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人事・労務担当が知っておきたいHRニュース|2024年9月振り返りと10月のポイント

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目次

こんにちは!社会保険労務士の岸本です。

年末調整の時期が近づいてきました。10月に入り、準備を進めている人事・労務担当者も多いのではないでしょうか。

今年は定額減税(年調減税事務)の対応もあります。
改めて、必要な対応を確認し、早めの準備を進めましょう。とくに今年は無理のないスケジュールを組んでおけると安心ですね。

今回も、人事・労務担当者が把握しておきたいニュースをわかりやすくまとめてみましたので、ぜひご覧ください!

9月のトピックを振り返る

9月は、自由民主党の総裁選挙や兵庫県議会での百条委員会設置など、多くのメディアが取り上げる政治関連のニュースが多い月でした。

各ニュースへの政治的な見解や是非等を述べるものではありませんが、人事・労務の実務面において参考となる興味深い内容が随所にみられましたので、今回はそれらを中心に解説していきます。

トピック1:解雇規制緩和(見直し)

今回の自民党総裁選では9月12日の告示日から投開票までの約2週間で、さまざまな政策について活発な議論が交わされました。

そのなかでも、「解雇規制緩和(見直し)」は多くの国民が注目するテーマのひとつでもあり、総裁選の期間中における雇用政策に関するニュースとしては話題になったトピックではないでしょうか。

そして、あらゆるメディアが「解雇規制緩和(見直し)」を大きく取り扱ったことにより、解雇規制に対する「国民の関心の高まり」や「多くの専門家による積極的な意見や見解の発信」につながりました。これは非常に有意義なことです。

一方で、一部では「能力不足の社員は誰でも解雇できる?」や「お金さえ払えばいつでも解雇できる?」のように表面的かつ限定された範囲のみで語られ、「解雇自由化」といったフレーズまで登場するなど、必要以上の不安を煽ったり、誤解がうまれたりしそうなシーンも見受けられました。

そうしたことからも、解雇規制のように人事・労務における日々の業務にも大きな影響を与える可能性のある重要なテーマについては論点を理解することが大切です。

改めて、今回の解雇規制緩和(見直し)というテーマを理解するためにも、現状と論点を整理しました。

解雇規制の現状

労働契約法において、以下のように定められています。

解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。

そして、解雇の種類は主に普通解雇・懲戒解雇・整理解雇に分かれますが、その中でも整理解雇については4要件といわれる「人員削減の必要性」「解雇回避努力」「人選の合理性」「手続きの妥当性」があります。これらの要件を満たさない解雇は無効とされています。

なお、こうした解雇規制は労働者保護という点で重要な存在でもありますが、一方で、企業経営の自由度の制限や人材の流動化の妨げにつながる可能性についての指摘もみられます。

解雇規制緩和に関する自民党総裁選時の主張

  • 小泉進次郎氏は「整理解雇」の要件、とくに「解雇回避努力」を見直し、リスキリングや再就職支援を大企業に課すことで、成長分野への人材の流れをつくることを提案
  • 河野太郎氏は、不当解雇時には、職場復帰ではなく金銭の支払いにより解決する「解雇の金銭解決制度」に言及して緩和の必要性を主張

終身雇用や年功序列などの従来の日本型雇用慣行を、よりよいかたちへ変えていこうとする動きの一部であるとみてとれます。

これまでは、労働者が弱い立場に置かれることが多かったため、労働者側の権利を優先する制度が整備されてきました。しかし、労働環境の変化や少子高齢化などを背景に、解雇規制緩和の検討がなされているといえます。

日々の実務で、労働者の雇用という重要なテーマにかかわる人事・労務担当者は、解雇に関するルールや法改正の変更がないかを確認し、それぞれの企業に合う最善の対応を模索しながら進めることが大切です。

解雇規制がこれだけ注目を集めたことにより、さまざまな有識者がそれぞれの立場でわかりやすく解説や見解を述べている記事や動画も多くのメディアで公開させておりますので、この機会にぜひ理解を深めておきましょう。

トピック2:兵庫県・百条委員会にみる「公益通報者保護制度」

6月13日に兵庫県議会では地方自治法100条にもとづく調査特別委員会(百条委員会)の設置が可決されました。県議会での設置は51年ぶりとのことです。

9月5日に開催された第7回委員会では、公益通報制度の専門家である上智大学の奥山教授が参考人として出席され、「公益通報者保護とはどういうものか」という観点を含め、見解を述べました。

