【新型コロナ対策】テレワーク導入時の環境整備と助成金のポイントを社労士が解説
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こんにちは。特定社会保険労務士の榊です。
新型コロナウイルス感染症 (COVID-19)の感染拡大による企業活動停滞を緩和・打破するための手段として、一躍注目を浴びているのがテレワーク(リモートワーク)、在宅勤務です。
オフィスに出勤する必要がないため、感染症予防が期待される一方で、不慣れな非対面での業務による効率低下やセキュリティ観点での不安なども多く耳にします。
そこで本稿では、これからテレワーク導入する方に向けて、今知っておきたい助成金やおすすめツールなどをまとめてご紹介します。
もともと、4月21日に開催されたSmartHR主催のオンラインセミナーの参加者限定の内容でしたが、より多くの方に情報を届けたいと考え、記事として公開したいと思います。
テレワーク移行に関して悩みを抱えている方のお役に立てれば幸いです。
※本稿ではセミナーでの登壇内容を、2020年5月6日時点での情報を加えて再構成したものです。助成金等の内容は変更されている可能性もあるので、最新の情報を確認するようにしてください。
【1】今、テレワークを導入する意義
まず、従業員を守るためにこれからテレワークを導入する経営者や人事労務担当者にお伝えしておきたいのが、テレワークの導入はコロナ終息後も企業にとって「先々の財産になる」ということです。
テレワーク導入には、従業員の設備を整えるための費用など、どうしても初期費用や制度設計に伴う時間的コストが必要となります。しかし、テレワークはコロナ対策という直近の課題を解決するだけでなく、中長期で見て、企業の柔軟な働き方を実現する上で大きな役割を果たします。
具体的には、コロナ終息後においても以下のような点で価値を発揮すると考えます。
- 通勤による疲労防止
- 通勤時間削減によるワークライフバランスの充実
- 通勤手当削減やオフィス面積縮小によるコスト改善
- 災害に強い勤務体制の実現
- 育児介護や配偶者の転勤による退職防止
- ワーケーションの実現(オフィスを離れてリゾート地などでリフレッシュしながら働くこと)
働き方改革が進むにあたって、遅かれ早かれ検討する必要が出てくる項目が、想定より早まったと考えて取り組むとよいでしょう。
テレワークは、「各自ノートPCを持ち帰って、いい感じに進めてください」では上手く機能しません。
- テレワーク実施のための環境整備
- テレワーク時のルールの設計
の2点がポイントとなります。
【2】テレワーク実施のための環境整備のポイント
テレワーク実施のためには、以下の4種類の環境を整えなくてはなりません。
- ビジネスチャットツール
- クラウドストレージサービス
- Web会議システム
- 在宅勤務におけるハード面での環境整備
各領域におけるおすすめのサービスとともに説明します。
(1)ビジネスチャットツール
メールベースの連絡だとスピード感がどうしても落ちてしまうため、従業員間コミュニケーションにはビジネスチャットツールが欠かせません。
数あるツールの中でも、SlackやChatWork、Microsoft Teamsなどは特によく利用されています。
気軽に連絡しやすいLINEやFacebook Messengerなどの半プライベートのツールは、夜遅くに仕事の通知がくることによる長時間労働やトラブルの原因となります。
また、仕事中にプライベートのメッセージのやり取りをするなど公私混同となる可能性もあるため、できるだけビジネス用のツールを使用しましょう。
(2)クラウドストレージサービス
DropboxやGoogle Drive、box、OneDriveなどのクラウドストレージサービスはテレワークを進める上で不可欠です。
PCのローカルに保存するのではなく、クラウド上で管理することでセキュリティ面でもリスク対策になりますし、コロナ終息後の生産性向上にもつながります。
情報漏えい対策にさらに力を入れるのであれば、保険会社がテレワーク用の保険を販売しているので、加入を検討してもいいかもしれません。
(3)Web会議システム
ZoomやWherebyなどのWeb会議システムも欠かせません。
数あるWeb会議システムの中でも上記2つは、URLを送ることでスムーズに顧客とのWEB会議を設定できる点が魅力です。Skypeは、相手もSkype IDを持っているのが前提になるため、インストールの手間がかかり、少し不便な印象があります。
