【第1回 人材力研究会 速報】AI時代の社会人基礎力のポイントは?
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先日、SmartHR Mag. において「必要な人材像とキャリア構築支援に向けた検討ワーキング・グループ(以下、人材像WG)」(議事要旨)の速報をお送りしましたが、「人材像WG」と「中小企業・小規模事業者・スタートアップ等における中核人材の確保・活用促進に向けた検討ワーキング・グループ(以下、中核人材確保WG)」の2つのワーキング・グループを包括する、「我が国産業における人材力強化に向けた研究会(以下、人材力研究会)」が、去る2017年11月6日に開催されましたので、その様子を速報レポートとしてお送りします。
人材力研究会の概要とおさらい
2016年6月に閣議決定された「一億総活躍プラン」や、そこからスピンアウトされた「働き方改革実行計画」などの文脈の中で生まれた「人材力研究会」。
背景としては、第1回人材像WGの速報記事でも挙げたように、これからの時代で迎える労働人口の減少や第4次産業革命の到来、それらに伴う産業構造の変化の中で「人材力」が企業競争力の源泉になると言われています。
それと同時に、ひとりひとりの“人生のタイムライン”も、今まさにパラダイムシフトの真っ只中にあって、個人レベルで「人生100年時代」と向き合う必要に迫られています。
「学ぶ」→「働く」→「余生を送る」という従来型の画一的なタイムラインは、第4次産業革命の中で迎える「人生100年時代」では終焉を迎え、「学ぶ」「働く」が一体化する、パラレルなタイムラインへと、大きなモデルチェンジをするだろうと言われています。
これらの潮流は、何も個人だけの話ではなく、当然産官学、つまり社会全体で「人生100年時代」の人材の最適配置について考えていく必要があり、その旗振り役として立ち上げられたのが、この度の「人材力研究会」と2つのワーキング・グループ「人材像WG」「中核人材確保WG」です。
この研究会とワーキング・グループでは、
- リカレント教育の充実
- (特に大企業から中小企業等への)転職・再就職等の円滑化
- それらのベースとなる、必要とされる人材像の明確化や確保・活用
- 産業界として果たすべき役割
などの内容を、パッケージとして検討します。そして、2006年に定義づけられた「社会人基礎力」の見直しも、重要なテーマのひとつとして挙げられています。
第1回 人材力研究会の様子
本研究会に先立つ形で開催された、人材像WG(第1回 2017年10月16日)と中核人材確保WG(2017年10月27日)での議事を踏まえ、2017年11月6日に第1回 人材力研究会が開催されました(於:経済産業省本館17階 第1特別会議室)。
第1回の議題は、「研究会全体の進め方」、「リカレント教育」及び「転職・兼業・副業・複業、出向等の円滑化」についてでした。
米大統領 ドナルド・トランプ氏の訪日対応で多忙な中、経済産業大臣 世耕 弘成氏も出席されました。
世耕大臣は、
「人生100年時代」において、ミドル世代、とりわけ「就職氷河期世代」等へのリカレント教育が必要になる中で、「何を学び」「どのように活躍していくのか」を明確にする必要がある。10年前に定義された「社会人基礎力」を見直し、中小企業の人手不足、とりわけ承継問題等について検討し、必要に応じて官邸「人生100年時代構想会議」にも提案していきたい。
また、日本全体での効率的な人的配置を考えないといけない。中小企業では後継者不足や人手不足などの問題があり、人材のミスマッチがある。同時に、兼業・副業、労働移動など多様な働き方を促していかないといけない。
とコメントを残されています。
続く本題においては、株式会社 i-plug 代表取締役・中野智哉氏、AeroEdge株式会社 執行役員・永井 希依彦氏、筑波大学 助教/学長補佐・落合陽一氏の、3人のゲストスピーカーによってプレゼンテーションが掲げられました。
株式会社i-plug 代表取締役・中野智哉氏
ダイレクトリクルーティングサービス「OfferBox」を提供する、株式会社i-plug 代表取締役・中野智哉氏の発表は、同社と提携し適性検査「eF-1G(R)」を提供する株式会社イーファルコンとの業務提携によって取得された、学生の属性データおよび適性検査結果データから見る「活躍人材の社会人基礎力」という興味深い分析結果をもとにしたプレゼンテーションでした。
同業務提携は、「採用・入社」がある種のゴールとなった従来型の就職活動とは一線を画し、「活躍」をゴールとした採用・就職システムの確立を目指すとのことです。
また、学生時代の経験と社会人としての活躍には、成長の因果があるものの、これは学生に限ったことではなく、社会人になってからも同様のことが言えるのではないかという示唆に富んだ内容でした。その仮説をもとに追加調査も実施するようです。
今後取得を進めるデータとしては、
- 「学生時代の経験・取組み」と「コンピテンシーポテンシャルやパーソナリティーの向上」に関する相関関係と因果関係
- コンピテンシーポテンシャル採用によるミスマッチ軽減・入社後の活躍データ
- 活躍人材のナラティブインタビューと適性検査データ
としており、引き続き、今後の動向に注目です。
AeroEdge株式会社 執行役員・永井 希依彦氏
