2026年1月の人事労務タスク|労基法改正案提出見送りと協会けんぽ電子化を社労士が解説
- 公開日
目次
あけましておめでとうございます。社会保険労務士法人名南経営の大津です。年末年始はいかがお過ごしでしたでしょうか?
年が明けて話題になるのが、今年の賃上げです。まもなく春闘(春季生活闘争)も始まりますが、昨年秋にあった過去最大の最低賃金引き上げや、さまざまな労働組合の要求内容などを見ると、今年も昨年に近い大幅賃上げの可能性が高くなってきました。ここ数年のベースアップによって賃金カーブのフラット化など、新たな課題が生じている企業も多いので、今年はとくに賃金制度改革が進む1年になると予想しています。
さて、本連載は新年を迎えたことから、読者のみなさまの「実務課題解決」により役立てるようリニューアルしました。毎月対応が求められるタスクをチェックリスト形式で解説していきますので、2026年もどうぞよろしくお願いいたします。
1月のHRチェックリスト
1月のHRチェックリストでは新たに始まる「協会けんぽの電子申請サービスへの対応」について取り上げます。

協会けんぽの電子サービスへの対応(対応目安:1月中旬)
協会けんぽでは、これまで紙の申請書によって運用されている各種手続きを、自宅や職場のパソコン、スマートフォンから申請できる「電子申請サービス」を2026年1月13日から開始します。企業によってはこれまでの対応フローの見直しが求められますので、以下では本サービスの概要を紹介します。
(1)利用できる人

協会けんぽに加入している「被保険者」、および社会保険労務士が利用可能で、被保険者が申請する際は、マイナンバーカードを用いて認証できます。
一方、事業主はこの電子申請サービスを利用できず、代理人にもなれないことから、これまで企業経由で申請書等を提出していた場合は、電子サービスを利用する際のフロー明確化、従業員への周知が求められます。
(2)利用できる手続き
健康保険の各種手続きが対象となりますが、比較的申請頻度が高い主要な手続きとしては以下のとおりです。
- 傷病手当金支給申請書
- 出産手当金支給申請書
- 埋葬料(費)支給申請書
- 年間の高額療養費支給申請書
- 任意継続被保険者 資格取得申出書
- 任意継続被保険者 資格喪失申出書
- 任意継続被保険者 被扶養者(異動)届 など
そのほか、対象申請書は以下より確認できます。
(3)求められる具体的なタスク
電子サービスの対応フローを検討し、従業員に周知することが求められます。
たとえば、事業主や医師の証明が必要な手続きでは、従業員自身が企業発行の証明書を撮影し、画像データとしてアップロードする必要があります。従業員がスムーズに申請できるよう、証明書の発行方法や撮影時の注意点を事前に案内しておくとよいでしょう。

