本当の多様性とは?組織を壊す「空気の支配」と集団浅慮の正体
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2026年3月10日、SmartHRのグループ会社「Smart相談室」が人事向けコミュニティイベント『スマソウナイトvol.3』を開催。
株式会社ユナイテッドアローズ CHROの山崎万里子さんと、『嫌われる勇気』や『集団浅慮』著者の古賀史健さんをお招きし、「組織の多様性」をテーマに語り合いました。
集団浅慮とは、結束力の強い組織の同調圧力により、不合理な結論に至る現象を指します。なぜ優秀な組織ほど集団浅慮に陥るのか、本質的な多様性とは何なのか。当日のセッションの様子をお届けします。
山崎 万里子 氏株式会社ユナイテッドアローズ CHRO
1973年福岡生まれ。学習院大学在学中、ユナイテッドアローズで生まれて初めてのアルバイトを経験し、1996年に新卒2期生として入社。20代は販売促進やブランディングなど営業戦略を担当し、30代以降はコーポレート戦略、管理職へとキャリアチェンジ。広報宣伝部長、経営企画部長を経て、2024年より執行役員CHRO・人事本部長を務める。座右の銘は「鬼手仏心」「蝶の如く舞い、蜂の如く刺す」。
古賀 史健 氏株式会社バトンズ代表取締役/ライター
株式会社バトンズ代表、ライター。1973年福岡県生まれ。九州産業大学芸術学部卒。1998年、出版社勤務を経てライターとして独立。主な著書に『集団浅慮』、『さみしい夜にはペンを持て』(第73回小学館児童出版文化賞最終候補)、『さみしい夜のページをめくれ』、『取材・執筆・推敲』のほか、世界40以上の国と地域で翻訳された『嫌われる勇気』『幸せになる勇気』(岸見一郎共著)シリーズや、糸井重里氏の半生を綴った『古賀史健がまとめた糸井重里のこと。』(糸井重里共著)などがあり、編著書累計は2,200万部を数える。2015年にライターズ・カンパニーとして株式会社バトンズを設立。
多様性とは、視点の違いを表明できること

まず、お二人の考える「多様性」を教えてください。
山崎さん
私の考える多様性とは、「いろんな人がいること」ではなく、「意思決定の視点が一つではないこと」です。
たとえば、AI導入を議題にした経営会議があったとします。IT部門は既存システムへの影響、財務部門はコスト、法務部門は情報漏洩などが気になるでしょう。人事部門であれば、AIによって仕事を失う人が出てくることを心配します。
それぞれが違う懸念を抱くなかで、全員が自分の視点を発言できる。それが、多様性のある組織だと思います。
しかし実際には、心のなかで「反対」と思っていても、なかなか口に出せないのが現実ではないでしょうか。そして沈黙が賛成とみなされ、一人の強い視点で重大な意思決定が進んでしまう。これが、同質性のもたらすリスクであり、集団浅慮の入り口だと考えています。
古賀さん
山崎さんがおっしゃるとおりで、多様性の本質は「視点の違いを表明できること」にあると思います。そもそも多様性の概念は、1950年代のアメリカの公民権運動が起源です。
キング牧師によるワシントン大行進が有名ですが、公民権運動が成し遂げたのは黒人差別の撤廃だけではありません。公民権法の成立により、人種・肌の色・宗教・性別・出身国にもとづくあらゆる差別が、公的に禁止されました。
この公民権運動も、日本で多様性の文脈として語られる「女性の社会参画」も、「現実が先にある」点で共通しています。社会に多様な属性の人々がいるという「現実」が先にあり、それに合わせて制度を変えていく努力こそが、「多様性」といえるでしょう。
多様性が足りない組織は、この「現実」を直視する目が不足しているのだと思います。過去の成功体験にとらわれたまま単眼的な視点で組織をつくり続ければ、多様性はさらに失われていくのです。
「空気の支配」は悪意ではなく、善意から生まれる

