みなし残業(固定残業代制)とは?みなし労働時間制の違いと違法ラインを解説
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「みなし残業」は実務上「固定残業代制」を指す言葉ですが、法律上はまったく別の制度である「みなし労働時間制」と混同されがちです。両者を取り違えたまま運用すると、未払い賃金トラブルや法令違反につながる可能性があります。
本記事では、みなし残業の基本ルール・導入手順・違法ラインまでわかりやすく解説します。
みなし残業とは?みなし労働時間制との違い

「みなし残業」は労働基準法上の用語ではなく、「固定残業代制」の実務上の通称です。
ただし、法律上には「みなし労働時間制」という別の制度があり、両者は混同されやすいため注意が必要です。ここでは、2つの制度の意味と違いを整理します。
みなし残業代制(固定残業代制)とは
みなし残業代制とは、あらかじめ一定時間分の残業代を月給に含めて定額で支給する制度で、「固定残業代制」ともよばれます。「みなし残業」という名称は、実際の残業時間にかかわらず、定めた時間分の残業をしたと「みなして」残業代を支払う仕組みに由来します。
たとえば「月30時間分のみなし残業代を含む」と定めている場合、実際に残業した時間が10時間であっても20時間であっても、残業代を固定で支払います。
なお、みなし残業制(固定残業代制)は、あくまでも賃金の支払い方式であり、一定時間の残業を強制・義務づけるものではありません。「みなし残業30時間と書いてあるから、毎月30時間残業しなければならない」というのは誤りです。
みなし労働時間制との違い
「みなし労働時間制」は名称が似ていますが、みなし残業制とはまったく別の制度です。
みなし残業代制が「残業代の支払い方」を定める賃金制度であるのに対し、「みなし労働時間制」は実労働時間にかかわらず、あらかじめ定めた時間労働したものとみなす労働時間管理の制度です(労働基準法第38条の2・3・4)。
みなし労働時間制は「労働時間のみなし」であり「残業代のみなし」ではないため、固定残業代が支払われるわけではありません。
労働基準法上、「みなし労働時間制」には、次の3類型があります。
- 事業場外みなし労働時間制
- 専門業務型裁量労働制
- 企画業務型裁量労働制

(1)事業場外みなし労働時間制
社外での営業活動や外回りなど、使用者の直接の指揮監督が及びにくく労働時間の算定が困難な場合に適用される制度(労働基準法第38条の2)です。
(参考)「事業場外労働に関するみなし労働時間制」の適正な運用のために- 東京労働局・労働基準監督署
(2)専門業務型裁量労働制
業務の性質上、その遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある専門的業務に適用される制度(労働基準法第38条の3)です。労使協定であらかじめ定めた時間を労働したものとみなします。
詳細は厚生労働省のガイドラインなどを確認してください。
(3)企画業務型裁量労働制
事業の運営に関する企画・立案・調査・分析の業務であって、業務の性質上、遂行方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要があり、業務遂行や時間配分に対して「具体的な指示をしないこと」とされる業務に適用される制度(労働基準法第38条の4)です。
主に本社・本店など事業運営の中枢部門が対象で、ホワイトカラー業務全般が該当するわけではありません。また、個別の営業活動のみを行なう事業場には導入できません。
いずれも「労働時間をみなす制度」であり、固定残業代制とは目的も仕組みも異なります。みなし残業代制を導入している場合は、固定残業時間を超えた残業代の支払いが必要です。一方、みなし労働時間制を導入している場合でも、みなし労働時間が法定労働時間を超える場合や深夜労働・法定休日労働がある場合には、割増賃金の支払いが必要です。
みなし残業代制の基本ルール
実務上「みなし残業」とよばれる固定残業代制には、3つの基本ルールがあります。求職者・従業員の問い合わせが多いポイントでもあるため、正確に押さえておきましょう。
