「監督指導」の基礎知識。監督指導後の対応策を元・労働基準監督官が解説
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この記事でわかること
- 監督指導の内容とよくある指摘事項
- 是正勧告と指導の違い
- 監督指導の対象になったときの対処法
- 是正勧告・指導後の対応
目次
こんにちは。アヴァンテ社会保険労務士事務所の小菅です。厚生労働省が令和5年度の監督指導について、「過労死ラインを超える長時間労働が疑われるすべての事業場に監督指導を実施する」というニュースがありました。
今回は、「監督指導」の対象となった場合の対応策を元・労働基準監督官が解説します。
監督指導とは?
監督指導とは、労働基準監督官が労働基準法などの法律にもとづき、定期的に事業場に立ち入るなど調査し、法違反が認められた場合の是正指導を指します。
また、危険性の高い機械・設備などについては、使用停止命令などの行政処分を実施します。監督指導は、以下の3つが具体的な内容です。
- 【事実行為】事業場に立ち入る事実行為として実施する「臨検監督」
- 【行政指導】法令違反の事実を確認するための「帳簿および書類の提出要求」「使用者もしくは労働者に対して問い尋ねる行為」
- 【行政指導】確認した法令違反または法令違反以外の事項への「是正勧告書および指導票の交付」
行政手続法上では、「1.」は「行政指導」ではなく、「事実行為」に該当しますが、「2.」と「3.」は「行政指導」に該当します。
「臨検監督」時の注意点については、以下の記事に詳しくまとめていますので、ご参考ください。
よくある監督指導の指摘事項は?
監督指導時によくある指摘事項は、以下の5つです。対応策については後述する「よくある是正勧告の指摘事項と対応策」にて、解説します。
- 割増賃金(残業手当)関連
- 労働時間関連
- 就業規則関連
- 法定帳簿関連
- 健康診断関連
割増賃金(残業手当)関連
労働実績にかかわらず、「残業時間を頭打ちにしている」「固定残業制にして超過した労働時間分を支払っていない」などのケースが該当します。また、自己申告制を採用し、実際は働いているにもかかわらず「申告していない(あるいは労働時間と認められる時間を申告させないようにしている)」、「労働時間数分の賃金を支払っていない」ケースなどもあります。
労働時間関連
「36協定の不締結・未更新」、「36協定で締結した労働時間を超過している」ケースが該当します。また、特別条項を結んでいる場合で、所定の手続きを経ずに時間外労働をさせている事例などもあります。
就業規則関連
「就業規則を変更したのに届出していない」、「事業場ごとに提出していない」ケースが該当します。また、「就業規則が実態とあっていない」、「事業場内で機能していない」なども当てはまります。このような場合は、指導票の交付で実態に即した規則への修正を指導する場合もあります。
法定帳簿関連
「労働者名簿や賃金台帳に必要事項が記載されていない」、「法令で定める保存期間内であるにもかかわらず保存していない」ケースなどが挙げられます。
健康診断関連
「雇入れ時の健康診断」や「定期健康診断」、「特殊健康診断」などの法定健診を受診させていないケースがあります。
事業者は、定期健康診断や特殊健康診断などの結果で、異常の所見があると診断された社員については、健診後3か月以内に医師または歯科医師の意見を求めなければなりません。聴取した医師の意見は、健康診断個人票に記載しなければならないのですが、記載されていない場合が散見されます。このような場合も是正勧告の対象になります。
監督指導を受けるとどうなる?
監督指導には、是正勧告と指導票の2種類があります。
これらはいずれも行政指導ですので、それ自体に法的拘束力はありません。しかし、是正勧告書交付後における対象事業場の是正状況などによっては、司法捜査に移行する場合もあります。そのため、状況を精査したうえで、指摘事項を改善後に労働基準監督署(以下、労基署)への報告が求められます。
是正勧告と指導の違いは?
是正勧告は、法令違反を是正するよう求めるものです。一方で指導票は、是正勧告書をわかりやすく説明したり、補完する役割を果たしたりします。また、法令違反ではなくても法令の趣旨に沿っていない場合に、法令に沿って管理するように指導するものです。
このほか、労働時間の適正把握ができていない場合に、労働時間の適正把握を促し、管理方法を含めて労務管理体制を見直すように指導することもあります。
是正勧告・指導に従わないとどうなる?
