人事・労務担当が知っておきたいHRニュース|2024年2月の振り返りと3月のポイント
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こんにちは! 今月から「人事・労務担当が知っておきたいHRニュース」の執筆を担当する、元SmartHR社員で開業社会保険労務士の岸本です。
皆さまのお役に立てる情報を、わかりやすく噛み砕いてお伝えすることを第一に取り組んでいきますので、どうぞよろしくお願いします。
3月は、新入社員の受け入れ準備や人事異動の発令など、新年度へ向けて対応すべきことも多いため、人事・労務担当者にとって忙しくなる時期かと思います。
また、行政上の「年度」の節目でもあり、毎年4月1日付での法改正の対応にも追われるのが通例です。今年度もいくつかの対応すべき重要なポイントがあるので、ぜひ本記事の内容もご確認ください。
2月のトピックを振り返る
2月は人事労務担当者にとって年末調整の対応もようやく終わり、新年度へ向けた準備を前にして、比較的お休みをとる方も多い月かと思います。
束の間ではありますが、休めるときにはぜひリフレッシュして頭をクリアにしつつ、春〜夏の繁忙期へ向けて元気で乗り越えられるよう英気を養いましょう。
トピック1:年末調整後の残りの対応もお忘れなく
少し前のトピックにはなりますが、1月末が期限とされている給与支払報告書や法定調書合計表の提出をもって、ようやく年末調整業務も無事終了となり、2月は少し落ち着いてきた頃かと思います。
しかし、3月に入って確定申告のピーク時期を迎える頃には、社員から「年末調整のときに間違えて会社に提出してしまった乙欄の源泉徴収票はいつ返してくれるんですか」といったお問い合わせもあるかと思います。このように、やり残した業務の失念に気付くケースがあるのも「人事・労務あるある」ですよね。
2月は人事・労務担当者として「やっと年末調整終わった〜」と、ようやくホッとできる時期。年末調整時に誤って会社へ提出された書類返却など、「落ち着いたら後でやろう」と思っていたことを忘れてしまうケースもあると思います。
もし「あっ、そういえばアレってまだやっていないかも」と思われた方は、ぜひこのタイミングで、年末調整後のタスクがすべて完了しているかについても、ご確認いただくとよいかもしれません。
トピック2:定額減税に関する最新情報
これが今年1番のホットトピックといえるかもしれません。すでに周知のとおり、令和5年12月22日に「令和6年度税制改正の大綱」が閣議決定され、令和6年分の所得税と住民税については定額減税の実施が予定されています。
まず、2月末時点で公開されている情報においての定額減税の概要についてですが、対象となる給与所得者本人と同一生計配偶者または扶養親族の1名につき、所得税3万円と住民税1万円がそれぞれ減税されるものです。
※詳細は国税庁ホームページ(定額減税 特設サイト)をご参照ください
気になる実務面への影響ですが、所得税は今年(2024年)の6月給与から定額減税の処理対応が必要とされます。その一方で、住民税はやや異なり、6月給与では特別徴収せずに、7月給与から控除開始となる模様です。実際に処理する際には間違いが起きないよう、とくに注意が必要です。
なお住民税に関しては、毎年5月頃に各市区町村から会社宛てに通知される「給与所得に係る個人住民税の特別徴収税額通知」において、令和6年分の年税額を7月〜翌年5月でそれぞれ11分の1の金額が記載された内容になるとのことです。
いずれにしても、今年12月の年末調整までの年間を通じた対応が必要となるトピックですので、引き続き最新情報のキャッチアップが求められます。
トピック3:今後さらに注目される「ビジネスと人権」
ここ数年で、温室効果ガス(GHG)の排出量削減などの気候変動問題への取り組みをはじめ、企業に求められるサステナビリティに関連したニュースはますます注目度が高まってきたといえます。
サステナビリティといえば、これまでは環境問題がとくに取り上げられていた印象がありました。最近では「ビジネスと人権」について企業が取り組むべき内容についても、さまざまな団体による普及活動がみられるようになっています。
直近では、日本貿易振興機構(JETRO)から「ビジネスと人権 早わかりガイド」が公表されました。日本の中小企業にとっては、まだ馴染みの薄い内容がわかりやすくまとめられていますので、ぜひご覧になるとよろしいかと思います。
これからの人事・労務業務は、社会保険手続きや給与計算などの基本業務をこなすなかで、必要な人事情報を一元化した適切な管理も求められるようになっています。
そうした時代において、企業としてスムーズに対応できるよう、SmartHRなどの1つのシステムを利用した人事データの集約が求められています。正確に情報を収集して適切に管理しつつ、必要なデータを必要な形でスピーディにアウトプットする仕組みの構築が非常に重要ですので、それぞれの企業に合った管理体制を整えていきましょう。
