人事部と現場はどこまで近づくべきか?共創パートナーHRBPの真価
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変化が目まぐるしい昨今において、事業を成長させるためには人的資本を最大化させることが不可欠です。そうしたなかで、HRBP(Human Resource Business Partner)を導入する企業が増えています。HRBPとは、経営者や事業責任者の視点をもちながら、人事戦略の策定や人事課題の解決を推進する役割です。
株式会社SmartHRは2024年7月に人事組織を再編し、新たにHRBP本部を組成しました。同社のHRBP本部は会社全体を俯瞰して課題を設定し、「共創パートナー」として現場のマネジメント層と課題を解決していくことをミッションとしています。人事部や現場部門とどのように関係を築き、課題解決に取り組んでいるか、HRBP本部のおふたりにお話を伺いました。
- 礒本 健太郎さん
株式会社SmartHR 人事統括本部 ビジネスHRBP本部 組織人事部 マネージャー
2025年1月から、セールス、マーケティング、事業戦略をふくむビジネス部門のHRBPを担う「組織人事部」のマネージャーに就任。
- 小野 拓馬さん
人事統括本部 プロダクト・コーポレートHRBP本部 組織人事部 チーフ
プロダクト部門・コーポレート部門のHRBPを手掛ける「プロダクト・コーポレート組織人事ユニット」のチーフ。
事業成長を加速させる、新たな人事組織の形
SmartHRのHRBPのミッションをお聞かせいただけますか?
礒本さん
各部門における人事戦略の実行がミッションで、以下が2024〜2025年の人材戦略の2本柱です。
- スケールアップ企業として活躍する人材の確保と環境の整備
- 再現性を持って急成長を持続させられるサスティナブルな組織基盤の構
各部門で1人ひとりがポテンシャルやパフォーマンスを最大限発揮できる、力強い組織作りに必要な人事戦略の策定や推進のサポートが我々の役割です。
2024年7月に人事組織を再編した背景についてお聞かせください。
礒本さん
人事部門で現場との関わりが深いのは組織人事と採用の2つですが、以前はその2つの部門がバラバラに動いていました。事業成長を支える人事として、パフォーマンスを最大限に発揮できていなかったと感じています
小野さん
再編以前は人事だけで目標を設定していたので、現場とのズレを感じていました。よくあるアンチパターンに「人事のための人事」がありますが、我々は「事業成長のための人事」を目指しています。そのためには、人事部内で閉じて考えるのではなく、現場と二人三脚でPDCAを回していくことが重要だと思います。再編されてからは、担当部門と相談しながら目標を立てる形に変更されたので、現場との連携が高まったと感じています。
具体的に人事戦略とはどのようなものがありますか?
礒本さん
たとえば、組織を強化するために離職率を下げる施策を打ったり、パフォーマンス向上につながるよう人材を適材適所に配置させたりといった施策です。ここで重要なのは、人事の立場でありながら、現場について理解を深めて同じ目線で協働することです。
どのように各部門の課題を設定しているのでしょうか?
小野さん
VP(Vice President/統括本部長)と擦り合わせながら進めています。「事業成長のボトルネックになっているもの」をヒアリングし、そこから人事課題に落とし込みます。VP・現場と連携をとりながら人事的なアプローチと事業的なアプローチを擦り合わせ、最終的な人事戦略を策定していきます。

HRBPと現場のちょうどいい距離感
そのなかでおふたりはどのような部門を担当しているのでしょうか?
礒本さん
私はマネージャーとして、セールス、マーケティング、事業戦略をふくむビジネス部門全般を見ています。そのなかで主担当は、販売代理店などのパートナー企業との連携を高める「パートナービジネス事業部」と、業務システムの企画運用や営業活動支援を担う「事業推進本部」の2部門です。
小野さん
私は、SmartHRの機能を開発する「技術統括本部」とコーポレートITの開発・運用・セキュリティ体制構築などを担う「情報セキュリティ本部」を担当しています。
各部門で課題に共通性はありますか?
礒本さん
これまでSmartHRは中途採用100%で成長してきた会社でしたが、2025年度は新卒0期生の入社が控えています。これによって今後さらに育成に注力していかねばなりません。現状は、即戦力を採用してきたためか、お互いを尊重し合っていますが、個人プレーの割合が大きい状況です。今後はチームでフォローしながら、個を高めていくスタイルに転換していくべきだと考えています。
小野さん
「育成」は各部門共通のテーマで、まさに事業成長の鍵を握っているとも言えますね。たとえば、プロダクト部門ではマルチプロダクト戦略を背景に多くの機能開発が予定されているため、そのぶん人員強化が必要です。また、人が増えればポジションも増えるので、管理職育成にも注力していかねばなりません。
おふたりは前職でもHRBPに従事されていましたね。SmartHRとはどのような違いがありますか?
礒本さん
前職はHRBPの組織が人事部ではなく、事業部にあった点がSmartHRとの一番の違いです。現在SmartHRでは人事情報をすべて扱える権限をもっていますが、前職では権限がなかったので人事部から情報をもらわなければなりませんでした。一方で、HRBPのミッションは事業成長への貢献なので、人事よりも事業部にある方が機能する場合もあります。ただし、一長一短で、どちらの場合も課題は出てきます。
小野さん
私も人事部付と事業部付の両方で経験があります。たしかに事業部側にHRBPがあると、現場の方と距離が近く気軽に質問できますが、評価被評価関係が生まれるため、率直な意見を言いづらくなることもあります。人事部側のHRBPのメリットは、CoEとの距離が近く、事業部を客観視できることです。一方、デメリットとして、事業部とのあいだに距離感があり「込み入ったことは話しにくい」と思われる懸念があります。どちらがよいとか悪いとかではなく、自社にあった体制を採用することが重要だと思います。