労基署は事業場への訪問や電話での督促など、必要に応じて「なぜ改善する必要があるのか」、「改善されないことで生じる問題」などについて、懇切・丁寧に説明し、粘り強く是正を促します。
また、是正勧告書が交付され、是正期限を過ぎても違反状態が継続しているようなケースにおいては、違反状況などにより司法捜査に移行する場合があります。
よくある是正勧告の指摘事項と対応策
よくある是正勧告の内容は、36協定で定めた時間外・休日労働の範囲を超えていたり、時間外・休日労働が過労死ラインを超えている例が挙げられます。
このような場合は、時間外労働削減の対策樹立、産業医の面接指導などを含めた社員の健康福祉確保措置を講じます。また、指導内容に応じて一定期間、労働時間の把握状況を定期的に労基署に報告しなければならないケースもあります。
是正勧告時の対応策は?
たとえ、労使協定で定めた時間を超えてしまったとしても、改ざんや隠蔽などの行為はしてはいけません。改ざんや隠蔽は必ず明らかになりますので、行政指導に留まらず、司法捜査の対象になる可能性が高くなります。
また、特別条項を結んだ場合、労使で定めた所定の手続きを経ずに特別条項を発動させていることがあり、是正勧告書の交付対象になります。このような指導を受けた場合、「今後は所定の手続きを経る」と報告します。
所定の手続きを経たと記録に残すことは法令で求められていませんが、後で確認するために記録に残しておくことが適正な労務管理といえます。
行政通達では、以下のように示されています。
所定の手続がとられ、限度時間を超えて労働時間を延長する際には、その旨を届け出る必要はないが、労使当事者間においてとられた所定の手続の時期、内容、相手方等を書面等で明らかにしておく必要があること。
この記録を労働基準労基署などに届け出る必要はなく、記録の書式や保存期間も定められていません。しかし、事業場内でどのように管理するのかなども決めておく必要があります。
是正勧告・指導後の対応
是正期日までに是正報告書の提出が必要です。是正報告書には、違反している条文ごとに、是正を求められている事項に対してどのような措置を講じたかを記載します。
様式はとくに決まっていませんので、自由書式ですが、講じた措置が明確にわかるよう記載することがポイントです。是正期日までに報告ができない場合は、あらかじめ、いつまでに報告をするかを担当官に連絡すれば、是正期日の変更も可能です。
「万が一」の備えも大切
労基署に「会社で法令が遵守されていない」と内部告発されることがあります。また今後は、労働時間に関する監督指導はますます厳しくなると予想されます。そのため、法令の趣旨を理解し、会社の実情に即した仕組みの導入や就業規則での明示を基本として、健康管理とあわせた労務管理が求められるでしょう。
労働基準監督官が臨検監督にきた際には、現状を伝えるなどして、聞かれたことに対してありのままを回答してください。
万が一、行政指導を受けたとしても、指導内容でわからないことは、担当官に確認して理解できるようにしておきましょう。もし、担当官との間で理解の齟齬が生じている場合は、そのままにしてはいけません。これもまた必ず担当官と対話し、解消したうえで必要な対応策の検討・報告が大切です。
FAQ
Q1. 監督指導にはどのような内容があるのでしょうか?
大きくわけると下記の3つが挙げられます。
- 事業場に立ち入る事実行為として実施する「臨検監督」
- 法令違反の事実を確認するための「帳簿および書類の提出要求」「使用者もしくは労働者に対して問い尋ねる行為」
- 確認した法令違反または法令違反以外の事項への「是正勧告書および指導票の交付」
Q2. よくある監督指導の指摘事項を教えてください。
監督指導時によくある指摘事項は、「割増賃金(残業手当)関連」、「労働時間関連」、「就業規則関連」、「法定帳簿関連」、「健康診断関連」の5つが該当します。
Q3. 是正勧告・指導を受けたときは、どのような対応をするべきなのでしょうか?
是正期日までに是正報告書の提出が必要です。是正報告書には、違反している条文ごとに、是正を求められている事項に対してどのような措置を講じたかを記載します。