「内定取消」は慎重に! 損害賠償請求される可能性も・・・
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もうすぐ6月、2018年卒向けの選考が解禁されます。
採用活動は、企業が発展していくための重要な活動の1つです。しかし、誰も彼もと雇うわけにはいきません。とりわけ「内定」を通知するにあたっては、入社前とはいえ慎重になる必要があります。
そこで今回は、損害賠償沙汰になりかねない「内定取消」について解説します。
内定は簡単に取り消すことができない
採用内定者と会社との間には、「始期付・解約権留保付の労働契約」が成立しています。
これが、「内定」と言われるものです。
具体的には、「○月×日(入社日)から働いてもらいます(始期付)、その間に何か問題が発生すれば、この労働契約は内定を取消します(解約権留保付)」ということになります。
そして、○月×日までに何も問題が起きなければ、会社は、○月×日から内定者を雇う義務が生じます。
ここで言う「何か問題が発生すれば」とは、「採用内定時知ることができず、また、知ることが期待できないような事実の発生」に限ります。
そう簡単には、内定を取り消すことはできません。
具体的な「内定取消事由」
具体的な内定取消事由としては、以下のものがあります。
・卒業できなかった
・必要な資格を取れなかった
・業務に耐えられない程、健康状態が悪化した
・経歴等にウソの申告があって、もし正直な申告があれば採用しなかった
・逮捕や起訴猶予処分を受けた
上記以外の理由での内定取消は、解雇と同様、客観的に合理的で社会通念上相当として是認することができる場合に限ります。
よくある、「入社前の研修に参加しなかったら内定を取り消す」というのは、無茶な言い分です。
入社前には、まだ労働義務が発生していないので、研修等への参加を強制することはできません。入社前の参加は、あくまで任意であり、不参加を理由にした内定取消は難しいでしょう。
経営悪化による内定取消は「整理解雇」と同様に取り扱われる
経営悪化による内定取消の場合には、「整理解雇」と同様に扱われます。
すなわち、整理解雇4要素を総合考慮して、内定取消が有効かどうか判断します。
<整理解雇の4要素>
- 人員削減の必要性
- 解雇回避義務の履行
- 被解雇者選定の合理性
- 手続きの妥当性
「新卒者の内定取消」には厳しい条件がある
また、新規学卒者への内定取消については、「公共職業安定所と施設の長(学校長等)に、あらかじめ通知する義務」があります。
この場合、企業名が公表されることもあります。
以上のように、一旦、採用内定を出したあとで内定を取り消すのは、企業にとって極めて厳しい条件をクリアしなければなりません。
まずは、採用段階で厳しく選別することです。
安易に内定を出さず、その者の能力や適性をできる限り見極めるとともに、社内風土に合う人物かどうかという判断も必要です。
「内定」と「内々定」の違い
採用の「内定」と「内々定」の違いですが、これはあくまで、実質的な拘束度合いで判断します。
一般的には、「内定通知」によって内定が成立したと考えますが、たとえ内定通知の発行がなくても、会社と内々定者の間に労働契約を確立させる確定的な意思が認められれば、内定と判断されます。
しかし、これは個別の事例ごとに判断される問題で、どこからが「内定」、どこからが「内々定」と一律に線引きはできません。
ただ、内々定と判断されれば、未だ労働契約は成立していませんので、特別な理由がなくても取り消しを行うことができます(とはいえ、あまりに不誠実な取り消しは、損害賠償請求の対象となります)。
このように、内定取消には、多くの制約があります。「採用内定」も「内定取消」も、安易に行うことなく、くれぐれも慎重に行ってください。