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極意は「社内の巻き込み」。医療・物流の「DXと働きやすさ」に迫る

公開日
目次

“パーパスを実践する企業の挑戦 人手不足時代を乗り越える” をテーマに2日間にわたり開催されたカンファレンス「SmartHR Agenda #4」。さまざまなゲストをお招きし、「パーパス経営」「DX」についてのセッションを開催しました。

DAY2の本講演では、バックオフィスDXに焦点をあてて、医療業界と物流業界の働き方改革についてパネルディスカッション形式で医療社会法人 春回会 石井様と信濃運輸株式会社 石神様にお話を伺います。

  • 登壇者石井 智彰 氏

    医療社会法人 春回会 法人事務局 人事課 課長

    2011年に新卒で(株)ニチイ学館に入社し、営業企画や採用、リテンション業務などに従事。2018年に社会医療法人春回会に入社し、人事労務業務全般に従事。勤怠システムのリプレイスやSmartHRを導入し脱属人化及び業務改善を実施。また、社員の能力向上、リテンションを目的として行動と成果に応じた人事制度の導入と運用を行う。

  • 登壇者石神 翔平 氏

    信濃運輸株式会社 経営戦略本部 事業企画課 課長

    2014年、新卒で日本IBM TSOL株式会社に入社し、サーバー保守業務に従事。2017年に株式会社リブ・ウイングに入社し、物流コンサルタントとしての知識を身につける。2018年に信濃運輸株式会社に入社し、社内の作業効率化を推進する部署に配属。物流センターの立ち上げ時には、物流機器とシステムの連携などにも従事。また、バックオフィスの効率化の一環として、SmartHRの運用設計や導入、そして勤怠管理システムの導入にも携わる。

  • ファシリテーター佐藤 耕平 氏

    株式会社SUPER STUDIO 人事戦略室 人事労務ユニット マネージャー / 社会保険労務士 

    2010年、株式会社NTTデータに新卒で入社し、NTTデータ社内の人事給与システムの開発などに従事。その過程で社会保険労務士の資格も取得し、2019年、株式会社SUPER STUDIO人事労務担当として入社。以後は50名規模から250名規模の人事労務として0からさまざまな運用を構築。

労働時間の上限規制を迎える医療・運輸業界が抱える業務の見直し

労働時間の上限が規制されることにより、人材確保や生産性向上が必要

佐藤さん

働き方改革関連法の一環で労働時間の上限規制がされましたが、「医業に従事する医師」や「自動車運転の業務」は適用猶予事業・業務とされていました。ただこれも、2024年3月末で猶予期間が終了します。

本日お招きしている春回会の石井さんの医療業界、信濃運輸の石神さんの物流業界がまさに該当します。労働時間の上限が規制されることにより、人材確保や生産性向上が必要になり、これまでの業務のやり方ではオペレーションが困難になるなど、業務の見直しも必要になってくると思います。

そのあたり、どのように取り組んでいらっしゃるのか、また、2社ともSmartHRを導入されていますが、どのような背景があったのかを事例として伺います。

社会医療法人 春回会のDXとSmartHRの導入背景

社会医療法人 春回会 石井さん

石井さん

春回会は、当時4名の担当者で約1,200名分の年末調整の対応、紙の給与明細を配布していました。人事評価もすべて紙運用だったので、対応を効率化したいと考えていました。そこで、クラウドシステム導入の検討をはじめました。

目指した姿はDXだけではなく、職員や管理職の負担・ストレスを軽減すること。それからデータを蓄積して、それをどのように戦略人事に使っていくかまで考えること、これらがとても重要でした。

リスクとコストの観点から認識合わせをする

人件費や業務工数、使用する紙の削減量から費用対効果を算出し、経営陣の理解・納得を得る

石井さん

ただ、人事や事務だけで導入を進めてしまうと、周囲の理解を得難くリスキーだと思います。実体験として「職員にとってどのようなメリットがあるのか」という点を院長や看護部長、現場責任者に理解してもらいながら進めていくことがとても重要でした。

とくにリスクとコストの観点から認識を合わせることが大切です。たとえば、「この人じゃないとわからない」という業務の属人化リスクです。DXを進めていくことで、業務が標準化され、属人化のリスク回避につながることを理解してもらいました。

コスト面では、人件費や業務工数、使用する紙の削減量から費用対効果を算出し、経営陣の理解・納得を得ました。

複数のシステムを比較し、自社に必要な機能を見極める

石井さん

システムの導入においては、自分たちに合ったシステムを選ぶため、財務担当者や職員からの理解を得るためにも、ほかのシステムとの比較検討も重要です。私たちは結果的にSmartHRを導入しましたが、その理由は多機能であることでした。年末調整、給与明細、電子申請、人事評価、それから職員満足度調査ができてオプションで機能追加もできる。それがとても魅力的でした。

