社労士が解説! 今月のHRニュース 2020年4月編(雇用調整助成金/テレワーク助成金/働き方改革関連法など)
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こんにちは。特定社会保険労務士の榊です。
新型新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染者数は増加の一途をたどっており、4月7日に7都道府県に発令された緊急事態宣言が4月16日には全国に拡大されるなど、事態は一層深刻になっています。
今回は、新型コロナウイルス感染症に関連した労務情報をご提供するとともに、このような時勢だからこそ手薄になりがちな、それ以外の人事労務トピックスについても触れていきたいと思います。
※本稿に掲載されている情報は2020年4月27日時点での情報ですので、変更されている可能性があります。
2020年4月のトピックの振り返り
(1)働き方改革関連法×テレワーク
2020年4月から、働き方改革関連法における「罰則付き時間外労働の上限規制の中小企業適用」、「大企業および派遣事業者への同一労働・同一賃金適用」がスタートしました。
その中でも、特に重ねて確認しておきたいのは、時間外労働の上限規制です。
新型コロナウイルス感染症対策として、テレワークを実施している企業も多いと思いますが、テレワークの場合も従業員の労働時間の管理は欠かせません。
スマートフォンやデスクトップから打刻できるクラウド勤怠ソフトを導入するなどして、テレワークでも客観的に労働時間を把握できる仕組みを構築し、ステルス残業や上限規制を超える時間外労働が発生しないように管理しましょう。
加えて、同一労働・同一賃金に関しても、テレワーク実施にあたって注意が必要です。
例えば、自宅で発生する通信費や光熱費に充てるため「テレワーク手当」を支給する際や、テレワークに必要な備品を購入補助する際など、正社員と非正規社員の間で、不合理な差異が生じないように心がけましょう。
(2)電子申請義務化対応
2020年4月1日から、資本金1億円超の大企業で、主要な人事労務手続について電子申請が義務化されました。
大企業が法的義務として対応しなければならないのは当然ですが、新型コロナウイルス感染症の影響を受け、中小企業も一刻も早い電子申請への移行を推奨します。
手続きのためにハローワークや年金事務所に行くのがリスクになるのはもちろん、郵送であっても、郵便局やポストに行かなければならないため、リスクを完全に消し去ることはできません。
電子申請に対応していない書類はやむを得ませんが、2020年4月現在、入社・退職の手続きをはじめ、多くの手続きが既に電子申請に対応しています。
「生命や健康を守るため」という観点から、中小企業も電子申請を積極的に活用してみてはいかがでしょうか。
電子申請は一見難しく見えるかもしれませんが、e-GovやGビズIDで直接電子申請するのではなく、SmartHRなどのクラウド人事労務ソフトを活用すれば、ハードルは決して高くないと思います。
チェックしておきたい主なHRトピック
(1)雇用調整助成金の手続きの簡素化
4月に入り、緊急事態宣言を受けて事業所の閉鎖や、時短営業などの対応をとる企業は大幅に増えており、従業員には休業という形で影響が及んでいます。
このような状況において、企業は従業員に休業手当を支払う義務があるのでしょうか。
労働基準法上、休業手当の支払要否は、「会社責任による休業かどうか」によります。この点、我が国の緊急事態宣言は海外のロックダウンのような法的強制力をもつものではないため、会社責任かどうかの判断は極めて難しいです。
筆者の肌感覚としては、正社員については、多くの企業が法的にというより「従業員の生活を守る」という観点から、積極的に休業手当を支払う判断をしていると感じています(反対に、アルバイトの方のシフト減らしや雇い止めは、別途考えるべき大きな社会問題です)。
そして、企業が従業員に対して支払った休業手当の一部を国が補填する仕組みが「雇用調整助成金」になるのですが、その申請手続の煩雑さや、審査に時間がかかりすぎる点が大きな問題となっていました。
そこで厚生労働省は、申請書類の簡素化や、添付書類の省略など、スムーズに雇用調整助成金を申請できるようにするための対策を打ち出しました。
簡素化された最新の申請書類や、関連するリーフレット等のダウンロードは、以下から行ってください。
また、最新情報として、雇用調整助成金のさらなる拡充が、5月中旬を目途に正式に発表される予定です。
(2)小学校休業等対応助成金の延長
コロナウイルスの影響で子供の通う学校が休校になったこと、または子供が新型コロナウイルスに感染したことを理由として、その子供の世話をする必要があるパパママ従業員に、年次有給休暇とは別枠で特別有給休暇を与えた場合に支給されるのが、「小学校休業等対応助成金」です。
この助成金は、当初、2020年2月27日から2020年3月31日までに取得した特別休暇に限って支給するとしていましたが、新型コロナウイルス感染症の影響拡大を受け、支給対象期間が2020年6月30日までに延長されました。
小学校休業等対応助成金の詳細および最新情報は以下のリンクをご覧ください。
(3)IT導入補助金に注目
