飲食・小売業におけるこれからの人事、働き方改革【飲食・小売業、人事カイカク #15】


こんにちは。特定社会保険労務士の羽田未希です。

働き方改革関連法が順次施行開始されてから、半年余りが経ちました。皆さんの会社での取り組み状況はいかがでしょうか?

本連載【飲食・小売業、人事カイカク】の15回目、最終回となる今回は、飲食・小売業におけるこれからの人事や働き方改革について考察したいと思います。

人手不足の状況はまだまだ続く

今、正社員やアルバイトの募集をしても応募の連絡すらないなど、なかなか解消しない人手不足の現状に苦慮している企業が少なくないようです。

有効求人倍率はやや下がりつつも、今後いっそう進む少子高齢化にともない労働力人口が減少していくことが予想されます。ひときわ有効求人倍率の高いサービス職、特に「接客・給仕」部門における人材募集の状況は、今後も厳しいと言わざるを得ません。

有効求人倍率
出典:厚生労働省「一般職業紹介状況『 職業別一般職業紹介状況[実数](常用(含パート))』」(平成27年〜平成30年分、および令和元年9月分)を参考に作成

そんな中、女性や高齢者、外国人労働者の活躍などが労働力確保のカギといわれますが、実際にはこれまで以上に柔軟で、それぞれの特性に合わせたきめ細かい雇用管理が必要になります。

従業員が働き続けたいと思える職場づくりも必須

また、現在雇用している労働者がずっと働きたいと思えるような企業努力が必須です。労働者の労働条件における意識は高まっていて、より働きやすい職場、より高い給与を求める転職活動も活発化しています。

働き方改革が叫ばれているこのご時世で、長時間労働やサービス残業など労働課題がある職場は敬遠されます。その中で、飲食・小売業はシフト制で働くことが多い業界ですが、労働時間のみならず休暇の希望などについても配慮したいところです。

さらに、人生100年時代におけるキャリア形成を見据え、自己成長につながるような教育機会を提供することで、やりがいを感じ、労働生産性高く働けるような職場環境がより一層求められるでしょう。

アルバイト採用におけるトレンド

アルバイトについては、空いた時間ができたらスマホを活用して仕事を探し、すぐに働くなど、新たな働き方が生まれています。一方で、曜日や時間が固定されるなどの柔軟性の低い働き方は需要が低下するおそれがあります。

また、気の合う仲間と一緒に働きたいという従来のアルバイトでの働き方を希望する方がいるのも確かです。たとえば、あるアルバイトの募集媒体では、職場の雰囲気が分かる動画や、雇用する前に「職場体験」「しごと体験」に応募できるなど、工夫を凝らしているものもあります。求職者と会社にとって、仕事におけるミスマッチを避ける意味でも有意義な取り組みです。

そのほか、アルバイトスタッフが友人を紹介し採用に至ったら、紹介者にインセンティブを付与する、いわゆるリファラル採用も注目されています。

人件費の上昇

令和元年度の地域別最低賃金は、全国加重平均額が901円となり、前年度の874円から27円増額されました。

東京1,013円、神奈川1,011円と、初めて1,000円を超えた都道府県もあります。

政府は、全国加重平均額で1,000円を目指しており、毎年約3%程度最低賃金が上昇することは考慮しておかなければなりません。

労働集約型産業である飲食・小売業では、多くの企業で最低賃金程度の時給設定で労働者を雇用している状況です。しかし、同地域の他の企業の賃金動向などにより、募集段階で負けないために高い時給設定をせざるを得ない場合もあり、今後ますます人件費の上昇が予想されます。

地域別最低賃金の全国一覧

これから本格化する働き方改革法への対応

2019年4月の働き方改革法順次施行開始の前後は、毎日のようにニュースなどで「働き方改革」という言葉が躍りましたが、最近は報道が少しトーンダウンしているように感じます。

