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コミュニケーションとデータ活用で予防する!従業員のモチベーション低下と「突然の離職」【セミナーレポート】

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目次

2023年1月26日に開催されたセミナー『コミュニケーションとデータ活用で予防する!従業員のモチベーション低下と「突然の離職」』では、株式会社カイラボ 代表取締役 井上 洋市朗氏をお招きいたしました。持続的な企業成長には、従業員のパフォーマンスを良好に保ち、突然の離職の予防が不可欠です。

一方で、対策していても投資対効果が得られなかったり、かえって離職を招いたりするケースも起こり得ます。井上氏には、従業員の定着支援や採用コンサルティングのご経験をもとに、従業員の要望を踏まえた離職防止対策についてお話しいただきました。離職の原因について理解し、有効な対策を知りたい方はぜひご覧ください。

井上 洋市朗 氏

株式会社カイラボ 代表取締役

大学卒業後、株式会社日本能率協会コンサルティングにて企業の業務効率化などに従事。ストレスが原因で入社2年で退職。その後、フリーター生活や商社での営業職などを経験後、2012年株式会社カイラボを設立。「早期離職白書」を発行するなど、現在は多くの企業の若手社員定着率向上を支援するほか、講演、管理職・OJT担当者向け研修、採用コンサルティングなどに従事している。また、一般社団法人プラス・ハンディキャップの理事としてマイノリティ支援や、高校生向けのキャリア教育での授業登壇などの活動も積極的に展開中。

早期離職者の傾向を正しく捉える

当社では新卒3年以内に退職した方々のインタビューをまとめた「早期離職白書」を発行してきました。その実態を情報発信するとともに、得た知見をもとに企業様に対してコンサルティングをさせていただいております。最近は管理職やOJT担当、教育担当の方向けに研修や、内定者のつながりを強くするためのワークショップの企画運営などが増えてきました。

まずは、「大卒の新卒入社後3年以内の離職率」について、厚生労働省が発表した資料をご紹介します。

厚生労働省が発表した大卒の新卒入社後3年以内の離職率は、2004年卒が過去最高で36.6%。

最新データの2018年は31.2%。過去の数値も調べてみると、2004年卒が36.6%、1998年卒は32%とあります。2009年卒が大きく低下しているのは、リーマンショックの影響といわれています。

2011年以降は、以前と同水準に回復してきましたが、2018年卒はコロナ禍の影響で低下したともいわれています。つまり、「最近の人はすぐに辞める」「最近になって注目されている」と思われがちな離職の問題は、昔からあまり変わっていないのです。

実務スタート後のモヤモヤ期に転職活動を始め、転職先の決定が決め手となり退社に至るケースもある。

私は早期離職を中心に離職問題に取り組んでいますが、さまざまな方にインタビューをして明らかになったのは、「入社してから退社するまでの間にプロセスがある」ことです。入社後に研修や配属実務をとおして、何かのきっかけでモヤモヤを抱えるようになるのです。モヤモヤしているときは、会社の嫌なところが目につきやすくなり、最終的に決め手ができたタイミングで上司に退職の意向を伝えます。

「突然辞めた」と捉えているのは上司や会社だけで、本人はずっと我慢し続けた末の意思です。そのため、モヤモヤ期にいかに早く気づいてあげられるかが重要になります。現在はさまざまな転職サービスが存在しているため、何となく転職活動を始めて、転職先の決定が決め手だったというケースもあります。

モヤモヤを乗り越えるために重要な関係性

モヤモヤし始めるきっかけは、上司の一言や人間関係、コロナ禍の影響など多岐にわたります。とくに旅行業や観光業では、雇用は維持されるものの、出向先の会社で従来とは異なる業務を担当することになり、自分のキャリアに不安を抱いたケースも多かったようです。

モヤモヤ期への気づきは、将来のやりたいことへの発言内容など、普段からの変化に注目するべき。

モヤモヤ期に早く気づき、離職やモチベーションの低下を防ぐには、普段からの変化に敏感になる必要があります。将来やりたいことへの発言内容や愚痴・意欲の増減、業務に対する行動量の増減、自分の価値観などの内面の情報表出を、私はよく挙げています。