(1)残業ゼロの月でも固定分は支払われる
みなし残業代制では、実際の残業時間が0時間であっても、固定残業代として定めた金額は毎月支払う義務があります。「残業をしていない月は固定残業代を差し引く」という運用は認められません。
(2)固定時間を超えた分は別途支払いが必要
みなし残業代制は「あらかじめ定めた時間分の残業代を先払いする」制度です。そのため、実際の残業時間が定めた時間を超えた場合は、超過分の残業代を別途支払わなければなりません。
たとえば月30時間のみなし残業を設定し、実際に40時間残業した場合、超過した10時間分の残業代を別に支払う必要があります。
(3)労働時間の把握は引き続き必要
みなし残業代制を導入していても、勤怠管理は引き続き必要です。「みなし残業代を払っているから残業時間を管理しなくてよい」という認識は誤りです。
実労働時間の把握は、超過分の残業代の正確な支払い・長時間労働の防止・健康管理のいずれの観点からも欠かせません。
みなし残業代制の導入方法
みなし残業代制を導入する際は、次の4ステップで整備しましょう。

【ステップ1】就業規則・賃金規程を整備する
就業規則または賃金規程に、次の3点を規定します。
- 固定残業代の金額
- 固定残業時間(何時間分の残業代か)
- 固定残業時間を超えた場合は超過分を別途支払う旨
基本給と固定残業代を明確に区分して定めることが重要です。区分が不明確だと、固定残業代として法的に認められないリスクがあります。
【ステップ2】労働条件通知書や雇用契約書で明示する
労働基準法第15条にもとづき、賃金に関する事項は書面で従業員に明示しなければなりません。みなし残業代制の場合、少なくとも以下の事項を雇用契約書・労働条件通知書に記載します。
記載例
項目 | 金額 |
|---|---|
基本給 | 200,000円 |
固定残業手当(30時間分として支給) | 50,000円 |
合計支給額 | 250,000円 |
※上記30時間を超えた時間外労働については、別途残業代を支給する。
ポイントは「基本給と固定残業代の金額・時間数を明確に区分すること」と「超過分は追加支給する旨を明記すること」の2点です。「月給25万円(固定残業代含む)」のような内訳不明の記載は、制度自体が無効となるリスクにつながります。
求人票に掲載する場合も、次の3点の明記が必要です。
- 固定残業代を除いた基本給の額
- 固定残業代に関する労働時間数と金額等の計算方法(例:30時間分・5万円)
- 固定残業時間を超えた分は追加で支払う旨
(参考)厚生労働省 - 固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします
【ステップ3】実労働時間を管理する体制をつくる
導入後は、実労働時間を管理する体制を整えます。
勤怠記録が不十分だと、固定時間を超えた残業の発生を把握できず、超過分の残業代を正しく支払えません。
【ステップ4】従業員へ正確に説明する
制度導入の際は、次の3点を従業員に丁寧に説明しましょう。
- 固定残業代制は一定時間の残業を強制する制度ではないこと
- 固定残業時間を下回る月でも給与は減額されないこと
- 固定残業時間を超えた場合は追加で支払いがあること
従業員の正確な理解は、労務トラブルの予防だけでなく、エンゲージメントの観点からも重要です。
管理職への説明を補足する
管理職にみなし残業を適用する場合は、どの法的根拠で運用しているかを本人に明示することが重要です。「管理職だから」という一括りの説明では、本人からの問い合わせや退職時のトラブル、未払い残業代請求につながる可能性があります。
考えられる根拠は次の3つで、それぞれ法的な扱いが異なります。
- 固定残業代制:定額分の残業代を毎月支給。超過分の支払い義務は残る
- 管理監督者(労働基準法第41条):労働時間・休憩・休日の規定が適用除外。役職名ではなく、職務内容・権限・処遇の実態で総合的に判断される
- 裁量労働制:労働時間のみなしであり、残業代のみなしではない
自社の管理職がどの根拠で運用されているかを正確に把握しておきましょう。
みなし残業の違法ラインは何時間?
