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飲食・小売業「人手不足時代」の人事戦略とは?【飲食・小売業、人事カイカク#11】

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こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。

行く先々で、「求人募集してもなかなか応募者が集まらない状況」「人手不足」という声をよく聞きます。飲食業・小売業では、深刻な人手不足の状態の会社も少なくありません。

新聞の記事では、全体の倒産件数は減少しているものの、飲食業などのサービス業中心に「求人難」や「人件費高騰」など人手不足が理由となった倒産が増えているといいます。

人材確保は経営の問題であり、「働き方改革」の潮流は止まることはありません。企業がこれまでの認識を大胆に変えていく必要があります。

連載【飲食・小売業、人事カイカク】の11回目となる今回は、飲食・小売業の働き方改革における、労働者の処遇や育成など「最適な人事戦略・制度設計」について解説します。

「労働条件・労働環境」の改善、3つの対策

労働者の長時間労働でなんとか売上をもたせている企業は、いち早く働き方改革に取り組み、労働条件・労働環境を改善する必要に迫られています。

さもなくば、従業員満足度の低下から離職に繋がり、ひいては賃金や労働負荷の面で条件がよい同業他社や他業種に人材が流れ、企業競争力の低下を招きかねません。

人手不足の状況下では、人材定着や採用競争力を高めるべく、労働条件と労働環境整備にいつも以上に配慮し、魅力的な企業づくりによって労働者から選ばれる必要があります。

【その1】長時間労働の是正

真っ先に取り組むべきは、働き方改革関連法対応等のコンプライアンス視点も含めた「長時間労働」の是正です。

長時間労働是正のサイクル

長時間労働の是正のため、働き方・休み方の観点から、以下のサイクルで、少しずつでも長時間労働を削減していきましょう。

  1. 現状把握
  2. 分析
  3. 原因の追究
  4. 目標
  5. 具体策
  6. 実行
  7. まとめ・効果測定
  8. 現状把握
  9. (以降繰り返し)・・・

以下の記事もご参照ください。

飲食・小売業における「働き方改革改革法と長時間労働」

働き方改革関連法のうち、長時間労働是正に関する領域で、とりわけ飲食・小売業にとってハードルの高い項目が複数施行されます。

■ 時間外労働の上限規制

施行時期:大企業は2019年4月1日~、中小企業は2020年4月1日~

■ 月60時間超の残業の割増賃金率引き上げ

施行時期:大企業はすでに適用済み、中小企業は、2023年4月1日~

中小企業については猶予期間がありますが、今から取り組むことをオススメします。
長時間労働是正の対策は、先に述べた是正サイクルの「現状把握」に始まり労働時間の削減という結果がでるまで、相当な時間がかかるからです。

■ 「5日間の年次有給休暇の取得」が義務化

施行時期:すべての企業で2019年4月~

厚生労働省による平成30年の調査では、飲食・小売業は年次有給休暇の取得率が他の業種と比べて低く、「宿泊業,飲食サービス業」で32.5%、「卸売業,小売業」で35.8%とワースト1・2の結果です(下図参照)。
年次有給休暇の取得は、業界的に人手不足の状況下でとりわけ難しい問題ですが、休日を増やすことは長時間労働の是正につながります。人手不足だからこそこの課題にメスを入れ改善をはからなければ、「人手不足と労働条件・環境悪化」の悪循環は断ち切れないでしょう。

第5表 労働者1人平均年次有給休暇の取得状況状況

出典:厚生労働省「平成 30 年就労条件総合調査の概況

【その2】「限定正社員の導入」など多様な働き方を推進する

限定正社員とは、職務内容や勤務地、労働時間を限定した正社員で、期間の定めがなく、おおむね通常の正社員と同等の待遇の正社員のことです。名称は、「職務限定社員」「勤務地限定社員」「短時間正社員」などがあります。

政府も、正規か非正規かという二極化された働き方ではなく、多様な働き方として推進しています。

フルタイムで、残業や転勤もできる正社員を多く確保する時代は終わりをむかえています。「ダブルケア問題」が叫ばれるように、近い将来、育児や介護などさまざまな事情を抱えた労働者の方が増加する状況になると考えられます。