同質性の高い組織では、何が起きているのでしょうか?
山崎さん
私は15年前、37歳でユナイテッドアローズの執行役員になりました。女性初で、最年少でした。しかし、初めて役員会議に出席したあと、皆さんは歓迎してくださったのに、私はとても居心地の悪さを感じたのです。
当時は「女性が一人だから」「年齢が下だから」と属性の問題だと解釈して、その気持ちに蓋をしました。それから15年後、古賀さんの著書『集団浅慮』を読んで、その正体が「同質性の高い組織がもたらす空気の支配」だったのだと腑に落ちました。
「空気の支配」はどのように生まれるのか。役員会議に集うのは、成果を出し続け、組織への高いコミットメントも示してきた、いわばスーパーマンのような人たちばかりです。
彼らが後進を育てようとすると、自分と似た経験や価値観をもつ人を選びがちです。その結果、全員が同じ方向を向き、同じタイミングでうなずくようなトーン&マナーの極めて整った組織ができあがるのではないでしょうか。
集団浅慮や同調圧力は、「悪い人」が引き起こすものではありません。私がいた会議の参加者は、みな驚くほど「いい人」でした。組織をよくしようと奮闘する誠実な人たちが、善意のバトンをつなぎ続けた結果として生まれるのが「空気の支配」です。
古賀さん
私が著書『集団浅慮』で取り上げた企業不祥事の事例でも同じことがいえます。経営陣に悪意があったわけではなく、なるべく穏便に済ませようとした結果、起きたことでした。
なぜ起きてしまうのか。会議とは、意思決定や意見の表明を求められる「ストレスのかかる場」です。同質性の高い組織は、早くストレスフルな会議を終えて、いつもの「仲のいい関係」に戻りたい心理が働きやすくなります。
その結果、異論が出る代わりに、「誰かの意見を言い回しだけ変えてなぞる」状態となり、全会一致で物事が進んでしまうのです。
なぜ日本の組織は、同質化しやすいのか

古賀さん
集団浅慮の概念は、社会心理学者アーヴィング・ジャニスによって提唱されました。しかし、日本の組織には別の「集団浅慮」があると考えています。それが「メンバーシップ型雇用」です。
「メンバーシップ」とは英語で「会員権」を意味します。ゴルフ場の会員権をイメージするとわかりやすいでしょう。入会者がドレスコードに従うように、社員もその組織特有のトーン&マナーに従わざるを得ません。
組織のイロハを新卒から教え込まれるため、長く勤めるほど有利になる反面、他の組織では通用しにくいキャリアを歩むことになります。日本の組織が同質化しやすい原因の一端は、こうしたメンバーシップ型雇用の構造にあります。
異論は「仕組み」で引き出す

集団浅慮を防ぐには、どうすればよいのでしょうか?
山崎さん
「勇気をもって異論を言おう」という動きがありますが、私は無理だと思っています。異論を勇気ある人の仕事にした瞬間、普通の人は黙り込むからです。
では、どうすれば個人の勇気に依存せずに済むのか。2つの方法があります。
1つ目は、研修で使われる「ファシリテーション技法」を会議に取り入れることです。具体的には、テーマを共有し、全員に同じ思考時間を与えます。そのうえで、挙手ではなく順番に話してもらうことで、発言できていない人をゼロにします。
意思ではなく「仕組み」として、全員が発言せざるを得ない状態をつくるのです。声が大きい人や役職者は最後に話すようにすると、ほかのメンバーが同調せずに発言できます。
2つ目は、異論を唱えることを「役割」にする方法です。「反対意見はありますか?」と聞かれても、手を挙げられる人はなかなかいません。
そこで「ITの観点でリスクを教えてください」と立場を指定し、役割として意見を引き出すのです。内容は異論でも「役割」として求められることで、発言の心理的ハードルは大きく下がります。
勇気ではなく「仕組みの設計」こそが、集団浅慮を防ぐ鍵だと思います。
古賀さん
ジャニスも、集団浅慮を避けるための処方箋として3つのことを提唱しています。
1つ目は、「悪魔の代弁者」を用意することです。あえて反論する役割を事前に与えておくことで、その場で異論を述べる心理的負担が下がります。
2つ目は、意思決定グループを複数設けることです。経営層だけでなく下の階層でも会議を開き、複数の結論をもち寄って最後に統合します。
3つ目は、リーダーが最初に沈黙を守ることです。軽い一言であっても、リーダーが口を開くと忖度(そんたく)が生まれ、会議がその言葉に引っ張られてしまいます。だからこそ、「リーダーは必ず沈黙しなければならない」とジャニスは提言しています。
「武勇伝」より「失敗の共有」が、集団浅慮を防ぐ