みなし残業時間そのものに一律の法定上限はありませんが、36協定(サブロク協定)の上限規制を守る必要があります。ここでは、設定時間の考え方と、長時間設定時の注意点を解説します。
設定時間は36協定の上限内が基本
設定したみなし残業時間が実際に残業として発生した場合には、労働基準法上の時間外労働として36協定の上限規制が適用されます。
36協定の時間外労働の上限は、原則として月45時間・年360時間です。みなし残業時間を設定する際の1つの基準となります。
固定残業代はあくまで「賃金の支払い方法」であり、設定した時間まで残業させてよい根拠にはなりません。設定時間は、直近1年の月平均残業実績をベースに、繁忙期のピーク月も考慮しながら、36協定の上限の範囲内に収めるのが基本です。
40時間・45時間・60時間など長時間設定の注意点
原則の上限(月45時間)を超えるみなし残業を設定したい場合は、特別条項付きの36協定が必要です。特別条項を締結しても時間外労働の上限は以下のとおりであり、これを超える設定は認められません。
- 年間上限:720時間以内
- 単月上限:100時間未満(休日労働含む)
- 複数月平均:80時間以内(2〜6か月平均、休日労働含む)
- 月45時間超の回数:年6回まで
なお、単月100時間未満・複数月平均80時間以内という特別条項の上限は、いわゆる「過労死ライン」と重なる水準です。法律上の上限内であっても、長時間の残業が常態化すれば安全配慮義務違反(労働契約法第5条)として損害賠償責任を問われる可能性があります。
過去の裁判例では、過労死ラインに達する時間数を前提とした固定残業代の設定が、公序良俗違反として無効と判断されたケースもあります。みなし残業時間を長く設定するほどこのリスクは高まります。

加えて、みなし残業時間が長い求人は、求職者から「激務」というネガティブな印象をもたれやすくなります。みなし残業時間の設定は、過去の残業実績・業務量の実態・36協定の内容と整合するように決めましょう。
みなし残業時間を超えたときの対応
みなし残業代制を導入していても、設定した時間を超えて残業が発生した場合は、追加の割増賃金を支払う必要があります。
「みなし残業」は、あくまで賃金の支払い方法を定めたものであり、定額を払えばそれ以上の労働に対する賃金の支払いが不要になる制度ではありません。ここでは、超過時の3つの対応ポイントを解説します。
(1)超過分の残業代は追加で支払う
設定したみなし残業時間を超えて残業した場合、超過分の残業代を別途支払う必要があります。これはみなし残業代制の大原則であり、省略できません。
(2)深夜労働や休日労働は割増賃金が必要
みなし残業代制を導入していても、深夜労働(22時〜翌5時)や法定休日労働は、固定残業代に明示的に含めて設計していない限り、別途割増賃金の支払いが必要です。
固定残業代の中に何を含めているか(時間外労働のみか、深夜・休日労働も含むのか)を、就業規則・雇用契約書に明確に記載しておきましょう。
たとえば、就業規則や雇用契約書に「固定残業代は時間外労働30時間分として支給する」とだけ記載されている場合、深夜労働・法定休日労働の割増賃金はカバーされておらず、発生した分を別途支払う必要があります。
一方、「固定残業代は時間外労働30時間分・深夜労働10時間分として支給する」と明記されている場合は、その範囲内で深夜割増分に充当できます。
(3)超過分が支払われない場合は違法のリスクがある
みなし残業代制は、「定額払いで何時間でも働かせられる」制度ではありません。超過分の残業代が支払われない場合は、未払い残業代として労使トラブルや労働基準監督署による是正勧告を受けるリスクがあります。
固定残業代を導入しながら勤怠管理ができていない場合、「超過に気づかなかった」という説明は通用しません。企業の未払い賃金トラブルの多くは、この「超過分」の清算漏れに起因します。
みなし残業代制のメリット
みなし残業代制の適切な運用は、企業と従業員双方にメリットをもたらします。導入を検討する際の判断材料として、3つのメリットを整理します。
(1)人件費を予測しやすくなる
一定時間分の残業代をあらかじめ給与に組み込むことで、毎月の支払い額が一定の範囲に収まり、経営や予算管理の予測が容易になります。
繁忙期と閑散期の業務量の差が激しい業種であっても、毎月の給与総額が一定範囲に収まるため、キャッシュフローの管理が安定します。
急な残業の増加による「予期せぬ人件費の膨張」を防げる点は、経営上の大きなメリットです。
(2)毎月の給与額が安定しやすい
従業員目線では、残業の多い月・少ない月にかかわらず、固定残業代の範囲内であれば毎月の給与額が安定するメリットがあります。住宅ローンや生活費の計画が安定し、エンゲージメントの向上も期待できます。
(3)残業代目的の長時間残業を抑えやすい
みなし残業代制では、固定残業時間を超えるまでは給与が変わらないため、「残業代を稼ぐために長く残る」といった非効率な働き方の抑制につながる場合があります。
ただしこの効果は、「業務を効率化して早く終わらせれば得をする」という意識が現場に根付いている場合に限られます。
運用を誤ると「定額分までは働かせて当たり前」という長時間労働の温床になるため、管理職による業務量管理とセットでの運用が不可欠です。
