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人事異動がおかしい!と言われないために。人事担当者が注意すべき3つのポイント

公開日

この記事でわかること

  • 人事異動の基本の型について
  • 企業が避けるべき人事異動のパターン
  • 「おかしい」と言われない人事異動のポイント
目次

人員配置の最適化は、組織の活性化や業務効率向上はもちろん、個人の成長やモチベーション向上などにも寄与する重要な取り組みです。

しかし、最適化にともなう人事異動が理由なく命じられたり、現部署や異動先に大きな負荷を強いたりすると、会社への不信感や仕事へのモチベーション低下につながります。

本稿では、従業員に「おかしい」と言われる人事異動を避けるために知っておくべきポイントを紹介します。

日本の人事異動はおかしい? 従業員の意識の変化

立ち行かなくなった終身雇用制度

かつての日本では、長期雇用が保証されていたため、企業の都合を優先した人事主導の異動も、従業員に一定受け入れられていました。

しかし、景気の悪化などにともなう雇用形態の変化、働き方をめぐる価値観の多様化によって、終身雇用を前提としたメンバーシップ型雇用が多くの企業で成り立たなくなりました。

公益財団法人 日本生産性本部が発表した「2018年度 新入社員 春の意識調査」では、転職の考え方について「今の会社に一生勤めようと思っている」と回答した人は約半数にとどまりました。若手社員のなかで、一生同じ会社に勤めることが当たり前ではなくなっている現状が伺えます。

このような流れを受けて、従来の転勤をともなう人事異動は、従業員に受け入れられづらくなりました。企業側が従業員の意向や状況を考慮する動きもみられます。

“転勤を含まない”異動命令について「本人の状況・意向は確認するが、原則として拒否権は無い」が49%、“転勤を含まない”異動命令においても43%であることを示す図

(出典:異動、転勤に関する実態調査 ー HR総研

一方で、従業員に人事異動命令の拒否権は原則ないという企業も少なくありません。2021年にHR総研が企業の人事責任者、人事育成担当者に実施した「異動、転勤に関する実態調査調査」では、“転勤を含まない”異動命令は「本人の状況・意向は確認するが、原則として拒否権は無い」が49%、“転勤を含まない”異動命令においても43%でした。

(参考)異動、転勤に関する実態調査 ー HR総研

企業における人事異動の型

企業の人事異動は、主に4つの型に分類されます。

  1. 人事主導型(中央集権型)
  2. 現場主導型
  3. 社員主導型
  4. 玉突き人事

まずは、それぞれの内容やメリット・デメリットを押さえておきましょう。

1.人事主導型(中央集権型)

人事主導型は、経営方針や事業計画や経営方針に沿って、人事部門が主となって人員配置を決定する方法です。かねてから大企業を中心に日本では多く採用されています。

企業側の都合や事情にあわせて、部門を越えた異動や抜擢人事など、柔軟に進めやすいのが利点です。一方、すべての従業員の意向を反映するのは難しいことも多々あります。

2. 現場主導型

現場主導型の人事異動は、店舗や工場などの現場が主体となる方法です。現場状況を把握し、適切な配置を人事部に申請します。申請内容にもとづき配置転換や採用を実施するため、配置後のミスマッチが比較的少ないメリットがあります。

一方で、現場の発言力が強すぎる場合、長期的な経営視点をもって従業員を配置できず、組織の成長や育成が妨げられるリスクもあります。

3. 社員主導型

従業員自身の自己申告や応募をもとに異動を決定する方法です。自己申告制度や社内公募制度、社内FA制度(一定の条件を満たした従業員が他部署に自身を売り込み、異動する)などの例が挙げられます。

従業員のニーズと企業のニーズをうまく重ね合わせられると、双方にとって有益な異動を実現可能です。ただ一方、特定の部門やチームの不足人材を素早く補いたい場合には、時間がかかってしまう方法とも言えます。

実例として、ソニー株式会社では50年以上、社内公募制度(社内募集制度)を実施しています。

4. 玉突き人事

計画的な人事異動とは異なり、急な人手不足解消のために突発的に実施されるのが玉突き人事です。空いたポジションに後任を配置し、後任の欠員をさらに別の人員で埋める方法です。

