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産休・育休制度が “良い組織” を育む? 企業&当事者それぞれの視点から考える【WORKandFES2022 レポート】

公開日
目次
武田さんの写真
スピーカー武田 雅子氏

株式会社メンバーズ 社外取締役/株式会社SmartHR 社外取締役

1989年株式会社クレディセゾン入社。営業統括部門の人材育成担当、戦略人事部長などを経て、2014年人事担当取締役に就任。2016年営業推進事業部担当役員として組織風土改革を推進。2018年カルビー株式会社へ入社、2019年より常務執行役員 CHRO 人事総務本部長に就任。風土改革を推進する傍ら、2020年Calbee New Workstyleをリリースし、取材、講演依頼など多数。近年は、個を活かす人事施策や越境施策に注力。2018年、日本の人事部「HRアワード」個人の部・最優秀賞受賞

宮嶌さんの写真
スピーカー宮嶌 裕二氏

株式会社モバイルファクトリー 代表取締役

1995年に中央大学卒業後、ソフトバンク株式会社へ入社。株式会社サイバーエージェントに転職し、事業を立ち上げた後、2001年にモバイルファクトリーを設立。2015年に東証マザーズ上場、2017年に東証一部に市場変更。位置情報を使って日本全国約9,000の駅を奪い合う「ステーションメモリーズ!」などのゲームや、月額制で楽曲を提供するサービス、2018年からはブロックチェーン技術を用いたサービスの開発をスタートさせ、エンタメのアップデートを目指す。2013年、2017年に育児休業を取得。現在3人の子育てのため時短勤務中。

坂田さんの写真
スピーカー坂田 匠氏

株式会社サカタ製作所 代表取締役社長

1960年新潟県生まれ。大学卒業後、ロボットシステムを開発する企業へ入社し経験を経て、1985年にサカタ製作所に入社。営業部門の陣頭に立ち、国内のマーケットのトップシェア企業に成長させた。1995年代表取締役社長に就任し、大阪・東京に営業所を開設して営業力を強化。2015年以降は、「残業ゼロ宣言」のもと、積極的なICT活用による業務の効率化、誰もが子育てに積極的に関われる社内制度を確立し、男性の育休取得率100%を達成。時代を先行した働き方改革によって、2019年にはホワイト企業アワード 最優秀賞を受賞するなど、大きな成果を挙げている。

モデレーター元田 有紀

株式会社SmartHR マーケティンググループ

オウンドメディアや導入事例など、さまざまなコンテンツ制作に関わりながら、コンテンツマーケティングユニットのチーフとしてマネジメントに務める。ファッションアプリ、子育て・働く女性向けメディアの運営・編集担当、HR系SaaSのマーケティング担当を経て、2020年SmartHRに入社。プライベートでは1児の母。入社後、時短勤務からフルタイム勤務に変更。

産休・育休取得に向けた取り組みを積極的に推進

元田

2022年4月から2023年4月にかけて改正された「育児・介護休業法」が、順次施行されています。10月からは「産後パパ育休(出生時育児休業)」の創設と、「育児休業の分割取得」の施行が話題になりました。まずは、坂田さんから現状をお話いただけますか。

坂田

当社では、男性育休取得率100%を達成しています。実は2017年まで、私は男性が育休を取れることを知りませんでした。男性も育休を取得できると耳にして、社員に希望を聞いたところ、ほとんどが休暇を希望したのです。

以前より業務改善を進めており、2014年には「残業ゼロ宣言」を行い、1年をかけて達成しました。同時に、業務の属人化解消を行ったことで、限られた人しかできない業務はなくなりました。仕事の負荷に応じて人手を調整できる自由度も上がり、男性社員の育休取得がスムーズになりました。

元田

産休・育休という制度をどうしようかという前に、そもそも取得しやすい環境があったのは大きな成功のポイントですね。次に、武田さんにうかがいます。産休・育休を推進するなかで、世代間のギャップや社内で課題があったと思います。そのあたりは、どのように推進されましたか。

武田

カルビーは社員数が多く、契約も含めるとフルタイムで働いている方が4,000名くらい。そのうち6割弱が工場勤務です。工場では、三交代制をはじめ、シフトも多彩という課題がありました。また、産休・育休制度利用にはこの他にも多くの課題が多くありました。

