1. 人事・労務
  2. 労務管理

人事・労務担当が知っておきたいHRニュース|2024年6月の振り返りと7月のポイント

公開日
目次

こんにちは!社会保険労務士の岸本です。7月は、いよいよ人事労務業務の繁忙期といわれる期間の最終月。

今年は定額減税の対応にも追われるなかで、労働保険の年度更新や算定基礎届、61(ロクイチ)報告などの年次業務への着手が比較的遅れてしまっている企業も少なくないかもしれません。

また、梅雨から真夏へ向けて体調管理が難しい時期にもなりますので、ぜひご自身の健康にも気をつけながら、必要な業務について漏れなく対応しましょう。

今回も、他にはない実務目線でわかりやすく、皆さまのお役に立てる情報をお届けしたいと思いますので、どうぞご覧ください!

6月のトピックを振り返る

6月は、何と言っても定額減税の月次減税事務の対応を中心にご尽力されたことと思います。まずは本当にお疲れさまです!と労いの言葉をお伝えします。

そして直近では、人事労務に関連する法改正情報などもいくつか公表されていますので、繁忙期が少し落ち着いたタイミングで、まずは必要な情報のキャッチアップからできるとよいでしょう。

誰でも分かりやすくポイントを絞って理解できるようにまとめてみましたので、ぜひ目を通してみてください。

トピック1:「フリーランス保護の新法」が2024年11月1日施行へ

近年、多様な働き方がより広まっている世の中において、組織には所属せずに個人で業務委託を中心として働く方も多くいらっしゃるかと思います。

そのようななかで、いわゆる「フリーランス」と呼ばれる働き手に対しては、その契約形態が業務委託契約であるため、原則として労働基準法等が適用されません。

また、仕事を発注する側である発注事業者とフリーランスとの間では、交渉力や情報収集力の格差が生じやすい側面もあります。そのため、フリーランスにとって不利益なトラブルも起きやすいといった点は以前から懸念されている課題でもあります。

補足:フリーランスとは?

業務委託の相手方である事業者で、従業員を使用しないもの。

そうした課題に対する、フリーランスの保護を目的とした国の施策については、2020年(令和2年)11月の「フリーランス・トラブル110番」の設置や、2021年(令和3年)3月の「フリーランスとして安心して働ける環境を整備するためのガイドライン」の策定、といった動きもあります。

そして、2023年(令和5年)4月には「特定受託事業者に係る取引の適正化等に関する法律(フリーランス・事業者間取引適正化等法)」が成立し、その施行日が今年(令和6年)11月1日となりました。

参考:フリーランスとして業務を行う方・フリーランスの方に業務を委託する事業者の方等へ - 厚生労働省

法律の目的

フリーランスの方が安心して働ける環境を整備するため、以下を図ることが目的とされています。

  1. フリーランスの方と企業などの発注事業者の間の取引の適正化

  2. フリーランスの方の就業環境の整備

法律で定められた義務

企業等の「発注事業者(フリーランスに業務委託する事業者で、従業員を使用するもの)」が、フリーランスに対して求められる義務の内容は以下のとおりです。

  1. 書面等による取引条件の明示

  2. 報酬支払期日の設定・期日内の支払

  3. 禁止行為

  4. 募集情報の的確表示

  5. 育児介護等と業務の両立に対する配慮

  6. ハラスメント対策に係る体制整備

  7. 中途解除等の事前予告・理由開示

※補足:発注事業者の区分により、上記の適用範囲は異なります


人事・労務担当者が知っておきたいポイント

この法律は、一見すると「業務委託契約者に対する対応だから、人事・労務ではない法務などの他部署が担当するものだよね」とも思われがちですが、企業の労務実務に携わる目線からは以下の点で「対応すべき事項のなかで人事・労務に関連する内容も多い」といえます。

  • 全体のポイント

    • 全体的にフリーランス保護の対応がより厳しくなったという面では、その労働者性の有無の確認や、社内での業務委託契約者に対する運用整備など、人事・労務担当としての知識や経験が活かせる
  • ポイント1:育児介護等と業務の両立に対する配慮
    • すでに実施している社員(労働者)向けの育児介護等と仕事の両立に対する支援等の、ノウハウや社内運用が活かせる
  • ポイント2:ハラスメント対策に係る体制整備
    • すでに実施している社員(労働者)向けのハラスメント防止対策等の、ノウハウや社内運用が活かせる

施行日は今年の11月1日と比較的迫っていることもありますので、早めに社内の関係者とも確認・連携しつつ、必要な対応の検討や準備を進めておけると安心です。

トピック2:「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」について

直近では、厚生労働省から「個人事業者等の健康管理に関するガイドライン」の策定についての公表がされています。

こちらも、先ほどのフリーランス保護の新法と一部関連するような、労働者ではない個人事業主等に対する国の施策のひとつといえます。なお、このガイドライン策定による目的や考え方は、以下のとおりです。

ガイドラインの目的

「個人事業者等は労働者と同じ安全衛生水準を享受すべきである」という基本的な考え方のもと、個人事業主等が健康に就業するために、個人事業主等が自身で行うべき事項、注文者等が行うべき事項や配慮すべき事項等を周知し、それぞれの立場での自主的な取り組みの実施を促すものです。