通常の人事異動よりも迅速に配置転換できる反面、次の理由から従業員の負担が高く、モチベーションや生産性の低下につながる恐れもあります。

  • 引き継ぎが不十分なままの異動
  • 従業員のキャリアへの予想外の影響

以下の記事では、玉突き人事を予防する方法やヒントについて紹介しています。

おかしい!と言われてしまう人事異動のパターン

絶対にやってはいけない人事異動

適材適所の配置のために定期的な見直しや異動は必要です。しかし、就業規則に記載がない、あるいは不当な動機や目的にもとづく異動は、正当性が認められません。また、労使トラブルにつながる可能性もあります。

報復人事、妊娠や出産を理由に閑職へ追いやる異動

気に入らない部下を不当に異動させるのは、絶対にやってはいけない例の1つです。

他にも、個人的な報復を目的とした報復人事は、パワーハラスメントに該当します。妊娠出産を理由に閑職へ追いやるような人事命令は、マタニティハラスメントに当てはまります。

詳しいパワーハラスメントの定義や対策法はこちらで紹介していますので、ぜひ合わせて参考にしてください。

やってはいけない人事異動。重大リスク、モチベーション低下の要因

企業が避けるべき人事異動

企業が避けるべき人事異動についてまとめた図

法律上は問題がなくても、従業員やチーム、部署への負担やモチベーション低下を引き起こしかねない人事異動もあります。以下では、避けるべき例を解説します。

従業員のプラスにならない異動

人員配置を変更する大きな目的の1つは従業員自身の成長です。理由なく過去に在籍した部署へ戻したり、業務内容がほとんど変わらない部署へ異動させたりするのは、従業員のモチベーション低下につながりかねません。


2020年10月に株式会社リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所が実施した「異動とキャリア開発に関する意識調査」。本調査では、人事異動を自身の成長やキャリアにつながる機会として、肯定的に受け取る従業員も半数以上いることがわかっています。

また、従業員が考慮を求める項目として、「勤務地の変更」が上位ですが、そのほかに「これからと今までのキャリア」や「強み・弱み」「保有スキル」が挙がっていました。異動において従業員のキャリア志向や能力、パーソナリティを考慮する必要性が伺えます。

従業員が転勤において考慮を求める項目として「これからと今までのキャリア」や「強み・弱み」「保有スキル」が挙がっていました。異動において従業員のキャリア志向や能力、パーソナリティを挙げていることを示す図

(出典:異動とキャリア開発に関する意識調査 - 株式会社リクルートマネジメントソリューションズ組織行動研究所

企業側としての意図や理由が不明瞭な異動

意図や理由が不明瞭な「何となく」の人事異動は避けましょう。従業員が受け入れづらいだけではなく、人事にとっても異動による成果を測れず、戦略や施策に活かせません。

東京都立大学准教授の西村孝史氏は『企業競争力を高めるこれからの人事の方向性』のなかで次のように述べています。

現場に仕事がある限り異動がなくなることはない。ただし、本当に必要な異動は絞られる(中略)「時期が来たから何となく定期異動する」のではなく、異動することでどこから何を得てほしいのかを把握することから考えるべきである

異動を検討する際には、なぜその異動が必要なのかを明確に言語化しましょう。

本人の希望や事情を一切配慮しない異動

従業員本人の希望する働き方やキャリアに反する異動は、従業員のモチベーション低下や離職、ひいては労使間のトラブルの原因になる恐れもあります。

企業の都合によってやむを得ないケースもあり得ます。ですが、できる限り日ごろから従業員の希望する働き方やキャリアを把握し、異動検討時に考慮しましょう。

異動先の部署、異動元の部署に大きな負荷をかける異動

異動は従業員本人はもちろん、異動先の部署・異動元の部署に一定の負荷がかかります。

異動した本人のスキルが大きく不足している場合、異動先の部署では、オンボーディングや育成の工数を割く必要があります。また、異動元の部署の人手に余裕がない場合、一人の従業員の異動によって、部署のメンバーの負荷が増える可能性もあります。