たとえば若い方たちにとって共働きは当たり前ですが、役職者のなかには古い考えの方も多く、産休・育休取得に遠慮してしまうことがあるようです。社内では以前から準備をして、役職者を中心に説明会を実施するなど、トップが理解を示す状況をつくってスタートしました。

元田

宮嶌さんはトップとして、2013年に初めて育休を男性として取られましたね。

宮嶌

私は意図的に産休・育休を取得しました。話は少しそれますが、業界ではエンジニアの採用が難しく、どのように同業他社との差別化を図るかを考えていました。当社が上場したことにより採用しやすくなりましたが、それでも大企業に負けてしまいます。

そのころ、私も子どもが生まれたので、トップが自ら育休を取ることで社外にアピールできると思いました。結果として人材採用に効果的でした。男性社員に配慮しているイメージはありますが、女性も「理解がある企業」と入社してくれるようになりました。また、育休を取ることによって、自分自身もハッピーになりました。子どもと触れ合う時間が多く、奥さんとの関係も非常によくなっています。

元田

坂田さんのお立場から、育休を取得する男性をどのように見ていますか。

坂田

育休を終えて職場復帰した男性社員は、非常によい顔になって帰ってきますし、仕事にも反映されています。できれば、育休は長い時間取ったほうがよいと考えています。

女性の育児や家事は褒められることも多くないですが、男性は2週間だけ子どもの面倒を見たり家事を手伝ったりすると、「協力的」と褒められます。ところが半年、1年も育休を取得すると、それが当たり前になって誰も褒めません。そこで、ようやく奥さんの苦労がわかります。

制度利用には職場環境の整備が求められる

元田

宮嶌さんは、業務の属人性を排除するために、どのような工夫をされましたか。

宮嶌

多くのシステムを導入しました。弊社のようなデジタル系サービス会社は、頭のなかで仕事が完結する傾向があります。たとえば、1人のアイデアをアクションの判断基準まで文章化してSaaSで管理することで、その人が抱えている判断基準レベルまで可視化できます。

また、複数の小さいプロジェクトが同時に流れるので、プロジェクト管理ツールなど、SaaSの活用によって属人化はかなり解消すると思います。

元田

産休・育休を推進すると、一時的に欠員が出ます。業績への影響や売り上げなどを懸念して、制度導入に消極的な経営者もいると思います。そうした方に対して、どのようなアドバイスをされていますか。

坂田

育休を取得してもらい、その期間が長ければ長いほど、極めて生産性が上がっています。小売業の社長さんから「育休を取得している拠点ほど、売り上げが伸びている理由がわからない」という話を聞きましたが、理由は簡単です。

たとえば、5人いる職場で1人が育休を取得した場合、4人で5人分の仕事を回さなければなりません。最初は大変ですが、仕事の棚卸しみたいなものが自然と発生すると、いつの間にか5人の分の仕事を4人でやるようになります。

当社も産休・育休を取得してもらって初めて気づいたことですが、4人で5人分の仕事をこなしている組織へ社員が復帰することで、戦力増強になりました。

元田

具体的に生産性が向上した実感はありますか。

坂田

社員数はほとんど増えていませんが、売り上げも利益も大幅にアップしています。

元田

武田さんはお二人のお話をうかがって、どのような感想をおもちですか。

武田

トップらしいアクションは、さすがだと思いました。私は人事として、取得率が低い事業所には理解してもらうためにデータを提示したり、社内報に育休を取得した男性社員のストーリーを載せたりするなど、啓発活動を実施しています。育休を取得する男性社員が増えれば、記事になるストーリーも増えるので、それをシェアしていました。

元田

従業員としては、休暇取得によって賃金が少なくなることや、周りに迷惑をかけてしまうという不安があり、産休・育休を取得しにくいと思う方もいると思います。そういった方には、どのような働きかけをするとよいのでしょうか。

武田

まずは身近に休暇を取得した方がいることでしょう。制度や手厚い保証の内容を説明するよりも、身近な方の話が強く伝わります。

産休・育休だけではなく、介護やご自身の病気など、さまざまな理由で休暇を取得すると思います。でも、組織のなかに「お互い様」という風土をつくって、チームのなかで実践する。「信頼貯金」と呼んでいますが、「今まで貯めてきた信頼を、このタイミングで使いましょう」「他の方の産休・育休を支えたこともあるので、次はあなたの番です」と伝えて、納得いただくことが多くあります。

