カスタマーハラスメント(カスハラ)とは?クレームとの違いや対策義務化を解説
- 公開日
目次
カスタマーハラスメントは、顧客対応に携わる多くの現場で深刻化し、一般消費者を相手にする業種だけでなく、企業間取引においても発生しています。近年はSNSの普及や顧客意識の変化を背景に、従業員に強い負荷を与える行為も増えています。
企業としては「どこまでが正当なクレームで、どこからがカスハラなのか」を判断し、従業員の安全と尊厳を守れる仕組みが求められます。同時に、取引先との関係において自社の従業員が加害者側にならないよう、意識を高めることも重要です。
本記事では、カスハラの実態や具体例、クレームとの違い、義務化に向けた企業の対策をわかりやすく整理し、現場で迷わないための指針を解説します。
カスタマーハラスメント(カスハラ)とは
カスタマーハラスメントとは、顧客などが従業員や企業に対して、過剰・理不尽な言動や要求をして、就業環境を害する行為です。一般的には「カスハラ」と略して呼ばれます。
厚生労働省が企業へ実施したヒアリングにより、現場では次のような行為がカスハラに該当すると考えられています。
顧客等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、労働者の就業環境が害されるもの
また、2025年6月11日に交付された改正労働施策総合推進法では、カスハラ対策の強化が盛り込まれました。これにより企業は、職場でのカスハラを防ぎ、従業員を守るための具体的な対策を講じることが義務付けられます。施行日は、公布日から1年6か月以内とされています。
SmartHR Mag.のYouTubeチャンネルでカスハラの実態や企業対応のポイントをわかりやすく解説しているので、ぜひご覧ください。
カスハラの具体例

「カスハラとは?法改正により義務化されるカスハラ対策の内容やカスハラ加害者とならないためのポイントをご紹介 - 政府広報オンライン」をもとにSmartHRで制作
カスハラは言葉の暴力に限らず、行動や態度として現れる場合もあります。以下に代表的な具体例をまとめました。一見するとクレームに見える行為でも、度を超えた振る舞いが続くと深刻な問題に発展します。
カスハラの具体例 | 主な内容 |
1. 暴言・侮辱 |
|
2. 過度な要求 |
|
3. 暴力・脅迫 |
|
4. 執拗なクレーム |
|
5. プライバシーの侵害 |
|
6. セクシュアルハラスメント |
|
約6割が「カスハラを受けたことがある」と回答
株式会社エス・ピー・ネットワークが2023年に実施した「カスタマーハラスメント実態調査(2023年)」では、直近1年間でカスハラを受けたことがある担当者は64.5%に上ります。

また、2025年の都民意識調査でも、「カスハラの被害に遭った、または見聞きしたことがある」と回答した人は59.6%でした。複数の調査結果からも、カスハラが多くの人にとって身近な問題であることがわかります。
一方で、法人顧客とのやりとりに限ると、「カスハラを受けたことがない」と回答した人は50.8%にとどまりました(「カスタマーハラスメント実態調査(2023年)」)。一般的にカスハラは個人から受けるイメージが強い傾向にありますが、約半数が法人顧客からカスハラを受けた経験があることになります。法人顧客からのカスハラでとくに多かった内容は次の3つです。
- 値引きの強要(16.5%)
- サービスの強要(15.5%)
- 威圧的な言動(15.2%)
こうしたデータからわかるのは、カスハラは一般消費者からだけでなく、企業間取引においても発生しているという事実です。どの企業も「被害を受ける側」になり得ると同時に、「加害者側になってしまう」リスクも抱えています。取引先への過度な要求や威圧的なコミュニケーションが、相手企業の従業員を傷つけている可能性があることを、組織全体で認識する必要があります。
カスハラが増加している背景
カスハラは接客業だけでなく、金融、商社、医療、教育など幅広い分野で発生頻度が高まり、社会問題として注目されています。こうした増加の背景には、社会構造の変化や人々の意識の移り変わりが大きく関係しています。
顧客心理の変化
将来不安や格差拡大により社会全体のストレスが加速度的に増し、発散できない不満の矛先として、マニュアルや立場上反論できないサービス業従事者が標的にされやすくなっています。日本の「おもてなし」文化も、一部の顧客が「金銭を払う側の優位性」を過度に主張する根拠として利用されている実態です。
顧客の権利意識の高まり
消費者保護の考え方が広がったことで、顧客の権利意識が高まっていることも背景のひとつです。本来は適正な権利行使が目的ですが、解釈が過度になり、必要以上の主張へと変化する場合もあります。その結果、要望が受け入れられなかった際に感情的になり、強い言葉や威圧的な態度をとるなど、カスハラにつながる行動を起こしやすくなります。
インターネットとSNSの普及
SNSや口コミサイトの普及により、個人の意見が簡単に発信できる時代になりました。無理な要求を通すために、SNSの影響力を武器にする顧客もいます。