異動先の部署、異動元の部署にかかる負荷を想定し、必要に応じて人員を補充、業務を調整するなどの対策が必要です。

おかしい!と言われない人事異動のポイント

従業員と企業が納得できる人事異動のために、押さえるべきポイントを紹介します。

ポイント1 ―適切な進め方―

人事異動の適切な進め方の6つのステップをまとめた図

スムーズに人事異動を実施するためには、事前準備が重要です。入念なシミュレーションを重ね、適切な手順に沿って進めましょう。

手順は次に紹介する流れを参考にしてください。

ステップ1:各部署へヒアリングする

まずは、各部署へヒアリングを実施し、現在の人員配置をもとに人員配置表を作成します。人員配置表には、従業員それぞれの人柄やこれまでのキャリアなどもまとめておくと、その後の配置に役立ちます。

ヒアリング結果が揃ったら、事業成長や組織運営の観点から精査し、どの部署に異動が必要か検討をつけます。

ステップ2:必要な人材の要件を洗い出す

組織の現状が可視化されたら、どのような人材が必要か具体的にイメージしましょう。このとき、異動後の業務内容をふまえ、必要なスキルなどを把握しておくと人選がスムーズです。

ポジションごとに求められる実績やスキルは異なりますので、できるだけ具体的に求める条件を洗い出しておくといいでしょう。

ステップ3:候補者を選定する

必要な人材に適する候補者を選定します。この段階ではできるだけ客観的なデータにもとづいた判断が求められます。

組織の活性化や業務効率向上はもちろん大切ですが、従業員の異動希望もふまえた選定を心がけましょう。人事部内の見立てと現場の実情に乖離が生じている可能性があるため、異動候補者をリストアップできたら、対象者と関係部署に相談します。労使トラブルを避けるために、従業員の希望キャリアや働き方なども確認しておくとよいでしょう。

なお、社内公募で候補者を集める場合は、この段階で詳報を公開し希望者を募ります。

ステップ4:内示を進める

候補者が決定したら、正式な辞令交付の前に内示を出します。

直属の上司から異動先や業務内容、異動目的や時期を打診してもらいます。このタイミングで異動は本人にとってプラスになる要素があると十分に説明しておくのが望ましいです。詳しくは後述しますが、内示は従業員の納得を得るために非常に重要なステップですので、慎重に進めていきましょう。なお、内示はあくまで決定事項ではない非公式な情報のため、機密が保たれる場で通知します。

もしも候補者に拒否された場合、強行するのはトラブルのもとになりかねません。拒否の理由をヒアリングし、説得の余地がないようであれば別の候補者を再選定しましょう。

ステップ5:辞令を交付する

対象者に「すでに決定された辞令」として正式に部署や勤務地、職務等を記載した辞令書を交付します。辞令書交付は義務づけられていませんが、「誰にどのような辞令を出したか」明確な証拠を残せるため、異動内容に対して言った言わないのトラブルを避ける効果があります。

先述したとおり、辞令は「すでに社内で決定された人事異動」を伝える通知のため、原則従業員に拒否や取り消しの要求はできません。就業規則で人事権に関する取り決めがある場合、辞令拒否は懲戒処分の対象となる可能性もあります。

ただし、繰り返しではありますが報復人事や不当な異動など、人事権の濫用にあたると判断されれば辞令の拒否が認められるケースもあります。

ステップ 6:異動後はフォローを行なう

異動を実施できたからといって、そこで人事の業務が終了するわけではありません。

配置転換後の業務効率は向上しているか、新しい環境で従業員がストレスをかかえていないかなど、フォローを忘れずに実施しましょう。

ポイント2 ―内示の重要性―

ステップ4で説明した内示の重要性について、詳しく説明します。

人事権が原則企業にあるとはいえ、あまりにも唐突な辞令交付をした場合には、従業員を困惑させてしまう可能性があります。また、内示を出さずにいきなり辞令を出した場合、転居や業務の引き継ぎに必要な準備期間も不足するでしょう。