しかし、実際はまだ始まったばかり。中小企業は1年遅れで施行されるものもあり、取り組みは今後より一層加速され、本格化することになります。

今一度、働き方改革法の今後の適用スケジュールを再確認しましょう。

現段階で、自社の取組みが施行日に間に合うか、確認してください。

働き方改革法への対応を進める企業の現状

働き方改革法の適用は大企業が先行していますが、取り組みをいち早く進めてきた企業では、早くも問題点も浮上してきているところもあるようです。

例えば、以下のような声があります。

  • 労働時間は少なくなったが、労働生産性が向上していない。
  • 一般社員に残業させないようにするために、管理職の負担が増している。
  • 人材育成に充てる時間が減少、または確保が難しい。
  • 労働生産性を追い求めるばかりに、新しい仕事にチャレンジする時間的な余裕がない。
  • 働くことに対する社員のモチベーションは向上するのか。
  • リモートワーク(在宅勤務)、会議の廃止などで、社員間のコミュニケーションが取りにくい。
  • 副業の容認でトータルの労働時間が増えとたき、健康管理に関して会社に問われる安全配慮義務はどうなるのか。

それ以外にも、働き方改革法の施行以前から、「時短ハラスメント」や「ステルス残業」などが社会的な課題となっていました。単なる労働時間削減に終始せず、本質的な業務改善、職場改革が求められています。

もちろん先行する企業が、必ずしも自社と同じ職場環境や状況とは限りません。しかし、特に中小企業にとっては参考となる事例ばかりですので、情報を集めて自社の取り組みに活かしたいですね。

これからの飲食・小売業の人事に求められるものとは

今後、この業界の人事に求められるものとは、優秀な人材の確保・定着のために、企業の人事戦略や人材育成方針を着実に実行していくことです。

「スタッフとして必要とされていると感じられる」、「自分の成長に合わせて難しい仕事にもチャレンジするチャンスがある」など、現場レベルで人事方針が浸透していなければなりません。

そして、正社員やアルバイトなどの雇用形態にかかわらず、企業は従業員に選ばれる魅力的な職場であり続けることが求められているのです。

働き方改革が良い例ですが、時代のニーズによる労働関係法令の改正にともない、人事労務のやり方、職場環境はどんどん変化していきます。

生産性高く業務を遂行できるよう、費用対効果を考えながら、業務効率化ツールの導入や労働環境の整備を推進するなどが必要です。例えば、属人化しやすいアナログ作業ではなく、いつでもどこでも作業ができ業務標準化に繋がる「クラウドサービス」などのITツールの活用は、オススメしたい一つの手段です。

今後も、会社は労働法および法改正を理解し、自社の施策を立案・実行していかなければなりません。各種メディアや厚生労働省のホームページ、専門家による助言・指導などから常に情報をキャッチアップし、意思決定できるようにしておきたいものです。

おわりに

飲食・小売業にとって、今後も人手不足、人件費上昇など厳しい経営環境が続くと予想されます。

そのような状況下で、働き方改革を進めていくことは決して簡単ではありません。

しかし、働き方改革は進むことはあっても、後戻りすることはありません。この業界において、従業員がイキイキと働き、そして会社が事業の成長を目指すために、自社に合った「働き方改革」を一歩一歩進めていただきたいと思います。

【参考】
※ 一般職業紹介状況「 職業別一般職業紹介状況[実数](常用(含パート))」
平成27年分
平成28年分
平成29年分
平成30年分
令和元年9月分

特定社会保険労務士 羽田未希

17年間の飲食業現場経験を持つ、異色の女性社会保険労務士として飲食業・小売業などサービス業を得意とする。パート・アルバイト活用、人材育成のコンサルティング、労使トラブルを未然に防ぐ就業規則作成、助成金申請など、中小企業の人材活用のサポートを行う。著書に『店長のための「稼ぐスタッフ」の育て方』(同文舘出版)がある。
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