SmartHRの事例から学ぶ企業規模別「オンボーディング」実践ガイド
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目次
組織の成長にあわせたオンボーディングのリニューアルは、中途入社社員が早期に活躍するためには欠かせません。創業以来、SmartHRでは組織の成長にあわせて、オンボーディング内容をリニューアルしてきました。社員数が1,000人を超えた2024年1月には、「入社直後からのバリュー体現」をテーマに、オンボーディングの目的や内容を刷新。リニューアル前よりも、バリューの浸透を重視し、強くバリュー体現を求める構成と変更しました。
本稿では、社員数と企業ステージにあわせたオンボーディングの内容とリニューアルの進め方について、SmartHRのオンボーディング担当の人材育成部の渡邊 明日実さんにお話しを伺いました。

株式会社SmartHR 人材育成部
2019年10月に株式会社SmartHRに入社。カスタマーサクセスを経て、2022年2月より人事グループ(現・人材育成部)に異動後、オンボーディングを担当。現在はオンボーディングのほか、ファーストラインマネージャー育成を目的とした、研修企画やコミュニティ運営などにも携わっている。
〜100人:早期活躍のために必要最低限の情報を渡す
2019年7月に社員数100人を超えたタイミングで実施していたのは以下の内容でした。
- 実施内容
- 会社の沿革
- PCセットアップ
- 事業モデル説明
- 実施日数・時間
- 1日間
- 総時間数:3時間程度
入社初日に、事業内容や会社の沿革、バリューとその重要性について、創業者の宮田さんがオリエンテーションで説明。今以上に即戦力採用を重視しており、「早期活躍のために必要最低限の情報を渡す」をテーマに、PCセットアップや社内ルールの説明、必要最低限のオリエンテーションを実施していました。
具体的な業務とノウハウはOJTを中心にレクチャーし、現場での業務を通じて習得するスタイルでした。
300人〜1,000人:責任者による説明と部門別のオンボーディング
2020年1月に社員数が300人を超え、ポジションや部門の新設が多数発生していたため、各部門の責任者が部門ごとのミッションや業務内容にフォーカスしたオリエンテーションを実施。「網羅的に会社全体の情報を伝え、すぐに即戦力として活躍できる状態」を目指しました。

- 実施内容
- PCセットアップ・就業規則説明(バックオフィス部門が担当)
- 事業・組織・制度全体の説明(各部門のCxOが担当)
- 部門別のミッション・業務内容の説明(各部門責任者が担当)
- 入社後の疑問解消を目的とした交流会(人事部門が担当)
- 実施日数・オリエンテーション数
- オリエンテーション:2週間
- なんでも質問会:1時間
- オリエンテーション数:17
各オリエンテーションのスピーカーは各部門責任者にお願いし、人事はサポートとして必ず同席。スピーカーの説明に合わせて補足説明や関連資料をチャットに投稿し、新入社員が理解しやすくなるよう工夫していました。また質疑応答は人事で舵を取り、できる限り不明点を残さず、部門責任者と直接コミュニケーションが取れるようにサポートしていました。
手厚いオンボーディングを実施することで、参加者の満足度は5点満点中4.5点以上と、高い評価を得ています。その一方で、人事担当者の工数が増加し、月の約半分をオンボーディングにかけざるを得ないデメリットも浮き彫りとなりました。
1,000人〜:「情報の選択と集中」のため各部門主導に変更
社員数が1,000人を超え、組織の拡大が進んだ2024年にオンボーディングのリニューアルを実施。人事担当は全社に関するインプットを主導し、職種ごと必要な専門知識は各部門ごとにオンボーディングする形式に変更しました。

- 実施内容
- PCセットアップ・就業規則説明(バックオフィス部門が担当)
- 事業・組織全体の説明(各部門のCxOが担当)
- バリュー理解のワークショップ(人事部門が担当)
- 制度・社内ルールの説明(専門部署が担当)
- 実施日数・時間
- オリエンテーション:5日間
- ワークショップ:3時間
- 総時間数:10時間
入社1か月後には、バリューの体現を目的としたワークショップを実施。バリューをおさらいする座学のほか、入社1か月の間に業務で3つのバリューをどのように体現できたかを確認するグループワークを実施しています。

オンボーディングリニューアルのステップ
情報の網羅性から多くの参加者から満足度が高いオンボーディングであったために、次第に「自分の担当業務のより詳細な情報を知りたい」という声が増えてきました。
一方で、「情報を覚えきれなくて不安」「自分の業務に必要な情報がどれかわからない」などの声も届くようになりました。
そこで情報過多の課題と2024年1月からの組織再編を受け、オンボーディングのリニューアルに着手。半年間で準備を進めました。
リニューアルプロジェクトのスケジュール
- 経営陣へのヒアリング(約2週間)
- 役割・目的の再定義(約3週間)
- 実施内容検討(約3週間)
- 各部門との調整(約3週間)
- 資料作成・準備(約2か月)
バリュー理解促進のためオリエン内容を3つに削減
参加者からの声をもとに、情報過多となっていたオンボーディング内容をブラッシュアップ。そのために、あらためてオンボーディングの役割・目的を「業務理解に必要な前提知識のインプットと、SmartHRカルチャーを理解する」と再定義しました。
なぜなら、組織が急拡大するなかでも社員一人ひとりが同じ方向を向き、企業成長を推進していくためには、まず全員がバリューを深く理解し、日々の行動で体現することが不可欠だと考えたからです。
上記の役割・目的から、バリュー浸透の鈍化を防ぐために、インプット内容を精査しました。最重要視したのは、バリューの理解にとどまらず、業務を通じて体現できること。6か月間で検討から準備まで進めました。
役割と目的を整理したあとで、各部門の説明をするオリエンテーションの廃止を決断。人事主導のオリエンテーションは「事業戦略」「組織構造」「会社制度・ルール」の説明の3つに絞りました。組織拡大により職種も増え、人によって必要な情報が異なるフェーズに突入したことが情報を絞った理由です。職種ごとに必要な専門知識は各部門のオンボーディングでインプットし、全社オリエンテーションでは「全社員が共通して必要な情報に絞る」という決断をしました。

