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飲食・小売業が対応すべき「働き方改革関連法」の優先事項【飲食・小売業、人事カイカク#10】

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目次

こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。

この連載のテーマと大きく関連する「働き方改革関連法」について、施行まであと4ヶ月あまりとなりました。

なぜ今「働き方改革」が必要なのか、改めて意義と基本的な考え方をおさらいし、新法で対応すべき事項について理解しておきましょう。

「働き方改革」の意義と基本的な考え方

日本が直面している「少子高齢化、生産年齢人口(15〜64歳)の減少」という構造的な課題に対応するため、政府は「一億総活躍社会の実現」を目指しています。

その中でも、「働き方改革」は、単なる労働制度の改革ではなく、「日本の企業文化」「日本人のライフスタイル」「日本の働く」に対する考え方そのものを変える社会的改革として、労働参加率の向上や労働生産性の改善によって、企業収益力の向上、個人の所得拡大、国の経済成長につなげる、日本経済再生のための最大のチャレンジであると位置付けています。

そのため働き方改革には、「働く人々の視点で、多様で柔軟な働き方を自ら選択できるようにするための改革」という側面があります。つまり、インプット削減の観点から長時間労働の是正にばかり目を向けるだけでなく、アウトプット最大化の観点から、より多くの成果を生み出すべく、働きやすく働きがいのある環境づくりも含めた、本質的な労働生産性向上への取り組みが求められます。

2019年4月以降、順次施行される「働き方改革関連法」

2019年4月1日以降、働き方改革関連法が下記のように順次施行されます。中小企業においては猶予期間のあるものも多いのですが、中には猶予期間が無く、対応待ったなしの項目もありますので要注意です。

働き方改革関連法における「中小企業」の定義

働き方改革関連法における「中小企業」の定義は下図のとおりです。
(この①②に当てはまらない企業は「大企業」に該当します)

中小企業の定義

出典:厚生労働省京都労働局「働き方改革関連法の主な内容と施行時期」より抜粋

なお、本連載で対象にしている「飲食業・小売業」で絞ってみると、「資本金 5,000万円以下」「労働者数 50人以下(小売業) / 100人以下(飲食業;サービス業)」が「中小企業」として扱われることになります。

施行期日:2019年4月1日〜 の働き方改革関連法

  • 年5日間の年次有給休暇の取得義務化
    ※ 中小企業の猶予はありません。
  • 時間外労働の上限規制
    ※中小企業は、2020年4月1日~
  • 月60時間超の残業の割増賃金率引き上げ
    ※中小企業は、2023年4月1日~
  • 「勤務間インターバル」制度の導入促進
  • 労働時間の客観的な把握(企業に義務づけ)
  • 「フレックスタイム制」の拡充(3ヶ月のフレックスタイム制)
  • 高度プロフェッショナル制度を創設
  • 産業医・産業保健機能の強化

施行期日:2020年4月1日〜 の働き方改革関連法

  • 「同一労働同一賃金」の原則
    ※中小企業は、2021年4月1日~

飲食・小売業における「働き方改革関連法」3つのチャレンジ

この連載の第1回では、「飲食業・小売業」が抱える現状の人事課題として、次の4点を挙げました。

  • 深刻な人材不足
  • 非正規労働者への依存度の高さ
  • 待遇(給与・労働条件)が厳しい
  • 離職率が高い

このような状況を踏まえると、飲食業・小売業にとっての「働き方改革関連法」における大きなチャレンジとして、次の3つが挙げられます。

  1. 年5日間の年次有給休暇の取得義務化
  2. 時間外労働の上限規制および月60時間超の割増賃金率引き上げ
  3. 「同一労働同一賃金の原則」

(1)年5日間の「年次有給休暇」取得義務化

2019年4月1日より、年10日以上の年次有給休暇が付与される労働者に対して、年5日については、使用者が時季を指定し取得させることが必要になります。施行時期について、中小企業の猶予はなく対応待ったなしです。