そのほか詳細な申請手順は、協会けんぽホームページの「電子申請サービス操作ガイド」やFAQなどを確認のうえ、対応フローを検討しましょう。
(4)対応期限
サービス開始となる2026年1月13日ごろまでに、従業員への案内方法を決めておくとよいでしょう。
従業員が直接申請し、従来の従業員・企業間の書類のやりとりが減ることで、速やかな受給につながるかもしれません。こうしたメリットを早期に享受するためにも、早めの周知と新フロー移行が重要です。
1月の重要トピック
毎年1月は、人事労務担当者にとって比較的落ち着いた月なのではないでしょうか。こうしたときこそ、「重要度高・緊急度低」の業務を進める好機となります。未来に向けた投資として取り組んでいきましょう。
トピック1 健康保険被扶養者の年収要件見直し(重要度★★★★☆)
健康保険では、一定の要件を満たした従業員(被保険者)の家族を、被扶養者として認定できます。被扶養者の要件には年間収入の基準があり、原則として以下の2つを満たす必要があります。
- 認定対象者の年間収入が130万円未満(※)であること
- 被保険者の年間収入の2分の1未満であること
※認定対象者が60歳以上または一定の障害者の場合は180万円未満、19歳以上23歳未満(配偶者を除く)の場合は150万円未満
2026年4月以降の判定では、収入の判定基準が変わります。これまでは、過去の収入や将来の収入見込みをもとに判断していましたが、今後は労働契約で定められた賃金から見込まれる年間収入(ほかの収入が見込まれない場合)で判定されます。
申請時には、労働条件通知書などの書類を添付し「認定対象者が給与収入のみである」旨を申し立てることで、健康保険組合が確認・認定します。労働条件に変更があった場合は、変更の都度、変更後の労働条件がわかる書面の提出が必要です。
この内容はすでに通達(令和7年10月1日、保保発1001第3号、年管管発1001第3号)されており、「労働契約内容による年間収入が基準額未満である場合の被扶養者の認定における年間収入の取扱いに係るQ&A」でも公開されています。適用は4月以降になりますが、被扶養者の手続き実務に影響する内容となりますので、Q&Aなどを確認し、早めに対応を進めておきましょう。
トピック2 企業の賞与月給化の動き(重要度:★★★☆☆)
近年、30万円を超える高水準の初任給を設定する企業が増えていますが、待遇情報を詳細にみると、賞与や退職金を廃止・減額し、その原資を月給化している例が一定数あります。有名事例としては以下のとおりです。
■主な賞与の月給化事例
(1)ソニーグループ
2025年から冬季賞与を廃止し、その原資を月額賃金と夏季賞与に振り分け、月額賃金が最大14%増加(2025年度大卒初任給:323,000円)
(2)大和ハウス工業
2025年4月から賞与を平均1.2か月分引き下げ、月額賃金に振り分けるなどし、初任給を10万円引き上げ(2025年度大卒初任給:350,000円)
多くの企業では「賞与の支給水準を維持したうえで初任給25万円の企業と、賞与の一部を月給化して初任給30万円の企業、どちらが人材獲得競争において有利なのか」という議論が交わされています。とくに近年の物価高騰による月給額への関心の高まりや、最低賃金大幅引き上げを背景とした最賃割れ対策としても有効なため、賞与の月給化がさらに進められる傾向になっています。
実際、賞与の月給化について、従業員・求職者はどのように考えているのでしょうか?パーソル総合研究所の「賃上げと就業意識に関する定量調査」をみると、20代・30代は肯定、40代以上は否定が多いという結果になっています。

(1)賞与の月給化意向
- 全体 肯定26.5% 否定28.1%
- 20代 肯定32.0% 否定28.5%
- 30代 肯定29.5% 否定25.6%
- 40代 肯定24.7% 否定29.8%
- 50代 肯定21.8% 否定28.2%
- 60代 肯定25.4% 否定28.2%
(2)退職金の月給化意向
- 全体 肯定25.2% 否定30.6%
- 20代 肯定33.2% 否定26.4%
- 30代 肯定27.7% 否定27.2%
- 40代 肯定24.7% 否定32.2%
- 50代 肯定18.6% 否定33.7%
- 60代 肯定19.7% 否定38.0%
近年の人材採用の難化および大幅賃上げにより、今後もいっそう、人事制度は大きな変化の時代となっていくことでしょう。
トピック3 労働基準法改正案提出の見送り(重要度:★★★☆☆)
労働基準法の「40年振りの大改革」は今、大きな転換点を迎えています。
2025年12月23日、政府の方針として「2026年の通常国会への改正案提出を見送る」との報道が駆け巡りました。
背景には、政府内で「労働時間規制のさらなる緩和」を求める声が強まり、労働者保護の強化を軸に進めてきたこれまでの議論を一旦立ち止まって再検討する動きがあるようです。SNSなどでは「法改正は決定事項」かのように語られることも多いですが、法案提出の時期すら不透明になったのが実情です。今は改正内容が「白紙」になったわけではなく、労働時間ルールの柔軟化を含むさまざまな論点について再調整に入った局面です。今後の審議会で示される新たな方向性を冷静に見極めることが重要です。
さいごに:人事の重要性が高まる2026年
少子高齢化による労働力人口の減少により、いまやヒトはもっとも希少な経営資源となっています。そのため、社内でヒトの問題を扱う人事のみなさんの重要性は年々高まっています。今年は年金制度改革やカスハラ等ハラスメント防止対策の実施などの法改正対応を進めるとともに、賃上げなど効果的な人材の採用・定着についての対策が重要な1年になります。
しばらくは寒い日々が続きますので、健康には留意しながらも、着実に業務を進めるようにしましょう。