これは人事・労務業務のなかでも、とくに重要かつ難しい、ハラスメントなどの労務系相談の窓口対応にも通ずるもので、実務の参考になる内容が多くみられました。

まだご覧になられていない方は、ぜひ公開されている動画をご確認ください。ここではポイントのみ一部抜粋して次にまとめておきます。

  • 県庁の内部通報窓口で受け付けられた「内部公益通報」をきっかけとする調査については、県は、改正公益通報者保護法により体制整備を義務づけられている(11条2項)。

参考:公益通報者保護法第11条|e-GOV

  • 体制整備の内容は内閣府告示の指針に示されており、それによれば内部公益通報の受付、それに関する調査、それにもとづく是正のすべてについて「組織の長、その他幹部からの独立性の確保に関する措置」と「事案に関係する者を関与させない利益相反排除の措置」の双方が義務づけられている。

参考:公益通報者保護法第11条第1項及び第2項の規定に基づき事業者がとるべき措置に関して、その適切かつ有効な実施を図るために必要な指針│令和3年8月20日内閣府告示第118号

  • もし「公益通報」に該当するとすれば、それを理由としたその人に対する不利益扱いは禁止される。真実相当性の要件を満たさない外部通報であっても、事業者は、通報者を特定しようとする「通報者探索」や、通報者を特定させる情報を必要最小限の範囲を超えて共有する「範囲外共有」について、それを防ぐための措置が義務づけられている。

参考:公益通報者保護法第5条、第10条、第12条|e-GOV

ちなみに、私自身が社労士および人事・労務担当として労務系相談の窓口対応でいつも気をつけていることは、「窓口機関の独立性の担保」「適切な情報管理」「相談者等への不利益取扱の発生防止」「客観的立場での丁寧な事実把握」の4つです。

このように、人事・労務業務で気をつけるべき点という意味でも、類似する部分も多いと感じています。これらの内容も参考にしながら労働者と企業のそれぞれが幸せになれる対応を引き続き追求していきたいところです。

10月にやるべきことのまとめ

トピック1:2024年度 最低賃金の改定額を確認しましょう

今年度の最低賃金の改定額も出揃いました。地域別最低賃金については全体での引上げ額が例年と比べても高かった点は注目すべきところです。

また、その特徴のひとつとして、とくに地方においては働き手を確保したいといった意向が強くみられ、周辺地域の金額水準も気にしながら他と比べて低い設定にはならないよう、各都道府県間で競い合いながら引上げがされている面もあると思われます。

なお、実務においては、各企業で雇用されている労働者の現在の給与額が改定後の最低賃金額を下回っていないかについても必ずご確認のうえ、もし対象者がいる場合には早めに雇用条件の見直しを進めましょう。

参考)厚生労働省 最低賃金の特設サイト
参考)厚生労働省 地域別最低賃金の全国一覧

トピック2:フリーランス保護新法の施行・年末調整への対応

ほかにも、定額減税も含めた年末調整の準備や、いよいよ11月から施行されるフリーランス保護新法の対応など、やるべきことが多い時期です。漏れがないようによく確認しながら対応していくとよいでしょう。

以下の記事で、「フリーランス保護新法」の概要や実務のポイントをまとめておりますので、ご確認ください。

年末調整については、実務上で影響のある昨年からの主な変更点を以下にまとめておきます。

  • 定額減税(年調減税事務)の追加対応
  • 保険料控除申告書の記載の簡略化(続柄の省略)
  • 扶養控除申告書の提出の簡略化

さらに詳しい内容に関しては、以下の記事もご参照ください。

また、イレギュラー対応が必要な今年の年末調整の対応ポイントをまとめたセミナーを開催します。今年の年調業務に活かせる実務ベースの内容を予定していますので、こちらも是非ご参加ください。

12/27(金)まで視聴可能|人事労務トピック 24年の年末調整編

国税庁から「令和6年分 年末調整のしかた」が公開されていますので、こちらも是非早めに目を通しておくとよいでしょう。

「働く」に関するテーマの注目度が高まるいま、
人事・労務の重要度は増していく。

あらゆる面で「働くことに関するテーマ」に対しての世間の注目度がますます高まってきていることを日々実感しています。

それと同時に、これからの働き方について「これが正解!」といったひとつの明確な答えがない時代において、人事・労務の分野はさらにその重要度が増していくことは間違いないと考えています。

誰もが真の意味で働きやすい環境を実現できるように、引き続き人事・労務に関する最新のニュースや世間のトレンドに関する情報収集を強く意識しつつ、少しでも多くの方々へ有益な情報を提供できるよう努力していきたいと思います。

ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

それでは、次回もぜひご覧ください!

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