産休・育休制度活用で、よりよい組織を構築できる

3人が並んで写っている写真。向かって左から武田さん、宮嶌さん、坂田さん。

坂田

収入への不安については、「収入は本当に減りましたか?」と社員に尋ねたいですね。産休・有給取得期間内は、総所得の80%を保証するので、20%減ったことになります。でも翌年になると、前年の所得に合わせて社会保障費や所得税が決まります。2年目になると手取りの収入がぐっと増えるので、1年目と2年目を足すと、さほど収入は減っていません。

47都道府県の各自治体で、さまざまな補助金や助成金があります。新潟県では、産休・育休を取得すると手取り収入は増えます。他の自治体でも補助金や助成金は用意されているので、実質収入は増えているはずです。

元田

そのあたりは、社内に周知されているのですか。

坂田

総務が産休・育休希望の社員の相談を受けているので、所得金額をシミュレーションしています。もちろん職場復帰も約束されているので、全員が安心して産休・育休を取得できます。

元田

産休・育休の制度をテーマに、よりよい組織にしていくために感じていることや、取り組みたいと思っていることなどをお教えください。

武田

それぞれの強さを活かした働き方によって、職場のなかで成果を出し、成長の実感や貢献を実感できる環境づくりを考えています。産休・育休、または介護やご自身の疾病など、働くことにハンデがある方は必ず発生してくると思います。そのとき、単に「休暇を取得してください」ではなく、どのような条件であれば支援できるのかを考えています。

カルビーは、オフィスワークと工場などによって働き方が異なります。最大公約数のルールは人事の仕事ですが、最終的には各部署のマネジャーに委ねています。人事が現場のマネジャーと併走して、成果を出すことで成長や貢献を実感できる環境を整備しています。また、職場ごとにマネジメントやコミュニケーションがどうあるべきかも考えていきます。それが職場に広がることで個人の成長につながり、成果をあげられる組織へと成長していきます。そのようなチームが増えればと考え、制度を運用して実績を出しています。

宮嶌

当社では、男性社員の育児休業取得率81%を実現しています。素晴らしい制度なので100%にしたいなと思っています。

元田

坂田さんはいかがでしょうか。

坂田

当社では、残業ゼロや男性社員の育休取得は当たり前のことであり、すでに経営課題にもなっていません。現在の経営課題は、社員の健康管理と働く場所にとらわれないリモート経営です。それから、ダイバシティマネジメント。無限大の可能性があるので、全社を挙げて進めています。

この3つは定性的なため、目標設定は定量的なほうがわかりやすいです。当社では2020年の所得を100とし、2024年の所得を150、つまり50%アップの目標を設定しました。

当社の給料は業界でトップクラスの所得と考えていますが、私は社員の給料はまだ安いと思っています。「君たちは安い賃金で会社に使われている」「ゆえに君たちの賃金を納得できるところまで上げたい」と宣言し、それに向かっています。

元田

働き方改革として残業ゼロなどを実現した後に、制度を整備する必要があるとお考えですか。

坂田

そのとおりです。まずは残業の必要性がない業務体制になってから、次に進まなくてはなりません。たとえば、給料をアップさせるためには利益を出さなくてはなりません。そうすると、残業が増える可能性もあります。もしかすると、こっそりサービス残業してしまうかもしれない。それを防ぐためにも残業ゼロを徹底する。次のステップとして産休・育休取得に取り組むわけですが、これも当たり前のことだと思います。

これからは産休・育休取得が当たり前の社会に

元田

最後に一言ずつ、今回のセッションについてお伝えしたいことや、感想などをいただけますか。

坂田

私は社員に「残業をなくしなさい。目標はゼロ」と指示しただけです。そこで、「業務の属人化解消」という言葉を社員から教えてもらいました。これは、残業をゼロにするという目標のもと、さまざまな改善活動をするなかで、社員たちが自分で見つけ出したもっとも効果的な方法です。社員が自ら導き出したことですので、今も進行しています。

宮嶌

ボスは産休・育休を取りましょう」この一言ですね。

武田

上司の理解不足が産休・育休推進の妨げになっているとしたら、否定ではなく、日本の社会の状況をご存じないのだと思います。また、産休・育休が取得していない方たちも、事例が少なく勇気をもてないだけでしょう。その環境を整えていくのが人事であり、また、ときには経営に働きかけていくのも人事です。一緒に頑張っていければと思います。

元田

今日は武田さん、宮嶌さん、坂田さん、3名にさまざまなお話をうかがいました。ありがとうございました。

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