みなし残業代の設計方法と「法定内みなし残業」の考え方
みなし残業代制を設計する際、「法定内(法内)残業」と「法定外(法外)残業」の扱いに迷うケースがあります。
たとえば1日の所定労働時間が7時間の企業では、法定労働時間(1日8時間)との差である1時間分は、残業ではあるものの法定時間の枠内の残業(法定内残業)となります。この時間は法定割増率(125%)が適用されず、就業規則などで割増を定めている場合を除き、割増なしの通常賃金で支払うのが原則です。
固定残業代に法定内残業を含めた設計は可能ですが、その旨を規程に明記する必要があります。
規定例:
「基本給とは別に、月30時間分の時間外労働手当を固定残業代として支給する。このうち法定労働時間内の残業(法定内残業)は通常賃金で、法定労働時間を超える残業(法定外残業)は所定の割増賃金で計算した金額を含むものとする。月30時間を超える時間外労働が発生した場合は、超過分について別途割増賃金を支給する。」
所定労働時間7時間・固定残業30時間の場合
固定残業30時間の内訳を、次のように設計します。
- 法定内残業として月およそ20時間を割り当てる:1日あたり所定労働時間7時間〜法定労働時間8時間の差分(1時間)×営業日数で算出。通常賃金で計算
- 法定外残業として残りのおよそ10時間を割り当てる:法定労働時間を超える時間として、割増率(125%以上)を適用して計算
なお、実際の法定内・法定外労働時間の内訳が固定残業時間と異なる月が生じた場合は、差額を精算する必要があります。
みなし残業代制が違法・無効になるケース
みなし残業代制は正しく運用すれば有効な賃金制度ですが、運用を誤れば、行政指導の対象となる違法な運用や、制度自体が無効と判断される事態を招くリスクがあります。とくに注意すべきは次の3点です。
(1)求人情報に正しく掲載されていない場合

求人媒体での募集時、以下の3つが明記されていない場合、募集時の明示義務違反となります。
- 基本給の額:固定残業代を除いた金額を明記する
- 固定残業代の内容:固定残業代の金額と、それに対応する時間数を明記する(例:30時間分として5万円)
- 超過分の取り扱い:「固定残業時間を超えた分は追加で支払う」を明記する
これらが曖昧なまま採用活動を行なうと、後に従業員から「説明と違う」と主張されるだけでなく、職業安定法や労働基準法にもとづく行政指導の対象となる可能性があります。
(参考) 固定残業代を賃金に含める場合は、適切な表示をお願いします-厚生労働省
(2)みなし残業代を除いた賃金が最低賃金を下回る場合
賃金が最低賃金以上であるかを判定する際は、固定残業代を除いた基本給(および通勤手当・家族手当などを除く諸手当)で計算します。
たとえば、その地域の最低賃金が時給1,300円の場合、基本給を低く設定し、固定残業代を上乗せして「時給換算で1,400円だからOK」とする計算は違法です。この判断を誤ると最低賃金法違反となります。
(3)雇用契約書・就業規則に内容が明記されていない場合
就業規則や雇用契約書で、基本給と固定残業代が明確に区分されていない場合、制度そのものが無効と判断される可能性が高くなります。「給与は総額〇万円(固定残業代含む)」といった内訳が不明瞭な記載は避けてください。
判例上、固定残業代が割増賃金として有効と認められるためには、「通常の労働時間の賃金にあたる部分と割増賃金にあたる部分とを判別できること(明確区分性)」が要件として示されています(最2小判平成6年6月13日 高知県観光事件など)。この要件を満たさない場合、労働基準法第37条が定める残業代が支払われたとは認められません。
加えて、賃金の内訳が不明瞭な雇用契約書や労働条件通知書は、労働基準法第15条および同法施行規則第5条が定める労働条件の明示義務に抵触するおそれもあります。
少なくとも次の3点を満たした規定が必要です。
- 区分明示:「基本給〇円、固定残業手当〇円」と分けられていること
- 対価性の明示:何時間分・いくら分の残業代なのかが明確であること
- 超過分の規定:固定残業時間を超えた場合は超過分を追加支給する旨を記載すること
固定残業代制度が「無効」と判断されると、固定残業代として支払っていた金額が、割増賃金の支払いとして認められない可能性があります。その場合、過去にさかのぼって残業代全額を再計算して支払うよう命じられるリスクがあります。
だからこそ、就業規則・雇用契約書・求人票の3点を整え、超過分の精算ルールを明文化することが、企業と従業員の双方を守る最も確実な方法です。
みなし残業を正しく理解して、安心して働ける職場づくりを
「みなし残業」という言葉が指す内容は、「みなし残業代制(固定残業代制)」と「みなし労働時間制」で大きく異なります。両者の混同は、未払い賃金トラブルや法令違反の原因となります。
人事・労務担当者は、自社がどちらの制度を採用するのか明確にしたうえで、従業員へ正確に説明できる状態にしましょう。
制度の趣旨を正しく理解し、実態と整合した形で運用することが、労使間の信頼を守り、安心して働ける環境づくりの土台となります。
もし自社の規定や運用に少しでも不安があれば、放置せず、管轄の労働基準監督署や社会保険労務士などの専門家へ相談しましょう。

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