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職員に満足度高く働いてもらうためのポイントとは【病院の人事カイカク #3】

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こんにちは、特定社会保険労務士の福島紀夫です。

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響が薄くなってきたかと思ったのも束の間、また感染者数が上昇し始めてしまいました。経済活動を回さなければならない反面、リスクと隣り合わせの状況は変わりませんので、引き続き注意しましょう。

医療従事者のみなさんも大変なご苦労をされておられます。感染リスクが高い中、どのようにしてモチベーションを維持しながら仕事をされていくのか、維持できているとすればその原動力は何なのか。3回目の今回は医療従事者のみなさんがイキイキと働ける職場作りのポイントについて考えてまいります。

新人看護師が早期に離職する理由

まずは、新人看護師が早期で離職する場合の理由について、ある調査結果をもとに解説いたします。

離職理由は能力不足と言い切れるのか

10年ほど前、私は、「看護師が早期に離職する理由はどこにあるか」を探る調査をしたことがあります。そのきっかけは、一つのデータからでした。それは2005年の公益社団法人日本看護協会による調査結果を元にしたもので、新人看護師が早期に離職してしまう理由が列挙されていました。

出典:公益社団法人日本看護協会「2005年新人看護職員の入職後早期離職防止対策報告書」

調査によると、「新人看護師は、就職前に考えていた仕事と実際の仕事のギャップに悩み、それを離職要因の1つとしている」と述べています。また、基礎教育終了時点の能力と実際の現場での能力にギャップがあることがトップの理由であり、臨床経験が少ない時点においてはやむを得ない結果とも受け取れます。

この調査では、入職8ヶ月までの新人看護師が苦痛と感じる事柄と程度、離職を考えたことの有無についてまとめています。それによると、看護技術に関する事由について以下の順で高かったとしています。

  • 仕事で失敗してしまうこと
  • 技術の応用ができないこと
  • 専門用語や略語がわからないこと
  • 基本的な看護技術がうまくできないこと

また勤務形態に関する事由では、以下の2項目が目立っていたとしています。

  • 業務量が多く時間内に仕事が終えられないこと
  • 時間の使い方や仕事の優先順位の判断の難しさ

次に、離職を考えた理由として多かったものをまとめると、

  • 専門職としての責任の重さ
  • 職場の人間関係
  • 看護技術に関すること

などの項目が多くなっています。調査時期をみると、入職直後の5月の調査と12月の調査においては、経験を重ねることで苦痛や離職に対する思いは軽減されてきていることがわかります。

さらに、仕事で失敗してしまうことの項目の中で、「事故の経験」も離職を考える理由の1つです。事故を理由にした離職は、本人にとっても組織にとっても大きな痛手を負うことになるので、事故の原因の追究だけでなく、繰り返さない対策を立てる教育体制を作ることが重要だとされています。

人は承認欲求を持っている

また、この調査で私が最も着目した項目は、個々の看護職員を認める、ほめることが少ない職場風土について、病院側の意見としては9番目という結果に対し、離職した本人たちの意見では45%で4番目の数値という大きなギャップがある点です。

2005年新人看護職員の入職後早期離職防止対策報告書

出典:公益社団法人日本看護協会「2005年新人看護職員の入職後早期離職防止対策報告書」

新人看護師たちは承認や認知の欲求を求めているにもかかわらず、上司からの評価を得られないと感じることが大きな理由ではないかと考えられたのです。したがって、離職率の低下につなげるには、やる気を引き出すような働きかけが大きな課題のひとつであると考えます。

こちらの報告書では、前述のような看護技術に関する不安については、ほとんどの看護師が新人の時に感じるものとしており、キャリア形成していく中で克服していかなければならない項目としています。看護技術に関する項目であれば院内の教育体制を再度見直して改善していくことが求められますが、それだけでなく、精神的な支えとなるような職場風土の策定が望まれるとしています。

