけを見たマッチングだけでなく、入社後の体験価値を上げていき、2〜3年をかけてお互いにフィットさせていくことが必要だと思っています。

 「事業を人事から推進する」というテーマに対して、中長期的に取り組もうと考えていることはありますか?

松澤さん

採用ブランディングの強化は必須であると考えています。自分たちの見え方の部分で、正しく伝えることにもっとこだわる必要があると思っています。

具体的には、マーケティング部門と協働してコーポレートサイトと採用サイトをリニューアルしました。

また、当社はテックカンパニーでありながらテック感がもの足りていないという意見もあったので、CTOやVPoEを中心とした開発部門と連携して動き始めているところです。ほかにも福利厚生の整備など、総務・労務的な動きも強化しています。

採用を採用だけで終わらせるのではなく、事業とどう絡めて動いていけるか、組織づくりまでどう貢献できるのかが、採用ブランディングの強化につながり、ひいては「事業を人事から推進する」ことへとつながっていくと考えています。

執筆:藤森 融和
撮影:矢野 拓実

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