年次有給休暇の時季指定義務

時季指定義務のポイント

出典:厚生労働省「年次有給休暇の時季指定義務」より抜粋

これまで、年次有給休暇は、労働者の申出による取得が原則でした。しかし、ただでさえ人手不足。上司、同僚などに気兼ねして、なかなか年次有給休暇を取得したいと言いづらい職場が少なくないのが現状です。

そのため、労働者ごとに、年次有給休暇を付与した日から1年以内に5日について、使用者が取得時季を指定し、年次有給休暇を与える必要があります。
(年5日以上取得済みの労働者については、時季指定不要です)

また、労働者ごとに「年次有給休暇管理簿」を作成し、付与日(基準日)、付与日数、取得日、時季指定した日などを明確にしておく必要があります。この管理簿は3年間保存しなければなりません。

年次有給休暇の取得状況。飲食・小売業はワースト1、2

平成30年就労条件総合調査結果によると、平成29年の年次有給休暇の取得率は全体で51.1%、1人あたり平均9.3日でした。

労働者1人平均年次有給休暇の取得状況

出典:厚生労働省「平成30年就労条件総合調査 結果の概況」6頁 第5表 労働者1人平均年次有給休暇の取得状況より抜粋

これを産業別に抜き出すと、以下のとおりです。

  • 「卸売業、小売業」
    1人あたり取得率 35.8%、1人あたり取得日数6.5日
  • 「宿泊業、飲食サービス業」
    1人あたり取得率32.5%、1人あたり取得日数5.2日

つまり、全業界と比較した際にワースト1、2の状況です。

年次有給休暇が比例付与される「アルバイト・パート」にも要注意

今回の改正では、正社員のみならず、正社員と同じ程度に働くフルタイムの非正規雇用労働者も、年10日以上の年次有給休暇を付与する対象であり、義務化に際して注意が必要です

更に、働き方改革で年次有給休暇の取得について注目されているためでしょうか、最近では、パート・アルバイトの方から年次有給休暇の取得が申し出されたというのは、よく聞く話です。

正社員と比べ所定労働時間が短いパート・アルバイトであっても、同じ労働者です。所定労働日数、時間数に応じた年次有給休暇を比例付与する必要があります。所定労働時間と勤続年数によっては、年10以上の年次有給休暇が付与されるため、こちらも年5日取得義務化に際して要注意です。

なお、比例付与については、人事労務の基礎知識 ~勤怠・休日・休暇編~【飲食・小売業、人事カイカク #06】のQ.5およびA.5を参照してください。

(2)時間外労働の罰則付き上限規制

労働者に1日8時間、1週40時間を超えて残業させるためには、36協定を締結し、労働基準監督署に届け出をする必要があります。

これまで、残業時間について、大臣告示による上限(基準)はありましたが、法律上では上限はありませんでした。

しかし「法律」として格上げされたことにより、労働基準法の罰則が適用されることになります。
(労働基準法第32条違反で、6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金)

36協定で締結可能な時間外労働の上限

時間外労働の上限の原則は、月45時間、年360時間です。

臨時的な特別の事情があり、36協定の特別条項を労使で締結し、労働基準監督署へ届け出た場合、上限の例外として、「年720時間」「複数月平均80時間」「月100時間未満」が適用されます。このうち「複数月平均80時間」「月100時間未満」には法定休日労働時間を含むことになります。

残業時間の上限規制

出典:厚生労働省「働き方改革 ~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~」別紙1 ① 残業時間の上限規制 より抜粋

上限に関わらず「安全配慮義務」を負うことに注意

使用者は、労働時間を把握する義務や、長時間労働により労働者の健康を害することがないように、労働者に対する安全配慮義務を負っています。

「長時間労働があたりまえの業界だから」と諦め前提でいるのではなく、労働時間の実態把握や業務効率化、営業時間の見直し、取引環境の改善など、長時間労働を是正するための取り組みを、社内で建設的に検討しましょう。