配属直後に「最初はこの部署で頑張るけれど、いつかはあの部署で仕事がしたいんです」と熱く語っていた社員が、徐々にそれを言わなくなったときに、上司は「やっと職場の役割に気づいてやる気になった」と勝手に思いこんでしまうかもしれません。しかし本人は「この職場でやりたいことはできないから、1〜2年間だけ職務経歴をしっかりつくって辞めよう」などと思っているかもしれません。

サーベイやストレスチェック、これまでの退職者などのデータを活用してリスクに気づく方法もある。

モヤモヤ期に早く気づくほかの方法は、データの活用です。一例としては、「辞める直前の評価の傾向」など、過去の離職者特有の兆候を数値化するデータです。

ES調査やサーベイを実施している企業であれば、離職前に変動があるスコアを把握できるかもしれません。「この項目の数値が下落した職場は、1年以内に離職率が上がる」などとわかっていれば、会社側も早めに介入できます。

また、ストレスチェックの結果も活用するケースもあります。個人の結果を分析するのは法律的に許されないので、集団分析を活用しましょう。他には、入社選考時の評価項目と離職率の関係性をチェックしている企業もあります。

当社では、とある企業で配属希望と離職率の関係性を調べたこともあります。その企業では、第三希望までに配属されなかった場合に離職率が高くなる傾向が見られました。第一希望だったかどうかはそれほど影響がなく、第三希望以内かどうかの影響が大きかったわけです。しかし、全員を第三希望までに配属するのは現実的には難しいため、第三希望までに配属されない社員に対しては、配属の意図や配属先で学んでほしいことなどをかなり丁寧に説明するようになりました。配属希望と離職率のデータは、人事部であればもっている企業が多いと思います。このような身近なデータでも離職対策のヒントは得られます。

普段の信頼関係の構築が重要なため、1on1などによる状態の把握が大切。

データ活用時に注意するべきなのは、数字の高低そのものではなく、変化に気づくことです。そして通常期からモヤモヤ期に入った社員や、危険な状態になったときに、介入するべきでしょう。そのために必要なのは、普段の信頼関係がすべてだと思っています。企業によっては「どこでも好きな部署に異動させるから辞めないでほしい」と引きとめるケースもありますが、それでは手遅れです。1on1などで普段の状況を把握するのが、非常に大切になります。

上司と部下の関係性を経営者や人事担当者が把握し、問題が起こる前での介入が離職防止策につながる

社員の普段の状況を把握できているかどうかは、上司と部下の関係性が大きく影響します。経営陣や人事が上司と部下との関係性をしっかりと把握し、よくない状態であれば、なんらかの介入が必要です。

リーダーのアップデートを試みよう

カイラボでは上司の立場にある人をまとめて「リーダー」と呼んでいます。リーダーが変わっていかなければ、他の社員も変わらないというのが私たちの考えです。そこで必要なのが、「リーダーのアップデート」です。

「退職した企業に対する愛着・エンゲージメントが低下した要因」を退職者へヒアリングした結果、「上司との関わりに不満があった」との回答が47.2%を占めた。

退職者に「勤務先への愛着・エンゲージメントが下がった要因は何ですか?」と問うと、最も多い要因は上司との関わりでした。さらに理由を話してもらうと、「ビジネスパーソンとして尊敬できなかった」という意見が68%を占めます。

とある社員は、「その上司は成績を残しているけれど、営業の帰り道に歩きタバコをしている姿を見て幻滅した」と語っていました。まずは、リーダー自身が普段の振る舞いを見直す必要があります。

尊敬できる上司がいない理由の仮説として「SNSの発達による比較対象の拡大」「価値観の多様化と変容」「リーダーの能力低下」が挙げられる。

これは私の仮説ですが、リーダーが尊敬されない理由はいくつかあります。1つはSNSが発達しすぎて比較対象が拡大していること。つまり上司との比較対象が、SNSでの影響力の大きいビジネスパーソンになりがちなのです。