これからの生き方や働き方を考えるにあたり、「育児/介護/病気治療」とともに「仕事」を両立させるためにも、限定正社員は導入を検討したい選択肢のひとつです。

【その3】効率的な人事労務管理体制の構築

一方で、多様な働き方は労働者の事情に合わせた労働条件であり、人事労務管理が複雑化します。

労務手続きや労働条件、人事評価、勤怠管理など、労働者一人ひとりに合わせた細やかな人事労務管理は、今後さらに必要となるでしょう。

複雑化する人事労務管理に対応する上でも、効率的な管理体制構築が求められます。

パート・アルバイトの戦力化と「同一労働・同一賃金」

飲食・小売業では、パート・アルバイトは事業所の全労働者の6~9割を占めており、パート・アルバイトは大切な戦力です。彼らが労働条件や待遇に納得感を持って働いているかどうかは企業にとって重要になります。

「同一労働・同一賃金」の施行は2020年4月から(中小企業については2021年4月から)ですが、パート・アルバイトなど非正規雇用労働者を多く雇用する飲食・小売業においては、今から積極的に対策しておきたい事項であり、法施行を見据えた人事制度設計、制度導入を検討しましょう。

※「同一労働同一賃金」は、同一企業・団体におけるいわゆる正規雇用労働者(無期雇用フルタイム労働者) と非正規雇用労働者(有期雇用労働者、パートタイム労働者、派遣労働者)の間の不合理な待遇差の解消を目指すものです。

「同一労働・同一賃金」の確認・整理フロー

まずは、自社の労働者について、正規雇用労働者と非正規雇用労働者(パート、アルバイトなど)の雇用形態別の待遇がどのようになっているか現状を整理します。

次に、どのような待遇差が不合理であるか、否かを示した「同一労働同一賃金ガイドライン」を確認します。このガイドラインは2018年12月に厚生労働省告示(指針)として規定されました。

「同一労働・同一賃金の原則」に反するか否かは、各企業の個別事案に応じて判断されるものですが、このガイドラインであらかじめ予測することができます。これを元に、労働者の待遇の見直し、就業規則への規定など、「同一労働・同一賃金」を見据えた制度を施行日までに導入します。

例えば、諸手当において、正規雇用労働者と非正規雇用労働者(パート、アルバイトなど)の間に格差がある場合、非正規雇用労働者に正規雇用労働者と同様の手当を支給する、または正規雇用労働者への手当支給を縮小・廃止するなど検討します。

「同一労働・同一賃金」対応時の注意点

注意しなければならないのは、正規雇用労働者については、これまでの労働条件よりも引き下げられる場合「不利益変更」となる点です。

就業規則の変更により労働条件を変更するときは、他の労働条件もあわせて総合的に「合理的」であるか、慎重に判断することになります。簡単に労働条件を引き下げられるわけではありません。

厚生労働省は、「基本的に、労使の合意なく正社員の待遇を引き下げることは望ましい対応とは言えない」としています。

人材育成・スキルアップ

正社員、パート・アルバイトなどの雇用形態に関わらず、すべての従業員に対してOJT(職場での実務指導・研修)とOFF-JT(座学などの研修)をうまく組み合わせて、レベルに合わせた訓練を実施するなど、スキルアップを図り、生産性を高めることが重要です。

人材育成に注力し、従業員のスキルはもちろんエンゲージメントを高めることで、離職防止に繋がります。また、キャリアマップなどで昇進昇格が目に見える形で提示されると、モチベーションアップにもつながります。

先に述べた「同一労働・同一賃金」にも関連して、正規雇用労働者と非正規雇用労働者との待遇や教育制度を接続しておくと、パート・アルバイトの方を正社員に転換する際(正社員登用)にスムーズに移行できるでしょう。

まとめ

長時間労働→スタッフ離職→スタッフの負担増→長時間労働……という、負のスパイラルは簡単に改善できるものではありません。

しかし、働き方改革をきっかけに、最適な人事戦略・人事制度を導入することで、働きやすい企業づくりを実現し、より魅力ある職場にしていただければ幸いです。

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