従業員の生活や負担を考慮しない異動命令は、不満を抱かせるだけでなく業務に支障をきたすおそれもあります。組織全体の業務効率低下に繋がる可能性もあるなど、あらゆる面でトラブルの原因になってしまうのです。

異動を実施する目的や本人が得られるメリットを丁寧に説明し、対象者に受け入れてもらえるような伝え方を工夫しましょう。

ポイント3 ―適材適所の実現―

ここまでのステップに沿って異動を進め、本人の合意が取れた場合であっても人事異動による効果を得られないケースもあります。

そのような場合は、適材適所の人材配置ができていない可能性が考えられるでしょう。適材適所への配置が実施できていない場合、異動後に不満が出る可能性は十分あります。

ステップ6でも説明したように、配置転換後は狙った効果が得られているか確認をし、定期的に人員配置の見直しをしましょう。

異動の必要がなさそうな従業員も含め広い視野で検討する

異動は、組織の活性化や業務効率向上はもちろん、個人の成長やモチベーション向上などにも寄与します。

株式会社パーソル総合研究所が実施した「一般社員層(非管理職層)における異動配置に関する定量調査」では、成長志向や学習意欲、キャリア自律度は、異動経験がある層の方が、ない層と比較して有意に高いという結果が得られました。

成長志向や学習意欲、キャリア自律度は異動経験がある層の方が、ない層と比較して有意に高いことを示す図

(参考)「一般社員層(非管理職層)における異動配置に関する定量調査ー株式会社パーソル総合研究所

定期的な従業員の配置転換は、刺激を与えモチベーションを向上させる効果も期待できます。ジョブローテーション制度や社内公募制度を導入し、中長期的な人材育成が実現できる環境を整えるとよいでしょう。

最新の人事データを蓄積、把握する

異動をはじめ、スムーズな人事業務には正確な人事データが必要とされます。適材適所への配置推進には、従業員の属性情報だけでなく、これまでの実績やスキル、コンピテンシー、キャリア志向なども正確に把握しましょう。目標管理シートや1on1、従業員サーベイなども活用し、最新の従業員データを蓄積しておくのが望ましいです。

コンピテンシーや1on1についてはこちらのページで詳しく解説しています。

タレントマネジメントシステムを活用し、納得できる人事異動を実現

「おかしい」と言われない人事異動を回避するために、意識すべき3つのポイントを紹介してきました。

  • 適切な進め方
  • 内示の重要性
  • 適材適所の実現

これらを実行するには、日ごろから最新の従業員データを収集・蓄積し、組織や従業員の状態を把握する必要があります。それらのデータをもとに入念に人員配置のシミュレーションを実施することで、スムーズな人事異動を実現しやすくなるでしょう。

データを活用した人員配置や異動の検討において有用なのがタレントマネジメントシステムです。なかでもSmartHRなら、従業員データの管理から評価、配置シミュレーション、従業員サーベイまでを1つのツールで完結できます。

SmartHRのタレントマネジメントについてはこちらで詳しく紹介していますので、興味のある方はぜひご覧ください。

お役立ち資料

5分でわかるタレントマネジメント

  1. Q1. 人事異動がトラブルになる理由は何ですか?

    従業員の意向を無視した企業主体の人事異動はトラブルの原因として多いケースです。また、現場の実情とかい離した配置転換もミスマッチやモチベーション低下を引き起こすおそれがあります。

  2. Q2. 人事異動で不満が出ないために重要なポイントは何ですか?

    客観的なデータにもとづいた人選をし、異動目的や本人が得られるメリットについて異動対象者に納得してもらえるような丁寧な説明が重要です。異動後のアフターフォローも忘れないようにしましょう。

  3. Q3. 適材適所を実現するためにはどのような取り組みが重要ですか?

    適材適所の実現には、組織や従業員の現状把握が必要になります。最新の人事データをいつでも参照できるようツールを導入し、日頃のコミュニケーションで得られる従業員の意見も取り入れた配置が望ましいです。

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