企業活動における「3密」防止策として、政府はテレワークを推奨しています。
テレワークへの移行を後押しするため、厚生労働省が「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」、東京都が「事業継続緊急対策(テレワーク)助成金」を打ち出しています。
しかし、「働き方改革推進支援助成金(テレワークコース)」は、事後申請は認められるものの、PCやタブレットが対象とならないことや、テレワーク制度を導入済の企業は利用できないなど、制約が多い印象を受けます。
また、「事業継続緊急対策(テレワーク)助成金」は、PCやタブレットを含め、助成範囲は広いですが、まず「計画」を届け出て、それが承認されたあとにテレワーク機器を購入しなければならないなど、今日明日にもテレワークを始めたいと考えている企業にとってはスピード感がマッチしません。
そのような中、経済産業省が打ち出した、「IT導入補助金の特別枠(C類型)」が注目を集めています。
こちらの補助金では、コロナ対応としての迅速なテレワーク移行を促すため、あらかじめ企業が導入したクラウドサービスの利用料などを事後的に補助金の申請に含められることや、レンタルに限られますがPCなどのハードウェアも補助の対象となっています。
正式には、これから国会で審議されますが、現時点で経済産業省から発表されているものとして、「概要のリーフレット」と「暫定版の公募要領」があります。
なお、経済産業省系の補助金は、厚生労働省系の助成金のように一定の要件を満たせば原則として支給されるわけではなく、申請内容によっては審査の結果支給されない場合もあるので、活用の際には気をつけましょう。
また、経済産業省系の補助金は、「GビズID」で認証を受け、「jGrants」というポータルを経由して申請する必要がありますので、IT導入補助金を利用する可能性がある場合は、早めにGビズIDを取得しておくようにしてください。
(4)キャリアアップ助成金の申請期限猶予
助成金の申請は、1日でも申請期限を過ぎると、申請は受理されないという厳しさがあります。多くの企業が活用しているキャリアアップ助成金に関しても、正社員転換後6ヶ月分の賃金を支払った日の翌日から起算して2ヶ月以内が支給申請期限です。
この点、新型コロナウイルス感染症による事業所閉鎖や、対象となる従業員がコロナウイルスに感染したことを理由に申請書類を揃えられず、期限までに申請ができなかった場合の救済対応が発表されました。
申請ができない事由がやんだ後、1ヶ月以内に申請をすれば申請を受理するなど、対応が明記されています。
厚生労働省「新型コロナウイルス感染症の影響等に係るキャリアアップ助成金の手続きに関するQ&A」
なお、キャリアアップ助成金以外の助成金についても、同様の救済が図られる可能性がありますので、自社で取り組み中の助成金について、個別に労働局やハローワークへご確認ください。
(5)社会保険料の納付猶予
コロナウイルスによる休業や売上減による企業の資金繰りを助けるため、厚生労働省は、社会保険料の納付猶予の緩和を打ち出しています。
既存の仕組みの中でも、一時的に財務がひっ迫した企業の社会保険料納付を免除する制度は存在します。
しかし、担保の提供が必要である、延滞金が発生する場合があるなど、利用にはいくつかのハードルがありました。現在、担保の提供を不要とすることや、延滞金の発生を免除する方向で、政府内で審議が進んでいます。
(6)厚生労働省、経済産業省による支援策をまとめた資料の公開
厚生労働省による、事業者・個人向けの新型コロナウイルス感染症関連の支援策をまとめた「生活を支えるための支援のご案内」が公開されました。
出典:厚生労働省「生活を支えるための支援のご案内(4月27日更新版)」
「お金に困っているとき」や「新型コロナウイルスへの感染等により仕事を休むとき」など、各シチュエーションごとにわかりやすく支援内容が説明されているので、確認しておきましょう。
また、経済産業省も「業種別支援策リーフレット」を公開しました。
毎日新たな情報が発信されているので、最新情報のキャッチアップをお願いします。
人事労務ホットな小話
新型コロナウイルス感染症の影響は深刻化していますが、助成金や補助金、融資、租税公課の延納など、政府による支援策の全体像もようやく明確に見えてきました。これらの支援策も活用しながら、企業を守り、そして、従業員の雇用もできる限り維持する方向を目指したいものです。
コロナ前、もともと我が国は人手不足でした。その点を鑑みると、今回、雇用を維持できなかった場合、景気が回復する段階で必要な人材を確保できるとは限りません。
もちろん難しい場合もありますので、理想論になってしまうかもしれませんが、ここで雇用を守りきれたら会社と従業員の信頼関係は一層強固なものとなり、次なる飛躍のタイミングに向けてのエネルギーの蓄積にもつながるのではないでしょうか。
コロナ後の飛躍のため、今は、労使お互いが歯を食いしばる時です。
おわりに
雇用を守りきるといっても、今は自粛ムードの中、売上側で打てる手段は限られてしまいます。だからこそ、助成金や補助金、融資、租税公課の延納などの情報に対してアンテナを高くしてください。
これらを活用して、できるだけ上手にダメージコントロールをしていくことが、今、企業に最も求められる経営の舵取りではないでしょうか。