個人事業者等の健康管理の基本的な考え方(一部抜粋)

個人事業者等 個人事業者等として事業を行う上では、自らの心身の健康に配慮することが重要であり、各種支援を活用しつつ自らで健康管理を行うことが基本である。注文者等注文を受けて仕事を行う場合には、注文者等による注文条件等が個人事業者等 の心身の健康に影響を及ぼす可能性もあることから、個人事業者等が自らの健康を適切に管理するためには、その影響の程度に応じて、注文者等が必要な措置を講じることが同時に重要になる。また、個人事業者等が健康に就業することは、当該個人事業者等と継続的に業務を行う注文者等にとっては、事業継続の観点からも望ましい。

健康管理のために実施する事項(注文者等の部分のみを抜粋)

注文者等は、以下の事項を実施してください。なお、個人事業者等が以下の事項の実施を要請したことを理由として、個人事業者に対する不利益な取り扱いをしてはいけません。

・長時間の就業による健康障害の防止

・メンタルヘルス不調の予防

・安全衛生教育や健康診断に関する情報の提供、受講・受診機会の提供等

・健康診断の受診に要する費用の配慮

・作業場所を特定する場合における適切な作業環境の確保

参考:個人事業者等の健康管理に関するガイドラインの策定について - 厚生労働省

人事・労務担当者が知っておきたいポイント

こちらも、労働者ではない個人事業主等に対するガイドラインではあるものの、いずれも労働者の安全衛生に関する対応と重複する内容が多いといえます。

なお、こちらはガイドラインであり、基準に反することでの直接的な罰則等はありません。しかし、労働者に対して実施している安全衛生対応のノウハウや運用を活かしつつ、個人事業主等に対しても適切な措置がとれるとよいでしょう。

7月は年次業務の対応をお忘れなく

トピック1:年次業務の進捗状況を確認しましょう

今年は例年と異なり、定額減税の月次減税事務の初期対応も終わり、少しほっとした気分になっている人事・労務担当の方もいらっしゃるのではないかと思います。

しかし、今月がいよいよ繁忙期のフィナーレとなります。年次業務については対応漏れのないように改めて進捗状況を確認のうえ、各期限にも間に合うようにしっかりと取り組んでいきましょう。

主な年次業務のまとめ

  • その他
    • 住民税の特別徴収における7月~の控除金額の確認および給与システムへの設定反映
    • 夏季賞与等における賞与支払届の届出

トピック2:ちょっと休憩~豆知識~

繁忙期も終盤に差し掛かり、人事・労務担当者のみなさまの疲労も溜まってきている頃ではないでしょうか。

今回は少しでもリラックスできるように、ちょっと肩の力を抜いて気楽に目を通せるような豆知識コーナーも取り入れてみましたので、お気軽にお読みいただければと思います。

豆知識その(1)定額減税の「ファストパス」ってなに!?

ファストパスとは、定額減税における「調整給付」(定額減税しきれない差額についての給付)を申請する際の仕組みを指します。ファストパスは、自治体から対象者宛てに送付される通知書類に記載された二次元コード等を読み込み、オンラインで調整給付を申請でき、指定口座への入金も早くなります。

ファストパスよりも早期入金が可能な仕組みがスーパーファストパスです。スーパーファストパスは、自治体からの通知書類を待つことなく、先行してオンラインで調整給付を申請でき、ファストパスと比べてもさらに指定口座への入金が早くなります。

※申請方法の詳細は各自治体によって異なります。

参考:デジタルの積極的活用による簡素・迅速な給付 - 内閣官房

ちなみに、テーマパークでアトラクションに早く入場できるアイテムではありません(笑)。

豆知識その(2)年末調整へ向けた人材確保は争奪戦!?

毎年、年末調整の対応人員を確保するため、企業によっては派遣会社への派遣依頼等をされるケースも多くみられます。年々、人材不足の背景もあり、このような動きが始まるタイミングも早まってきているようです。早いところでは夏頃から動き始める企業もあり、まさしく争奪戦が繰り広げられるといったイメージもあります。

今年は定額減税の年調減税事務もあるので、この動きはより激化するかもしれませんね。

人事・労務業務の多様化が進む。
事務作業の効率化と体制づくりの工数捻出を

最初にご紹介したフリーランス保護新法の施行などをみても、働き方の多様化はますます進んでいくと思われます。それらに伴って人事・労務担当者のやるべきことも増加の一途を辿っていくだろうと実感しています。

今後、事務作業の効率化がさらに求められるでしょう。と同時に、SmartHRなどの便利なクラウドツールを利用するなどの工夫をしながら余剰時間を捻出し、より多くの業務に注力できる体制づくりの重要性が増してきているともいえます。

そうした時代を乗り切るためにも、同じ人事・労務業務に携わる人たち同士で情報交換をしたり、相互に協力できるコミュニティを形成したりすることは、大切なポイントのひとつ。私自身もさらに多くの仲間をつくっていきたいと思っているところです。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。それでは、次回もぜひご覧ください!

お役立ち資料

社労士解説つき 2024年版人事・労務向け法改正&実務対応カレンダー

人気の記事