承認の重要性が理解されるようになってきた

これらの調査結果を元に、私は、現役の看護師長、看護部長の方にお話を伺う機会をいただき、「承認」についてインタビューを行いました。

その結果、それぞれの看護師長たちがおっしゃっていたのは、2004年当時の新卒看護師の離職理由調査から月日が経過していることもあり、「承認、ほめる」という考え方は大きく変わり、看護協会主催の研修会等における指導項目の中でも承認が含まれるようになっているとのことでした。

ほめることだけでなく、当然厳しい指導を行うこともあり、その際には「叱る」内容の根拠を明確にして行っているといいます。

いずれの病院においてもほめることの重要性は強く感じられており、方針としても採用されるなどの関心は高いのですが、実際にほめられて育ってきていない世代の上司が多いため戸惑いも感じられていたようです。

仕事の遂行能力や行動をほめることで、スタッフが働きやすくなると考えられますが、ほめ方は承認の仕方、フィードバックの仕方などでモチベーションがマイナスに働くこともあるので注意しなければならない点でもあります。

また緊急の対応等もあるため、新人に対していつまでも優しい言葉で対応するには限界もあり、承認と指示の間で悩んでいるケースもありました。

患者から得る承認について

「患者からの承認は長期的なモチベーションにはなりにくい」と書かれた本などもありますが、現場の声としては多くの看護師長がこれを否定していました。

上司の評価はもちろん仕事をしていく上では重要であるし、能力を高く評価されることは自己効力感にも効果的です。しかし、それが金銭的な報酬となることを強く望んでいるかというとそうではないという意見が多かったのです。

ある看護師長が言った「看護師になろうと決めたときから自分自身の中で戦いが始まっている」という言葉が印象的でした。彼らが看護師を目指そうとするのは、早ければ高校生の時期です。その時に自分の人生を決定して進んでくるわけです。そんな彼らが看護師となってやりがいと言えるのは、金銭的な報酬ではなく、患者への奉仕によって得られる喜びが大きいといえます。

生産性向上には「動機づけ」が重要

金銭的報酬と非金銭的報酬についていえば、かつてアメリカの臨床心理学者フレデリック・ハーズバーグは「二要因理論」を唱えました。仕事の生産性を高めるためには、「動機づけ理論」が重要であるとしたものです。動機づけ理論を英訳すると「theory of motivation」となるように、モチベーションに関する考え方といってもよいでしょう。

賃金や雇用保証といったものは「衛生要因」といい、これらが充足しても「やりがい」などの満足には繋がらないものの、欠けると不満足に繋がる要因を指します。一方で昇進や承認、認知、達成感などは無くても不満足には繋がらないものの、有ることで仕事のやりがいやモチベーションアップにつながる「動機づけ要因」という考えです。

ハーズバーグ二要因論

ハーズバーグ二要因論(著者作成)

こちらの理論では「賃金が上昇しても嬉しいのは一時的な感情で長続きはしない」、「上がれば上がるほど嬉しいものだが、仕事のやりがいにはつながらない」、「賃金だけで判断する人は異動も激しくなるため仕事に対する情熱のようなものにはリンクしない」としています。

もちろんこれにすべてが当てはまるわけではありませんが、「モチベーションアップに繋がるような動機づけの重要性」は、今でも通用する考え方なのではないでしょうか。

おわりに

実際に組織としてほめて育てる環境になってきていることは事実ですが、ほめ方と日常の仕事で感じる達成感が合致した際に、はじめて上司からの承認行為が生きてくるのではないかといえます。しかし、それ以上に離職者が多い点については、リーダーシップ以外の要因も多いと考えられます。

看護師は組織の外で活躍することで評価される場面は少なく、所属する組織の中での評価となるため、自身の専門的な能力や貢献度を図るのは上司の評価になると考えます。それが得られる機会が少なかったとしても、患者からの承認の声が大きな財産となって自分に返ってきていることも事実です。

承認については、看護師長のリーダーシップや承認行為の認識を統一した上で、部下である医療従事者からのインタビューも踏まえて、患者からの承認との比較を行う必要があるのではないかと考えます。

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