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社会保険料の「月額変更届(月変)」の基礎知識。提出要件・記載ポイントは?

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こんにちは。社会保険労務士の山口です。

この春から新たに労務担当になった方もいるかと思います。社会保険の取得・喪失の手続きや報酬・賞与の考え方を覚えたあとは、毎月、給与データを確認し、「月額変更」に該当していないかチェックが必要になります。この月額変更の計算方法や手続きについて確認しましょう。

社会保険料の「月額変更届」とは?

月額変更は、健康保険料や厚生年金保険料の保険料の等級を改定する仕組みです。法律上は「随時改定」といい、一般的には「月変(ゲッペン)」と呼ばれています。

健康保険料や厚生年金保険料は、実際の給与額にそのまま保険料率をかけるのではなく、「1~50等級(厚生年金は1~32等級)」までキリよく区分された月額表に給与を当てはめ、等級に紐づく「標準報酬月額」に保険料率をかけて算出します。

たとえば、東京都の事業所に勤めている従業員の通勤手当を含めた月額給与が「24万5,800円」の場合、19等級(厚生年金16等級)に該当するため、標準報酬月額「24万円」を適用し、この額に料率をかけて保険料を算出します。

東京都の事業所勤務で手当を含めた月額給与が24万5,800円の場合、標準報酬月額は24万円が適用となり、この金額に料率をかけて保険料を算出する

(出典)令和5年度保険料額表(令和5年3月分から) - 全国健康保険協会

標準報酬月額は入社時(資格取得時)に決定され、その後は毎年9月に改定されます(算定手続き)。つまり1年間は、基本的に同じ標準報酬月額が適用されますが、なかには年度途中で昇給や降給で大幅に給与額が変わることもあるでしょう。

給与額が大幅に変わったとき、保険料がかけ離れてしまわないように、標準報酬月額の等級を見直す手続きが「月変」なのです。

月額変更実施の条件

月額変更は、次の3つの条件をすべて満たす場合に行います。

  1. 昇給または降給により、「固定的賃金」が変動した
  2. 給与が変動した月から数えて3か月間に支給された報酬(残業手当などの非固定的賃金を含む)の平均月額に該当する標準報酬月額と、これまでの標準報酬月額との間に「2等級以上の差」が生じた
  3. 3か月とも支払基礎日数が17日以上である(短時間被保険者は11日以上)

上記(1)~(3)の条件をすべて満たした場合、変更後の給与を初めて受け取った月から起算して4か月目の標準報酬月額から改定されます。

条件(1):昇給 or 降給による「固定的賃金」の変動

固定的賃金の変動発生が条件です。残業代などは非固定的賃金なので、月額変更の条件にはなりません。基本給や住宅手当の変動などがきっかけになります。昇給や引っ越しの多い時期は要注意です。また、雇用形態の変更に伴い、時給制から月給制に移行したようなケースも月額変更の対象となります。

近年よくあるのは、在宅勤務手当の導入や、通勤手当の廃止による月額変更です。支給方法を月単位から日単位に変更した場合なども月額変更のトリガーとなります。

条件(2):給与変動後3か月間と従来の標準報酬月額との間に「2等級以上の差」

たとえば4月に変動があり、標準報酬月額に2等級以上の差が出た場合は、月額変更の対象となり、7月分の社会保険料から改定されます。社会保険料を翌月控除している会社であれば、8月支給の給与から、新しい社会保険料等級で徴収することになります。

条件(3):3か月とも支払基礎日数が17日以上

支払基礎日数とは、給料計算の対象となる日数を指します。日給や時給の場合は出勤日数、月給の場合は暦日数でカウントします。

 月額変更届の提出方法

「被保険者報酬月額変更届」を日本年金機構や健康保険組合に提出するか、電子申請で申請します。2等級を超えて大幅に変動する場合などは、出勤簿や賃金台帳を添付することもあります。

法で定める提出期限は「速やかに」となっており、具体的な期日は定められていませんが、届出が遅れれば遅れるほど、保険者(日本年金機構や健康保険組合)が会社に請求する保険料額と預り金にズレが生じてしまうので、なるべく早く届出ましょう。

月額変更届の作成・提出には、多くの工数が必要となります。この機に業務工数を見直しみてはいかがでしょうか。人事・労務領域の効率化すべき業務を以下の資料にまとめましたので、ぜひご活用ください。

人事・労務領域 効率化すべき業務チェックリスト

月額変更届の記載例とポイント

月額変更届の記入時のポイントと注意点を下記の記載例をもとにご紹介します。

「固定的賃金が上がる・平均額も上がる(増額改定)」または「固定的賃金が下がる・平均額も下がる(減額改定)」の組み合わせで月額変更は発生する。

(出典)健康保険・厚生年金保険 被保険者報酬月額変更届/厚生年金保険 70歳以上被用者月額変更届(記入例) - 日本年金機構

一時帰休のため、継続して3か月を超えて通常の報酬よりも低額の休業手当などが支払われた場合は、固定的賃金の変動とみなし、月額変更の対象となります。また、一時帰休が解消され、継続して3か月を超えて通常の報酬が支払われるようになった場合も月額変更の対象となります。

ただし以下の場合は、月額変更の対象となりません。

ケース1:固定的賃金は上がったが、残業代などの非固定的賃金が下がったため、変動後3か月分の報酬平均による標準報酬月額が2等級以上下がった場合

ケース2:固定的賃金は下がったが、残業代などの非固定的賃金が上がったため、変動後3か月分の報酬平均による標準報酬月額が2等級以上上がった場合

「固定的賃金が上がる・平均額も上がる(増額改定)」または「固定的賃金が下がる・平均額も下がる(減額改定)」の組み合わせで月額変更が起こることに留意しましょう。「上昇(下降)の矢印は同じ向き」と覚えると、分かりやすいですね。

月額変更の条件は、「標準報酬月額に2等級以上の差の発生」ですが、等級表の上限・下限にわたる等級変更の場合は、2等級以上の差がなくても、月額変更の対象となります。

「月額変更届」の正しい知識を身につけよう

月額変更の仕組みはやや複雑ですが、従業員の将来の年金や健康保険給付のために欠かせない手続きです。年金事務所の調査などで、月額変更届の未提出を指摘された場合、さかのぼって保険料を従業員に返金したり、逆に追加徴収したりすることになってしまいます。毎月、漏れのないようしっかりチェックしましょう。

お役立ち資料

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