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読む、 #ウェンホリ No.23「メンバー同士がよい隣人になるためには?」

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目次

ラジオ書き起こし職人・みやーんZZさんによるPodcast「WEDNESDAY HOLIDAY(ウェンズデイ・ホリデイ)」書き起こしシリーズ。通称「読む、#ウェンホリ」。

前回に引き続きゲストは、教育格差やバリアフリーなどの切り口から人の生きづらさの解消に取り組んでいる研究者の中邑賢龍(なかむら・けんりゅう)さん。「組織づくりは垣根づくり。メンバー同士がよい隣人になるためには?」をテーマにパーソナリティの堀井美香さんとトークを繰り広げます。(書き起こし内容はトークの一部を抜粋しています。)

ゲスト中邑賢龍(なかむら けんりゅう)

1956年、山口県生まれ。東京大学先端科学技術研究センター・シニアリサーチフェロー(寄付研究部門「個別最適な学び研究」)。専門は心理学。不登校や自殺など子供を追い詰める背景には硬直化した教育があると考えている。そこで、実践でインクルーシブな教育プロジェクトLEARNを立ち上げ、新しい教育の在り方を探っている

多様な人にどれだけ会っているか?

堀井

ユニークな人材を受け入れ、多様性を認め合う社会の実現を目指した研究をされている中邑さんなんですけれども。

今回、伺うテーマはこちらです。「組織作りは垣根作り。メンバー同士がよい隣人になるためには?」というお話です。

アメリカにはですね、「よい垣根がよい隣人を作る」という言葉があるんだそうです。よい垣根……つまり境界線の引き方次第で、無用な争いを防いで、よき関係でいられるらしいんですね。これは組織マネジメントにおいても同様のことがいえるのではないかと思います。

パーソナルスペースをフェンスで囲い過ぎてしまえば、風通しが悪くなって疑心暗鬼を生む可能性もあります。多様な個を尊重しつつ、どのように組織環境をよくしていくのか? 

このあたりを中邑さんと話していければと思いますが。この「多様な個を尊重しつつ、組織環境をよくする」のは、難しいですよね。

中邑

そうですよね。多くの人たちが生きてる中で、多様な人にどれだけ会っているんだろうか?っていうことですよね。たとえば、精神障害のある人や、ホームレスの人や、犯罪を犯した人っていう。

こういう人たちとどれだけ接してるか?っていうと、ほとんど接してないんですよ。「ああ、こんな人もいるんだ」っていうことを前提に組織を作っていけば、あんまり目くじらを立てなくてもいいように思うんですよね。

「よい垣根がよい隣人を作る」っていうのも、わからなくもないんですけど。その、さっきおっしゃったように、垣根の作り方が狭すぎる。そしてその垣根が固定的すぎる。もう垣根どころか、コンクリートフェンスを作っているっていうか、そんな感じですよね。

組織における多様性は、まだまだ範囲が狭い

堀井

本当、そうですよね。「この垣根には入れません」っていうのは、割とまだ多いですよね。

中邑

そうですよね。昔、子供の頃に遊んでいると、垣根の隙間をぬって隣の家に入ったりして。ああいう抜け穴だらけの垣根だったらいいなと思うんですけどね。今の組織って、そういうことはなかなか許されないんですかね?

堀井

その垣根ごとに色が違っているものがいっぱいあって。それがなかなかひとつにはならない。

中邑

うん、そうですね。セクト主義というか。堀井さんも会社におられて、そうでしたか?(笑)。

堀井

まあ、会社の中は会社の中で同じような人が集まってくるし。採用でも、お仕事の取引先でも、同じような人たちとやっているので。それ以外の垣根というのを見たことはなかったですよね。

先生が冒頭でおっしゃっていた「いろんな人たちがいるよね」っていう、その「いろんな人たち」と関わってこなかったかもしれないですよね。

中邑

そうですよね。会社は「いろんな人がいる」って言いながらも、それはセレクトされた人たちですから。ここの多様性っていうのはグンと狭い多様性なんですよね。

社会にある「多様性」を組織にもってくる

中邑

一方、社会を見てみたら、もう本当にこれこそが多様性っていうか。この「社会を見る」視点が会社の組織の中にも入ってくると、その垣根の引き方もずいぶん変わってくるんだろうなとは思うんですよね。

堀井

そうだと思いますね。私、ちょっとあるところでボランティアをしてるんですけども。やっぱり、今まで出会ったことのない方たちもたくさんいるんですね。

ハンディキャップがあるとか、いろんな生きづらさを感じている人たちが集まっているところなんですけれども。会社にいては、やっぱり知り合えなかったですよね。

中邑

そうですね。うん。で、僕たちはそういう人たちを雇っているんですよ。たとえば、ホームレスのスタッフがいました。

で、そういう人たちと働いてみると、「なんでホームレスしてるのか?」という話が聞けるわけですよ。「ホームレスで困ること」とか。

で、「一緒に寝るか?」って言われて、一緒に公園に行ったことがあるんです。「だけどな、最近公園って大変なんだよ。すぐに電話される。すぐにおまわりさんが来る。だから寝場所を探すのに本当に苦労する」。

そして、ちょっと臭いのする服を着てくる。「ちゃんと洗濯しろよ。お風呂、入ってるのか?」ってついつい言っちゃうわけですよね。でも、そういう関係ってとっても大事だと思うんですよ。

彼が「風呂は公的なサービスで入れるんだ。まあ、大学のシャワーも使ってるけどね」とか言いながらね。「でも、実は洗濯って大変なんだよ。どこに干すと思う? 洗うのは洗えても、干せないんだぜ。公園にパンツを干していたら、すぐ通報される」って。

こういうような話っていうのをしておくと、私だけじゃなくてやっぱりスタッフも変わっていくんです。

僕らが「ええっ?」って思うような行動するのには、それなりの背景があるっていうと考えられるようになっていく。そういう意味でも、いろんな人たちと働くっていうことはとっても大事だと思うんですよ。

働く垣根を低くして、まずは入ってきてもらう

中邑

じゃあ、どうやってそういう人を雇うんだ? というと、我々が今やってるのは「超短時間雇用」っていう考え方なんですよ。

今、組織が障害のある人をだいたい約2%雇わなきゃいけないんですね。それで雇う。まあ原則として週30時間以上の常用雇用しなきゃいけないっていうことなんだけれども。

でも堀井さん、週に30時間も仕事を出せますか? どんなことができるかわからない人たちに。相当難しそうですよね?