バリューの体現を目的にワークショップを実施
一番大きい変化は情報の削減でしたが、私がリニューアルで最重要視したのは、「業務を通じたバリューの体現」でした。これまでのオリエンテーションでは、CEOの芹澤さんの説明による「情報のインプット」だけでした。しかし、それだけではバリューを体現できるようにならないのではという仮説を立てました。そこで、芹澤さんのオリエンテーションで、バリューに関して以前よりも手厚く説明してもらった後に、バリュー理解のワークショップを実施することにしました。ワークショップを通してさらに理解を深め、体現するイメージを一人ひとりがもてるように設計しています。

このワークショップでは、各バリューごと設定されている行動例をまず読み、そのうえで「入社から1か月間で、それぞれのバリューをどのように体現するか」をイメージしてもらいます。その後、参加者同士でシェアしてもらい、お互いに意見交換をしながら、さらに理解を深めていくという流れです。
このワークショップは入社2〜3日目に実施しています。入社1か月目にどう体現するかのイメージをもってもらった後、実際に意識してみてどうだったかを振り返るワークショップも入社1か月後に実施しています。
「体現できたかどうか」だけでなく、できなかった部分に関しては「できるようになるための要因」を言語化してもらいます。そうすることで、バリューへの理解も深まり、行動のイメージもつきます。また、「SmartHRはバリューを重視している」と認識してもらえるので、自然と社員がバリューを意識するようになってきます。
当社では2024年7月にバリューを変更しましたが、このワークショップによって、引き続きバリューを大切にする文化の継続に成功しています。
バリュー体現に必須のフィードバックのオリエンテーション
バリューとは別に、フィードバックのオリエンテーションも実施しています。このアイデアは、芹澤さんからいただきました。

現在SmartHRではフィードバック文化の醸成に全社的に取り組んでおり、昨年には全社員必須参加のフィードバック研修を実施しました。入社時にもフィードバックについて触れる場を用意し、会社全体でフィードバックを重視していることを伝えています。フィードバックはする側のスキルやマインドセットも重要ですが、受け取る側のマインドセットも同じくらい大切です。
入社初期は、フィードバックを受ける機会が比較的多い傾向にあるため、フィードバックを前向きに受け止め、業務やバリューの体現に活かしながら活躍してほしいと思っています。だからこそ、入社初期にフィードバックに関するマインドセットを揃えることが重要だと考えました。また、入社初期だからこそ気付ける組織の改善点もあります。新入社員だからといって抱え込まず、組織に建設的にフィードバックしてもらうためにも、フィードバックすることの重要性をこのオリエンテーションでお伝えしています。
コンテンツの削減後も満足度は高水準を維持
リニューアル後に実施したアンケート結果でも、丁寧で手厚いという感想は変わらずに届いています。
リニューアル前は、「会社のことを広く把握できたような気はするが、情報量が多く覚えられない」という回答が少なくありませんでした。しかし今では、「情報量が適切だった」というコメントや、「全員が欲しい情報が網羅されていた」というコメントが目立つようになりました。
また、バリューに注力する構成に変えたことで「バリューを体現したいと思った」というコメントが増えたことはとても印象的です。

人事施策による「形骸化の防止」が持続的成長につながる
組織が大きくなればなるほど、組織が掲げるバリューは形骸化しがちだと思います。SmartHRは以前からバリューが根付いた会社ではありますが、入社時のオリエンテーションは、今も変わらずにバリューが浸透している要因の1つになっているのではないでしょうか。
「このようなバリューの会社なんだ」という認識で終わりではなく、「自分がバリューを体現するためには、どうすればよいのか」を考え、行動のイメージをもつ。もちろん入社時だけではなく、継続した浸透施策も重要ですが、入社時に体験をすることで、その後も継続して意識する土台をつくれると考えています。
フォローアップ施策も検討中
現在SmartHRでは、入社数か月後のフォローアップ施策は実施していません。
しかし、社員数が増えて組織が拡大していくと、社員間のコミュニケーションは希薄になる傾向にあります。
新入社員の方が少しでも早く会社に馴染んで、既存社員の方々とも社員同士コミュニケーションが取れるよう、各部門と連携しながら検討していきたいと思っています。
会社に早く馴染むとともに、仕事が楽しいと思う要素の1つに、人間関係は欠かせないものです。入社初期に同期入社の社員同士だけでなく、新入社員と既存社員のコミュニケーションを深める施策は、人事としてSmartHRの持続的な成長の支援になるはずです。従来のオンボーディングをアップデートしていきながら、新しい施策にも挑戦し続けていきたいです。

お役立ち資料
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