3月は4月1日付での法改正内容に注目
トピック1:各種保険料率の改定
毎年決まってこの時期に対応すべきトピックでもあり、人事・労務担当者の皆さまはすでにご確認済みかと思いますが、3月・4月は各種保険料率の改定時期となるので、それぞれみていきましょう。
まず、令和4年度の2段階改定と令和5年度の改定があった雇用保険料率については、今年は「改定なし」となりました。
また、健康保険料率と介護保険料率については加入先により異なるので、改定の有無をしっかりと確認したうえで、改定がある場合には給与システムへ忘れずに反映しましょう。
ちなみに協会けんぽについては、3月分から料率改定されている都道府県があるので、ぜひご確認いただければと思います。
東京都は健康保険料率「9.98%(前年10.00%)」、介護保険料率「1.60%(前年1.82%)」に改定されています。
なお、実務面でとくに注意が必要なポイントとして、3月支給の賞与がある場合には改定後の保険料率で計算する必要があります。そのため、あらかじめ給与計算システムに正しい保険料率が反映されているかを確認しておくと安心です。
そのほか、給与が当月払いの企業において注意すべきなのは、3月末退職の退職者に対して3月支給の給与から社会保険料を2か月分控除するケースになります。この場合、3月分は改定後の保険料率で計算する必要があるので、これも間違いがないように気をつけておきたいところです。
トピック2:労働条件明示等のルール改正
今年の4/1付での法改正のうち、業種を問わずすべての企業が対応すべき最重要トピックが、この労働条件明示のルール改正だと思います。
すでにご準備が進んでいる企業も多いはずですが、対応がまだお済みでない場合には早めに法改正の詳細を確認したうえで、4月1日以降の労働条件通知に改正点をしっかり反映できるようにしましょう。
参考:厚生労働省「令和6年4月から労働条件明示のルールが改正されます」
労働条件明示のルール改正については、以下の記事でも解説しているので、あわせてご覧ください。
なお、今回の改正に関連する対応で意外と見落としがちな点として、上記と同じタイミングで、求人掲載などについても明示すべき事項の追加に関する法改正があります。
参考:厚生労働省「令和6年4月より、募集時等に明示すべき事項が追加されます」
労務担当者から採用担当者へ法改正対応が進んでいるかを確認するなど、連携しつつ協力しながら進めるとよいでしょう。
また、先ほどリンクをご紹介した厚生労働省のサイトには、労働条件通知書の記載例なども掲載されています。遅くとも4月1日からは新しいフォームでの雇用契約書の締結などが問題なく進められるよう、あらためて詳細を確認しておきましょう。
トピック3:その他の改正など(裁量労働制、2024年問題)
その他にも4月1日付での重要な法改正などはいくつかありますが、対応が必要となるのは一定の企業に限られることもあり、ここでは概要だけご紹介します。
裁量労働制に関する法改正
4月1日以降、新たにまたは継続して裁量労働制(専門業務型・企画業務型)を導入する場合には、本人同意や撤回の手続きなど、従来とは異なる追加の対応が必要となるので注意しましょう。
参考:厚生労働省リーフレット「裁量労働制の導入・継続には新たな手続きが必要です」
裁量労働制の改正については、以下の記事で詳しく解説しているので、あわせてご覧ください。
時間外労働の上限規制の猶予期間終了(いわゆる2024年問題)
2019年4月から順次施行されてきた働き方改革関連法について、時間外労働の上限規制がとくに話題となりましたが、ドライバーや建設業などに対しては、5年間の猶予措置が設けられていました。
その猶予期間の終了タイミングが、まさしく今年の4月1日です。「物流業界の2024年問題」と呼ばれているように、ニュースにも度々取り上げられている内容となります。
物流業界の2024年問題の具体的な対応内容については、以下の記事をご覧ください。
対応が必要のない企業につきましても、人事・労務担当者としては世間の動きもしっかりと把握しつつ、日々の業務にも取り組んでいけるとよいと思います。
日常業務と並行して漏れなく法改正対応を
ここまでご覧いただいたとおり、すべての企業が対応すべき4月1日付での法改正もあります。日常業務をこなしつつ、これらへの対応は大変なことですが、ぜひ対応漏れのないように気をつけていきましょう。
また、これから春に向かって暖かくなる季節を迎えますが、気温の変動が激しかったり諸々の生活環境が変わったりすることも多い時期でもあります。くれぐれも体調管理にはお気をつけてお過ごしください。
最後に、私自身はSmartHR社を退職してから初めて執筆した記事となりましたが、ご協力くださったSmartHR Mag.関係者および読者の皆さまに対して、心より感謝申し上げたいと思います。今後ともよろしくお願いします!