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人材派遣業界の労務課題とは?企業規模ごとに解説【人材派遣業の人事カイカク#1】

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目次

はじめまして。特定社会保険労務士の小岩 広宣です。

今回から「人材派遣業の人事カイカク」というテーマのもと、人材派遣業界の人事労務の課題と対策について、5回の連載でお伝えさせていただきます。

私は、人材ビジネス支援に特化した社労士法人を運営して今年で18年目になりますが、前職は人材派遣会社の総務や労務担当者として働いていました。それだけでなく、派遣労働者として、銀行のシステム導入補助、自動車メーカー下請の購買担当、建設業事務といった仕事をしていた経験もあります。

このように、社労士としては異色の経歴だと思いますが、経営者にも派遣労働者にも無理なく感情移入できることは、さまざまな会社の人事課題を解決をする上で役立っております。

本連載では、これまでの経験を活かして、人材派遣業で働く人事労務担当者の方向けに役立つ情報をお届けしていきます。

第1回となる本稿では、人材派遣業界にはそもそもどのような課題があって、それぞれどのような要因で生じているのかを解説します。

人材派遣企業の人数規模ごとの課題についても掘り下げているので、ご覧いただいている方ご自身の会社の状況と照らしあわせて、お読みいただけたら幸いです。

【1】人材派遣業の主な労務課題と要因

人材派遣は、雇用と使用が分離する特殊な働き方です。

労働法では、雇用関係にない第三者が労働者に指揮命令することは禁止されていますが、人材派遣業は国から許可を受けることで例外としてそれが許されています。

そのため、派遣元に雇用されている派遣労働者が、雇用主ではない派遣先から指揮命令を受けて派遣先で働くことで、直接雇用にはないさまざまな労務課題が発生し、深刻なトラブルに発展することがあります。

その主な課題を以下に紹介します。

(1)派遣労働者の過重労働

働き方改革による労基法改正によって、時間外・休日労働の上限規制が強化され、2020年4月からは中小企業にも施行されます。

下記の時間外労働に関する4つのルールは、担当者でも細かく理解するのが難しい複雑な内容です。

  • 年720時間以内
  • 2~6ヶ月平均80時間以内
  • 月100時間未満
  • 月45時間を超える時間外は年6回まで

派遣労働者の36協定(時間外・休日労働に関する協定)は、派遣元が労基署に届け出ることになりますが、実際に派遣労働者に残業や休日出勤を指示するのは派遣先なので、派遣元の36協定の内容と矛盾が無いよう気をつける必要があります。

派遣法には、派遣元に適用される法律や罰則を派遣先に適用する特例があり、 上限規制についての規定はこれに該当します。したがって、上限規制を違反した場合の罰則である「6ヶ月以下の懲役または30万円以下の罰金」は、派遣先に適用されます。

中には、労基法違反の場合の罰則が派遣先に適用されることを知らない人もたくさんいます。派遣先は、派遣先の実務担当者や現場で派遣労働者を指揮命令する上司と十分に連携しながら、派遣労働者の残業や休日出勤を計画的にコントロールしていく必要があります。

(2)業界特性に応じた大量採用と、それに伴う大量離職

派遣法には、派遣労働者単位と派遣先の事業所単位の2つの「派遣期間制限の抵触日」のルールがあります。

どちらの抵触日も3年が上限とされていますが、特に派遣労働者単位の抵触日は延長ができないため、課単位の部署が変わらない限り、3年を超えて派遣就業を続けることはできません。

ほかの派遣先や同じ派遣先の異なる業務(部署)を紹介できる場合は大丈夫ですが、そうでなければ最長でも3年で派遣労働者が入れ替わることになります。労働者本人と派遣先とのマッチングの問題もあるため、実際には半年~1、2年という短期間での周期になるケースが多いでしょう。

このような背景から、派遣元は安定的に事業を運営するためには、常に労働者を募集し、大量採用する必要があります。一方で大量採用をすると、マッチング精度が落ちるため早期退職のリスクが発生します。

1、2ヶ月はもとより、たった数日での退職や音信不通になるケースもあります。しかし、労働法では無断欠勤=退職の意思とはみなされないため、長期間にわたって欠勤した労働者とトラブルになるような事例もめずらしくありません。

派遣元としては、無断欠勤を予防し、いざというときに粛々と退職の手続きが取れるよう、就業規則の規定や社内の対応などの仕組みを整備しておく必要があります。

(3)派遣労働者の有給休暇取得

2019年4月から、管理職やパートタイマーも含めたすべての労働者に、原則として年間5日の有給休暇を付与することが義務となりました。派遣労働者ももちろん例外ではないため、派遣元は派遣労働者の確実な休暇取得に取り組まなければなりません。

有給休暇の付与義務は派遣元に課されていますが、派遣労働者が実際に就業するのは派遣先であるため、年間5日間を計画的に取得するためには、派遣先の理解と協力が欠かせません。

そのため現場では、

  • 「派遣労働者が派遣先の上司に有休取得を申し出てきた」
  • 「有休申請の連絡が派遣先に伝わるのが遅れて現場が混乱した」
  • 「派遣元に有給休暇の残日数を聞いても明確な反応がない」

といったトラブルがしばしば起こります。

多数の派遣先でバラバラに就業する派遣労働者の有給休暇を手作業で管理するのは困難であり、業務ソフトなどを導入して一元的にコントロールするケースが多くなっています。同時に、労基法で認められた計画的付与や斉一的付与(一斉付与)といった方法を採用することで、効率的な取得を促進することも大切です。