最近では、テレワークだからこそ、意識的に朝礼を毎日オンラインでやったり、オンラインでのランチ会や飲み会を設けたりする企業もあるようです。
(4)在宅勤務におけるハード面での環境整備
ここまではチャットやWEB会議システムなどソフト面での環境整備について解説してきましたが、ハード面での環境整備も重要です。
疲れにくい椅子やモニター、WEB会議用のヘッドセットマイクなどは特に揃えておくとよいでしょう。
株式会社SmartHRでは、従業員1名につき25,000円の「リモートワーク環境を整える手当」を支給するなど、福利厚生として従業員の在宅勤務環境を整える企業もあります。
ソフト面以上に初期費用がかかる可能性はありますが、コロナ終息後もテレワーク実施を検討している企業は先行投資してもいいかもしれません。
【3】テレワークのルール作りのポイント
続いて、環境が整ったあとで、いかに労務管理をしながら業務をスムーズに進めていくかの「ルール作り」について解説します。
テレワークのルール作りにおいては以下のポイントを心がけましょう。
- 労働時間管理
- 業務報告・タスク管理の可視化
- 費用負担
- どうしても通勤が必要になる人への対応
それぞれの項目について解説します。
労働時間管理
テレワーク導入後こそ、オフィス勤務以上に労働時間管理が重要となります。
「方針(1)実労働時間ベース」は、通常のオフィス勤務と基本的に同様の、実労働時間での管理となります。しかし、子育てや介護など各従業員のライフスタイルを考慮するのであれば、実労働時間をベースにしつつ、勤務時間の制限緩和、業務の中抜けを含む細切れ勤務などの導入を検討してもよいでしょう。
「方針(2)事業場外のみなし労働時間制」については、直行直帰などで勤怠管理ができない出張の際と同じように、細かい労働時間管理はできないけど、所定労働時間働いたとみなす制度です。テレワークにおいては、随時家事や子供の世話を挟みつつも上手く調整して業務に取り掛かってもらうような働き方になります。
事業場外のみなし労働時間制については、以下の記事でも解説しています。
労働時間管理のポイント
方針(1)、(2)のいずれにおいても、深夜残業などの観点から実労働時間の管理は必要となるので、KING OF TIMEやIEYASUなどのクラウド勤怠管理ソフトの導入をおすすめします。
また、従業員の勤務状況のブラックボックス化を避けるための取り組みも重要です。
具体的には、クラウド勤怠管理ソフトのワークフロー機能の活用や、働いているかどうかを判断するために、チャットツールで一言「出勤します / 退勤します」のようなメッセージを送るなどのやり方があります。
業務報告・タスク管理の可視化
テレワークにおいては、労働時間管理とあわせて、具体的に各従業員がどのような業務を進めているのかのタスク管理も必要となります。
毎日の朝礼・夕礼などでの業務報告や、GoogleカレンダーやBizer team、Trelloなどのツールを用いたタスク進捗管理、チャットやWeb会議で相談する際のルール整備などによって、できるだけタスクを可視化できるようにしましょう。
ルール整備に関して、私の顧問先では、Web会議の際はできるだけ「結論から端的に話す」ことを組織のルールとして設けて、効率的に会議を進めているようです。
費用負担について
「従業員のテレワーク移行に関して、どこまでの費用を負担すべきか?」とお悩みの方も多いと思いますが、通勤手当や光熱費など、基本的には法的義務はありません。
しかし、テレワークに必要なものに関しては、従業員の生産性向上や、テレワークへの心理的理解を得られるようにするために、会社経費での負担を推奨します。
どうしても通勤が必要になる人への対応
テレワークに移行しようとしても、中にはどうしてもオフィスや取引先に出勤しなくてはならない従業員もいるかと思います。例えば、書類の受け取りや提出が必要な労務・総務担当者や、営業で外回りをしなくてはならない方などです。
その場合は、通勤に伴うリスクを下げるための対策を考えて対応しましょう。例えば、外回りの営業担当のマイカー勤務を許可し、駐車場代やガソリン代を考慮した手当を支払うなどです。
しかし、最も大事なのは「どうしても通勤が必要になる人」を減らすための工夫です。
例えば、役所や郵便局への書類提出のために出社している人事担当者は、e-GovやSmartHRなどの労務管理ソフトを使用すれば、電子申請が可能となり、出社リスクを回避できます。
