厳罰の対象となる「労災隠し」とは? 該当ケースや罰則を解説


こんにちは。しのはら労働コンサルタントの篠原宏治です。

皆さんは、「労災隠し」という言葉をご存知ですか?

「労災事故が起きた際に、事業主が労災保険申請を行わないこと」と考えている方もいらっしゃるかもしれませんが、これは、労災隠しについての正しい説明ではありません。

今回は、労災隠しに該当するケースとその罰則について解説します。

「労災隠し」とは?

労災事故が発生したとき、事業主は、労働安全衛生法(以下「安衛法」)第100条及び同法施行規則(以下「安衛則」という)第97条に基づいて、現場の状況や被災状況などを「労働者死傷病報告」(以下「死傷病報告」という)によって、所轄労働基準監督署長に報告することが義務づけられています。

「労災隠し」は、事業主が、労災事故の発生を隠すために、死傷病報告の届出を行わなかったり、虚偽の内容で届出を行ったりすることを指します。違反した場合には、50万円以下の罰金(安衛法第120条)に処せられます。

そのため、労災保険申請を行わないことは、労災隠しとはまた別の問題となります。

ただ、実務上は、労災保険申請が正しく行われていれば、労災事故を隠す意思がなく単なる「届出不備」と考えられるため、労災隠しとして問題になることはほとんどありません。

問題となるのは、労災事故の発生自体を隠蔽しようとするケースや、事実関係の一部を隠して虚偽内容に基づいて労災保険給付を受けようとするケースです。

なお、通勤災害は、死傷病報告の届出義務がないため、労災隠しを問われることはありません。

「労災隠し」に対する処分は?

「労災隠し」が行われると、被災労働者やその家族が、十分な補償を受けられず著しい不利益を被る可能性があります。

そのため、労働基準監督署(以下「労基署」という)は、「『労災かくし』は犯罪です。」と大きく記載したパンフレットを配布し、悪質な労災隠しに対して非常に厳しい姿勢で臨んでいます(*1)。

厚生労働省が毎月ホームページで公表している「労働基準関係法令違反による公表事案」(いわゆるブラック企業リスト)の平成30年3月分(平成29年3月1日~平成30年2月28日公表分)には、458件の送検事案が掲載されています(*2)。

このうち、労災隠し(安衛法第100条・安衛則第97条違反)による送検が、1割弱に当たる44件を占めており、労基署が積極的に司法処分(書類送検)を行っていることがわかります。

「労災隠し」に該当する主なケース

それでは具体的にどのような場合に「労災隠し」と判断されるのでしょうか?

「労災隠し」に該当する代表的なケースには次の3つがあります。

(1)「死傷病報告の届出」を行わない

労災事故が起きたこと自体を隠蔽するために、死傷病報告の届出を行わないケースです。労災隠しの最も典型的なケースと言えます。

事業主が、労災事故の発生を隠蔽しようとする理由には、次のようなものがあります。

  • 労災保険は、一定期間に発生した労災事故の多寡に応じて最大40%の範囲で保険料負担を増減させる「メリット制」が採用されており、保険料負担の増加を免れるために隠す
  • 公共工事などの元請業者が、発注者から今後の受注において入札停止等のペナルティーを科されることを恐れて隠す
  • 建設現場などの下請業者が、元請業者からの今後の受注に影響を及ぼすことを恐れて隠す
  • 現場責任者が、自身の評価が下がることや無災害表彰の受賞に影響を及ぼすことを恐れて隠す

労災事故発生を隠蔽するため、労災保険申請も行わず、健康保険や事業主の現金負担によって被災者の治療が行われます。

しかし、健康保険から業務上のケガの療養費用を請求することは不正受給に当たる可能性があり、また、労災保険は健康保険よりも給付が手厚いため、被災者が十分な補償を受けられないことが少なくありません。

そのため、被災者からの訴えによって労災隠しが発覚することも非常に多いです。

(2)「労災事故の発生状況」を偽って届け出る

会社の安全対策の不備について行政指導を受けることを恐れて、労災事故の発生状況や発生場所を偽って届け出るケースです。

実際にあった虚偽報告のケースの例として、次のようなものがあります。

  • 工場の敷地内で起きたフォークリフトと労働者の衝突事故を「交通事故」として届け出る
  • 手すりが設けられていない高所作業場からの墜落事故を「階段からの転落」として届け出る
  • 安全カバーのない食肉加工機械によって負ったケガを「包丁使用中のケガ」として届け出る

労災保険申請は行われるため、被災者の補償への支障がほとんどないことから、事業主に労災隠しをしているという意識が低く、安易に虚偽報告が行われるケースも散見されます。

しかし、発生状況を偽ることで十分な再発防止対策が講じられない可能性も高いことから、悪質な労災隠しとして厳重処罰の対象となります。

(3)建設現場の労災事故を「下請業者の労災事故」として届け出る

建設現場のように請負関係が生じている場所で発生した労災事故は、下請業者の労災事故であっても、元請業者が安全管理の責任を問われ、元請業者の労災保険から給付が行われます。

そのため、下請業者が今後の受注に支障が出ることを恐れたり、または、元請業者が労災事故の責任を下請業者に負わせようとしたりして、下請業者の会社敷地内で事故が発生したと偽って届出が行われることがあります。

下請業者の労災保険に基づいて給付申請が行われるため、被災者の補償が不十分となることは少ないのですが、責任逃れや再発防止対策などの問題があるため悪質な労災隠しとして取り扱われます。

救急搬送された病院が不自然であることなどが、労災隠し発覚の端緒となることも多いです。

 

(1)~(3)のいずれのケースも、悪質な労災隠しとして厳しい処罰の対象となりますので、くれぐれも適正な死傷病報告の届出を心掛けてください。

【参照】
*1:「労災かくし」は犯罪です。 – 厚生労働省
*2:労働基準関係法令違反に係る公表事案 – 厚生労働省

特定社会保険労務士 篠原 宏治

社会保険労務士事務所しのはら労働コンサルタント代表。元労働基準監督官。特定社会保険労務士。労働基準監督官として残業代不払いや長時間労働などの労働問題に関する数多くの相談対応、監督指導(臨検)、強制捜査などを行ってきた経験を活かし、「労働問題に強い社会保険労務士」として、労使双方からのご相談に対して実務的な助言やコンサルティングを行っています。社会保険労務士事務所しのはら労働コンサルタント
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