たとえば、「悪い評価を書いてやる」「拡散する」などの言葉を交渉材料に、強い要求を迫るケースもあります。企業側が不安を抱える環境が生まれ、過度な譲歩につながることも少なくありません。こうした状況が積み重なることで、さらなるカスハラを招く悪循環が生じています。
カスハラと正当なクレームの違い

カスハラが社会問題として注目される一方で、寄せられる意見や苦情のすべてがカスハラに当たるわけではありません。正当なクレームはサービス改善につながる大切な意見であり、企業活動において真摯に受け止めるべきものです。
正当なクレームとは、商品やサービスに対する不具合や改善を求める申し出のことを指します。「商品が壊れていた」「対応が遅かった」「説明と内容が異なっていた」などの指摘が代表的な例です。
カスハラと正当なクレームを見分けるポイント
顧客の言動がカスハラに該当するかどうかを判断するには、2つの視点が重要です。
- 要求内容に妥当性があるか
- 要求の伝え方が常識的か
これらを踏まえたうえで、自社の業務にあわせた判断基準を整備すると対応が統一されやすくなります。
要求内容に妥当性があるか
まずは、顧客の主張が事実にもとづいているか、合理的な根拠があるかを確認しましょう。正当な理由がある場合は、クレームとして真摯に受け止め、適切に対応する必要があります。
一方、根拠が曖昧で感情的な言葉だけが並ぶ場合、問題行為へ発展する可能性があります。要求が社会通念上、妥当と考えられる範囲であるかの視点も欠かせません。
要求の伝え方が常識的か
要求の内容が正当でも、伝え方が社会的常識から外れている場合はカスハラに該当する可能性があります。大声での罵倒や人格を否定する発言が続く場合、問題解決ではなく攻撃を目的とした行為と見なされます。
以下のような言動がある場合は、カスハラにあたる可能性が高いでしょう。
- 言動が暴力的・威圧的・侮辱的である
- 長時間にわたって拘束・強要している
- 同じ内容を何度も繰り返し主張している
- 性的・差別的な発言をしている
判断に迷った際は、「話し合いとして成立している状況か」という観点で捉えると整理しやすくなります。
企業がカスハラを放置した場合のリスク
カスハラへの対応を後回しにすると、企業にはさまざまな面で深刻な影響が及びます。従業員の安全や信頼を守れない体制は、結果として経営上の損失につながる可能性があります。
ここでは、カスハラを放置した場合に想定される主なリスクを解説します。
安全配慮義務違反による損害賠償
企業には、従業員が安心して働ける環境を整える責任があります。カスハラへの対応を怠ると、安全配慮義務違反として法的責任を問われる可能性があるため注意が必要です。
たとえば、保護者からの理不尽な言動を受け続けた教職員が、管理監督者である校長に損害賠償を請求し、認められた事例があります。一方で顧客トラブルに組織的に対応していた企業で、賠償責任が否定されたケースもありました。
こうした事例からも、日ごろからのカスハラ対策がいかに重要かがわかります。
企業のイメージダウン
カスハラが放置され、従業員を守れない体制が外部に伝わると、「従業員を大切にしない会社」と見なされるおそれがあります。報道やSNSによって情報が拡散されれば、ブランド価値の低下にもつながりかねません。
一度失った信頼を取り戻すには時間がかかるため、採用活動や取引先との関係にも影響が及ぶ可能性があります。
従業員の精神疾患や離職のリスク
カスハラを受けた従業員が心身の不調を抱え、休職や離職をせざるを得ない状況になることもあります。継続的なカスハラは強いストレスを生み、被害を受けた本人だけでなく周囲の従業員のメンタルにも影響します。
職場の雰囲気が悪化すれば、周りの社員の働く意欲も低下し、生産性の低下や人材流出につながる恐れがあります。結果として、組織全体の安定性にも影響が及びます。
サービスの質の低下や顧客離れのリスク
カスハラを放置すると、サービスの質が低下し、顧客離れにつながる可能性もあります。
カスハラへの対応に時間がとられることで、ほかの顧客への対応が遅れたり、質が低下したりする場合があります。待ち時間の増加やサービス満足度の低下が続くと、結果として顧客離れが進んでしまう恐れもあるでしょう。
カスハラ対策の義務化
2025年6月に成立した改正労働施策総合推進法では、カスハラへの対応が企業の義務として明確に位置づけられました。顧客や取引先による不当な言動から従業員を守るため、企業は雇用管理上の具体的な措置を講じる必要があります。
施行日は公布日から1年6か月以内とされており、早ければ2026年10月ごろからの適用が見込まれています。対象は業種や企業規模を問わず、事業を営むすべての事業主です。
従来は努力義務に近い扱いでしたが、改正によって法的責任へ格上げされました。これまではカスハラへの対応が企業ごとの判断に委ねられていたため、対応が後回しになり、働く人の心理的負担が放置されるケースもありました。
こうした背景を踏まえ、今回の改正では、企業が組織として適切な対策体制を整えることが義務化されています。また、被害を通報した従業員に不利益な扱いをしてはならないことや、ほかの事業者との連携努力についても規定されています。
企業が講じるべきカスハラ対策
