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理念浸透は小さな取り組みから。スープストックトーキョーが実践する3ステップ

公開日

この記事でわかること

  • パーパスを浸透させる工夫とは?
  • スープストックトーキョーが取り組む3つのステップ
  • 具体的な浸透実践例
目次

“パーパスを実践する企業の挑戦 人手不足時代を乗り越える” をテーマに2日間にわたり開催されたカンファレンス「SmartHR Agenda #4」。さまざまなゲストをお招きし、「パーパス経営」「DX」についてのセッションを開催しました。

DAY1最後のセッションでは、スープストックトーキョー 店舗運営ユニット 人材開発部 部長 江澤 身和さんを迎え、「"理念のジブンゴト化"で働きがいを醸成し、人材育成につなげる」をテーマについてお話いただきました。

  • 登壇者江澤 身和氏

    株式会社スープストックトーキョー 店舗運営ユニット 人材開発部 部長

    短大卒業後、2005年にパートナーとして入社。社員登用後、複数店舗の店長を歴任。その後、法人営業グループへ異動し、冷凍スープの専門店の業態立ち上げと17店舗の新店立ち上げを牽引。2016年2月、(株)スープストックトーキョーの分社に際し、取締役兼人材開発部部長に着任。現在は人材開発部長として"人を大切にする"を基軸とした14の人事制度を展開し、本質的な採用・育成の仕組みづくりに取り組む。2018年12月、「Forbes JAPAN WOMEN AWARD 2018」において、チェンジメーカー賞を受賞。

  • ファシリテーター加藤 雅則氏

    株式会社アクション・デザイン 代表取締役 エグゼクティブ・コーチ、組織コンサルタント / IESE(イエセ)客員教授 

    経営陣に対するエグゼクティブ・コーチングを起点とした対話型組織開発を得意とする。「両利きの経営」の提唱者であるオライリー教授(スタンフォード大学経営大学院)の日本における共同研究者。訳書・著書に『コーポレート・エクスプローラー』『両利きの組織をつくる』『組織は変われるか』(英治出版)などがある。

働く一人ひとりがつくっていく「働き方開拓」

加藤さん

本日の最終セッションでは、スープストックトーキョーの江澤さんにお話いただきます。飲食の世界、ピープルビジネスにおけるオペレーションだからこそ、概念的な話ではなく、実際に「どのようにパーパス(=理念)を浸透させているか」という話をうかがえるかと思います。

江澤さん

よろしくお願いします。さっそくですが、世の中では「働き方改革」という言葉がよく使われています。しかし、弊社の人事制度においては「働き方開拓」という言葉を選んでいます。なぜかというと、リーダーが旗を振って進んでいく構図も大事ですが、働き方というのは働いている人、一人ひとりがつくっていくものだと考えているからです。

登壇中の様子

(江澤さん)

江澤さん

「働き方開拓」と銘打ったきっかけは、2016年に分社をしたタイミングでした。「自分たちの強みって何だろう?」と考えた際、もちろん、自分たちの商品は自信をもって提供していることが大前提にありますが、この会社で働いている理由は「一緒に働いている仲間や人が好きだから」という声もありました。ですが、実際に働いている人を見ると、正直「楽しそうじゃないな…」と感じ、自信をもって「人が強み」といえる状態ではありませんでした

また、弊社の企業理念として「世の中の体温をあげる」を掲げています。「世の中」というと、広く大きなことをしなければならないように思われるかもしれません。しかし、私たちが考える「世の中の体温をあげる」は、まずは「目の前にいる一緒に働いている一人ひとりの体温をあげて、お客さまにも伝わっていく」。それが伝播して誰かが他の人の体温をあげていく。そういうサイクルが生まれた結果、世の中の体温があがると思っています。

つまりは、大きく何かを変えるためには、本当に小さいところから変えていくことが重要と思い、いろいろな取り組みをスタートしました。

企業理念をジブンゴト化するための「3つのステップ」

企業理念をジブンゴト化するための「3つのステップ」説明図

江澤さん

「世の中の体温をあげる」という企業理念を、働いている一人ひとりにジブンゴトとして思ってもらうために、3つのステップを考えました。

(1)企業理念の浸透

江澤さん

まずは、企業理念を浸透させること。さらに行動指針である「5感」も大事にしています。5感とは「低投資・高感度」「誠実」「作品性」「主体性」「賞賛」で、日常的に共通言語として使っています。たとえば、何かフィードバックをする、説明をする際に、この「5感」の言葉を使いながら相手に伝えるようにしています。その中でも、とくに店舗で大事にして、文化として広がっているのが「賞賛」です。

賞賛カードについて

江澤さん

「賞賛」を企業文化にするために「賞賛カード」という取り組みがあります。名刺サイズの賞賛カード導入によって、お互いに「賞賛」を言語化・可視化するのが目的です。カードにも「5感」を記載して、「賞賛」時にも共通言語としています。

当初は、なかなか普及が進みませんでしたが、地道な継続によってチームに変化が表れてきました。そうすると真似をするチームが増えてきて、今ではたくさんのチームで、「賞賛」を送り合うことが文化になりつつあります。

(2)企業理念体現のきっかけ

江澤さん

理念をジブンゴト化するための2つ目のステップは「企業理念の体現のきっかけ」です。商品のこだわりやブランドの想いを、一緒に働く仲間やお客さまに伝え、巻き込んでいくためには表現力が必要です。そして、採用段階からその人がもっている表現力を見極めるのが大事だと考えています。