もう1つが、価値観の違いです。たとえば、昼夜問わず働く昭和の美徳と、ワークライフバランスを重視する現代の美徳との感覚の違いなどが挙げられます。

さらに、リーダーの能力の低下も理由として挙げられます。とくにリーマンショック後の2009年から2015年ぐらいまでに新卒採用が大幅に減少したことで、多くの企業でメンターやOJTを担う人が不足している状況です。昨今は新卒採用が増えてきたので、30代前半の人たちがいきなり上司の役割を任せられるケースもあります。そのため、上手に指導できず、尊敬を得られない状況になっているのかもしれません。

早期離職の三大要因として、「存在承認」「貢献実感」「成長予感」が挙げられる。

キャリアの考え方の変化に対応する施策が必須

カイラボは「存在承認」「貢献実感」「成長予感」の3つの不足を早期離職の三大要因としています。このうち、30代手前くらいで優秀でやる気のある人が突然辞めてしまう理由は、成長予感不足が圧倒的に多いと思います。成長予感とは今の仕事を続けることで、将来なりたい自分になれる予感があるかどうかです。最近では、メディアで「ホワイト企業すぎて、退職する社員もいる」というトピックが話題になったこともありました。

2023年卒の大学生の企業選びの基準は、「安定している会社」が43.9%、「自分のやりたい仕事ができる」が32.8%となっている。

一方で成長意欲はさまざまです。2023年卒の大学生意識調査では、企業選びの基準として43.9%が「安定している会社」を選びトップ。次いで、「自分のやりたい仕事ができる」が32.8%でした。約5年前までは、「自分のやりたい仕事ができる」がトップでしたが、現在は逆転しています。このデータから、若者の安定志向がわかります。

従業員数1,000人以上の大企業では年々早期離職が増加しているが、100〜499名の中小企業と全体平均は横ばいとなっている。

厚生労働省が発表した従業員規模別の離職率でも、キャリアについての考え方の変化は確認できます。1,000人以上の事業所、いわゆる大企業では、新卒の3年以内離職率は2009年を底にして右肩上がりの傾向です。一方、100〜499人の事業所(中堅企業)と、全体平均では2009年底を打った後横ばい傾向です。

このデータから、大手企業と中堅中小企業の新卒3年以内離職率の差は縮小していることがわかります。いまだに大手企業の方が新卒3年以内離職率は低い傾向ではありますが、「大手企業に入社したから退職しない」「中小企業だから退職する」とは限らないのです。

企業選びの基準では「安定している会社」がトップですが、大手企業の新卒3年以内離職率は上昇傾向にあります。一見すると矛盾するこの傾向の背景には成長予感があります。大手企業の場合、責任あるポジションになれるのは40歳以降というケースも珍しくありません。

成長意欲の高い若手社員のなかには、「そんなに時間をかけるくらいなら、転職しよう」と考える人もいます。また、仕組みが整っているがゆえに、自分の能力だけで勝負できないと感じる人もいるのではないでしょうか。

早期離職の理由は「動機づけ要因」と「衛生要因」の9象限で

離職対策におけるよくある失敗が、成長予感不足の解消が求められているのに、衛生要因だけ改善してしまうケースです。

給料が高くて、福利厚生もよい、オフィスは綺麗、リモートワークもできる。けれども、やりがいや達成感はあまりない。もしそんな企業の場合、必要なことは福利厚生の充実などの衛生要因向上ではなく、動機づけ要因の充実です。

離職率低下につながる施策として「リーダーのアップデート」「評価基準の明確化」「アシミレーション」「上司・不可双方向からのジョブクラフティング」「相性の測定と再配置」が挙げられる。


離職率改善に必要なのはリーダーのアップデートです。同時に行動基準の明確化も効果的です。最近は、社員が心がける信条や行動指針であるクレドをつくる企業が多いのも、行動基準の明確化の一環だととらえています。また、アシミレーションによって、部下の本音を上司に知ってもらうのも有効です。

最近では、ジョブクラフティングも注目を集めていますが、失敗しがちなのは「働きがいを見つけろ。ジョブクラフティングだ」と、仕事のやりがいを見つけていない上司が、部下に言うだけになっているケースです。上司も部下も、一人ひとりが仕事に対する認知や行動を主体的に修正しなければ、ジョブクラフティングは成功しないのです。

質疑応答

サーベイで「上司に開示する可能性がある」という前提で回答していただくのは、あまり効果がないでしょうか?