ただそれでも、「なんで?別に紙でもいいじゃん」という意見は出ます。なので、半年間は給与明細をSmartHRでも配信するし、紙でもお渡しする移行期間を設け、SmartHRで配信されることはデメリットではないことを体感してもらいました。

年末調整業務が1/3に。さらなる活用機能拡大に意欲

石井さん

SmartHRの年末調整では、業務量が従来の1/3になりました。12月は毎日21時ぐらいまで残業していたのがほぼ定時で退勤できるようになり、給与明細や源泉徴収票の再発行や問い合わせがほぼゼロになりました。お知らせ機能では、3月に変わる社会保険料や控除額について通知でき、理事長からの年頭あいさつや就業規則などの変更も一斉に配信できるようになりました。

今後については、申請・承認機能や分析レポートの活用を進めていけたらと考えています。

佐藤さん

ありがとうございます。弊社もSmartHRを導入していますが、年末調整の業務量削減には感動しました。普通であれば保険料控除申告書や扶養控除申告書を作る必要がありますが、それをわかりやすいアンケートを使いながら従業員が入力して自動的に作られる。非常に使いこなしやすいですよね。

石井さん

おっしゃる通りです。産休の職員さんから「こんなに年末調整が簡単にできるのは初めてです!」という感想をもらったのですが、とても嬉しかったです。

全国15拠点を取りまとめる信濃運輸のSmartHRの導入背景

佐藤さん

信濃運輸様におけるSmartHR導入背景についてお話いただけますか?

石神さん

SmartHR導入以前は総務の担当者2名でグループ会社4社を含めた合計5社、800名分の年末調整、入退社に関する雇用契約書や労務手続きのすべてに対応していました。そして、弊社もすべて紙で各会社、各営業所、事業所に配付しておりました。

担当者2名での対応では対応しきれない場面も増え、さらに本社に最新の従業員情報などが届いていないケースもあり、本社と拠点でもっている従業員情報に差異がある状態でした。これらをクラウドサービスで解消したいと考え、SmartHRの導入に至りました。

事前に現場責任者が「従業員からの問い合わせ」に対応できる状態に

石神さん

弊社の場合は、トップダウンに近い形で導入を進めました。ただ、物流業界は年齢層が幅広く、スマートフォンを所持していない、操作に慣れていないなど、すぐにSmartHRに移行できない人も一定数いました。そういった方には個人単位で紙での運用を残す形で進めていきました。

また、従業員から問い合わせが発生しそうな事象については、あらかじめ拠点長やセンター長、配送管理者などの現場責任者に対応方法を共有して、説明してもらうようにしました。そのおかげでとくに大きな混乱もなく導入を進められました。なかには、スマートフォンをもっていない従業員も、「この機会にスマホを買おうかな」とSmartHRで対応するメリットを感じていただいた方もいるようで、うまく社内浸透できたと思います。

年末調整と給与明細をSmartHRに移行。従業員の対応負担も大幅削減

石神さん

SmartHR導入後の効果としては、給与明細の紙運用がほぼゼロになったこと、年末調整時に総務への問い合わせが少なくなったことなどが挙げられます。年末調整は他社のクラウドシステムを利用していましたが、毎回IDを発行する必要があり、従業員からの問い合わせが多い状態でした。

SmartHRを導入してからは、給与明細も含めて月に1回はログインする形になるので、従業員も困る場面が減り、問い合わせが少なくなりました。結論としては、総務、実際の労務担当者、拠点長、管理職、また各従業員の対応工数が大幅に削減できてよかったです。

佐藤さん

そうですね、これまでシステムなどに触れる機会が少なかった人にとっても使いやすいところは私も実感しました。初めてSmartHRを使った際、マニュアルを見ずに直感的にここかな?と選択したり、入力したりして、使えたことを思い出しました。

石神さん

そうですね、おっしゃる通りだと思います。複数社の労務管理のシステムを見ましたが、SmartHR導入の決め手の1つはユーザーインターフェースでした。

パネルディスカッション【1】:働きやすい環境の考え

佐藤さん

パネルディスカッションに移ります。1つ目のテーマは「働きやすい環境とは?」です。働きやすい職場は「制度の観点」「カルチャーの観点」「社内コミュニケーションの観点」など、さまざま観点がありますが、石井さんはどのようにお考えですか?