堀井

はい。

中邑

だから「1日2時間」とかでお願いするんですよ。それだったら、物の片付けとか、荷物を運ぶとかね。あるいは郵便物を届けてもらうとか、いろんな仕事をお願いできるわけですよ。

だから「1人を30時間」雇うんじゃなくて「30人を1時間」雇う。時間計算でいうとインパクトは同じなんですけど。国はまだまだ、長時間の雇用にこだわっています。少し最近ね、これを「10時間まで落とそう」みたいな流れもあるみたいですけど。

だけど我々「15分」という雇用もやってるんですよ。そうすると、社会とその人たちもつながれるし。我々も「なぜ彼らが働けないのか?」っていうことを少し理解できる。

そうしていくと、雇ってるスタッフが不調を起こしてうまくいかない時なんかも、そういう視点で理解していけるんですよね。

堀井

だから垣根を緩くして、まず入ってきてもらう。入れてあげるってことですよね。

中邑

そうですね。だから垣根っていうのは、やっぱり我々が設定したルールっていうのが一番、あるわけですよね。で、このルールをどう柔軟に運用していくか? がこれから問われていくんじゃないかなって思うんです。

堀井

この超短時間雇用っていうのは、とても魅力的だなと思います。いろんな方が「働きたいけど、ちょっとわからない」とか「そんなにできるのか、自信がない」っていうことをね、お試しじゃないですけど。

中邑

そうです。だから精神障害で少し引きこもってた人が、少しずつ動けるようになったっていう時に「じゃあ週10時間、働けますか?」っていうと、相当ハードルが高いんですよ。

「起きた時、調子良くなった時に2時間ぐらいおいで。いつ来てもいいよ」って言うと、来れる人がいる。

「『いつ来てもいいよ』なんて、そんなの非常識だよ」っていう人もおられるかもしれませんが。それは「いつ来てもできる仕事」っていうのを用意しとけばいいわけじゃないですか。だから「誰もが、いつでもできる仕事をためておこう」ってスタッフには言ってるんですよ。

面接や働き方にある「見えない垣根」

堀井

あとは先生、面接みたいなところがなかなかクリアできずにお仕事に就けないっていう人たちもやっぱり、いるわけですね?

中邑

そうですね。面接にもね、垣根があるわけですよ。見えない垣根が。これはどういうことか? っていうと、やっぱり「明るく元気よく」っていうね。

堀井

お辞儀ができないとかね。

中邑

そうですね。そういう見えないルールがあって。それに沿わない人はダメだっていう。だけど「挨拶が上手だったら、本当にいいんですか?」っていうことですよね。きちんと物を整理するとか、ミスなく入力をしてくれるとか、こういうことって挨拶と関係ないですよね。

堀井

そこがハードルになってなかなか働けないっていう人たちもいますね。

中邑

そうですね。だからステレオタイプ的な見方がありますよね。「暗くてものをしゃべれない人は、なにかできないんじゃないだろうか?」っていう。能力をどんどん表に出す人じゃないですからね。

「公平・平等」にこだわりすぎて抜けられない

堀井

まずは中に入れて、仲間にしていく。どんどん巻き込んでいく。あとは仕事をするうえで、どういうことに気をつけていけばいいんでしょうか?

中邑

やっぱり、マージンがいるんですよね。たとえば、遅刻っていうか。「9時出社」って言ったら、コアなメンバーは9時に出社してくれないと困るんですけど。

でも、そうじゃなくてもいいっていう人を作っておけばいいんです。「君はこうでいいよ」っていう。「でも、君は9時に来なさい」って。わかります?

堀井

わかります(笑)。

「違うから、違うことをさせてるんだよ」と説明すればよい

中邑

で、それに対してみんなが不満を抱かないように、説明さえしておけばいい。

堀井

はい。うんうんうん。だから、そうですね。みんなで理解しておけばいいんですね。「違うから、違うことをさせてるんだよ」っていう。

中邑

そうなんですよ。だから、その給与っていうものをどうするか? っていう、その設定の問題があるんですけど。だけどその分、差がつくことは仕方がないことで。それを理解してれば、それでいいわけです。

堀井

こうやってお話をしていると、本当に今まで当たり前だったことの中に「おかしな当たり前」がたくさんあるんですね。

中邑

それはもう、学校時代からそういう風になっちゃってるんですよね。「こうしなければいけない」っていうね。

堀井

なんかこうやって面白く崩していくと、何のこともなかったりしますね。

中邑

そうです。で、それをなんか笑い話にするような職場って、本当はいいんだろうなと思うんですよね。うん。なんかみんな「平等・公平」っていうか。そこにこだわっていて、抜けられない人たちが多すぎるっていうか。

<書き起こし終わり>

文:みやーんZZ

Podcast「WEDNESDAY HOLIDAY」#23の視聴はこちらから

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