社労士が解説!HRニュース2021年11月振り返りと12月のポイント(雇用調整助成金特例措置の縮小、偽装請負、直接雇用初認定など)
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いよいよ年末の繁忙期に本格的に突入しました。
人事労務担当者の皆さまは忙しい日々を送っていると思います。年末調整などの通常業務と、新型コロナウイルス対応、今年含め、ここ数年は一段と忙しい年末年始の繁忙期になっているかもしれません。
本格的に寒くなってきましたので、体調にもぜひ気を付けてください。
2021年11月のトピックの振り返り
(1)雇用調整助成金特例措置の縮小
まだまだ油断はできませんが、新型コロナウイルスの感染者が急減したことは明るいニュースです。
その一方で、人事労務担当者が注視しておかなければならないのは、雇用調整助成金の特例措置の段階的な縮小です。
現時点で明らかになっている情報では、現在は休業した従業員1人・1日あたりの支給額上限が13,500円とされているところ、2022年1月と2月は11,000円、3月は9,000円に引き下げるということです。
ただし、感染が拡大している地域や、業績が大幅に悪化している企業に対する特例(従業員1人・1日あたりの支給額上限が15,000円)は3月まで維持される見通しです。
また、雇用調整助成金の支給審査も厳格化される予定です。
来年1月から、これまで初回申請時だけだった業績悪化の証明書類の提出が、2回目以降の申請時にも必要になる見通しです。業績回復等により、要件を満たさなくなった企業が給付を受けていないかチェックが行われます。
(2)偽装請負、直接雇用初認定
2015年の労働者派遣法の改正において、派遣先企業が違法行為をした場合、その違法行為の対象となった労働者が、派遣先企業に直接労働契約を申し込んだとみなす旨が規定されました。
この規程による直接雇用化が実際に行われたことは、これまでありませんでしたが、2021年11月4日、大阪地方裁判所において、大手企業の業務を請け負っていた下請企業の従業員5名について、派遣法違反の偽装請負に当たるとして、当該5名と大手企業の間に雇用契約が成立したことを認める旨の判決が下されました。
まだ高裁での判決ですので、最高裁に上告があった場合、結論が変わる可能性はあります。
しかし、偽装請負(=請負契約にもかかわらず、本人を指揮命令する)を行うなど、派遣法違反を行った場合には、法的には直接雇用の義務が生じる場合があることを再確認させられた重要な判決であると理解し、派遣労働者を受け入れている企業は、実務運用上、派遣法に違反するような事象が生じていないか、この機に、現場の状況を再確認してみてはいかがでしょうか。
(3)経団連「テレワーク見直し」提言
2021年11月8日、経団連は、政府が新型コロナの感染拡大を防ぐための対策として掲げてきた、テレワーク等による「出勤者数の7割削減」について、「科学的な知見」を踏まえ、なくしていく方向で見直すべきだとする提言を出しました。
ただ、誤解してならないのは、経団連の提言を読み解くと、経団連もテレワーク自体を否定しているのではなく、「出勤者数の7割削減」といったようなステレオタイプ的な旗印をやめましょう、ということです。
筆者も同感で、「政府が呼びかけたからテレワークをする」ということではなく、各企業が主体的に今後の労務管理において、テレワークをどのように位置づけるべきか、考えていかなければならない時期に来ているのだと思います。
新型コロナウイルスが猛威を振るっていたころは、感染拡大防止が第一ですから、「多少無理してでも、テレワークでできることはすべてテレワークで行う」というのが正解であったと思います。
しかし、社員が顔をあわせたほうがよい業務もあるはずですので、どのような場合にテレワークを行い、どのような場合に出社をしてもらうのかというような社内のルール整備が必要になってくるでしょう。
結局のところ、「テレワークをするorしない」自体が論点なのではなく、真の論点は、「自社の生産性を最大化するために、テレワークをどのように位置づけるべきか」を各企業が自社のビジネスモデルにあわせて突き詰めることではないでしょうか。
2021年12月のトピック
(1)年末調整の情報収集と計算
12月のトピックの中心になるのは、やはり年末調整です。
多くの会社さまでは、すでにクラウドソフトから入力依頼メールを送信したり、紙の申告書を配布したりして、各従業員への入力依頼はしていただいていると思います。
そして、11月末や、12月上旬を年末調整情報の提出期限に設定していると思いますので、目下は提出状況のチェックや未提出者への督促を行っているという段階ではないでしょうか。
筆者は、年末調整の「肝(キモ)」は、「従業員からの情報収集」と「収集した情報の入力」をいかにスムーズに行うかだと思っています。
なんらかの給与計算ソフトを導入していれば、扶養家族が何人いるとか、どのような保険に加入していくら保険料を支払ったのかとか、従業員から回収した申告書に基づいて、年末調整の前提条件となる情報を入力していけば、年末調整の結果としての所得税の還付額(または徴収額)は自動で計算できます。