石井さん

制度の観点からいうと、医療業界はやはり福利厚生ですね。女性が多いので産休・育休がしっかり取れることを仕組化すること、有給休暇が取得しやすい雰囲気を作ることも重要です。また医療職は成長意欲がある方が多いので、教育・育成の制度を整えることも大切だと思っています。

また、「職員の努力や成長をちゃんと見てますよ」とを伝えるためにも、人事評価制度を、活用して、努力や成果が報酬につながるようにしていきたいと考えています。それぞれ、取り組んでいる最中ですが、こうしたアクションの積み重ねが働きやすい職場につながると考えています。

佐藤さん

石神さんはどのようにお考えですか?

石神さん

まずは、「明確に目的が与えられているか」を挙げたいと思います。社内にはさまざまな職種・ポジションの従業員がいますが、一人ひとりに対して、会社はあなたに何を求めているか、目的を明確に与えることは大事だと思います。それによって、自分が何をやらなきゃいけないのか、取り組みやすくなり働きやすくなると思います。

そして、目的を達成した先のビジョンが明確になっていることも大事です。自分でこれだけ頑張ったら、給与や役職、立場が上がる、つまりキャリアプランが明確になっていることも、働きやすさにつながると思います。

佐藤さん

明文化されてない「カルチャーの観点」から見た働きやすい職場についてはいかがでしょうか?

石井さん

おそらく働きやすい会社は、ユーザーのために何ができるかを経営者だけでなく、管理職と職員も考えている。ユーザーファーストになっていることが重要だと思います。

石神さん

個人的には、休暇が取りやすい会社は働きやすい会社だと思います。しかし、それは有給休暇などの制度面の話ではなく、雰囲気ですね。「何かあれば休んでいいよ、ただやることやってね」という流れであれば、頑張って仕事をして、休むときは休む。メリハリがある環境が「働きやすさ」につながると思います。

佐藤さん

なるほど。働くうえでコミュニケーションが取りづらいと、退職につながるケースもあります。社内のコミュニケーション」についていかがでしょうか?

石井さん

やはり人間関係は重要ですよね。思っていることや本音を言い合えることはコミュニケーションにおいて大切で、キーパーソンになるのは上司だと思います。相談を受けても、何か問題が起こったときでも否定せず、「誰が悪いかではなくて、何が悪かったか」という観点を考えていくことが大事だと思います。

ポイントは上司がどれだけ受け入れる雰囲気をつくれるか、しっかりと従業員を見ていることを伝えられるかだと思います。そうすると上司・部下だけでなくチームのコミュニケーションがよくなり、心理的安全性にもつながっていくと思います。

石神さん

石井さんのおっしゃるとおり、まずは心理的安全性の確保が鍵だと考えています。上司や同僚、他部署へ相談するときに余計な恐怖不安が生じない環境であれば、スムーズに仕事が運ぶのではと思います。

パネルディスカッション【2】:バックオフィス担当者との知見共有

株式会社SUPER STUDIO 佐藤さん

佐藤さん

次のテーマ「社外のバックオフィス担当者との関わり方」に移ります。社外のバックオフィス担当者と関わるにあたって、なぜそういうことをした方がいいのか?実際にどのように関わっていらっしゃるのか?伺いたいと思います。石井さんからお願いします。

石井さん

医療業界の特有かも知れませんが、エリアが異なれば競合にならないので事例を共有しやすい点があります。SmartHR ユーザーコミュニティ「PARK」には医療業界のコミュニティがあり、全国の同業他社の人事メンバーとコミュニケーションが取れます。業界特有の人事労務の問題を共有しあって、自分のない視点を補完してくれるいい仕組みだと思っています。

佐藤さん

「PARK」をうまく使っていらっしゃいますね。石神さんはいかがですか?

社外の同職種の方との交流

石神さん

通常、総務・労務は社外との接点をもちにくく、客観的に自分たちの業務や体制を見直す機会がありません。なので、社外の人と情報交換できればなと思っていました。現在は、私も「PARK」に参加しています。他社では労務や社内制度をどのように運用されているのか、お話を伺えたのはすごくよかったです。SmartHRの使い方も工夫されていて大変参考になりました。

佐藤さん

石神さんともはじめてお会いしたのが、PARKのオフライン飲み会でしたよね。普通だったらまったく知り合えない方と知り合えるのは、すごくいい体験だと思いました。

お2人とも本日はありがとうございました。2社の導入事例を参考にしながら日々の業務効率化を目指していただければと思います。

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