SmartHRのHRBPが人事組織にある状態で、現場とのギャップを埋めるために意識していることはありますか?
礒本さん
SmartHRのHRBPが掲げる目標にある「共創パートナー」の言葉のとおり、人事というポジションを保ちながら、現場と密接に連携することが重要です。私は担当部門の定例会議に週5時間ほど参加して現場の動きを把握しています。そうすると部門長の方とも会話がしやすくなり、たとえば「あの定例で◯◯さんが△△の話をしていましたよね」と課題発掘につながることもあります。
あとは、出社した際に自分が担当する部署のメンバーに声をかけるようにしていますね。カジュアルかつ、こまめなコミュニケーションを重ねていくことで、信頼を獲得しやすくなります。しかし、現場に寄りすぎると、人事目線の意見が出しづらくなる側面もあり、一定の距離を保つようにしています。
小野さん
人事と現場が向き合うのではなく、同じ方向を見ることが重要ですよね。私は現場と人事をつなぐハブとして、人事部内でも現場の課題認識を共通化することを意識しています。
礒本さん
人事部内の課題認識の共通化においてはSmartHRのオープンなカルチャーに助けられていますよね。同じ人事部でも機能が異なるなかで、HRBPがどのような役割を担い、どのような取り組みをしているのか、人事部内でよく理解されています。人事制度変更の会議を例にあげると、HRBPが現場の代表として意見した際に、我々の役割をふまえて現場の課題を認識してもらえるので、議論がスムーズに進められます。
現場と人事の距離感のバランスに黄金比はありますか?
礒本さん
個人的には現場7:人事3だと考えています。
小野さん
HRBPの取り組みをいくら人事側で評価されても、現場で評価されなければ本質的ではありません。それをふまえて、私も7:3の比率が適切だと考えています。
事業貢献を目指す、HRBPの挑戦
課題を発掘したのちに、どのようなプロセスで施策を立てているのでしょうか?
小野さん
人事部内や現場と壁打ちしながら施策を固めていくパターンが多いです。ここで重要なのが、マネージャーやチーフとの1on1ではなく、部やユニットの定例会議などのオープンな場で意見交換することです。そうすることで、メンバーをふくむさまざまなレイヤーからの意見を通して、ブラッシュアップできます。また、皆で一緒に考えた結論として合意を得やすくなるのもメリットと言えますね。
礒本さん
正解がない課題に取り組むためには多角的な視点が必要です。現場の意見はもちろんですが、人事部内にはさまざまなバックグラウンドをもっている人がいるので、部内のコミュニケーションを通して多様な視点を養うことも大切にしています。
日々業務されているなかでどのようなシーンでやりがいを感じますか?
小野さん
人事戦略を通して課題を解決し、成果を得るといった壮大な検証ができている点にやりがいを感じます。周囲から信頼を獲得し、自分が挑戦してみたいことを実現するためにも、ふだんから良好な関係づくりに注力しています。
礒本さん
私は飲食業界からキャリアをスタートさせた背景があり、そこでの価値観が根強く残っています。シンプルですが、「ありがとう」や「助かった」と言ってもらえることが一番モチベーションにつながりますね。

HRBPの今後の展望をお聞かせください。
小野さん
一般的に人事はコストセンターに分類されますが、それを打破したいですね。HRBPという肩書のなかで黙々とオペレーションを進めるのではなく、事業貢献のためになにができるかを考え実行していけば、必然的にHRBPとしての価値が認められると考えています。
礒本さん
個人的には、HRBPが人事の代表として、現場の戦略立案に関与できるようにしたいです。たとえば営業戦略を立案する際に、HRBPが人事的な戦略の提案を通して貢献していくことが「共創パートナー」としてのあるべき姿だと思います。

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