難しいからこそチャレンジしがいがあり、また改善の暁には他社との差別化要素にもなり、採用競争を高める1つのヒントにもなり得ます。

月60時間超の割増賃金率引き上げ

月60時間を超える残業の割増賃金率50%は、大企業については、現在すでに適用されています。中小企業については、2023年4月から義務付けられることになりました。

先に述べた「残業時間の上限規制」と「月60時間超の割増賃金率引き上げ」により、法令遵守の観点のみならず、時間外労働の割増賃金が負担増となり、残業がコスト的に見合わなくなることも考えられます。

今後、時間外労働の必要が生じた際は事前の許可制にするなど、労働時間の管理や長時間労働是正対策が必要になります。

月60時間超の残業の、割増賃金率引上げ

出典:厚生労働省「働き方改革 ~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~」別紙1 ④ 月60時間超の残業の、割増賃金率引上げ より抜粋

(3)「同一労働・同一賃金の原則」

大企業は2020年4月から、中小企業は2021年4月から、正規雇用労働者(正社員)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者・パートタイム労働者・派遣労働者)の不合理な待遇差をなくすことが求められます。

「同一労働・同一賃金」の規定整備の流れ

自社の正規雇用労働者(正社員)と非正規雇用労働者(有期雇用労働者・パートタイム労働者・派遣労働者)の間に、現状、どのような待遇差があるか確認します。

施行までの残された期間で、各企業において現状の把握、待遇差の検討および就業規則等の整備が必要です。

(1)現状把握

  • 職務内容
  • 職務内容・配置の変更範囲
  • 待遇
    基本給、賞与、役職手当、食事手当、通勤手当、福利厚生、教育訓練など

(2)自社の現状をガイドラインと照らし合わせ、検討する

「均衡待遇」:職務内容、職務内容・配置の変更範囲、その他の事情から、相違を考慮して不合理な待遇差を改善する。

「均等待遇」:新たに有期雇用労働者も支給の対象とする。

(3)「同一労働・同一賃金」ガイドラインを見据えた制度設計を行う

労働者に対する待遇に関する説明義務があるため、待遇内容、待遇差について整理しておきます。

※【参考】「同一労働・同一賃金ガイドライン案」について
どのような待遇差が不合理であるか、否かを示した「同一労働同一賃金ガイドライン案」が2016年12月に策定されています。厚生労働省はさらに議論を重ねて修正および追加され、2018年12月までの年内を目途に厚生労働省告示(指針)として規定する方針です。

同一労働同一賃金に反するか否かは、各企業の個別事案に応じて判断されるものです。

法施行にあたり、厚生労働省のリーフレット等で周知されることになりますので、経営者、人事労務担当者の皆さんは、情報収集しておきましょう。

(1)パートタイム労働者・有期雇用労働者

出典:厚生労働省「働き方改革 ~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~」別紙2 ① 不合理な待遇差をなくすための規定の整備 より抜粋

「労働者に対する、待遇に関する説明義務」とは?

非正規雇用労働者は、「正社員との待遇差の内容や理由」など、自身の待遇について説明を求めることができるようになります。

事業主は、非正規雇用労働者から求めがあった場合は、説明をしなければなりません。

②労働者に対する、待遇に関する説明義務を強化します

出典:厚生労働省「働き方改革 ~ 一億総活躍社会の実現に向けて ~」別紙2 ② 労働者に対する、待遇に関する説明義務の強化 より抜粋

まとめ

飲食業・小売業では、人手不足の影響が出ている事業所もあります。

同業他社よりも「働き方改革」に対する対策が遅れてしまうと、新たな採用が難しくなり、さらには今働いている従業員が、より労働条件や待遇が良い会社へと移って行ってしまう恐れがあります。

リカバリーできない状況になると、人手不足により通常の営業ができなくなってしまうなど経営の問題に直結するでしょう。皆さん、働き方改革の取組みは、もう待ったなしです。

各社がよりよい労働環境の改善に務め、豊かな会社づくりにつながることで、業界、ひいては社会の発展に繋がることを願います。

【編集部より】働き方改革関連法 必見コラム特集

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