「算定基礎届」の基礎知識。進め方と記入時の注意点を社労士が解説
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こんにちは。特定社会保険労務士の榊 裕葵です。
今年も「算定基礎届」のシーズンが近づいてきました。
本稿では、「算定基礎届」について、事業主様や人事・労務担当者様が知っておいたほうが良いことや、社会保険労務士に依頼する場合のポイントなどを解説させていただきます。
社会保険の「算定基礎届」の概要
まず、「算定基礎届」とは何かということですが、大前提としては社会保険(=健康保険+厚生年金)が適用されている事業所で対応が必要になる届書です。
社会保険が適用されている事業所では、新入社員が入社すると、社会保険の資格取得届に入社時の賃金を記入して、年金事務所に書類を提出していると思います。天引きされる社会保険料(会社も福利厚生費として同額を負担)も、この資格取得届に記入された入社時の賃金に基づいて決定されることが原則です。
しかしながら、社会保険料は、入社後から退職時までずっと同じというわけではありません。新入社員も入社して経験を積めば基本給が上がったり、手当がついたり、残業をしたら時間外手当も支払われます。人事評価の結果等によっては基本給が下がる場合もあるかもしれません。
支払われる賃金の額が入社時から上がったり下がったりするのに、社会保険料の額は入社時からずっと同じ、ということではバランスが取れません。
そこで、社会保険では、毎年7月1日から7月10日までの間に、一部の例外を除いて、その年の4月、5月、6月に社会保険に加入している全社員の賃金を年金事務所に指定の書式で報告させ、これに基づき、その年の9月から適用される新たな社会保険料を決定しているのです。
そして、この社会保険料の毎年の見直しのための材料として使われる報告書式こそが、「算定基礎届」です。
なお、年の途中で一定の限度を超える大幅な賃金の変動等があった場合には、算定基礎届を待たず、臨時に社会保険料の改定が行われる場合もあり、この場合には「月額変更届」という書式を提出します。月額変更届については本稿ではこれ以上触れませんが、このような仕組みもあるということを覚えておいてください。
「算定基礎届」の提出の全体の流れ
算定基礎届を提出する際の具体的な流れは次のとおりです。(電子申請ではなく、紙で提出する場合の流れ)
【1】社会保険に加入している社員の4月、5月、6月支払分の給与情報を用意しておく
【2】年金事務所から封筒(おそらく茶色)が届くので、届いたら下記(1)〜(3)が入っているか中身を確認する
(1)算定基礎届 (賃金情報などを記入する算定基礎届の本紙)
(2)算定基礎届総括表 (給与の締日・支払日、支払われている手当の種類など、主に会社の情報を記入する付属用紙)
(3)算定基礎届総括表附表 (社会保険に未加入のアルバイト、非常勤役員、業務委託者の情報などを記入する付属用紙)
【3】上記(1)〜(3)の書類を記入する
【4】記入が終わったら、会社の代表印などを押印のうえ、(1)〜(3)を年金事務所(都道府県によっては事務センター)へ原則として郵送で提出する。
【5】「調査」に当たっている会社については、郵送ではなく、年金事務所に出向いて、年金事務所の調査官に(1)〜(3)を手渡しで提出する。
(提出の際には、賃金台帳、出勤簿、源泉所得税の納付書、雇用契約書なども提示して、調査官の調査を受ける形になる)
このように算定基礎届の作成には、多くの工数が必要となります。この機に、労務業務の効率化を図ってはいかがでしょうか?
効率化のポイントを以下の資料にまとめたので、ぜひご活用ください。
社労士に「算定基礎届」の対応依頼をする場合の役割分担やメリット
算定基礎届の提出を社会保険労務士に依頼した場合、上記の【1】〜【5】の各プロセスで会社がどれくらい楽になるのかということや、付加的なメリットについて説明をしたいと思います。
【1】の給与情報を用意することに関しては、会社の内部資料ですので、依頼する場合、しない場合、大きな違いは無いと思います。
【2】については、届いた封筒をそのまま社会保険労務士に転送すればよいので、確認の手間が省けると思います。
【3】の記入プロセスが、社会保険労務士に依頼することの大きなメリットのひとつです。(1)の算定基礎届は、4月、5月、6月分の賃金を記入するだけといっても、実際に記入してみると、育児休業中の人はどうするのかとか、さかのぼり昇給があった人はどうするのかとか、6月に入社したばかりの人はどうするのかなど、様々な悩みごとが出てきて、1つ1つ調べながら記入していると、丸1日かかってしまうことも珍しくありません。(2)、(3)の書類も同様に、経験がなければ「どのように書けばよいのか」迷ってしまいがちな記入欄が散見されます。
社会保険労務士に依頼すれば、事業主や人事担当者は調べながら四苦八苦して算定基礎届を作成する手間から解放され、基本的には社会保険労務士がすべて書類を作成しますので、社会保険労務士から質問があった事項についてだけ補足説明をすれば良く、大幅に時間を節約できるでしょう。
【4】についても、社会保険労務士に依頼をした場合は、受任した社会保険労務士が署名押印をしますので、提出した書類に対して年金事務所から質問がある場合は、担当した社会保険労務士が窓口になります。したがって、提出後の年金事務所からの質問や指摘に対しても、社会保険労務士がワンクッション入って対応してくれるというメリットがあります。
【5】についても、社会保険労務士に依頼をすることのメリットが大きいプロセスです。年金事務所の調査を社会保険労務士が代行したり、事業主に同行したりすることで、事業主の不安やストレスは大きく低減されると思います。
また、年金事務所の調査を受ける前に、社会保険労務士が指摘を受けそうな事項に対して事前に改善をしたり、対策を提案したりしてくれます。
たとえば、パート社員の社会保険加入が漏れていて、そのまま調査を受けていたら2年さかのぼって社会保険に加入しなければならなかったところを、社会保険労務士が気が付いて、事前に社会保険加入手続をしてくれたので、将来に向かって正しく加入することで年金事務所の理解を得ることができた、というようなことが一例になるでしょう。
まとめ
「算定基礎届」の作成や提出は、時間をかければ事業主自身や人事担当者でも対応できないということはないと思います。
しかしながら、事業主の貴重な時間を費やしたり、人事担当者が残業をしてまで算定基礎届に取り組むくらいならば、社会保険労務士にアウトソーシングしてしまうのも手なのではないでしょうか。
算定基礎届の提出時に「調査」を受けなければならない事業主にとっては、年金事務所から指摘をされるような箇所がないか、調査本番の前に社会保険労務士の事前チェックを受けられるのは、事業のリスク管理という点においても大きな意味があると思います。