続いて、AeroEdge株式会社 執行役員・永井 希依彦氏による、「経営基盤高度化のための人材力強化の取組み」をテーマとしたプレゼンテーション。同社は、グローバル航空宇宙市場の変容において、「急激な垂直立ち上げ」「早期プレゼンスの確立」という課題が立ちはだかり、経営基盤強化のための中核人材として「改革主導リーダー」および「特定高度技能人材」の獲得に迫られたようです。
その中で、改革を主導するリーダー層の形成ののち、経営重点施策について高度技能人材を柔軟に受け入れ、結果的に計画対比+55%の引き合い獲得に成功したようです。
特に、“高度技能人材の柔軟な受け入れ”という点に関しては、人材の「質のマッチング」だけでなく「週●日」といったような「量のマッチング」も非常に重要であると示唆。その際、「有期契約による費用抑制」「柔軟性のある業務遂行」「最新・最高の知見導入」といったことに加え、「イノベーションの可能性拡大」などもメリットとなりうるようです。
なお、限定的な労務原資の中で、中核人材を確保するにあたって、下記のような施策ポイントを挙げていました(以下抜粋)。
1. ビジョンの共有
会社の進む方向性や仕事の進め方、キャリアについてリーダー陣の誰もが同様の返答ができるほど、会社のビジョンやミッションについて討議を重ね共有を図る。
2. 全社体制構築
人材像に見合うならば「人に仕事をつける」覚悟と、候補人材情報をリーダー人で共有し、アプローチ方法を協議する体制を整備。
3. アプローチ
候補者に対して、1年以上継続してアプローチを続ける方針の下、会社と候補者の相互理解に大半の時間を費やす。
4. 受入環境整備
候補者のキャリア方針や働き方の希望に対し、会社やリーダーを含め社員全員が社内制度や勤務環境を柔軟に整備する。
筑波大学 助教/学長補佐・落合陽一氏
筑波大学で助教/学長補佐を務めるほか、デジタルネイチャー研究室主宰でありメディアアーティストとしての顔も持つ、「現代の魔法使い」こと落合 陽一氏は、AI時代の働き方についてのプレゼンテーションでした。
例えば、5年前までは修士論文レベルだった「加速度センサーを用いた行動認識」に関するような内容すら、たった3日間で開催された参加者平均15歳のワークショップでアウトプットされるレベルに達しており、修士を24歳とするとその水準は単純計算で9年早まったとも言えます。これを社会人に置き換えると、社会人として習得したスキルや知識がたった数年のうちに汎用化している可能性もあると考えられます。
上記の例にあげたように、「AI時代の働き方」が求められる日進月歩の社会で、どのように暮らし、どのように働き、どのように適応していくか?
そのヒントは、まず個々人のミクロなポイントとして「ワークライフバランス」から「ワークアズライフ」への転換。
そして社会全体でマクロな観点で取り組むべき必要があることとして「テクノロジーの活用」「教育の拡充」「地方自治の発言力向上」「日本的美的感覚・文化感覚の中にあるテクノロジー受容性の見直し」という4つのポイントを提言していました。
まとめ
今回の3人の有識者プレゼンテーションのポイントは、
- 入社ではなく、活躍をゴールとした採用・就職システムの確立
- および、その活躍人材の定義と適性
- 経営課題における中核人材定義
- AI時代以前の画一的価値観の払拭
- 人の多様性を支えるテクノロジー活用
などが挙げられそうです。「働く」「学ぶ」の時間軸がパラレル化すること、そして企業だけが、行政だけが、教育機関だけがそれぞれ考えるべきことではなく、産官学連携で包括的に仕組みづくりをしていくにあたって、重要な課題が提起されたように思います。
今後の議論も非常に楽しみです。
(プレゼンテーション資料や意見交換などの詳細なる議事要旨は、追って経済産業省よりアップロードされる資料をご覧ください。)
フォトギャラリー
【参考】人材力研究会委員名簿(敬称略)
■ 委員
今野 浩一郎 学習院大学 名誉教授 (人材力研究会および中核人材確保WG 座長)
宇佐川 邦子 株式会社リクルートジョブズ ジョブズリサーチセンター長
小城 武彦 株式会社日本人材機構 代表取締役社長
垣見 俊之 伊藤忠商事株式会社 人事・総務部長
諏訪 康雄 法政大学 名誉教授 (人材像WG 座長)
水谷 智之 一般社団法人地域・教育魅力化プラットフォーム 代表理事
宮島 忠文 株式会社社会人材コミュニケーションズ 代表取締役社長
西村 創一朗 株式会社 HARES 代表取締役
米田 瑛紀 エッセンス株式会社 代表取締役
■ ゲストスピーカー
落合 陽一 筑波大学 助教/学長補佐
中野 智哉 株式会社 i-plug 代表取締役
永井 希依彦 AeroEdge 株式会社 執行役員
■ オブザーバー
高橋 弘行 一般社団法人日本経済団体連合会 労働政策本部 本部長
小林 治彦 日本商工会議所 産業政策第二部長
榎本 陽介 全国商工会連合会 企業支援部 部長
及川 勝 全国中小企業団体中央会 事務局次長/政策推進部長
佐合 達矢 内閣官房 まち・ひと・しごと創生本部 参事官
伊藤 史恵 文部科学省 生涯学習政策局 参事官(連携推進・地域政策担当)
福島 崇 文部科学省 高等教育局 専門教育課 企画官
波積 大樹 厚生労働省 人材開発統括官付 人材開発政策担当参事官
弓 信幸 厚生労働省 職業安定局 雇用政策課 課長
横島 直彦 農林水産省 食料産業局 食品製造課 課長
田中 一史 独立行政法人日本貿易振興機構 総括審議役
熊川 康弘 独立行政法人中小企業基盤整備機構 人材支援グループ 審議役
藤田 真也 NPO 法人キャリアコンサルティング協議会 理事長