労基法改正で有給休暇管理簿にすべての労働者の有給休暇の状況を記載し、保管することが義務付けられています。労働者から請求があったり、労基署などから指摘があったときにすぐに対応できるよう、日頃から万全の準備をしておきたいものです。

(4)ハラスメント

ハラスメントについても大きな労務課題となっています。2020年6月からは、いわゆるパワハラ防止法(改正労働施策総合推進法)が順次施行されます。

「パワハラの基準ってなんだろう?」と気になる方もいらっしゃるかと思いますが、

  • 優越的な関係に基づき
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えた言動によって
  • 労働者の就業環境が害されること

上記を満たすような行動がパワハラとして認定されます。

つい先日パワーハラスメント防止のための指針が公開されましたが、「パワハラの6類型」として、

  1. 身体的な攻撃
  2. 精神的な攻撃
  3. 人間関係からの切り離し
  4. 過大な要求
  5. 過小な要求
  6. 個の侵害

が挙げられています。

パワハラ行為などの法律違反に対しては、厚生労働大臣による助言や指導、勧告のほか、勧告に従わない場合の公表、事業主への報告聴取が規定され、報告を行わなかったり、虚偽の報告をしたりした場合は、20万円以下の過料に処されます

派遣法では、パワハラ防止措置については派遣先が事業主とみなされます。就業先でパワハラにあった派遣労働者が、派遣先に損害賠償を請求するケースも考えられるため、派遣先とも連携した予防措置が重要となります。

【2】会社の人数規模ごとの労務課題(中小企業 / 大企業)

派遣労働者をめぐる労務課題は、派遣元の企業規模や地域、業態などによっても違いがあります。ここでは、派遣元の規模や成長過程においてそれぞれどのような課題が考えられるかについて簡単に整理します。

(1)〜50名

派遣業では、平均的なマージン率はおおむね3割程度とされています(参考:日本人材派遣協会)。

社会保険料の事業主負担などを考えると、技術者や専門職派遣などの例を除けば、50名以下は派遣元が安定的な事業運営ができる最低規模と言えるでしょう。

このような段階では、創業者もしくは数名であらゆる業務を兼務して切り盛りすることになるため、とても複雑な仕組みである派遣法の基本的なコンプライアンスがおろそかになりがちです。

  • 就業条件明示書
  • 派遣元管理台帳
  • 抵触日の通知
  • 派遣先への通知

などは、労働局の監査で是正指導が行われる“定番”事項ですので、足元をすくわれないように基本事項を徹底することが求められます。

(2)51名〜300名

派遣元の実務責任者として法律上選任が義務付けられている「派遣元責任者」は、派遣労働者100人を単位として増員する必要があるため、この規模になると派遣元は必ず複数の派遣元責任者を置くことになります。(参考:厚生労働省「派遣元・派遣先との連携」

派遣元責任者は、関係書類の作成・保存や派遣労働者の苦情処理だけでなく、2015年の派遣法改正で義務付けられた、キャリアアップ教育訓練やキャリアコンサルティングの実施責任者でもあります。

これらの内容は派遣業の許可基準でもあることから、適切な運用がされていないと労務トラブルになったり、許可更新ができなくなったりする可能性も

特に新任の派遣元責任者については、職責をまっとうできるよう会社全体のバックアップが最も重要です。

(3)301名〜1,000名

この規模になると地方都市では中堅規模の派遣元となり、地域や職種における信頼基盤を獲得しているレベルです。

複数の取締役や派遣元責任者によって事業運営を行うことになるため、規模の利益が得られるとともに経営陣による現場への目配せが難しくなります。

典型的な労務課題としては、大量採用による労働条件をめぐるトラブルや早期退職者の増が問題となることが考えられます。この規模では、採用と現場管理の機能が独立するのが一般的なため、それぞれを橋渡ししたり統括したりする存在が重要です。

2020年4月から派遣労働者に対する派遣元の説明義務が強化されます。雇い入れ時や派遣時、求めがあった場合に、具体的な待遇などの詳細を説明することが義務となりますので、こうした改正事項にも確実に対応していく必要があるでしょう。

(4)1,001名〜

拠点ごとに部門経営者を置いたり、場合によっては分社化を行うケースも出てくる規模となります。この段階になると、個々の現場で起こる労務課題はもちろんですが、経営全体としての運営方針や体制が課題となるケースも多いです。 

  • 派遣の主力業務を多角化・転換
  • 職業紹介や業務請負業を兼業
  • 拠点展開の拡大や統合
  • ベテランの幹部登用や中途採用者の抜擢

などなど、さまざまなドラマが繰り広げられることになります。

経営方針の変化・拡大や組織の変更・再編は、多かれ少なかれ現場に影響をもたらします。

実際に事業転換によって定着率が大幅に低下し、経営状態が悪化した事例もありますので、経営陣のリーダーシップと現場との融和が求められる場面も多いでしょう。

おわりに

本稿では現状の人材派遣業界の課題について掘り下げて解説してきました。

2020年4月からは、派遣労働者の同一労働同一賃金(不合理な待遇の格差の是正)が施行されます。派遣先均等・均衡方式と労使協定方式の選択制によって派遣労働者に一定の待遇を保障することを求めるこの改正は、派遣業のあり方を一変させるインパクトがあります。

施行に向けて各社で実務対応が進められていますが、複雑かつ難解な改正内容だけに、派遣業を取り巻く労務課題も大きく変化していくことは間違いありません。

それぞれの立場で「変化の年」に確実に対応し、さらなる事業の発展を目指していきたいものです。

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