社員の採用では「表現力採用」を導入して、最終面接でその人が好きなことについてプレゼンしてもらっています。ギターをもって歌う方もいれば、ダンスをされる方もいます。家族が大好きという方は家族のプレゼンをされていました。

履歴書や面接の質疑応答だけでは見えない一面を見せてもらいつつ、想いをどうやって相手に伝えるのか? という点が採用のポイントになっています

SSTグランプリの説明図

江澤さん

ほかにも年に1回、SST(スープストックトーキョー)グランプリという成果発表会も開催しています。「世の中の体温をあげる」という企業理念を、各店舗・各自でどのように取り組んでいるか? パートナー(アルバイト)の方たちにも舞台に立ってもらい発表してもらっています。社員だけが頑張っても、お店を変えたり、お客さまの体温をあげたりすることは難しいので、パートナーの方たちをどのように巻き込むかが非常に大事です。

また、発表会を通じて共感も生まれます。共感からジブンゴト化して、どのように自分のチーム、仕事で生かせるのか、主体性をもって動いていく。チーム一丸となって、時にはチームや部署を超えて、みんなで意見を出し合って共有して、学びながら成長していくことが大切だと思っています。

(3)企業理念のジブンゴト化

江澤さん

3つ目のステップは「企業理念のジブンゴト化」です。理念がジブンゴト化できている方たちは、さまざまな改善策を自分で考え「こういうことをやってみたい」と多種多様な取り組みが各店舗で起こります

たとえば、弊社では「Soup for Cat.」という猫のためのスープを取り扱っています。これは経営方針として生まれた商品ではなくて、社内で猫を飼っているメンバーが有志で集まり、商品化にいたっています。水分補給が大変な猫のために、自分たちが日々つくっているスープで何かできないか? という想いをもって取り組んだものになります。

制度づくりは目の前の社員の声から生まれる

制度づくりの説明図

江澤さん

弊社の人事制度では、パートナー向けのもの、社員向けのもの、そしてパートナーと社員に共通するものと多様な視点で、14個の人事制度を実施しています。

ただ、いろいろな方たちが働いていて、すべての方にとって万能な制度というのはないと私は思います。その時の自分たちにおいて、「何を解決したいのか」「どのような自分たちになりたいのか」と、イメージしながら人事制度や仕組みをつくっていくのが大事だと思います。

そして、制度づくりは目の前の社員の声から生まれます。その人が考える違和感やもやもやは、他にも多くの人が思っていることかもしれない。だから、ひとりで解決できないから諦めるのではなくて、まずは声に出して相談してみる。そして、一緒に考えて環境を変えていくことで解決できるなら解決しようと、人事として伝えています。

試行錯誤や工夫がジブンゴト化に必要なプロセス

対談中の様子

(左:加藤さん、右:江澤さん)

加藤さん

江澤さん、ありがとうございました。やはりお話が具体的ですね。皆さんもご存知であるスープストックトーキョーのバックヤードでは、このような工夫がされている。従業員一人ひとりが、ブランドを体現しているのですね。

視聴者の方からさまざまな感想や質問をいただいています。一番多い「賞賛カード」についてうかがいます。「賞賛カードを実施しましたが陳腐化してしまいました。メリットが少なかったのが要因かなと思いましたが、いかがでしょうか?」。

江澤さん

おそらく、みんなでやりましょうと言っても広がらなかったかもしれません。興味をもってやりたいと思う人がいて、その人がいるチームからまず変化が起きていく。やり続けることに意味があったと、私自身も学ばせてもらいました。

加藤さん

どこまで継続できるかが重要なのですね。そして、継続の結果、変化点を迎えられる。私自身の組織開発の経験からいっても、小さいところや弱いところから新たな取り組みにチャレンジするというのは、大事なポイントだと感じています。

続いて2つ目の質問です。「賞賛カードは直接本人に提出でしょうか? それとも事務局から本人にフィードバックされるのでしょうか?」という質問です。

対談中の様子

江澤さん

賞賛カードはできるだけ本人に直接渡すことを基本としています。ただ店舗によって工夫していて、設けたボックスに1か月分の賞賛カードを集めて、店長がそれぞれのメンバーに届けている店舗もあります。このあたりはまだ全体的な仕組みにはできていなくて、各店舗でアレンジしながら工夫しながらやっています。取り組みを共有してもらい、他店舗でも取り組めるにはどういう仕組みがあったらいいか、試行錯誤している最中です。

加藤さん

その手探り感は、視聴者の方の参考になりますね。この試行錯誤や工夫が、ジブンゴト化していくために必要なプロセスだと感じました。最後に江澤さんからひと言お願いします。

江澤さん

私たちの取り組みを伝えていると、完璧に実践できている組織のように聞こえるかもしれません。ですが、先ほどのとおり、本当にすべてが試行錯誤中です。自分たちが目指している理想の形や、あるべき姿には、まだまだ追いつけていないというのが現状です。

そのため、本当にいろいろな課題に悩み、試行錯誤しながら、まずはやってみる。やり続けながら、少しずつ前進できている手応えを感じられている取り組みついて、紹介しました。引き続き私たちも、今以上に頑張っていきたいなと考えています。本日は貴重なお時間をいただき、本当にありがとうございました。

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