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2025年10月施行「育児・介護休業法」の改正のポイントを社労士が先取り解説

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こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。

2024年5月に国会で可決・成立した育児・介護休業法の改正が、2025年4月1日と10月1日の2段階で施行されます。この記事では、10月1日施行分について、実務への影響や対応に関する注意点などを詳しく解説します。

1.はじめに:育児・介護休業法改正の全体像

これまで育児・介護休業法は改正を重ねており、制度がとても複雑になっています。今回の改正では、個別の周知や意向確認、個別の意向聴取や配慮など、労働者一人ひとりへの対応で労務管理が煩雑になり、人事労務担当者や所属長などのタスクが増えます。今後、運用面で大きな課題となると想定されるでしょう。

10月1日の施行内容について

2025年10月1日施行は大きく分けて次の2つです。

(1) 育児期の柔軟な働き方を実現するための措置等
(2) 仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮

労働者からの妊娠・出産などの申し出を受けたときに実施する「育児休業制度の個別周知・意向確認」は2022年4月1日に義務化されました。下の図1の現行の措置義務としてグレーで囲まれた部分です。

厚生労働省リーフレット「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」を元に一部加筆した図

図1:厚生労働省リーフレット「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」を元に一部加筆

2025年10月1日施行では、(1)の「(育児期の)柔軟な働き方を実現するための措置」の個別周知・意向確認、(2)の(仕事と育児の両立に関する)個別の意向聴取と配慮が義務化されます。(上の図1のピンクで囲まれた部分参照)

従来の法改正との違いについて

2021年改正(前回の法改正)で義務付けられた「個別周知・意向確認」と、2024年改正(今回の法改正)で新たに義務付けられた「個別の意向聴取・配慮」の違いについて確認しましょう。

「個別周知・意向確認」は対象となる労働者に育児休業制度などを周知し、利用の意向を確認するまでが求められました。

それに対して「個別の意向聴取・配慮」は、育児と仕事の両立を円滑にするため、支障となる事情の改善につながる就業に関する条件(勤務時間帯、勤務地にかかる配置や、労働条件の見直しなど)について聴取し、労働者の意向に配慮することが求められます。つまり、労働者の個別事情にあわせて、企業は何ができるのか具体的に検討しなければなりません。

2.育児期の柔軟な働き方を実現するための措置等

事業主は、3歳から小学校就学前の子を養育する労働者に対して、職場のニーズを把握したうえで、次の5つのなかから2つ以上の措置を選択して講じなければなりません。

(1)始業時刻等の変更
(2)テレワーク等(10日以上/月)
(3)保育施設の設置運営等
(4)養育両立支援休暇の付与(10日以上/年)
(5)短時間勤務制度

※(1)から(4)までの措置は、フルタイムでの柔軟な働き方を実現するための措置です。

労働者は事業主が講じた2つ以上の措置のなかから1つを選択して利用できます。また、事業主は上記のなかですでに実施しているものがあれば、新たに選択する必要はありません。

個別の周知・意向確認では、制度の利用を控えさせるような言動をしてはなりません。また、育児・介護休業などの申し出や取得を理由に、解雇やそのほか不利益な取り扱いをすることは禁止されています

厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」P6より<改正後の仕事と育児のイメージ>図

出典:厚生労働省「育児・介護休業法 改正ポイントのご案内」P6より

各選択肢の詳細解説と導入ポイントについて

上記の措置について内容を解説します。

(1)始業時刻等の変更

フレックスタイム制や時差出勤の制度(1日の所定労働時間数を変更することなく始業終業時刻を繰り上げまたは繰り下げ)とします。

(2)テレワーク等(10日以上/月)

テレワークは自宅だけでなく、自宅に準ずるものとして就業規則で定める場所(サテライトオフィスなど)も可能です。利用できる日数は、1週間の所定労働日数が5日の労働者については1月につき10労働日以上、週所定労働日数の少ない労働者の場合は比例で計算した日数以上と定め、時間単位でも取得ができるようにすることが必要です。


現場で仕事をする業界ではテレワーク導入は困難な場合が多いですが、一部でも実施可能か検討したいところです。

(3)保育施設の設置運営等

保育施設の設置運営や、これに準ずる便宜の供与するものとして、ベビーシッターの手配および費用負担(または補助)とすることも可能です。

(4)養育両立支援休暇の付与(10日以上/年) 

1日の所定労働時間を変更することなく、1年間に10労働日以上の日数について時間単位で利用できる休暇制度を新たに設けます。休暇取得した時間について、有給、無給扱いにするかどうか就業規則で定めます。


なお、失効年次有給休暇の積み立て制度を養育両立支援休暇としても利用できますが、その場合は時間単位での利用や、有給、休暇取得の事由を限定しないなどの要件をクリアする必要があります。

厚生労働省「令和6年改正育児・介護休業法に関する Q&A (令和7年1月 23 日時点)」P9より養育両立支援休暇、育児目的休暇、子の看護等休暇の関係性を示した図

出典:厚生労働省「令和6年改正育児・介護休業法に関する Q&A (令和7年1月 23 日時点)」P9より

(5)短時間勤務制度

3歳までの育児短時間勤務制度と同様に、1日の所定労働時間を6時間とする措置を含むことが必要です。

検討から導入までのスケジュール感について

以上の5つから取り入れられる措置を、自社の現状を考慮して検討します。検討するなかで、過半数労働組合や労働者の過半数を代表する労働者から意見聴取の機会を設ける必要があるため、早めに取り掛かりましょう。以下の図を参考に、8月中をメドに人事労務担当者や所属長の間で方針を固められるとベターです。