ですから、年末調整が大変なのは、決して「計算」が大変というわけではないのです。
申告書への記入方法がわからない従業員からの質問対応、従業員が作成した申告書のミスの訂正、未提出者への督促、回収した申告書の情報を給与計算ソフトへデータ転記、といった、年末調整の計算をスタートさせるまでの前段階までが、人事労務担当者にとって、まさに年末調整で最もヘビーなタスクなのです。
この点、SmartHRなどのクラウドソフトで年末調整を実施している企業は、紙で実施していた時代と比較して、どれほど人事労務担当者が楽になったかを実感していると思います。
従業員にとってわかりやすいUI(ユーザーインターフェース)は、人事労務担当者への質問を激減させ、人事労務担当者は年末調整情報の未提出者の把握や督促依頼も容易に実施できます。また、年末情報をクラウド上で「データ」として回収しますので、給与計算ソフトへのデータ連携も、APIやcsvを経由すれば一瞬ですので、手作業で1つずつ転記する場合のように、人事労務担当者の時間や工数を奪うこともありません。
今年、年末調整が大変だったと感じた企業の方は、来年の年末調整をクラウドソフトで行うことを、ぜひとも積極的に検討してみてください。
(2)冬季賞与の支給
多くの企業で12月には冬季賞与が支給されると思います。
賞与にも社会保険料や所得税はかかってきますので、これらを控除した手取額の計算が必要になります。また、12月賞与も年末調整の給与所得に含まれますので、加算を忘れないように気を付けてください。
社会保険加入者に賞与を支払った場合は、日本年金機構(健保組合加入の場合は健保組合にも)へ賞与支払届の提出が必要となります。
賞与を支払わなかった場合には、従来は何も提出する必要が無かったのですが、今年4月からの法改正で、「賞与不支給届」の提出が必要となっていますので、提出漏れが無いようにご留意ください。
なお、「賞与不支給届」は、毎年決められた時期に定期賞与を支払っている会社が、業績などを理由として賞与を支払わなかった場合に提出が必要となるものであり、もともと賞与支払いが無い会社や、支払いが不定期の会社にまで提出が求められるものではありません。
(3)年末年始の挨拶回り、賀詞交歓会
昨年までは、年末年始の挨拶回りや賀詞交換会の開催等は、深刻なコロナ禍の中、「中止」というのが既定路線でした。
今年は、目下、新型コロナウイルスの感染者が激減しており、このような年末年始のイベントを、どの程度積極的に行うかについて、さじ加減が難しい状況ではないかと思います。
従業員に個別判断を求めるのではなく、会社としての方針を示すべきでしょう。
自社がイベント主催や顧客訪問する場合のルールを定めるのはもちろんのこと、顧客や取引先から招待を受ける場合のルールについても明確にしておくべきです。
会社として年末のイベントに寛容的な姿勢を取る場合であっても、新型コロナウイルスに対する考え方は人それぞれですし、持病や体質等によりワクチン接種できない人や、高齢者と同居している人もいますので、イベントへの参加を個々人に強制するようなスタンスは望ましくありません。
人事労務担当者としては、この点を社内ルールで明確にするとともに、各部署の現場レベルで問題が生じないように注視をしたり、相談窓口を設置するといった対応も考えられるでしょう。
人事・労務ホットな小話
12月は人事労務担当者にとって繁忙期ですが、筆者の肌感覚として、クラウドソフトの活用などを通じて、ほとんど残業をせずに繁忙期を乗り越え、落ち着いて年末年始を迎えることができている企業も増えてきていると実感します。
年末調整をクラウドソフトで行うことが大きなインパクトをもたらすことはもちろん、月例の給与計算や賞与計算もクラウド勤怠管理ソフトや給与計算ソフトを運用することで、工数は激減します。
また、12月末での退職や、1月1日付での入社など、年の変わり目ということで入社・退職も集中しがちな時期ですが、こちらもSmartHRなどのクラウドソフトを用いれば、情報収集から電子申請まで、最小限の工数で進めることが可能です。
また、クラウドソフトの活用が進んでいる会社では、ビジネスチャット、ウェブ会議、クラウドストレージなど、クラウド上でのビジネスを支える社内インフラも整備がされています。
やはり、年末年始やクリスマスは、家族や恋人など、大切な人との時間を過ごしたいものです。
「人事労務担当者だから年末年始は忙しくて仕方がない」というステレオタイプにとらわれず、この繁忙期を残業や休日出勤無しで乗り切れるようにパラダイムシフトを図っていきたいものです。
まとめ
新型コロナウイルス感染者の減少は明るいニュースです。しかしながら、人事労務担当者にとっては、アフターコロナに向けた新しい働き方を本格的に考えていかなければならない時期になりました。
足元では年末調整などの定例実務が忙しい状況ではありますが、中長期も見据え、自社に合った新しい働き方をぜひ見つけていってほしいと思います。