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人事労務改革で会社の「働き方改革」を後押ししよう【飲食・小売業、人事カイカク#08】

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こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。

17年間の飲食業現場経験から、【飲食・小売業、人事カイカク】というテーマの中で、「飲食業・小売業」の人事労務を改革し、バックオフィスから経営を強めていくためのヒントを探り、提供する当連載。

前回まで、働き方改革を進めるための土台づくりに必要な「人事労務の基礎知識」を解説いたしました。

これまでの内容をお読みいただき「人事労務管理を徹底したいのは理解できたが、そこまで手が回せていない。とはいえ改善できないと人材が離れていってしまう……。」というジレンマに悩んでいる方もいらっしゃるかもしれません。

現に飲食業・小売業は、パート・アルバイトの流動性が高く、労務管理における手続きや作業が比較的多い業界といえます。一方で、店長や店舗社員には労務管理業務を最小限にして、店舗運営や販売に注力してもらいたいという会社の意向もあるでしょう。

そこで、今回は飲食業・小売業が本格的に「働き方改革」を進めるためのポイントを以下3つ挙げます。

(1)経営トップ・管理職の意識改革

経営トップは、自社の「働き方改革」についてメッセージを発信し続けることが大切です。

これまでのやり方を刷新し、業務改革していく過程においては、労働者からの反発が起きやすいものです。本気になって働き方改革に取り組む姿勢を、経営者自ら見せないことには、労働者が本気になって取り組むことはないでしょう。

とはいえ、経営者のメッセージだけでは不十分です。要となるのは実際に現場を握る「(中間)管理職の意識改革」です。店長もここに含まれるでしょう。

管理職の方で、以下のような例に当てはまる場合、社員の本気を引き出すのは難しいと考えられます。

  • 業界の特性だからと、残業を前提とした労働時間や働き方を強いていませんか?
  • テキパキ仕事を終らせる社員より、長時間残業をする社員を評価していませんか?
  • 上司が帰らないために帰りづらい雰囲気になっていませんか?

経営者が本気にならなければ、管理職は動かせません。管理職が本気にならなければ、現場は動かせません。

これまでの常識にとらわれず「働き方」を改革していくには、会社と労働者の相互の信頼関係が必要になります。

経営者はもちろん管理職の意識改革が重要です。

(2)クラウド人事労務での一元管理・業務標準化

実際に働き方改革施策を進めていくにあたっては、働き方改革関連法など、法改正の情報等も踏まえ方針を決定する必要があります。

しかし、従来方式では大幅な業務改善にはつながらないどころか、労務管理部門の負担が増え本末転倒になりかねません。

そのため、労務管理のやり方自体を改革する必要があります

特に、売上に直結しない間接部門(本社機能)においては、棚卸しや業務効率化によって非生産的な作業を極力削減したいものです。

非生産的業務の見直し

これまで、慣習的に行っていた作業も、引き続き実施する必要があるのか棚卸ししましょう。

上司への報告や会議資料の作成などにおいて、作業の一部でも削減はできないでしょうか。

そもそもレポート作成することなく、自動でレポートを可視化できないでしょうか。

属人化・点在化した人事労務の見直し

従業員情報や勤怠データなど、人事情報を担当者だけが把握している状態(属人化)は避けましょう。

中小企業においては、下記のような煩雑な管理方式であることが多く、人事情報の属人化や点在化を招きがちです。

  • 手書きの出勤簿
  • 物理的に打刻する紙のタイムカード
  • エクセルで管理された従業員情報

特に、紙ベースでの作業は属人化しやすく、手作業のため時間がかかります。

業務を改善する「クラウド人事労務」の登場

これらの課題解決でお勧めしたいのが、ITツールやクラウドサービスの活用です。

最近は、パソコンやタブレット、スマホから利用できるクラウド型の人事労務ソフトが多く登場しています。

例えば、下記のような人事労務にまつわる基本的なオペレーションを効率化可能です。

  • 従業員情報の収集
  • 社会保険手続きの書類作成
  • 役所への電子申請
  • 人事データ管理
  • 勤怠管理(タイムカード打刻)
  • 給与計算
  • 年末調整
  • 人事評価管理
  • etc…

これらクラウド人事労務ソフトは直感的に操作でき、労務に関する知識や経験の少ない従業員でも操作しやすいように徹底されています。

また、労務管理のほかに、

  • チームのスケジュール管理
  • 顧客管理
  • POSレジ・オーダー端末・売上管理
  • 発注・在庫管理
  • シフト表作成
  • (アルバイトからの)シフト希望収集

など、業界の特性にあわせた機能を備えているサービスや、“そのようなサービスと連携している”サービスもあります。

費用面では、クラウド型の労務管理ソフトの多くが、初期導入費用がかからずまた、従業員1人につき月額300円~600円程度など、中小企業でも比較的導入しやすいサービスが多いです。

これならば、インストール型のサービスと異なり、初期導入コストや運用コストを低く抑えて、各企業に適したサービスを選択可能です。

更に、機能アップデートの際も、買い直しやインストールし直しの必要がないのもクラウドサービスの強みです。特に、法律や税率など細かい改正の多い人事労務領域においては、ありがたい特徴です。

(3)労働者もメリットを享受できる働き方改革を

経営者や管理職の意識改革が重要なのは先述したとおりです。しかし、経営者や管理職からの一方的な働き方改革では、全社を巻き込むには不十分。現場スタッフを巻き込んでいく必要があります。

しかし「働き方改革」においては、会社と従業員間でどちらかが得をすればどちらかが損をしてしまうような、“トレードオフの関係”では現場スタッフを巻き込むのは難しいでしょう。

残業をしなければ、残業代が発生しないのは当然ですが、業務効率化に取り組み労働時間削減に成功した結果、その労働者の本人の給与額がダウンしてしまうのは、得策とはいえません。労働者にとってデメリットが先行してしまい、業務効率化や労働時間削減に対するモチベーションを引き出せないためです。

その対策として「働き方改革」による生産性向上(「労働時間の削減」「成果向上」など)への対価として、基本給UPや賞与支給などでの還元が有効です。

会社側のメリットだけでなく、労働者も「働き方改革」のメリットを享受できるような仕組みの設計が求められるでしょう。

まとめ

「働き方改革」は、これまでの働き方を抜本的に見直し、生産性向上や長時間労働の是正、休み方改革、多様な働き方の実現などにつなげる、新時代への改革です。

中でも「長時間労働の是正」は喫緊の課題となっています。これまでの業務フローに固執することなく、自社のニーズに合ったITツールやクラウドサービスを活用によって、労務管理から改革していくのが良いと考えられます

効率化された丁寧な労務管理が“会社の働きやすさ”をもたらし、ひいては人材確保・人材定着化にも繋がっていくことでしょう。

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