同一労働・同一賃金ガイドラインと飲食・小売業における「不合理な待遇差」の判断ポイント
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こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。
2020年4月(※)からの「パートタイム・有期雇用労働法」施行に向け、飲食・小売業の経営に大きな影響がある「同一労働・同一賃金」について、3回に分けて解説します。
※中小企業は1年遅れの2021年4月1日から適用です。
2回目となる今回は、厚生労働省が指針としている「同一労働・同一賃金ガイドライン」に基づき、飲食・小売業における不合理な待遇差の判断ポイントについて解説します。
「同一労働・同一賃金ガイドライン」とは
厚生労働省は、「パートタイム・有期雇用労働法」施行にあたり、その指針となる「同一労働・同一賃金ガイドライン」を2018年12月28日に策定しています。
このガイドラインでは、不合理な待遇差の解消に向けた原則となる考え方や具体例について、基本給、賞与、手当、福利厚生等、それぞれの待遇ごとに「問題となる例/問題とならない例」を用いて解説しています。
不合理な待遇差の判断ポイントについて
ここでは、同一労働同一賃金ガイドライン(概要)を掲載します。元となる「同一労働同一賃金ガイドライン」もぜひご確認ください。
当然のことですが、正社員と非正規雇用労働者の待遇差やその程度は、会社によって異なります。ガイドラインは、どのような待遇差が不合理であるか否か、ある程度予測可能になり、会社の判断を助けてくれるものになっています。
ただし、「退職手当」「住宅手当」「家族手当」等の待遇や、すべての会社に当てはまるような具体例は取り上げられてはいません。
したがって会社は、ガイドラインで記載されている待遇だけではなく、法の趣旨とこちらのガイドラインを十分に理解したうえで自社の現状の待遇を整理し、正社員と非正規雇用労働者の待遇差が不合理であるか否かを判断しなければなりません。
そして、事情に応じて対応策について労使で議論を進めていくことになります。
進捗によってはすべての待遇について見直すことができないとしても、少なくともガイドラインで示されている「問題となる例」に当てはまるような待遇については、法施行前までに改善しておきましょう。
「基本給」「賞与」「各種手当」の待遇の考え方
「基本給」の待遇の考え方
基本給は、正社員は月給、非正規雇用労働者は時給や日給としていることが多いです。また、基本給の決め方は労働者の能力や経験、業績・成果、勤続年数、労働市場での賃金相場によるなど、会社によってさまざまです。
このガイドラインでは、基本給において、その趣旨・性格が様々である現実を認めた上で、それぞれの趣旨・性格に照らして、実態に違いがなければ同一の支給を、違いがあれば違いに応じた支給をしなければならないとしています。
昇給においても同様に、労働者の勤続による能力の向上に応じて行うものについては、同一の能力の向上には同一の昇給を、違いがあれば違いに応じた昇給をしなくてはなりません。
基本給については、まず正社員と非正規雇用労働者それぞれについて、自社の決定基準・ルールの違いについて確認しましょう。
正社員と非正規雇用労働者の「職務内容」「職務内容・配置の変更範囲」「その他の事情」を客観的・具体的な実態に照らして、均等待遇や均衡待遇を検討します。
実際には、基本給における待遇差が不合理である否かについての判断は難しいことが多いかもしれません。
厚生労働省の「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」
そこで、基本給における待遇差について数値にして分かりやすく、また根本的に見直したいときには、職務の棚卸しをして職務評価を行う方法もあります。
オススメなのは、厚生労働省の「職務評価を用いた基本給の点検・検討マニュアル」です。
長く濃密なマニュアルであるため、全てに目をとおし完璧にやり遂げるのはなかなか難しいですが、職務評価を考える際に参考になる箇所もありますので、概要だけでも確認するとよいでしょう。
「賞与」「各種手当」の待遇の考え方
賞与や各種手当については、現在どのような種類があって、どのようなルールで支給されているかを整理します。また、支払うこととした会社の意図や経緯を振り返り、支給する目的を明確にしましょう。
そして、正社員と非正規雇用労働者との待遇に違いを設けている場合、その支給する目的に照らして、その理由が不合理でないといえるかどうか、それぞれ検討していくことになります。
通勤手当を例に説明します。
パート・アルバイトの方は、職場の近くに住んでいる方が多いことを理由に、非正規雇用労働者には通勤手当を支給しないことがあります。
しかし、正社員に対して「通勤に要する交通費を補填する目的」で支給している場合、非正規雇用労働者も交通機関を利用して出勤しているときには支給する必要があります。
つまり、雇用形態により差があるというだけでは説明がつかず、不合理であることになるのです。
飲食・小売業の企業の中には、人手不足を考慮し、法施行に先駆けて、非正規雇用労働者にも賞与、各種手当の支給を始めたところもあります。しかし、これまで支払ってこなかった非正規雇用労働者に対して新たに支払うためには、原資の確保が必要となり、対応は簡単ではないようです。
「福利厚生」「教育訓練」の待遇の考え方
正社員と非正規雇用労働者の福利厚生・教育訓練については、基本的に同一の待遇です。
賞与や各種手当と同様に、例えば、慶弔休暇や記念日休暇などの法定外の有給休暇についても、新たに非正規雇用労働者に適用するとした場合、企業に大きなコストがかかってくると覚悟しなければならないでしょう。
会社独自で定める休暇など、要件等により所定労働時間や勤務年数等で比例的に付与することも認められます。
ただし、勤務年数については、有期労働契約を更新している場合には、最初の契約期間から通算するなどしなければなりません。
ポイントは、同一条件であれば同一の待遇、違いがあれば違いに応じた待遇とし、有期契約労働者にとって不利にならないようにすることです。
まとめ
正社員・非正規雇用労働者を問わず、優秀な人材を確保するため、これを機に待遇の見直しも検討されることと思います。
同一労働・同一賃金の対応にあたって重要なのは、労使で十分に交渉することです。
実態に即していない、時代に合わない手当などの改廃については、一定の猶予期間を設けたり、他の待遇でバランスを取ったりするなど、不利益変更にならないように、従業員の方への配慮が必要であるのは言うまでもありません。
次回は、飲食・小売業における「同一労働・同一賃金」への取り組みにおけるさまざまな待遇について具体的に解説いたします。