カスハラに適切に対応し、従業員の安心・安全を守るためには、事前準備が欠かせません。また、対策を講じる際には「自社の従業員が取引先や顧客に対してカスハラ行為をしない」という視点ももつことが大切です。ここでは、組織が講じるべき主な対策を紹介します。
- 基本方針の策定と社内への周知をする
- 対応方法・手順を明文化する
- 相談窓口を設置する
- 社内研修で従業員を教育する
1. 基本方針の策定と社内への周知をする
経営層がカスハラに対する姿勢を明確に示し、従業員を守る意思を示すことが大切です。許容しない顧客の行為を明文化することで、現場の迷いを減らし、一貫した判断ができるようになります。
策定した方針は文書化したうえで、朝礼・会議・研修などさまざまな機会を通じて繰り返し、社内全体へ共有しましょう。何度も触れることで、従業員の意識に根づきやすくなります。
2. 対応方法・手順を明文化する
被害が発生した際に迷わず対応できるよう、対応手順を事前に整理しておくことが大切です。現場担当者の判断に任せるだけでは対応にばらつきが出てしまい、状況が悪化する恐れがあります。
「誰が・いつ・どのように対応するか」「上司への報告ルート」「引き継ぎ方法」などを文書にまとめておくことで、従業員の心理的負担を軽減し、一貫した対応ができるようになります。
3. 相談窓口を設置する
従業員が安心して相談できる窓口を設けることで、被害の抱え込みを防げます。人事部門や総務部が窓口を担当するか、必要に応じて外部機関を相談先として設置する方法もあります。
相談内容に応じて適切に判断できるよう、担当者には十分な知識が必要です。気軽に相談できる環境をつくるため、匿名相談の導入も検討するとよいでしょう。
4. 社内研修で従業員を教育する
社内研修による従業員の教育も重要です。これにより、カスハラと正当なクレームの違いを理解し、冷静に対応できる力を身につけることができるでしょう。
同時に、取引先や顧客とのやりとりにおいて、自社の従業員が加害者にならないための教育も欠かせません。「過度な値引き要求をしていないか」「威圧的な言動をとっていないか」など、日常的なコミュニケーションを見直す機会を設けることで、健全なビジネス関係の構築につながります。
カスハラが起こった場合の対応手順
職場でカスハラが発生した際は、あらかじめ定めた行動指針に従い、落ち着いて対応することが重要です。ここでは実際にカスハラが起こった場合の主な対応手順を紹介します。

1. 客観的に事実確認をする
カスハラの報告を受けた際は、感情的にならず、客観的な視点で事実確認を進めます。顧客の主張と従業員の説明を照らし合わせ、記録や証言などの根拠をもとに判断しましょう。
商品に不備がある場合は誠意をもって対応し、問題が確認できない場合は不当な要求に応じない姿勢が必要です。
2. 記録担当を設置して複数名で対応する
ひとりで対応するのではなく、担当者・上司・別スタッフなど複数名で対応する体制を整えましょう。並行して記録担当を決め、発言内容・時間・態度などを詳細に残しましょう。記録は後の判断や法的対応において重要な証拠になります。
3. 被害を受けた従業員をフォローする
被害を受けた従業員のメンタルケアも欠かせません。必要に応じて、専門家への相談や面談の機会を設けることも検討しましょう。
また、フォローする側の心身の負担を減らすためにも、複数名での対応体制を構築し、ひとりの従業員に責任が集中しないようにすることが重要です。
4. 法務担当と連携する
トラブルが深刻化しそうな場合は、早い段階で法務担当へ共有します。不当な要求に安易に応じると、同様の行為が繰り返される恐れがあります。
たとえば、顧客から書類への署名や捺印を求められても、即答せず、必ず専門組織を通じて確認をしましょう。不当な要求は適切に拒否する姿勢が求められます。
5. 必要に応じて警察へ連携する
暴力や器物損壊、脅迫行為などが発生した場合は、速やかに警察へ通報します。記録を整理して、すぐに状況説明ができる状態を整えておくとスムーズです。
従業員の安全確保を最優先とし、無理な顧客対応は避けましょう。
6. 民事訴訟をする
刑事事件として扱われない場合でも、民事訴訟として裁判所に訴えることが可能です。名誉毀損や業務妨害に当たると判断されれば、損害賠償が認められることもあります。
被害の程度や影響の大きさを整理し、必要に応じて弁護士への相談を検討しましょう。
7. 再発防止に取り組む
発生したカスハラの事例を振り返り、対策の見直しや改善を図ります。経緯を共有し、組織として事例と対策を蓄積することで、同様の被害を抑止できます。
継続的な改善の仕組みをつくることが、再発防止につながるでしょう。
従業員を守るには毅然とした対応が重要
カスハラ対策は、働く従業員を守るための重要な取り組みです。このように働くうえでの障壁を取り除くことは、その人らしく働ける環境の構築につながります。
SmartHRが掲げる「well-working」は、まさにその考え方を支える概念です。カスハラ対策を整備し従業員の心身を守ることは、「その人らしく働ける状態」を組織として後押しするきっかけになります。
本記事が、カスハラ対策の重要性を見つめ直し、自社の取り組みを改善するヒントとなれば幸いです。