古賀さん
組織のあり方として、リクルートの取り組みが参考になるでしょう。同社は新入社員研修で、過去に自社が起こした事件を取り上げ、「我々は過ちを犯した会社です。だから、そうじゃない会社を一緒に創っていきましょう」という趣旨のメッセージを伝えています。
(参考)株式会社リクルートホールディングス「リクルート事件から経営理念の制定まで」
一方、多くの企業は成功体験や武勇伝ばかりを語り続けます。過去の失敗が「なかったこと」にされ、組織のなかに不敗神話が生まれていきます。こうして「自分たちが決めたんだから大丈夫だ」という根拠のない思い込みが、集団浅慮を引き起こしてしまうのです。
女性管理職比率「30%」がもつ本当の意味

「組織の多様性」を理想論で終わらせないための方法を教えてください。
山崎さん
私は3つの視点が必要だと考えています。
まずは「多様性を倫理の話にしないこと」です。「多様性が大切だ」という言葉は、どの企業のウェブサイトにも掲げられ、専門の部署まで設置されています。それでも一向に進まないのは、それが「きれいごと」で終わっているからです。
多様性に反対する人は誰もいません。ただ、言葉だけでは誰も動かないのです。
だからこそ、倫理として語るのをやめ、組織が正しい意思決定をするための「安全装置」や「リスクマネジメント」の仕組みとして扱うべきでしょう。
次に、「数は守る」です。政府が掲げる「女性管理職比率30%」の目標は、単なる平等のためではありません。マイノリティが「特別な存在」でなくなる臨界点が30%なのです。これは、社会学者ロザベス・モス・カンターが提唱した「クリティカル・マス」の考え方として知られています。
たとえば、水は99℃まで熱しても液体のままです。しかし100℃を超えた瞬間、一気に沸騰します。女性管理職比率も30%に達することで、多様な組織文化へと加速度的に変化が起きるのです。
そして最後は「文化と空気を混同しないこと」。文化とは「何を大切にするか」であり、空気とは「何を言ってはいけないか」を指します。
もっとも避けたいのは、文化はないのに「空気の支配」だけがある組織です。強い企業文化をもちながらも、多様な意見が表明できる。そうした組織が理想だと考えています。
古賀さん
経営者からよく「女性管理職を3割にして売上が上がるのか?」との声を聞きます。しかし、多様性の欠如がもたらす集団浅慮やそれが招く「人権リスク」は、売上への影響にとどまらず、企業の存続に関わる問題です。
たとえば、男性しかいない集団が自分たちのセクシュアルハラスメントに気づくのは、ほぼ不可能でしょう。当事者が声を上げて初めて、無自覚なバイアス(アンコンシャス・バイアス)に気づけるのです。
当事者の視点が欠けた組織は、気づかないうちに人権を侵害します。それが今の時代、取り返しのつかない経営リスクに直結します。法令違反かどうかではなく、人権を軽視した事実そのものが、企業の存続を揺るがします。
多様性を短期的な損得で判断するのではなく、人権リスクを回避し、企業を存続させるための「経済合理性」と捉えるべきでしょう。
まずは数をそろえ、当事者の声が届く構造をつくる。それが多様性を経営に定着させる第一歩となるはずです。
セッションの様子は動画でご覧いただけます。山崎さんと古賀さんの掛け合いから生まれた、現場のリアルな問いと答え。組織の「空気」を変えるヒントを、ぜひ動画で体感してください。
(文: 尾倉 直弥、編集:佐々木四史)