育児期の柔軟な働き方を実現するための措置についての流れを10月1日の改正施行に合わせて示した図

3.仕事と育児の両立に関する個別の意向聴取・配慮

子に障害がある、労働者がひとり親であるなどの個別の事情により、一律の制度では育児支援が十分でない場合があります。2025年10月1日から、個別の事情に応じながら仕事と育児の両立を円滑にするため、両立に支障をきたす事情や労働者の意向を個別に聴取し、聴取した意向について事業主が自社の状況に応じて配慮することが求められます

意向聴取の時期、内容、方法について

意向聴取の時期は、次のとおりです。

(1)本人または配偶者の妊娠・出産等を申し出たとき
(2)労働者の子が3歳の誕生日の1か月前までの1年間
(1歳11か月に達した日の翌々日から2歳11か月に達する日の翌日まで)

厚生労働省の参考資料 P102より抜粋した、令和7年の5月1日生まれと5月31日生まれのそれぞれの「子が3歳になるまでの適切な時期」の模式図

出典:厚生労働省の参考資料 P102より抜粋

また、家庭や仕事の状況が変化する場合があるので、上記の時期のほかに、育児休業後の復帰時や労働者から申し出があったときなど、定期的に面談することが望ましいでしょう。

具体的な聴取内容としては、次のような事項です。

(1)勤務時間帯(始業および終業の時刻)
(2)勤務地(就業の場所)
(3)両立支援制度等の利用期間
(4)仕事と育児の両立に資する就業の条件(業務量、労働条件の見直し等)

聴取方法としては、面談(オンライン面談も可)、書面交付、労働者が希望した場合はFAX、電子メール等のいずれかです。

配慮の具体例について

事業主は聴取した労働者の意向について、自社の状況に応じて可能な範囲で、勤務時間帯・勤務地、業務量についての調整、労働条件の見直しなど配慮することになります。また、望ましい配慮として、短時間勤務制度や子の看護等休暇の利用可能期間の延長や付与日数に配慮するなどが例として挙げられています。

必ずしも労働者の意向どおりとならなくても、できる限り寄り添った対応をしたいところです。意向に沿った対応が困難な場合も、困難な理由を十分に説明するなど、丁寧な対応が求められます。

意向の個別聴取の実施者は人事労務担当者や所属長などが想定されます。実施者が所属長の場合、労働者が職場や同僚などに遠慮することも考えられるため、話しにくい状況にならないよう、実施者に対して制度の趣旨や適切な実施方法を十分に周知する必要があります。個別の定期ミーティングや1on1などで、仕事と家庭の両立に支障となることはないか、事業主が配慮できることはないか、日ごろからコミュニケーションをとることも重要です。

個別の意向聴取・配慮の流れについて

事業主は労働者にとって適切な時期に対応する必要があるため、対象者や実施のタイミングを把握しておかなければなりません。人事労務ソフトを活用すると、アラート機能や申請・承認機能、面談記録を残すなど、従業員情報を一元管理できるので、業務の効率化が期待できます。

また、個別の意向聴取・配慮でSmartHRがどのように活用できるか解説していますので、SmartHRをご利用中の方はこちらもあわせてご確認ください。

4.そのほかの注意点

育児・介護休業法改正について、そのほかに注意すべき点を2点あげます。

就業規則等の見直しについて

就業規則は労働条件を明示するもので、労働者に周知されていることが要件です。労働者が制度を確認し、容易に利用できるようにするため、就業規則(育児・介護休業等に関する規則)の改定、各種ツールなど、法改正の施行日までに間に合うように準備しましょう。

労働者が10名以上の事業所は労働基準監督署へ就業規則の変更届が必要です。また、育児・介護休業等で一部の労働者を対象外とするときは、労使協定を見直し、締結する必要があります。(労使協定書は、労働基準監督署への届け出は不要)

厚生労働省のウェブサイト「育児・介護休業等に関する規則の規定例」で、今回の法改正に関する説明資料や申請書などの参考様式をダウンロードできます。

厚生労働省「育児・介護休業等に関する規則の規定例 」より抜粋した育児休業のケース①とケース②

出典:厚生労働省「育児・介護休業等に関する規則の規定例 」より抜粋

外部委託する際の注意点について

今回の育児・介護休業法の改正への対応や、業務の効率化を考えた際、一部の業務を顧問社労士などへ外部委託することを検討する企業もあるかと思います。

その際には、事前に準備すべきことや考慮すべきことをパート分けし、どの業務のどの部分を委託するのか、フローをあわせて検討しておきましょう。業務委託しやすいものとしては、制度の個別周知や、制度についての相談窓口などがあります。

優秀な人材確保の機会と捉え、ぜひ積極的な取り組みを

育児・介護休業法の改正は、労務管理の煩雑さが問題になる一方で、労働者との良好な関係構築の機会にもなります。企業は中長期的な観点から優秀な人材確保に資すると考えて対応したいところです。中小企業では対応が難しいという声もありますが、両立支援等助成金など企業への支援も活用しながら、ぜひ取り組んでいただきたいと思います。

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