経理担当者に関しては、クラウド会計ソフトのfreeeやマネーフォワード クラウド会計などのソフトを使用すれば、同様に会計業務をオンラインで完結できます。
このように、ハンコを押すための出社や書類提出のための出社などを削減する取り組みを順次進めていきましょう。
【4】新型コロナウイルス感染症関連の助成金について
続いて、新型コロナウイルス感染症関連の助成金についてのパートに移ります。
新型コロナウイルス感染症関連の助成金にはどのような種類があるのか、また、テレワーク導入支援系の助成金にはそれぞれどのような違いがあるのかを解説します。
新型コロナウイルス感染症関連の助成金の種類
新型コロナウイルス感染症関連の助成金には大きく分けて3種類が存在しています。
(1)厚生労働省「雇用調整助成金」
雇用調整助成金とは、経済上の理由により事業活動の縮小を余儀なくされた事業主が、労働者に対して一時的に休業、教育訓練または出向を行い、労働者の雇用の維持を図った場合に、休業手当、賃金等の一部が助成されるものです。
よく勘違いされますが、テレワークは「休業」ではないため、雇用調整助成金の対象とはなりません。ただし、テレワークをできない従業員を休業させた場合には、当該従業員に関しては、雇用調整助成金の対象となります。
雇用調整助成金については以下の記事をご参照ください。
(2)厚生労働省「新型コロナウイルス感染症による小学校休業等対応助成金」
小学校等が臨時休業した場合等に、その小学校等に通う子の保護者である労働者の休職に伴う所得の減少に対応するため、正規雇用・非正規雇用を問わず、有給の休暇(年次有給休暇を除く)を取得させた企業に対する助成金です。
雇用調整助成金同様、対象となる従業員が「休業」ではなく、テレワークで働いていた場合は助成対象とはならないので、誤って申請しないように気をつけましょう。
助成金の詳細は以下の記事にまとめられています。
(3)テレワーク導入支援系助成金
- 厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」
- 東京都「事業継続緊急対策(テレワーク)助成金」
- 経済産業省「IT導入補助金」
新型コロナウイルス感染症関連の助成金の中でも、テレワーク導入支援系の助成金は主に上記の3種類が挙げられます。
今回は、テレワーク導入支援系の助成金についてを掘り下げて解説します。
テレワーク導入支援系助成金について
それぞれの違いを表にすると以下のようになります。
最大助成額や助成率、PC・タブレットが助成対象となるか否か、対象商品購入後に事後申請が可能となるか否か、審査の有無などが各助成金ごとに異なっています。
厚生労働省と東京都のテレワーク導入支援助成金について
厚生労働省「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」、東京都「事業継続緊急対策(テレワーク)助成金」については、「支給決定通知」が出た後でなければ、機器の購入費用は助成対象となりません。
ですから、これからPCの買い替えを考えている方は、今のPCで申請し、支給決定通知が来た後に買い換えるようにしましょう。
しかし、2020年5月6日現在、かなり申請が混み合っており、著者の感覚的に1〜2ヶ月程度は時間がかかりそうなので、気長に待つ必要がありそうです。
「IT導入補助金」の詳細については、現在国会審議中(※)ですが、要件合致で助成が受けられる他2つの助成金と異なり、内容の審査が必要となります。審査に落ちる可能性もある点も把握しておきましょう。
※4月30日、令和2年補正予算が成立し、これに伴いIT導入補助金も5月11日より申請受付開始
おわりに
記事の最後に、私から伝えたいことは4点です。
- まずは、必要最小限の体制を整備して、迅速にテレワークを始める
- 出勤する人には、リスクを最小限にする対応を!
- クラウドソフト導入等で、「出勤せざるを得ない人」を減らす取り組む
- 助成金は期待しすぎない、という温度感が大切。
特に助成金については、審査に時間がかかるだけでなく、落選する可能性もあるため、助成金に頼るのではなく、「助成されたらラッキー」くらいのスタンスでいるのがいいかもしれません。
助成金が出るのを待って、テレワーク移行の出足が遅れてしまうのは本末転倒。まずはできる範囲で、社内の環境を整備し、プラスで助成金活用によってテレワーク導入を進めるのをおすすめします。
大変な時期が続きますが、今テレワーク環境を整えることは先々の財産となると信じて、この難局を乗り越えていきましょう。