井上 洋市朗 氏

おすすめしません。上長にサーベイ結果を開示するメリットはありません。

社員との面談を実施してモヤモヤの発見には取り組んでいますが、モヤモヤ期の原因に、体調不良や業務の進め方の問題を抱えている場合、一緒に解決するのは結構大変です。病院受診を促したり、本人の意識を変えて働きかけても解消できず、そのうちに社員が疲弊して離職するパターンが非常に多いです。モヤモヤ期を社員と一緒に解消していく際のポイントはありますか?

井上 洋市朗 氏

メンタルヘルスの問題になってくると思うので、産業医や保健師を巻き込んで進めることをおすすめします。体調不良の原因は業務によるものとは限らず、プライベートの原因が業務に表出してしまうケースもあります。その場合に、素人判断で行動するのは危険なので、産業医や保健師に相談しつつ、場合によっては本人に産業医などとの面談を促すとよいと思います。

成長予感不足を大企業が改善するには、どうしたらよいでしょうか?

井上 洋市朗 氏

まずはリーダーのアップデートからです。

大企業の優秀層の転職先は、スタートアップ、メガベンチャー、外資系コンサルティング企業が多い傾向にあります。いずれも成長予感を大事にしており、優秀層が集まる企業です。まずはリーダーをアップデートして、優秀な人材を社内に増やすことが先決です。

営業職、開発職、研究職などで、従業員のモチベーション変化の原因に差異はあるでしょうか?

井上 洋市朗 氏

統計的に優位差が出ているデータは、私の手元にはありません。あくまで感覚値ですが、人間関係はどのような職種でも必ず影響します。職種による違いということでは、数字で進捗が見えやすい営業職は、数字が上がらないとモチベーションの低下が起こりやすい傾向はあると思います。営業職の場合、クライアントのアカウント属性が変わらない状況が続くのも、影響を与えるかもしれません。

同じことを継続できる開発・研究部門の場合、モチベーションが下がりにくい傾向にあると思いますが、会社からのオーダーが頻繁に変わると、モチベーション低下につながりやすいと実感しています。

上長は非常に頑張っていると感じていますが、部下の反応が薄いケースもあります。部下に心を開いてもらえる方法があれば教えてください。

井上 洋市朗 氏

ワークショップ形式で実施する「アシミレーション」という手法はおすすめです。上司と部下を集めて、最初に上司に退席してもらい、部下の方々に上司についての意見を集めます。上司が戻ってきたら匿名性をちゃんと担保して、部下からの意見をホワイトボードで見せます。上司はそれをみて、部下の要望を知るという方法です。

よくあるのは「上司が優しいしコミュニケーションを取ってくれるのはありがたいが、組織のビジョンをもっと打ち出してほしい」というオーダーです。そのような質問をストレートに聞ける部下があまり多くない場合におすすめの手法です。

リーダーに人格者であることを求めすぎている部下も多く見られます。

井上 洋市朗 氏

完璧な人である必要はなく、親しみやすければよいと思います。「人間的に好き」「相談したい」と思える方でも、必ずしも完璧ではありません。人間味も含めて、しっかりとコミュニケーションを取れる上司であればよいのではないでしょうか。

リーダーのアップデートは、具体的に何をすればよいのでしょうか?

井上 洋市朗 氏

リーダー自身が、「この仕事が好き」と言える状態になることです。そのためには、「どのようなキャリアを歩みたいのか」「何を目指しているのか」を言語化するセルフキャリアドッグという考え方も浸透しています。また、それをリーダーの上司や経営陣に発信していく場を設けることも重要です。

ジョブ型雇用や副業が浸透していく時代においては、キャリアを自分で考えることがより重要になっていきます。今のリーダー層が学生のころは、今ほどキャリアを考える機会もなかったし、そういった支援も少なかったと思います。ですから、まずはキャリアに対する価値観や考え方をほぐしてあげることで、キャリアとビジョンについて語れるリーダーを増やしていきましょう。価値観や意識の変化は、リーダーのアップデートをするうえで、知識やスキルのベースになる大事な部分になります。

急な離職を防ぎ、 離職率を抑える 従業員の本音の集め方

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