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元労働基準監督官が見る「新36協定/特別条項」新様式届出の注意点3つ

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こんにちは。社会保険労務士事務所しのはら労働コンサルタントの篠原宏治です。

働き方改革関連法の一環として、労働基準法が改正されます。これにより、2019年4月1日の「時間外労働の罰則付き上限規制」施行に伴い、36協定の届出様式も変更になります。

今回は、新しい様式での36協定届および特別条項を定める際の留意点について、元労働基準監督官としての視点も踏まえて解説します。

「36協定届」の新様式の種類

法改正後における36協定の届出様式は、次の7種類が示されています。

法改正後の36協定届出の種類

上記の様式は必要事項の最少限度を記載すべきことを定めたもので、横書、縦書その他異なる様式を用いることを妨げるものではありません。そのため、上記区分とは異なる様式や会社が任意に作成した様式を使用して届出を行っても差し支えありません。

ただし、記載漏れなどの不備があれば無効な届出として受理されなくなるため、特段の理由がない限りは上記区分に示された届出様式を使用するのが望ましいでしょう。

「36協定届」の様式の主な変更点

「36協定届」は具体的に下記のような変更点があります。

「特別条項付き36協定」は、2枚組の別様式に

従来、36協定の届出は特別条項の有無に関わらず様式第9号を使用していたため、特別条項の定めは欄外の空白などに記載することとされていました。

しかし、新36協定では2枚目に特別条項に関する事項を記載する欄が設けられた「様式第9号の2」が新たに示されました。

「労働保険番号」と「法人番号」の記載欄の追加

新36協定には、事業場の労働保険番号と法人番号を記載する欄が設けられました。

平成27年5月から複数の事業場で違法な長時間労働を繰り返し行う企業名を公表する制度が設けられており、その把握のため届出の時点でこれらの記載を求めることとしたものと考えられます。

「対象期間」と「有効期間」の記載

新しく法定記載事項とされた「対象期間」は、「1年間の延長時間の上限が適用される期間」です。

一方、従来から記載が求められていた「有効期間」は「協定自体の効力が生じる期間」となります。

従来の36協定においても「有効期間」を定めることとされていましたが、「対象期間」との区分が必ずしも明確ではありませんでした。新36協定届では、「対象期間」と「有効期間」をそれぞれ記載する欄が設けられています。

「所定労働時間を超える延長時間」の記載欄の追加

従来、所定労働時間が法定労働時間を下回る事業場については、「所定労働時間を超える延長時間」を定めた場合であっても、一定の概算式によって算出した「法定労働時間を超える延長時間」が限度時間に適合すればよいものとされていました。

一方、新36協定届では「所定労働時間を超える延長時間」の任意記載欄が設けられ、「必ず法定労働時間を超える延長時間を定めること」とされています。

「1日の所定労働時間」と「所定休日」は任意の記載項目に

新36協定届は全体的に「所定」と「法定」の区分が明確にされています。

36協定はそもそも「法定」を超える時間外労働または休日労働に関するものであるため、法違反の判断に必ずしも必要とはならない「1日の所定労働時間」と「所定休日」は任意に記載する項目とされました。

元労働基準監督官が見る「新36協定 /特別条項」作成の注意点3つ

元労働基準監督官である筆者から見た、「新36協定 /特別条項」作成における注意点として下記の3つがあります。

(1)限度時間を超える延長時間を定めた36協定届は、無効のため受理されない

法改正前の限度時間(月45時間、年360時間など)は法的拘束力がありませんでした。そのため、限度時間を超える延長時間を定めた36協定届は、改善指導の対象とはなるものの法律上有効な協定として取り扱われていました。

しかし、法改正後の限度時間は36協定の法定要件であることから、限度時間を超える延長時間を定めた36協定は法定要件不備の無効な36協定となり、その結果、届出を行っても受理されず、時間外労働や休日労働を行わせた場合には法違反(第32条、第35条又は第40条違反)に処せられます。

特別条項を定める場合の上限時間(月100時間未満、年720時間、月45時間超が年6回まで)も36協定の法定要件であるため、これらを超える特別条項を定めた36協定も無効となります。この場合、「36協定そのものが無効」であり、限度時間を超えない範囲の時間外労働も行わせることができなくなることに注意が必要です。

(2)「労働保険番号」と「法人番号」が未記入の場合

労働保険番号と法人番号は法定記載事項ではないため、36協定の効力自体に影響するものではありません。

個人事業の場合は、法人番号の記入は不要と考えられますが、労働保険番号は個人事業であっても労働者を1人でも使用していれば労働保険の加入義務があるため記載が必要です。

未記入のまま届け出た場合は、記入するように一定の指導が行われると思われますが、記入しない限り届出を受理しないということはないと考えられます。

ただし、労働保険番号の未記入が労働保険未加入発覚の契機となり、後日労災担当部署から労働保険加入の指導対象とされる可能性があります。

(3)健康および福祉を確保するための措置

特別条項付き36協定を締結する際は「健康及び福祉を確保するための措置」を定めることが義務付けられます。

健康福祉確保措置として望ましい内容については、指針によって次の9項目が示されています。

1. 労働時間が一定時間を超えた労働者に医師による面接指導を実施すること。

2. 法第三十七条第四項に規定する時刻の間において労働させる回数を一箇月について一定回数以内とすること。

3. 終業から始業までに一定時間以上の継続した休息時間を確保すること。

4. 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、代償休日又は特別な休暇を付与すること。

5. 労働者の勤務状況及びその健康状態に応じて、健康診断を実施すること。

6. 年次有給休暇についてまとまった日数連続して取得することを含めてその取得を促進すること。

7. 心とからだの健康問題についての相談窓口を設置すること。

8. 労働者の勤務状況及びその健康状態に配慮し、必要な場合には適切な部署に配置転換をすること。

9. 必要に応じて、産業医等による助言・指導を受け、又は労働者に産業医等による保健指導を受けさせること。

特別条項付き36協定を締結する際の法定要件のため、健康福祉確保措置の定めをしていない36協定は無効となります。

「5時間の休息時間を確保する」等、健康福祉確保措置の実効力に乏しい健康福祉確保措置を定めた場合であっても協定としての効力は有効と考えられますが、民事上は当該協定に基づく時間外労働の命令が合理的な理由がないものとして争う余地が生じます。また、万が一過労死等が生じた場合には、使用者責任がより大きなものと認められやすくなると考えられます。

改正法においては、会社の実情に合わせた適切な健康福祉確保措置を講じることが求められるでしょう。
(了)

【編集部より】働き方改革関連法 必見コラム特集

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